所得が48万円以下の個人事業主やフリーランスは、確定申告をする義務はありません。しかし確定申告をしないと、家が借りられなくなる、事業資金の借入れができなくなるといったデメリットが起こりえます。
また納税義務があるのに無申告だった場合は、ペナルティを課せられる可能性も。個人事業主が確定申告をしなかった時にどうなるのか、メリット・デメリットを解説します。
個人事業主が確定申告しないとどうなるの?
所得税の納税義務のある個人事業主が確定申告をしないと、追徴課税が発生するリスクがあります。また義務がなくとも、確定申告をしなかった時には別途住民税の申告を行わなければなりません。
個人事業主はいくらなら確定申告をしなくても良い?
個人事業主やフリーランスの場合、所得が年間48万円以下であれば確定申告をしなくても問題ありません。所得とは収入から必要経費を差し引いた額のことです。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
個人事業主が確定申告しないとどうなる?所得48万円以下でも申告する?
確定申告とは1年間にあった収入と経費などをまとめて、納税すべき所得税を確定するための手続きです。個人事業主は1月から12月分の所得を取りまとめた上で、翌年の2月16日から3月15日の間に申告する必要があります。
義務があるのに無申告だと税金が加算される
確定申告を行う義務のある個人事業主が確定申告期間内に無申告だった場合、加算税や延滞税が追加されます。通常通り確定申告と納税していたとき以上に、税金を支払うことになる点に注意しましょう。
- 無申告加算税:納付すべき税額に対し50万円までは15%、50万円越分は20%
- 延滞税:納税すべき日から延滞した日数に応じて加算(納付すべき税額に対し、2ヶ月までは原則年7.3%、2か月越は原則年14.3%)
確定申告する義務のある人とは
次のケースに該当する方は、確定申告の義務があります。無申告だとペナルティを受けることになるため必ず確定申告しましょう。
- 個人事業主の場合で1年間の所得が48万円を超える人……48万円は基礎控除の額なので、所得が48万円以下だと、確定申告をしても納税額がゼロになることから申告不要とされています。
- 会社員として勤めているが、副業による所得が20万円を超える人……会社員や公務員の方は、雇用主が給料から源泉徴収をして税務署に納めているため、通常は確定申告をしなくても大丈夫です。副収入がある場合、その分の確定申告をする必要があります。
- 不動産所得がある人……土地や家を譲渡した場合や不動産を貸し付けて収入を得ている人など、不動産所得がある方は金額によらず確定申告が必要です。
会社員や公務員の方は、雇用主が給料から源泉徴収をして税務署に納めているため、通常は確定申告をしなくても大丈夫です。
なお個人事業主の場合、確定申告の義務がなくとも、しないことでデメリットが生じる場合がある点には注意しましょう。
「所得」48万円以下とはどういうこと?
ところで、課税の対象となる「所得」とは何をさしているのでしょう。事業収入と事業所得では、内容が異なります。
所得とは、収入から事業で使った経費を引いたものです。
所得=収入(売上)―必要経費 |
1年間に100万円の売上がある、個人事業主の例で考えてみましょう。必要経費が70万円あれば、
100万円―70万円=30万円
上記より所得は30万円となるので、確定申告の必要はありません。
必要経費が50万円だった場合は、
100万円―50万円=50万円
となります。この場合、所得が48万円を超えるので確定申告が必要です。
なぜ所得48万円以下なら確定申告不要なのか
所得48万円以下の個人事業主が確定申告をしなくていいのは、所得税に「基礎控除」の48万円があるからです。
基礎控除とは、所得があるすべての人から一律で差し引かれる金額のこと。個人が抱えているさまざまな事情を考慮して、公平に課税しようという考え方に基づきます。
確定申告の際、所得から48万円が差し引かれた金額が課税所得となります。所得が48万円以下の人は課税所得が0円になりますので、所得税が発生しません。そのため、確定申告をしなくても良いのです。
もちろん個人事業主で売上がゼロの人も、確定申告をする義務はありません。
義務がなくとも確定申告しないことで生じるリスク
所得が48万以下の個人事業主は確定申告する義務はありませんが、これはあくまで申告漏れや脱税にならないということです。実は確定申告の義務がなくても確定申告をしたほうがいい場合があります。
確定申告をしないと家が借りられないことも
自宅や事務所としてマンションなどを賃貸契約する際には、市町村が発行する「所得証明」が必要です。所得証明はその人にどのくらいの所得(収入)があり、賃貸料(家賃)を確実に支払えるかという根拠になります。
確定申告をしない場合、市町村ではその人の課税所得が0円だったとは認識しません。「その人が1年間なにをしていたのかわからない」ことになり、国や市町村では所得を証明することができないのです。そのため賃貸契約に必要な所得証明を準備できません。
