雑損控除は所得控除のひとつで、盗難や災害などの特殊な事態による損害が生じた際に適用できる制度です。
「雑損控除を受けるには何したらいい?」「過去の分もさかのぼって控除が受けられる?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?
雑損控除を受けるには会社員であっても確定申告が必須になります。また、確定申告し忘れていても5年分までさかのぼって申告が可能です。
本記事では雑損控除を受けるための条件から申告の方法、所得税のその他軽減措置までたっぷり解説します。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
雑損控除とは?対象となる資産や損害
雑損控除は災害や盗難、横領によって生活資産に損害があった場合に一定額の控除を受けられる制度です。
雑損控除の対象となる資産や損害には条件があるので、適用条件を前もって把握することが重要です。
「雑損控除」は盗難や災害による損害がある場合に受けられる控除
雑損控除とは所得控除のひとつで、盗難や災害などによって発生した損害がある場合に受けられる控除です。
日本は台風や地震などの自然災害が多く、家屋などの資産に重大な損害が発生することもあります。
このような自然災害による損害は、条件を満たせば雑損控除として申告が可能であり、確定申告により所得税を減らせます。
さらに、盗難や横領などによる被害を受けた場合も内容によっては雑損控除適用の対象です。
雑損控除を受けられれば課税所得から控除額が引かれ、税負担も小さくなります。
対象となる資産の条件
雑損控除の対象となるには、次の①と②両方の条件に該当しなければなりません。事業用資産は雑損控除の対象外なので注意が必要です。
①資産の所有者が以下のどちらかであること
②住宅・家財・車などのうち生活に必要とされる資産で、事業用の資産や棚卸資産ではないもの |
対象となる資産の例 | 対象とならない資産の例 |
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「生活に必要とされる資産かどうか」の判断は難しいため、迷う場合は税務署で確認するとよいでしょう。
参考:雑損控除|国税不服審判所 |
対象となる5つの損害原因
雑損控除の対象となる損害は次の5つです。
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自然現象の異変による災害
震災、風水害、冷害、雪害、落雷、火山の噴火などの自然災害が該当します。
【自然災害による損害の例】
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これに加えて復旧費用だけでなく、災害防止のために購入した備品の費用も含まれます。
人為による異常な災害
火災や火薬類の爆発など、人為的に発生した災害も雑損控除の対象です。
【人為的災害による損害の例】
※建物の保温に使う中皮腫(がんの一種)の原因のアスベストの除去費用は対象外 |
また、車の交通事故や当て逃げによる修理費などは異常な災害ではないので認められません。
害虫などの生物による異常な災害
害虫や害獣によって生活用の建物に被害を受けた場合も雑損控除の適用が可能です。
盗難
雑損控除の適用が認められる盗難は次のようなものがあります。
【盗難による損害の例】
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気づいたらタンス預金がないなど、いつ失くしたかわからない場合は紛失と判断されるので、雑損控除の対象外です。
横領
金銭的な税務上の横領は刑法の罪に該当し、雑損控除が適用されます。
ただし、詐欺や恐喝は当事者の意思のもとになされた行為と判断されてしまうため雑損控除が認められないので注意が必要です。
雑損控除の計算方法【計算例あり】
雑損控除の控除額は次の2つの計算式で算出した額のうち、どちらか大きい額です。
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住宅や車などに保険をかけている場合、雑損控除を算出するときは保険などで補填された分を除きます。
また、損失が大きい場合には翌年以降に繰り越すこともできるため、繰越についても紹介します。
雑損控除の計算例
総所得金額が800万円の人の住宅が損害を受けたとしましょう。
- 損失前の住宅の時価:1,500万円
- 損失後の住宅の時価:1,200万円
- 損失額:300万円
- 原状回復にかかる費用:100万円
- 保険金80万円
計算方法 | ①差引損失額-総所得金額等×10% | ②差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円 |
計算式 | 差引損失額=300万円(損失額)+100万円(原状回復にかかる費用)−80万円(保険金)=320万円
320万円−800万円(総所得金額等)×10%=240万円 |
100万円(差引損失額のうち災害関連支出の金額)- 5万円 = 95万円
※「差引損失額のうち災害関連支出の金額」は「原状回復にかかる費用」を指す |
控除額 | 240万円 | 95万円 |
①と②それぞれの式で計算した結果、①の方が大きくなりました。したがって、今回のケースでは240万円が雑損控除額となります。
差引損失額の計算方法
雑損控除を算出するには差引損失額を求める必要があります。差引損失額を求める計算式は次のとおりです。
災害関連支出
災害関連支出とは、住宅や家財などが被害を受けたときの取り壊し・撤去・修繕の費用や、家屋倒壊を防ぐためのシロアリ駆除などにかかる費用です。
