所得税には15種類の控除制度が用意されています。会社員は給料から税金が天引きされていますから、年末調整用の書類をきちんと会社に提出さえすれば控除を受けることが可能です。ところが個人事業主は、確定申告をしないことには、所得控除を受けることができません。個人事業主が受けられる所得控除には、どのようなものがあるのか詳しくみていきましょう。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
所得控除制度が個人事業主にお得なワケ
所得控除は、適用を受けることで課税対象となる所得額が下げられます。この所得税控除制度が、なぜ個人事業主に得だといえるのか、少し掘り下げてみていきましょう。
国による弱者救済制度!それが所得控除制度です
課税対象となる所得額には、さまざまな控除が適用されます。この所得控除は個人の事情を加味して適用するのですが、どうしてこのような方法を採用しているのでしょうか。
それは個人の事情によって担税力が異なってくるからです。たとえば同じ所得であっても、独身者よりも扶養家族のある人の方が税負担の度合いが高くなります。
そのため所得税法では、個人的事情を考慮して、医療などの生活に不可欠な支出があった方や社会政策上の対応を必要とする方などに対して、課税標準からさらに所定の金額を控除することで、課税所得金額を引き下げるようにしているのです。
これにより課税所得金額を元に算出される税額が下がるばかりでなく、税率そのものもさらに低い税率が適用されることもあるため、税負担が軽減される仕組みになっているのです。
会社員はこうした控除を意識することはあまりありませんが、個人事業主の場合は、確定申告をすることで初めて控除が適用されることになります。したがって控除の種類を知ることは、節税の観点からとても重要なのです。
所得税控除にはどのような種類があるの?
所得税控除は15種類の控除が設けられています。これらは、自分や家族などに関する所得控除である「人的控除」とその年に支払った金額の内容に応じて控除される「物的控除」に分類されています。
人的控除は生存権に基づく、最低生活費を根拠に設けられたものですが、さらに「基礎的な人的控除」と弱者救済の意味合いの強い「特別な人的控除」に分類されます。
人的控除には次のようなものがあります。
(基礎的な人的控除)
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
(特別な人的控除)
- 障害者控除
- 寡婦(寡夫)控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
物的控除には次のようなものがあります。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
売上が少ない個人事業主の味方▶人的控除
確定申告をすると、家族のいない個人事業主でも基礎控除が適用されるので、48万円の人的控除が受けられます。
子どもや配偶者などを扶養している場合であれば、配偶者控除や扶養控除などの所得控除があります。
さらに同居している祖父母などの扶養親族がいる場合にも所得控除が適用されます。
控除される額によっては、適用される税率が下がることもあります。せっかくの制度を有効に活用するためにも、個人事業主は確定申告をして、確実に人的控除の適用を受けましょう。
将来が不安な個人事業主こそ活用しよう▶物的控除
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「小規模企業共済」に加入すると、将来、年金形式や退職金として受け取ることができます。これは小規模企業共済等掛金控除の対象になります。
個人事業主はこの制度を有効に活用することで、節税と併せて将来に備えることもできるので、まさに一石二鳥の制度だといえます。
個人的事情に配慮してくれる【人的控除】
人的控除制度には、基礎的な人的控除制度と特別な人的控除制度が設けられています。これは納税者の状況に応じて適用される控除制度です。それぞれの控除制度をみていきましょう。
控除の種類▶人的控除とは?
