コスト削減の圧力が高まる中、「無料で使える労務管理システム」は多くの企業にとって魅力的な選択肢です。しかし、従業員数が20名を超える規模であれば、単なるコストメリットだけで導入を決めるのは危険かもしれません。
なぜなら、無料プラン特有の「データ保存期間の短さ」や「機能制限」が、知らず知らずのうちに労働基準法違反のリスクや、将来的なシステム移行コストの増大を招く可能性があるからです。
本記事では、主要な無料労務管理システム7選の特徴を比較解説するとともに、無料版に潜む「隠れたリスク」と、それを回避して賢くツールを選ぶための判断基準を解説します。
労務管理システムの無料版と有料版の違い
無料版と有料版の決定的な違いは、「拡張性」と「法的リスクへの対応力」にあります。無料版の主な制約は、以下の3点に集約されます。
- 管理可能人数: 多くの場合、数名〜30名程度の上限があり、これを超えると全アカウントが有料化します。
- 機能制限: API連携や高度な権限設定ができず、他システム(給与計算など)とのデータ連携で手作業が発生します。
- データ保持期間: ここが最大のリスクです。 多くの無料版ではデータ保存期間が短く設定されています。
無料の労務管理システムは2種類ある
市場にある無料システムは、提供形態によって大きく2つに分類されます。
- フリープラン(永続無料型):
期間の制限なく無料で使い続けられますが、人数や機能に厳格な制限があります(例:SmartHR、オフィスステーション 労務ライト)。小規模事業者向けです。 - 無料トライアル(期間限定型):
1ヶ月などの期間限定で、有料版と同じフル機能を試せます(例:freee人事労務、ジンジャー人事労務)。導入前の適合性テストとして利用されます。
【重要】「従業員20名」を超えたら無料版は危険?その理由
従業員数が20名前後の企業が無料版を利用する際、最も警戒すべきは「データ保存期間」と「法的義務」のギャップです。
労働基準法第109条および第143条に基づき、企業は労働関係書類(労働者名簿、賃金台帳など)を原則5年(当分の間は3年)保存する義務があります。
しかし、一部の無料システムでは、データの保存期間が「1年」に制限されています。
もし、退職者から「2年前の未払い残業代」を請求された場合、システム上のデータが消えていれば、会社は反証する証拠(対抗要件)を失い、法的紛争で極めて不利な立場に立たされます。
「無料だから」という理由だけで選定すると、結果としてバックアップの手間(人件費)が発生し、有料版よりも高くつくケースが後を絶ちません。自社のコンプライアンス基準と照らし合わせ、慎重な判断が必要です。
無料版で特に注意したい制約
その他、実務担当者が特に注意すべき「落とし穴」は以下の通りです。
- 年末調整機能の欠如: 「労務管理」と謳っていても、無料版では年末調整が有料オプション、または非対応のケースが多々あります。
- CSVエクスポートの制限: データ移行やバックアップのためにCSVを出力しようとしても、「1時間に1回のみ」といった制限が設けられている場合があり、移行作業が難航します。
- 電子帳簿保存法の要件: 検索機能が不十分な無料ツールは、電子帳簿保存法が求める「可視性の確保」を満たさない可能性があります。
課題別!おすすめの労務管理システム
企業の課題によって、最適な「無料の選択肢」は異なります。ただし、いずれも「自社の要件が無料枠に収まるか」の冷静な見極めが不可欠です。
労務管理業務がはじめての人には「ジョブカン労務HR」
初めてシステムを導入する5名以下の企業には、ToDoリスト機能で手続きをナビゲートしてくれる「ジョブカン労務HR」が最適です。
※ただし、従業員数が5名を超える、または30日以上の長期データ保存が必要な場合は、有料版または他社製品の検討が必要です。
年末調整手続きの効率化なら「HRMOS勤怠」
コストをかけずに年末調整と勤怠管理を同時に行いたい場合は、両機能が無料プランに含まれる「HRMOS勤怠」が有力候補です。
※ただし、データ保存期間が「1年」であるため、毎月のCSVバックアップ運用が必須です。管理工数を避けたい場合は有料版が推奨されます。
社会保険手続きを楽にするなら「オフィスステーション 労務ライト」
とにかく「e-Gov電子申請」の手間だけをゼロにしたい中堅企業には、人数無制限で申請機能に特化した「オフィスステーション 労務ライト」が最適解です。
※ただし、年末調整や入社手続きのワークフロー機能は含まれないため、それらを自動化したい場合は上位プランの検討が必要です。
