無料版労務管理システムの使用は、導入コストを抑えたい成長初期の企業にとって有力な選択肢と言えます。
しかし労働基準法の改正による、書類の5年保存義務や社会保険の適用拡大などの法規制の変化を考慮せずにシステムを選定してしまうと、将来的に重大なコンプライアンス上のリスクが発生するかもしれません。
無料で使える労務管理システム7製品を機能制限の面から比較し、法的リスクについても解説します。
自社にあう労務管理システムを簡単に区別する方法
自社に最適な労務管理システムは、現在の従業員数と、将来的な拡大計画、そして法的なデータ保存の優先順位によって決まります。まずは以下の3つの視点から、自社の状況に合致するタイプを特定してください。
従業員30名以下×コンプライアンス重視型
従業員数が30名以下で、将来的な労基署の調査や未払い残業代請求リスクに備えたい場合は、データの無期限保存が可能なシステムが適しています。
電子申請・行政手続き特化型
人数にかかわらず社会保険などの行政手続きをデジタル化したい場合は、申請機能に特化した人数無制限のツールが効率的です。
成長スピード重視×フル機能試用型
すでに30名に近い、あるいは急速な組織拡大を予定している場合は、最初から有料版への移行を前提に、フル機能を試せるトライアル型を選択し、移行コストを最小化する戦略が求められます。
無料で使える労務管理システム7選の比較表
調査対象となった主要7製品の無料プランに関する仕様を、法的な保存義務への対応力と有料化のタイミングに焦点を当てて整理しました。
| 製品名 | 無料の対象 | 有料化のタイミング | データ保存期間 | 法的保存義務(5年)への対応 |
| SmartHR | 30名以下 | 31名以上 | 無期限 | 対応可能 |
| HRMOS勤怠 | 30名以下 | 31名以上 | 無期限 | 対応可能 |
| ジョブカン労務HR | 5名以下 | 6名以上、または31日以降 | 30日間 | 外部保存が必須 |
| オフィスステーション 労務ライト | 無制限 | オプション利用時 | 無期限 | 対応可能 |
| freee人事労務 | 30日間 | トライアル終了後 | 期間中のみ | 有料契約が前提 |
| ジンジャー人事労務 | 1ヶ月 | トライアル終了後 | 期間中のみ | 有料契約が前提 |
| マネーフォワード クラウド社会保険 | 1ヶ月 | トライアル終了後 | 期間中のみ | 有料契約が前提 |
労務管理システムの無料プランを継続利用する際に気を付けたい3つのリスク
「無料」という表面的なコストメリットの裏には、実務上の運用工数や将来的なシステム移行に伴う人的コストが隠されています。これらを無視して導入を強行すると、結果的に有料システムを導入するよりも高額な支出を招くことになります。
データバックアップに伴う過大な人件費
データ保存期間に制限がある無料ツールを運用する場合、法的義務を果たすために毎月の手動CSV出力作業が不可欠となります。
保存期間が1年や30日間に制限されているツールを5年間運用し続けた場合、そのバックアップ作業にかかる累積の人件費は、有料版の利用料を上回るケースが珍しくありません。
特に労働基準法改正により、賃金台帳などの重要書類は原則5年の保存が義務付けられており、手作業による管理はヒューマンエラーのリスクも増大させます。
制限人数を1人でも超えるとコストが大幅増するリスク
無料の労務管理システムは、5人や10人、30人など管理人数に制限があります。この制限を1人でも超過してしまうと、月々のコストが大きく増えるリスクがあります。
たとえば1名あたり月額400円、30人まで無料の労務管理システムを利用している場合、30人までは0円ですが、31人になった瞬間に全従業員分が課金対象となり、年間で約15万円のコストが突発的に発生します。
このコストギャップを予測せずに運用すると、経営計画に予期せぬ負担を強いることになります。
成長に伴うデータ移行コストの福利
組織が小さいうちのシステム移行は比較的容易ですが、従業員数が増えるほど移行工数は指数関数的に増大します。