基礎的な人的控除は、憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」のための所得には課税すべきでないという観点から定められたものです。具体的に各制度がどのような条件で適用されるのかみていきましょう。
【その1】▶基礎控除
基礎控除はすべての納税者が対象になる控除です。所得から48万円が控除されます。
【その2】▶配偶者控除
配偶者控除は、合計所得金額が1,000万円以下の納税者が対象になります。生計を共にする配偶者の所得が48万円以下の場合に、所得から38万円控除されます。
【その3】▶配偶者特別控除
配偶者が配偶者控除の要件を外れる場合であっても、配偶者の年間所得が48万円超95万円未満であれば、配偶者特別控除が受けられます。控除額は38万円です。
【その4】▶扶養控除
生計を共にする家族がいる場合、対象の家族の年間所得が48万円以下であれば、所得税法上の扶養家族となり所得控除が受けられます。控除額は扶養家族の年齢によって次のようになります。
- 一般の扶養親族(16歳以上)……38万円
- 特定扶養親族(19歳以上23歳未満)……63万円
- 非同居の老人扶養親族(70歳以上)……48万円
- 同居の老人扶養親族……58万円
個人事業主には、青色事業専従者という制度がありますが、専従者の対象になっている親族は扶養控除の対象にはなりません。
扶養控除については合わせて下記のページをご覧ください。
控除の種類▶特別な人的控除とは?
障害を有する方などは、最低限度の生活を営むための費用が、一般の方よりも多く必要とするとの考えから、特別な人的控除制度が設けられています。次のような種類の控除があります。
【その1】▶障害者控除
納税者本人や配偶者または扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合、次のような所得控除を受けることができます。
- 障害者……27万円
- 非同居の特別障害者(障害等級1級・2級)……40万円
- 同居の特別障害者……75万円
障害者控除については合わせて下記のページをご覧ください。
【その2】▶寡婦控除(寡夫控除)
納税者本人が寡婦(寡夫)に該当し、合計所得金額が500万円以下の場合、「一般の寡婦」として、27万円の所得控除を受けることができます。
【その3】▶ひとり親控除
婚姻していないまたは配偶者の生死が明らかでない人で、合計所得金額が500万円以下の場合、35万円の所得控除を受けられます。
【その4】▶勤労学生控除
納税者自身が勤労学生である場合、次の3つの要件にすべて該当すれば27万円の所得控除が受けられます。
- 勤労による所得がある
- 合計所得額が65万円以下で、勤労以外の所得が10万円以下である
- 特定の学校の学生、生徒である
国税庁の表現では「特定の学校」となっていますが、いわゆる一般的な学校であれば、ほとんどがこれに該当します。
払ったお金を損金計上できる【物的控除】
物的控除は、健康保険料や年金をきちんと納めている納税者を優遇することにより、社会保障制度を維持させるための国政上の配慮に基づくものです。
物的控除には次のようなものがあります。
【その1】▶雑損控除
雑損控除は、納税者が被災した場合や盗難の被害にあった場合に所得控除を受けられるものです。控除額は次の二つのうち金額の多い方が適用されます。
- (差引損失額)-(総所得金額)×10%
- (差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
【その2】▶医療費控除
医療費控除は、治療などに要した費用のうち10万円を超える金額が控除されます。なお総所得金額が200万円以下の納税者は、総所得金額の5%を超える額が控除されます。
医療費控除については合わせて下記のページをご覧ください。
【その3】▶社会保険料控除
社会保険料控除は、納税者や生計を共にする家族の社会保険料を支払った場合、その支払った金額の控除を受けることができます。対象になる社会保険の主なものは次のとおりです。
- 健康保険、国民健康保険
- 後期高齢者医療制度の保険料(介護保険)
- 国民年金保険、厚生年金保険
社会保険料控除については合わせて下記のページをご覧ください。
【その4】▶小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除は、規定された共済契約に基づく掛金を支払った場合、その掛金の所得控除を受けることができます。
小規模企業共済は、個人事業主等が共済金を積み立てて、退職時等に積み立てた共済金が受け取れる共済制度です。掛金は月額1千円~7万円の範囲で選択することができます。
また確定拠出年金の掛け金も控除の対象になります。60歳になるまで掛金を引き出すことができませんが、将来年金に加えて給付を受けることができます。