【全7製品】無料で使える労務管理システムの比較表
無料プランの実用性を見極めるための比較表です。特に「データ保存」と「年末調整」の対応状況にご注目ください。
| 製品名 | 無料の対象 | データ保存期間 | 年末調整 | 電子申請 |
| SmartHR | 30名以下 | 無期限 | ○ (対応) | × (不可) |
| ジョブカン労務HR | 5名以下 | △ 30日間 | × (不可) | × (不可) |
| HRMOS勤怠 | 30名以下 | △ 1年間 | ○ (対応) | × (不可) |
| オフィスステーション 労務ライト | 無制限 | 無期限 | × (有料) | ○ (対応) |
| freee人事労務 | 30日間 | トライアル期間中 | ○ | ○ |
| ジンジャー人事労務 | 1ヶ月 | トライアル期間中 | ○ | ○ |
| マネーフォワード クラウド社会保険 | 1ヶ月 | トライアル期間中 | ○ | ○ |
【無料プラン】ずっと無料で使える労務管理システム4選
期間制限なく無料で使い続けられる4製品の詳細と、それぞれの「強み」および「向かないケース」を解説します。
「SmartHR」入社から退社まですべての手続きに対応可能
SmartHRの「¥0プラン」は、30名以下の企業にとって極めて強力なソリューションです。入社手続きから雇用契約、そして多くの他社製品では有料となる「年末調整」や「Web給与明細」までが無料範囲に含まれています。2025年のアップデートで多言語対応も強化され、外国人労働者を抱える小規模事業者にも最適です。
- 強み: 年末調整まで完全無料、直感的なUI、多言語対応。
- この製品が向かないケース :
- 従業員が31名に増える見込みがある場合: 30名を超えた時点で全従業員分の有料契約(月額数万円〜)が発生する「31人の壁」があります。
- API連携が必要な場合: 給与計算ソフト等との自動連携は無料版では開放されていません。
「ジョブカン労務HR」ToDoリスト機能で手続きの抜け漏れを防止
ジョブカン労務HRの無料プランは、従業員5名以下のマイクロ法人に特化しています。最大の特徴は、複雑な労務手続きを「ToDoリスト」形式で案内してくれるナビゲーション機能です。専門知識がない担当者でも、システムに従うだけで抜け漏れなく業務を完遂できます。
- 強み: 初心者でも迷わないToDoリスト機能、シンプルな操作性。
- この製品が向かないケース :
- 過去データを長期保存したい場合: データ保持期間が「30日間」と極めて短いため、履歴管理や監査対応には不向きです。あくまで直近の手続き処理用ツールと割り切る必要があります。
「HRMOS勤怠」Web給与明細と年末調整を利用者数の制限なく完全無料で使える
HRMOS勤怠は、その名の通り「勤怠管理」を主軸としつつ、無料プラン内で「年末調整」と「Web給与明細」までカバーする稀有なシステムです。30名以下の組織であれば、勤怠・給与明細・年末調整の3大業務をコストゼロで統合管理できる点が最大の魅力です。
- 強み: 勤怠管理システムとの一体運用、レポート機能による36協定管理。
- この製品が向かないケース :
- バックアップ運用ができない場合: データ保存期間が「1年間」のため、法的義務(3年/5年)を満たすには毎月の手動CSVダウンロードが必須です。この運用規律を守れない場合、コンプライアンスリスクが高まります。
「オフィスステーション 労務ライト」社会保険など20種以上の帳票に対応しe-Gov電子申請を効率的に
オフィスステーション 労務ライトは、「電子申請」に特化したプロフェッショナルツールです。他社製品のような人数制限が一切なく、従業員数が何名であっても無料で利用可能です。e-Govと直接連携し、社会保険・労働保険など20種類以上の帳票作成と申請をデジタル化します。
- 強み: 人数無制限、e-Gov電子申請への特化、無期限のデータ保存。
- この製品が向かないケース :
- 年末調整や入社手続きを効率化したい場合: これらは有料オプションまたは非対応です。あくまで「役所への申請業務」を効率化するツールであり、社内の労務フロー全般を管理するものではありません。
【無料トライアル】無料で試せる労務管理システム3選
導入前に「自社の業務フローに合うか」を確認するためのトライアル製品です。
「freee人事労務」従業員情報の管理から年末調整・各種申請をクラウドで完結しペーパーレス化を推進