10人分のデータを移行する場合と、50人分のデータを他社システムへ移行する場合では、不整合の修正やCSVのレイアウト調整にかかる時間は、単純な5倍では済みません。
初期に安易な無料ツールを選んだ結果、将来的に数十万円規模の設定代行費用や膨大な残業代を支払ってデータ移行を行う無駄な作業が発生するリスクを十分に把握しておきましょう。
ずっと無料で使える労務管理システム
期間制限なく継続して利用できるシステムは、小規模企業のインフラとして機能します。ただし、製品ごとに「無料の範囲」で妥協すべきポイントが明確に存在します。
おすすめは以下の4製品です。
SmartHR
30名以下の企業において、入社手続きから雇用契約、年末調整、Web給与明細までをカバーする網羅性の高いシステムです。直感的なインターフェースを備えており、多言語対応も進んでいるため、外国人労働者を雇用する事業所でも導入のハードルが低いことが特徴です。
無料版での運用を継続する場合、外部システムとのAPI連携機能は制限されているため、給与計算ソフトなどとのデータ同期には手動でのCSV操作が必要になります。また、31名以上の規模になった際には全機能が有料契約に切り替わる点を前提とした運用計画が求められます。
ジョブカン労務HR
従業員数が5名以下の極めて小規模な組織に特化した設計となっており、複雑な労務手続きをToDoリスト形式でナビゲーションする機能を備えています。専門的な法務知識が乏しい担当者であっても、システムの指示に従うだけで社会保険の加入手続きなどを完結できる点が最大の利点です。
ただし、無料プランにおけるデータ保持期間は30日間と極めて短く設定されているため、過去の履歴をシステム上で管理し続けることは困難です。履歴の保持が必須となる監査対応や紛争対策としては、システム外での厳格なデータ保管体制が必須となります。
HRMOS勤怠
勤怠管理を主軸に据えながら、30名以下の組織であれば年末調整やWeb給与明細の機能を無料で利用できる稀有な立ち位置の製品です。特筆すべきは、無料プランであっても勤怠データの保存期間に制限を設けていない点であり、将来的な労働基準監督署の調査に対してもシステム上のデータで即座に対応できる強みがあります。
36協定の遵守状況を可視化するレポート機能も備わっており、守りの労務管理をコストゼロで実現したい企業に最適です。ただし、高度な権限設定や複雑な組織階層の管理には制約があるため、シンプルな組織構造での利用に向いています。
オフィスステーション 労務ライト
利用人数の制限がなく、e-Gov電子申請を通じた行政手続きを効率化することに特化したプロフェッショナルツールです。社会保険や労働保険に関する20種類以上の帳票作成と申請をデジタル化でき、データ保存期間も無期限であるため、人数は多いが手続き業務のみを効率化したい企業に適しています。
注意点として、年末調整や入社手続きのワークフロー機能は無料版に含まれていません。あくまで「役所への申請」という出口業務の自動化に特化しているため、社内の情報収集フローを改善したい場合は、別途有料オプションの検討が必要です。
フル機能を試せる労務管理システムの無料トライアル版
大規模組織への成長を見据える企業にとって、無料トライアルはシステムの操作性やデータ連携の親和性を確認するための重要な検証期間となります。
おすすめは以下の3製品です。
freee人事労務
勤怠管理、給与計算、労務管理を単一のデータベースで統合するERPの思想を体現しており、データの二重入力を完全に排除する設計が特徴です。30日間のトライアル期間中に、年末調整や各種申請がリアルタイムで給与計算に反映されるスピード感を検証できます。
無料期間終了後に有料契約を行わない場合、蓄積されたデータの閲覧や保持に厳しい制限がかかる仕様となっているため、あくまで「導入を前提とした検証用」としての利用が推奨されます。
ジンジャー人事労務
従業員データベースの柔軟なカスタマイズ性に強みがあり、企業独自の管理項目を無制限に追加できるため、特殊な雇用形態や資格管理が必要な業界に適しています。雇用契約の更新期限などを自動で通知するアラート機能により、管理漏れによる法的リスクを未然に防ぐことが可能です。