個人事業主は、月額1,000円~70,000円の範囲内で掛金が選択できます。
それぞれの掛け金を年額にすると高額になります。たとえば小規模企業共済を最高額で積み立てれば、年額は84万円です。このように控除額も大きいうえに、将来掛金が確実に戻ってくるのですから、個人事業主にとっては非常にメリットが大きい制度だといえます。
小規模企業共済等掛金控除については合わせて下記のページをご覧ください。
【その5】▶生命保険料控除
生命保険料控除は、納税者が支払った生命保険料を一定金額まで所得控除の対象にする制度です。控除の最高限度額は次のとおりです。
- 一般の生命保険料……4万円
- 個人年金保険料……4万円
- 介護医療保険料……4万円
所得控除の話から少し離れますが、個人事業主自身や家族の生命保険料は経費にすることができません。ただし定期保険などの掛け捨て型の保険や養老保険などの積立式の生命保険を従業員全員を対象にして掛けているのであれば、保険料を福利厚生費として経費に計上することは可能です。この場合、個人事業主が被保険者になっていても同様に経費として取り扱われます。
【その6】▶地震保険料控除
地震保険料控除は、納税者が支払った地震保険料を最大5万円まで控除できる制度です。
【その7】▶寄附金控除
寄附金控除は、納税者が特定寄附行為をした場合に、所得控除される制度です。特定寄附行為とは、いわゆる「ふるさと納税」や政治献金などが、これに該当します。控除額は次の数式により算出します。
寄附金控除額=寄附額-2千円
寄附金控除については合わせて下記のページをご覧ください。
所得控除は住民税の課税額にも影響する
所得控除は住民税を計算する際にも適用されます。住民税は「均等割」と「所得割」から構成されており、所得割を計算する際には所得控除額を差し引いて算出するのです。住民税の仕組みや計算方法、住民税と所得税の所得控除額の違いなどを解説します。
住民税は「均等割」と「所得割」から構成される
住民税は「均等割」と「所得割」の2つから構成されています。所得の有無にかかわらず課税されるのが「均等割」で、高所得者と低所得者による金額の違いはありません。ただし、以下の方は均等割・所得割を合わせた住民税が免除されます。
- 生活保護法によって生活扶助を受けている方
- 身体障害者・未成年者・寡婦または寡夫で前年中の合計所得金額が125万円以下の方
- 扶養親族がいない方で、前年中の総所得金額が28万円以下の方
- 扶養親族がいる方で、前年中の総所得金額が28万円×(扶養親族の数)+16万8千円以下の方
一方、所得額に応じて計算される分が「所得割」です。前年の所得額によって課税されるため、多く所得を得ているほど課税額が増えます。ただし、以下の方は所得割が課税されません。
- 扶養親族のいない方で前年中の総所得金額が、35万円以下の方
- 扶養親族のいる方で前年中の総所得金額が、35万円×(控除対象配偶者+扶養親族の数)+32万円以下の方
所得割の仕組みと計算式
所得割は課税される年の前年、1月1日から12月31日までに得た所得額によって計算されます。計算式は下記のとおりです。
所得割額=(収入金額-必要経費-所得控除)×所得割標準税率10%-税額控除 |
要するに、収入金額から必要経費と所得控除を差し引いた「課税所得金額」に所得割標準税率の10%を掛け、最後に各種税額控除を差し引いたのが住民税の所得割額です。所得割標準税率は市民税6%と県民税率4%で構成されています。
所得割標準税率:市民税6%+県民税4%=10% |
税額控除には下記のものがあります。
- 調整控除
- 配当控除
- 住宅借入金等特別控除
- 寄附金税額控除(所得控除の選択も可)
- 外国税額控除
- 配当割額・株式譲渡所得割額控除
所得税と住民税では所得控除額が違うものがある
課税所得は適用できる所得控除額を差し引いて計算されますが、所得税と住民税では控除額の異なるものがあります。下記に一部抜粋したので確認しておきましょう。
所得控除 | 住民税 | 所得税 |
生命保険料控除(限度額) | 7万円 | 12万円 |
基礎控除 | 43万円 | 48万円 |
配偶者控除 | 33万円 | 38万円 |
扶養控除 | 33万円 | 38万円 |
老人扶養控除 | 38万円 | 48万円 |
寡婦(寡夫)控除 | 26万円 | 27万円 |
勤労学生控除 | 26万円 | 27万円 |
障害者控除 | 26万円 | 27万円 |
同居特別障害者控除 | 53万円 | 75万円 |
所得税の申告は自分で計算して確定申告する必要がありますが、住民税は所得税の確定申告書の提出によって自動的に計算されます。したがって、上記の所得控除額の違いについては、住民税と所得税では控除される金額が異なることを理解しておけばよいでしょう。
個人事業主は、所得税控除制度をフル活用しよう!