売上が0円、課税所得が0円であっても、確定申告をしておけば「所得が0円だった」と証明する所得証明を発行してもらえます。
他にも家を建てたり、子どもの進学などのためにローンを組んだりする際も、所得証明が必要です。また公営団地や保育園の保育料算出の時も、所得証明が使われます。確定申告をしないと、団地の家賃や保育料が高額になる可能性もあります。
事業資金の借入れが出来なくなる
個人事業主として事業を拡大する場合、銀行などから資金を借り入れることもあるでしょう。ここで求められるのが決算書です。決算書に加え、その内容を証明するために税務署の収受印がある申告書や納税証明書の提出も必要です。
確定申告をしないと、収受印がある申告書はありませんし、市町村から納税証明書を発行してもらうこともできません。つまり申告をしていなければ、銀行からの借入れができなくなり、事業を大きくすることもできなくなるのです。
医療費控除などが受けられなくなる
確定申告のメリットの1つに、基礎控除以外のさまざまな控除が受けられ、課税所得額が下げられるという点があります。
課税所得を下げるために受けられる控除には家族に対する扶養控除や医療費控除などがあります。これらは、確定申告をしなければ受けられません。
なぜ課税所得が0円で控除する所得がないはずなのに、医療費控除をするのでしょうか。それは所得税以外の税金を抑えたり、国民健康保険料を算出する際に、所得が低いことを証明したりするためです。
確定申告は所得に対する所得税の申告です。しかし、その内容は市町村に共有され、住民税の計算にも使用されます。
住民税の基礎控除額は、所得税より低く33万円です。確定申告をしないと控除が受けられず、住民税が高く課せられることになるかもしれません。
また国民健康保険料の算定の際も、低所得であれば保険料が低くなる「低所得者軽減」が行われます。確定申告をしない場合は所得が不明となり、一定額の保険料を支払わなければならなくなります。
住民税の申告は別途行う必要がある
確定申告する義務がなくとも、住民税は進行しなければならない点に注意しましょう。住民税の申告の場合も、確定申告と同様に2月16日~3月15日の期間に行います。
確定申告をしていれば、住民税の申告は必要ありません。
参考:住民税の申告方法と納付方法 |
義務がなくても確定申告をすると受けられる3つの節税メリット
確定申告は単に得た収入から税金を納めるという役割だけでなく、さまざまなメリットを受けることができます。
確定申告にかかる作業は手間と感じるかもしれません。しかし、その手間を差し引いてもお釣りがくるようなメリットを、確定申告をすることで受けられるのです。
義務のある人も、無い人も、自営業者として収入を得ている限りはこのメリットを十分に理解して確定申告をしましょう。
①最大65万円の青色申告特別控除を受けられる
自営業を始める際に税務署に「開業届」を提出することで青色申告ができるようになります。青色申告は自営業者用の確定申告で、必要経費が認められるために、実態に見合った申告が可能になります。
さらに青色申告の大きなメリットとして、最大65万円の青色申告特別控除の制度があります。これは自営業において発生した利益のうちから最大65万円が控除されるといるものです。
青色申告は、複式簿記を使って帳簿をつける必要があります。複式簿記は手計算で行うとかなり面倒ですが、パソコンソフトを使用すると容易に帳簿をつけることができます。
②納め過ぎた税金の還付を受けることが出来る
自営業者は報酬を受け取る際に源泉徴収をされています。その源泉徴収は所得税の徴収漏れの内容に前もって納税を行なっているというシステムです。しかしその源泉徴収には所得控除や必要経費が考慮されていないため、「税金を多く納めている」という状況が発生してしまいます。
そのような場合、確定申告をすることで「納め過ぎた分の税金」を戻してもらうことが可能です。
③赤字の繰り越しが可能になり、節税に繋がる
青色申告にすると、純損失を3年にわたって繰り越しできます。1年目に大幅赤字になると、2年目に黒字になっても1年目の赤字を繰り越せば、利益を帳消しにできるので大幅な節税になります。
赤字の場合は特にメリットがある
自営業者を始めていきなり黒字を出せる人はあまりいません。初期投資などもあり、赤字になるのもやむを得ないところです。
②で説明した通り、すでに源泉徴収を受けていて赤字の場合、確定申告によって還付金を受け取れる可能性が高いでしょう。
また年の途中で会社員を辞めて自営業者になった人は、得られるメリットが大きいです。赤字の状態で確定申告をすると、年収に対して過大な税金を納めていたということで、会社員として源泉徴収された税金が還付されてきます。
年金を受給している自営業者も同様です。年金から税金が徴収されているため、自営業の経営が思わしくない場合は、確定申告により税金を還付してもらえることがあります。
確定申告をしないとばれる理由、ばれたらどうなる?
