「特別損失とは?」「計上するときはどの勘定科目を使えばいいの?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。
特別損失は災害による損失など臨時的な損失で損失内容ごとに勘定科目が異なります。
この記事では特別損失の具体例や勘定科目、計上するメリットについて紹介します。特別損失に計上するときに迷わないために、よく理解しておきましょう。
この記事の監修税理士
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
特別損失とは
特別損失とは通常の経営活動では発生しない、臨時的な損失です。投資有価証券売却損や固定資産売却損のほか、災害による損失が当てはまります。
会計上処理するうえでは、以下の3つの性質を満たしている損失が特別損失となります。
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経常損益との違い
損益計算書は、企業の経営成績をみるものですが、その経営成績の指標は、5つの段階で表示されます。
- 「売上総利益」:売上高から売上原価を引いた粗利
- 「営業損益」:粗利から販売費及び一般管理費を差し引いたもの
- 「経常損益」:営業損益から財務活動の損益を加味したもの
- 「税引前当期純損益」:経常損益に特別損益を加味したもの
- 「当期純損益」:税引前当期純損益から法人税等を差し引いたもの
特別損失はこのうち経常利益後の「特別損益」に区分される項目です。一般的に企業の営業活動の本来の損益は、「経常損益」で判断されます。最終的な赤字の要因が特別損失の計上により生じたとしても、金融機関などは、経営に影響する業績の悪化とは判断しません。
特別損失の具体例
特別損失は具体的に以下のようなものがあります。
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ただし金額の僅少なものや毎期経常的に発生するものは、特別損失とせずに経常損益になります。
コロナによる特別損失の計上について
コロナの拡大により損失を被った場合、すべてが特別損失になるわけではありません。
損失内容 | 特別損失になるかの判断 |
---|---|
売上の減少 | 特別損失にはならない |
操業、営業停止中の固定費 | 特別損失になる |
イベント停止のための費用など | 特別損失になる |
売上の減少
コロナの影響がなければいくら売上があったのかを把握できません。そのため売上減少分を損失とするのではなく、単純に売上の減少として処理します。
操業、営業停止中の固定費
操業、営業停止になってしまっても、その期間中の人件費や家賃などの固定費は減らせません。金額が大きく、異常事態により発生した損失の性質をもつため特別損失に計上できます。
ただし一部でも営業中の場合は、コロナの影響による損失の金額を明確に分けられないため、固定費全額を特別損失に計上できません。
イベント停止のための費用など
イベント停止はコロナの影響による異常事態により発生したため特別損失に計上できます。ただし金額が多額でなければ、通常の営業損益の中での計上も可能です。
原状回復の特別損失について
事務所を移転や店舗を閉店した場合の、借りていた場所の原状回復工事の費用は特別損失になります。
ただし金額が少ない場合は、特別損失にならない場合もあります。特別損失として計上したい場合は、減価償却が終わっていない内装工事など、固定資産所売却損や解約の違約金なども、閉店費用としてまとめ、大きな金額にしてもよいでしょう。
退職金の特別損失について
退職金も一時的に発生する大きな支出です。退職金の計上については、その頻度や金額の大きさで特別損失に計上するかどうかが決まります。
例えば役員の退職金の場合は、頻度も少なく金額も大きいため特別損失として計上できます。また通常は退職金を支払っていない企業が、臨時的に退職金を支払った場合も特別損失に計上して問題はありません。
しかし従業員の退職金の場合は臨時的な損失とはみなされず、特別損失に計上することはできません。
ただし早期退職者の割り増し退職金については、一時的な損失となり割り増し分は特別損失になります。
特別損失の勘定項目一覧
特別損失に区分するものを帳簿に記載する際は、その内容を表現するような勘定科目を使用します。例えば、固定資産の処分による損失は、売却による損失なのか、廃棄を目的とした除去による損失なのかも明確に分かるような科目にします。
勘定科目 | 内容 |
前期損益修正損 | 前期の会計上の修正による損失 |
固定資産売却損 | 固定資産を帳簿価額より低い価額で売却した時に生じる損失 |
固定資産除却損 | 固定資産を廃棄、または処分したときに生じる損失 |
投資有価証券売却損 | 長期保有目的の有価証券を売却したときに生じる損失 |
子会社株式売却損 | 子会社(支配権を有する会社)の株式を売却した時に生じる損失 |
関係会社株式売却損 | 関係会社(一定の株式を保有し影響を与える会社)の株式を売却した時に生じる損失 |
減損損失 | 固定資産の収益性の低下で投資額の回収が見込めないときに一定額まで帳簿価額を減額することによる損失 |
災害損失 | 自然災害などにより生じた損失 |
社債償還損 | 割引発行した社債の買入償還時の額面金額と発行価額との差額による損失 |
特別損失として計上するメリット
特別損失として計上するメリットは「損益計算書で経常利益がよくなる」「有姿除去によって節税につながる」の2点です。
損益計算書で経常利益がよくなる