ここまで14種類の所得控除制度について説明をしてきました。個人事業主が、これらの所得控除制度を最大限に活用するためには、どのような手立てが必要なのでしょうか。
個人事業主は青色申告も活用しよう
個人事業主が所得控除の適用を受けるためには、確定申告が必須となります。この確定申告も青色申告と白色申告の2種類があるのをご存知でしょうか。
事前に何の届出もせずに確定申告をすると、白色申告の扱いになります。白色申告の場合、これまで説明した15種類の控除しか適用されません。
ところが青色申告をすると、最低でも10万円控除を受けることができます。しかも帳簿を複式簿記にするだけで、最大65万円(※)の青色申告控除を受けることができるのです。
複式簿記が複雑だからと敬遠をして、白色申告をする個人事業主も大勢います。しかし複式簿記は専用のパソコンソフトを使用するだけで、特別の専門知識がなくても処理が可能です。
最大65万円という大きな控除を受けられることを考えれば、わずかの投資で大きなメリットがありますから、ぜひパソコンソフトを活用して複式簿記にチャレンジしてみてください。
青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで、もしくは開業2カ月以内に、税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出すると、確定申告を青色申告にすることができます。
なお65万円の控除を受けるには「電子申告」か「電子帳簿保存」が必要になります。青色申告特別控除の基本額は55万円です。
65万円控除の要件① 複式簿記で帳簿付けを行なう
従来通り、青色申告特別控除を受けるための条件です。青色申告特別控除を受けるためには、日々の取引を複数の勘定科目を使用して記載する「複式簿記」で帳簿付けをしなければなりません。
複式簿記に対して、取引を「現金」のみで入出金を記載する方法が「単式簿記」です。単式簿記では10万円の控除になるため注意してください。2020年度分の所得税確定申告時で引き続き65万を受けるためには、まずは複式簿記をおこなうのが第一条件となります。
65万円控除の要件② 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付する
こちらも従来通り、65万円の青色申告特別控除を受けるための条件です。貸借対照表とは会社の財政状況を記載した書類であり、損益計算書は1年間の利益と損失を記載した書類。いずれも決算の際に必要な書類です。
65万円控除の要件③-1 確定申告をe-Tax(電子申告)で行なう
2018年度の税制改正で新たに青色申告特別控除を受けるために加えられた要件です。「e-Tax(イータックス)」とは国税庁が運営している、インターネットを利用して納税手続きを行なうシステムで、手続きをすれば誰でも利用可能です。
65万円控除の要件③-2 電子帳簿保存を行なう
e-Taxで確定申告しない場合でも、従来の要件①と②に加えて電子帳簿保存を行なえば65万円の青色申告特別控除を受けられます。電子帳簿保存とは、文字通り「帳簿書類をデータとして保存する」ことです。
電子帳簿保存では「真実性」と「可視性」の確保が義務付けられているため、データの改ざんが不可能なシステムを利用しなければなりません。
確定申告前に裏付書類の確認を!
所得控除制度を活用するためには、それを裏付ける書類が必要になります。たとえば生命保険料控除であれば、生命保険会社からの通知書類(生命保険料控除証明書)が必要です。また医療費控除の場合は、治療費などの領収書やレシートが必要になります。
これらの書類がないと、確定申告書に控除額を記入することができません。裏付書類は確定申告の際に提出する必要はありませんが、確定申告後5年間の保管義務がありますから、しっかりと残しておく必要があります。
監修税理士のコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通