個人事業主の場合、実際の所得がどのくらいあるのかは、本人以外にはわかりません。しかし所得が48万円以上あり、確定申告が必要になっているにもかかわらず正しく申告していないと、税務署が税務調査にくる場合があります。そして、追徴課税など思わぬペナルティを受けてしまうのです。
実際にどのように確定申告をしていないことが発覚するのでしょうか。そして無申告がばれた場合どうなるのでしょうか。
知人の密告によって税務調査の対象に…
所得がある個人事業主にとって「確定申告をしない」という選択は節税ではなく、脱税です。ばれる理由はさまざま。その1つが知人や友人からの密告です。
知人や近所の人に「大きな仕事をして儲けたけれど、申告しなければ税務署にばれない」などの話をしていて妬みから通報される、という例は少なくありません。最近では、FacebookやInstagramも監視。誰かに仕事のことや確定申告について直接話さなくても、SNSに仕事のことや暮らしぶりなどをアップしていれば、それを見た税務署が突然「税務調査」にやってくることもあります。
取引先の支払調書から特定される場合も
取引先の企業などから報酬を受けた場合、取引先の帳簿には「いつ」「誰に」「いくら」支払ったかという記録が残ります。正しく確定申告をしている取引先の帳簿から、支払われた金額が判明し、無申告がばれることがあります。
本当はばれているけど、後回しにされているだけかも
税務署はさまざまな方法で、無申告や脱税している可能性がないか目を光らせています。けれど、調査すべき案件は多く、疑わしい事業主を早急に全て調査できるわけでありません。
税務調査の連絡がある場合、一般的に「過去3年」の資料提示を求められます。つまり今年の無申告について何もなかったからといって、次も大丈夫、というわけではないのです。「今は脱税額が少ないから後で税務調査しよう」と後回しになっているだけなのかもしれません。
ばれたら無申告税や延滞税、場合によっては重加算税が課される
無申告がバレた時には、「個人事業主が確定申告しないとどうなる?」で解説した通り無申告加算税や延滞税が加算されます。社会的な信用が下がり、税務署に目をつけられてしまう点もリスクでしょう。
また帳簿の隠ぺい・仮装にあたる悪質な行為があった場合は、無申告加算税の代わりに40%の「重加算税」が課される可能性があります。
確定申告が必要だった!と気付いたら
個人事業主が確定申告をしない理由には「所得が低いから」「面倒だから」などがあります。しかし無申告によるデメリットはとても大きく、必ずばれるといえます。リスクが多い無申告は絶対にやめましょう。
自分に確定申告が必要だったと気づいたら、できるだけ早く申告を行うことが重要です。延滞税が最低限で済むうえ、自主的に申告すれば無申告加算税が軽減される例があります。
無申告の場合には、申告に必要な帳簿や領収書などの整理も行っていないことが多いでしょう。その場合は、税務調査への対策も必要になります。そんなとき、力になってくれるのが税金のプロである税理士です。
確定申告に関する相談は税理士に!
申告のやり方がわからない場合や、税務調査への対策を考えるなら、まず税理士に相談してみましょう。税理士は、税金のプロ。期限を過ぎた確定申告のやり方はもちろん、今後発生する可能性が高い税務調査対策もアドバイスしてくれます。実際に税務調査の連絡がきた際も、相談しておけば一緒に対応してくれます。
監修税理士からのコメント
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
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