災害だけでなく盗難や横領により損害を被った場合は、資産の原状回復に支出した費用をいいます。
保険金などの補填金額
保険金などの補填金額とは、災害に関連して受け取る保険金や損賠賠償金などのことです。差引損失額を求める際、保険金などをマイナスして計算します。
損害金額の算出方法
損害金額の算出方法は、取得価額がわかる場合とわからない場合で大きく異なります。
【取得価額がわかる場合の計算】
取得価額がわかる場合の計算式は以下のとおりです。
損失額=(取得価額−減価償却費)× 被害割合
※住宅の場合は住宅の主要構造に損壊がある」という条件がつくため注意が必要 |
この計算方法では、取得したときの価格(取得価額)から減価償却費を差し引き、最後に被害程度の割合(被害割合)を乗じます。
減価償却費とは使用可能期間に応じて分割で計上する費用のことです。
【取得価額がわからない場合の計算】
取得価額がわからないときの算出方法は、住宅と家財の場合で計算式が異なります。
住宅 | 家財 |
損失額 ={(1平米当たりの工事費用 × 総床面積)-減価償却費}× 被害割合 | 損失額=家族構成別家庭用財産評価額×被害割合 |
なお被害割合を求めるときは、国税庁が公表している「被害割合表」を参考にしてください。
また、被害割合は合算することも可能です。被害割合の出し方は非常に複雑なため、税務署や専門家に相談するのがおすすめです。
参考:被害割合表|国税庁 |
控除額が所得額を超える場合は繰越が可能
損失額が大きく所得金額から控除しきれない場合は、翌年以後3年間まで繰越して毎年の所得から雑損控除できます。
これを「雑損失の繰越控除」といい、繰越した場合の雑損控除は各年の他の所得控除より優先して控除します。
以下のケースで繰越について見ていきましょう。
年間所得500万円-雑損控除600万円=-100万円 |
このケースでは「マイナス100万円」を翌年へ繰越します。
翌年も年間の所得が500万円だった場合は「年間所得500万円-前年に繰越した雑損所得100万円=400万円」で、年間所得を400万円として申告を行います。
雑損控除を受けるには確定申告が必須【申告方法・必要書類】
損害の条件を満たしていていても確定申告をしなければ雑損控除は受けられません。以下の手順で確定申告を進めていきましょう。
- 必要書類の準備
- 確定申告書の作成
- 申告書の提出
雑損控除は年末調整で受けることはできないので、年末調整する会社員も自分で確定申告の手続きが必要です。
確定申告期間は毎年2月16日~3月15日と定められていますが、被災した場合は例外として期限の延長が認められることもあります。
①必要書類の準備
雑損控除を受けるときの必要書類は次のとおりです。災害・火災・盗難別に発行先が異なるため注意しましょう。
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なお上記の書類のうち、給与所得の源泉徴収票の提出は必要ありません。しかし、確定申告書の作成に必要なので手元に準備しましょう。
確定申告書は、国税庁のホームページからダウンロードするか税務署から入手可能です。
②確定申告の作成
確定申告書には第一表と第二表がありますが、まずは第二表から書いていきましょう。確定申告書第二表の雑損控除に関する記入欄は、以下の画像の赤枠部分です。
以下の項目を記入します。
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続いて第一表の書き方です。第一表には、第二表に記入した数値から算出した雑損控除額を以下の赤枠の部分にそのまま記入します。
確定申告書の詳しい書き方は下記の記事でも説明しているので、参考にしてみてください。
③申告書の提出
確定申告書の提出方法は、次の3つです。確定申告の期間である2月16日~3月15日の間に忘れずに申告してください。
- 税務署の窓口で提出する
- 税務署に郵送で提出する
- e-Taxで提出する
確定申告書は自分の住所を管轄する税務署に提出します。税務署に持参する場合は、税務署の開庁時間を事前にチェックしておきましょう。
閉庁日(土・日曜・祝日等)は相談や受付は行なっていませんが、会長時間外は税務署の時間外収受箱へ投函することもできます。
e-Taxを活用すれば自宅から確定申告が可能です。e-Taxでの申告を検討されている方は以下の記事を参考にしてみてください。
申告期限の例外
確定申告は、2月16日から3月15日の約1カ月間と決まっています。
(※2月16日と3月15日が土・日祝日と重なる場合は翌開庁日)
しかし被災している人が期限内に申告するのは難しいため、国は「地域限定による延長」と「個別申請による延長」の2つの措置を設けています。
「地域限定による延長」は災害の大きい地域一帯の申告期限を一斉に延長するものです。
また、税務署に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を個別で提出すると、災害がやんだ日から2ヶ月以内で申告・納付の期限が延長されます。
間に合わなかった雑損控除申告もさかのぼって申告可能
確定申告の期限が過ぎてしまった場合でも、還付申告なら5年前の確定申告の分まで遡って行なえます。そのため雑損控除の申告を忘れてしまった場合でも焦る必要はありません。
還付申告とはすでに納めた所得税が、確定申告で申告した所得税より多い場合に、多い分の金額を返してもらえる制度です。
申告年度の翌年1月1日から5年間の間であれば、さかのぼって申告可能です。確定申告書の指定箇所に還付先の口座を記入すれば振り込まれます。