freee人事労務は、勤怠・給与計算・労務管理を一つのデータベースで統合管理するERP(統合基幹業務システム)の思想で設計されています。データがリアルタイムに連動するため、給与計算のために勤怠データをインポートする等の手間が一切発生しません。30日間の無料期間で、この「完全統合」による業務スピードを体感できます。
「ジンジャー人事労務」 従業員情報の管理項目を企業独自のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズ可能
ジンジャー人事労務は、データベースの柔軟性に優れています。従業員情報の項目を自社独自に追加・変更できるため、特殊な管理項目が必要な企業に適しています。また、雇用契約の更新や免許期限の自動アラート機能により、管理リスクを未然に防ぐことができます。
「マネーフォワード クラウド社会保険」複数従業員の一括手続きで面倒な社会保険業務を効率化
マネーフォワード会計などを利用している企業にとって、最もスムーズな選択肢です。シリーズ製品と共通のマスタデータを利用できるため、初期設定の手間が最小限で済みます。複数従業員の入退社手続きを一括処理できる機能は、人の出入りが激しい業界で重宝します。
「無料」にこだわりすぎて失敗する3つのパターン
経営コンサルタントとして多くの事例を見てきた中で、コスト削減を焦るあまりに陥る「典型的な失敗パターン」が存在します。
1. データ移行(マイグレーション)の地獄
無料プランはAPI連携やデータエクスポートは1時間に1回などの制限があるケースが多く、いざ有料版や他社製品へ乗り換えようとした際に、膨大な手作業が発生します。結果として、削減したシステム利用料を遥かに上回る人件費がデータ移行に消えていきます。
2. 法改正対応での「詰み」
インボイス制度や定額減税など、複雑な法改正への対応は、無料プランでは後回しにされたり、対象外となることがあります。法改正の直前になって「対応していない」と判明し、慌てて有料システムを契約するドタバタ劇は珍しくありません。
3. いざという時の「サポート不在」
無料プランには原則として電話・チャットサポートがつきません。労務手続きで不明点が出た際、自力で数時間かけて調べるコストを考えてみてください。月額数千円の有料プランであれば、サポートに聞いて5分で解決できたはずの問題です。
無料の労務管理システムを選ぶチェックポイント
リスクをコントロールしつつ無料システムを活用するために、確認すべき6つの視点です。
① 利用人数・機能制限の範囲
「現在の人数」だけでなく「1年後の人数」で判断してください。多くのシステムで、30名などの閾値を超えた瞬間にコスト構造が激変します。「31人の壁」をいつ超えるか、シミュレーションが必要です。
② 最新の法令や電子申請への対応状況
2025年以降も続く法改正に、その無料ツールは追従していますか? 特に社会保険・雇用保険の電子申請義務化対象の企業は、e-Gov連携がスムーズに行えるかが重要な選定基準となります。
③ 他システムとの連携など拡張性
給与計算ソフトや勤怠システムとデータ連携できない場合、毎月の転記作業が発生します。無料版でもCSV連携が可能か、あるいは有料版にすればAPI連携ができるのか、拡張性を確認しましょう。
④ データ容量や保存期間・エクスポート機能の有無
労働基準法上の保存義務(3年〜5年)とシステムの保存期間(1年など)の乖離は最大のリスクです。また、電子帳簿保存法の検索要件(取引年月日、金額等での検索)を満たしているかも税務調査対策として重要です。
⑤ 対応できる帳票・手続きの種類
入退社手続きだけでなく、頻度は低いが重要な「育児休業」「介護休業」「労働保険の年度更新」などに対応しているか確認しましょう。これらが非対応だと、結局その都度、紙での手続きが発生します。
④ サポート体制
労務知識に不安がある場合、サポートがない無料プランはリスキーです。ヘルプページだけで自己解決できるリテラシーがあるか、あるいは社労士等の外部専門家の支援がある場合を除き、サポート付きの有料プランの方が時間単価におけるトータルコストは安くなる傾向にあります。
勤怠管理や給与計算の効率化は特化型システムの検討がおすすめ
労務管理システムで基本的な手続きは効率化できますが、特定の業務も合わせて改善したい場合は、それぞれに特化したシステムの導入も検討することをおすすめします。
中でも代表的な業務として挙げられるのは、勤怠管理や給与計算、電子契約などです。「この業務の負担だけを軽くしたい」と考えている場合は併せて確認してみてください。
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