損失を特別損失で計上すると、経常利益の金額が増加します。経常利益は企業の本来の収益力を見る指標であるため、経常利益がよくなると銀行から借入するときなど外部から評価されるときに有利になります。
上図は特別損失によって経常利益がよくなる具体例を示したものです。左は社債償還損を営業外費用に計上し、右は特別損失に計上しています。
社債償還損は臨時的な費用なので特別損失に表示されるべき科目ですが、金額が僅少な場合は、営業外費用で記載可能です。特別損失に計上しても最終的な当期純利益は変わりませんが、経常利益はよくなることがわかります。
節税につながる固定資産の除去処理
特別損失を用いた節税としては、法人税法上の「有姿除却」があります。文字どおり「姿を有したままの除却」つまり廃棄などをせず、使用しない固定資産を除却処理する方法です。
通常、除却するには、取り壊し費用などが生じるため、その費用が多額の場合には、廃棄することなく固定資産を除却できるため、有姿除却には大きなメリットがあります。
実際の取引については、法人税法基本通達7-7-2に照らした判断が求められます。
有姿除却(法基通7-7-2)
次に掲げるような固定資産については、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができるものとする。
①その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
②特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、その製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
特別損失の計上の方法
突発的な支出を計上できる特別損失ですが、金額が多額になると税務調査官の指摘を受ける可能性は高まります。計上する際には、間違いなく特別損失にあたることが証明できるような証拠や資料を揃えておくことが重要です。
損失の発生についての経緯、状況説明
特別損失にあたるかどうかは、判断が分かれる場合も多いので「何も知らない第三者が見たときでも、損失が起きた経緯や状況が明確になるか」がポイントです。
まず抑えておくのは、なぜその損失が発生したのか、どんな人でも納得できるような資料を揃えておくことです。自然災害であれば、どのような災害がいつ起きたのかが分かる新聞記事などが証拠になります。
さらに会社がどのような被害を受けたか、被害状況の写真などを撮影して、被害額の判断基準にもできるようにしておきます。
特別損失の証拠資料の保存
特別損失を計上するにあたって、根拠となる書類を集めたら、きちんと整理して保存しておくようにします。また決算日をまたぐ取引になるような場合「除却」「売却」「廃棄」の日付が、どの会計期間に関わるかも重要になります。会計処理と証拠資料の整合性を慎重に行い、計上することが肝要です。
合理的な損失額の計算について
特別損失に計上された額が合理的な基準に基づくものであることを説明できる必要があります。第三者の見積や、相場の金額などを調べた上で損失額を計算しますが、その基準になった根拠についても資料として残しておきましょう。
金額の妥当性については、税理士や税務署と相談しておくと安心です。
法人税法上の損金として認められるかに注意が必要
臨時的で多額な損失である特別損失は、企業の最終利益である当期純利益を大幅に下げる要因になります。しかし特別損失の中には、法人税法上の損金として認められないものが多くあるので注意が必要です。
例えば有価証券の評価損、減損損失、廃棄していない棚卸資産の評価損など、評価による損失は原則として法人税法上の損金になりません。損益計算書上で大きく損失が出ているからといって、税金も少なくなると思い込むことのないように注意しましょう。
特別損失について税理士に相談しよう
特別損失のメリットは十分お分かりいただけたと思います。ただしその損失が損益計算書上、特別損失に該当するかの表示区分は、基本的には企業会計原則に準じる必要があります。また、会計上、特別損失を計上しても、それが法人税法上の損金となるとは限りません。
税理士に相談するメリット
特別損失の計上には、会計・税務の知識が必須です。特別損失として計上したものが税務上損金にならなければ、決算時に申告調整が必要です。それが税務調査時に判明すると、修正申告、追徴課税といったことにもつながります。
また前述の「有姿除却」においては、取り壊し費用を負担せず、損失を計上できるため、非常に節税効果は高いですが、その判断には、高度な税務知識を要します。関係諸法令の知識はもちろん、有姿除却としての計上の可否判断と税務調査におけるリスク、計上した場合は調査官に対して客観性を担保していることの主張も重要となります。
以上のことを懸念すると税務に精通していないと対応は難しく、やはり税務のプロである税理士へ相談することが賢明でしょう。
税理士の選び方
税理士の実務において、資産税等の税目に特化した税理士以外は会計と法人税は主要業務としています。そのため、今回の特別損失の分野は得手不得手がわかれるところではありません。
ただし、減損損失の会計処理などは、比較的新しい分野になるので、常に税務会計の新しい情報収集に熱心な税理士のほうが、スムーズな対応と有益な提案が期待できるでしょう。
監修税理士のコメント
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
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