所得1,000万円以下であれば「災害減免法」でも所得税を軽減できる
損失を被った場合、雑損控除以外にも「災害減免法による所得税の軽減免除」を利用することもできます。
雑損控除と災害減免法は併用できないので、どちらかより節税できる方を選択しましょう。
災害減免法とは
雑損控除の他に、災害にあった場合は「災害減免法による所得税の軽減免除」を利用することもできます。
この制度を通称「災害減免法」といい、所得条件を満たしていれば適用可能です。雑損控除とは完全に別の制度で、併用することはできません。
【災害減免法の適用条件】
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上記の条件をすべて満たす場合に、所得税の軽減または免除が受けられます。
災害減免法による所得税の軽減免除を受ける場合は損失額の明細書が必要です。
会社員は会社に「源泉所得税の徴収猶予・還付申請書」を提出すれば、災害のあった日から給与から引かれる所得税の源泉徴収が猶予されます。
雑損控除との違い
「災害減免法による所得税の軽減免除」と「雑損控除」は似ているように感じるかもしれませんが、適用条件や受けられる恩恵が違います。
(※がついている項目は条件が共通するのもの)
条件 | 雑損控除 | 災害減免法 |
対象となる損失 | 災害や盗難・横領など | 災害のみ |
資産の種類 ※ | 日常生活に必要な資産 | 日常生活に必要な資産 |
所得金額の条件 | なし | その年の所得1,000円以下 |
損害度合 | 被害割合などを使い計算 損失額が時価の2分の1未満でも対象となる |
時価の2分の1以上の損害が対象 |
税金の減額方法 | 確定申告による還付 | 徴収の免除または軽減 |
必要書類 ※ | 損失を証明する領収書や罹災証明書 | 損失を証明する領収書や罹災証明書 |
損失の繰越 | 3年 | 繰越なし |
住民税との関係 | 住民税でも所得控除される | 控除なし。市町村によって独自の免税制度がある場合あり。 |
所得500万円の人が台風で浸水被害にあった場合の節税効果について、雑損控除と災害減免法で比べてみましょう。
2階建住宅の残価(新築価格-減価償却費)と時価が同じ1,500万円の場合を例に被害割合別に課税所得を算出します。
時価は今買うといくらで買えるかということなので、比較のために被害後の時価を仮定して、他の所得控除および保険金は「0」として計算しています。
住宅の被災状況 | 雑損控除 | 災害減免法 | 節税効果 |
床上1.5以上浸水 被害割合55% 時価が40%になった場合 |
損失額=1,500万円×55%-500万円×10%=775万円
※275万円は来年度に繰越をする |
被災後の時価=1,500万円×被災後の時価40%=600万円
時価は2分の1以下になっているため500万円が減免 |
当年控除はどちらも500万円だが、雑損控除の方が繰越できるので節税効果あり |
床下浸水 被害割合30% 時価が50%になった場合 |
損失額=1,500万円×30%-500万円×10%=400万円 | 被災後の時価=1,500万円×被災後の時価50%=750万円
時価は2分の1以下になっているため500万円が減免 |
雑損控除の被害割合より時価の下落率の方が大きいため、災害減免法の方が節税効果あり |
自治体によっては住民税等の減免制度があることも
災害による損害を受けた場合、自治体によっては住民税等の減免制度が適用されるケースがあります。納税免除もしくは納税期限の猶予など、税負担の軽減につながる制度です。
減免制度の例として東京都を紹介します。東京都には「都税の減免」という制度が存在します。
都税の減免制度は災害を受けた際に、すでに課税はされているものの納期限前の税金について、被害の程度に応じて軽減または免除を適用する制度です。
免除対象の税金には住民税だけでなく、個人事業税・固定資産税・事業所税など、さまざまな地方税が含まれます。
減免制度の内容は自治体によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
参考:軽減制度|東京都主税局 |
事業用資産の損害は「経費」または「純損失」として計上
事業用資産が受けた損害は、雑損控除の対象となりません。事業用資産の損害は必要経費や特別損失として別の項目に計上します。
損害を受けた事業用資産を修理するために要した費用は、修繕費として費用計上が可能です。
また資産の処分に要した支出も経費となります。条件を満たせば「災害損失」「盗難喪失」など特別損失として扱うことが可能です。
雑損控除についてまとめ
生活していると思いがけない損失を被ることもあり、場合によっては税金を納めることも難しい状況になることもあります。
そういった場合は確定申告することで税の軽減や免除、また還付を受けられることがあります。
雑損控除と災害減免法による所得税の軽減免除について理解し、思いがけない損害にも正しく対処していきましょう。
【雑損控除】
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【災害減免法による所得税の軽減免除】
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2つの制度は選択制です。ご自身の状況に合わせて節税効果の高い方を選んでください。
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監修税理士からのコメント
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