1ヶ月のトライアル期間では、自社の複雑な就業規則をどこまで忠実に再現できるかを精緻に検証することに主眼を置くべきであり、設定の容易さを確認するのに適しています。
マネーフォワード クラウド社会保険
シリーズ製品との強力な連携が最大の特徴であり、すでに同社の会計ソフトなどを利用している場合、既存の従業員マスタをそのまま活用して労務手続きを開始できます。複数人の入退社手続きを一括処理する機能に優れており、人の出入りが激しい事業所での業務負荷を大幅に軽減します。
トライアル終了後は、連携している他シリーズのデータとの整合性を保つためにも、有料版へのスムーズな移行が想定された設計となっています。
失敗しないための5つのチェックポイント
無料の労務管理システムを選定する際、単なる機能の有無ではなく、実務と法規制の観点から以下の5項目を厳格に評価してください。
- 法的保存義務との乖離
- CSV出力の制限による移行難易度
- 31人の壁への備え
- 社会保険適用拡大への自動判定
- サポート不在による時間的損失
特に法的な保存義務について注意をしましょう。労働基準法上、労働者名簿や賃金台帳は原則5年の保存が必要です。しかしシステム側で2年や3年でデータが削除される仕様であれば、企業が自らバックアップを取る責任が生じます。
また、CSV出力に「1時間に1回」といった制限がある場合、トラブル発生時のデータ復旧やシステム移行が数日間にわたって停滞するリスクがあります。
さらに、社会保険の適用拡大に対し、加入対象者を自動判定・アラート通知する機能が無料版に含まれているかも、管理工数を左右する重要な分かれ目となります。
Q&A:無料労務管理システムに関するよくある質問
無料の労務管理システムを導入する際によく寄せられる3つに回答します。
Q.個人事業主や5名以下の極めて小規模な組織にはどのシステムが最適ですか?
手続きのナビゲーション機能を重視し、まずはアナログ管理を脱却したいのであればジョブカン労務HRが適しています。
ただし、データの長期保存を優先し、CSV出力の手間を省きたい場合は、5名以下でもHRMOS勤怠やSmartHRを選択する方が、将来的なコンプライアンスリスクを低減できます。
Q.無料版でも社労士とデータを共有することは可能ですか?
多くの無料版では、アカウント数や権限設定に制限があるため、外部の社労士に専用の閲覧権限を付与することが難しいケースがあります。その場合、担当者がデータをCSVで出力して送付する手間が発生します。
社労士とのスムーズな連携を重視するなら、権限設定が柔軟な有料版、あるいは人数無制限のオフィスステーション 労務ライトが候補となります。
Q.年末調整の業務だけを完全に無料で完結させることはできますか?
SmartHRの¥0プランやHRMOS勤怠の無料プランでは、年末調整機能が無料範囲に含まれています。ただし、これらの製品には「30名まで」という人数制限があるため、従業員数がこれを超える場合は、たとえ年末調整機能だけであっても有料契約が必要になる点に注意してください。
成長フェーズに応じた最適な選定を
労務管理システムの無料利用は、正しく選定すれば強力な武器となりますが、一歩間違えれば「見えない人件費」を増大させ、法的な対抗要件を失うリスクを孕んでいます。
従業員数が30名以下のスタートアップや小規模事業所であれば、データの保存期間が無期限であるHRMOS勤怠やSmartHRを軸に、コンプライアンスを担保しながら業務のデジタル化を推進するのが最もバランスの取れた選択です。一方で、すでに組織拡大の兆しがある、あるいは特殊な管理要件を持つ場合は、無料という言葉に固執せず、将来的な移行コストと法改正への対応力を考慮した投資判断が求められます。
自社の現在地と、3年後、5年後の組織像を照らし合わせ、単なる「0円」ではない、真の意味でのコストパフォーマンスを見極めてください。
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