法人や個人事業主が事業用の車を購入したとき、減価償却という会計処理で経費を計上します。
減価償却は資産の使用可能期間中に分割して計上する方法です。その使用可能期間は「耐用年数」と言い、新車の場合は軽自動車4年・普通自動車6年と定められています。
中古車は新車より耐用年数が短く、車の経過年数によって異なるのが特徴です。
中古車の耐用年数に応じた減価償却費用や、購入する際のポイント、ローンやリースの場合の会計処理について解説します。
中古車の耐用年数はどう計算する?
中古車の耐用年数は「新車の耐用年数-経過年数」+「経過年数×0.2」で計算します。
節税には何年落ちの車がいい?
定率法を使うと1年で償却できる「3年10ヶ月落ち(4年落ち)の中古車」がおすすめです。詳しくは記事内で解説しています。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
中古車の減価償却方法【計算例あり】
中古車の減価償却の方法は「定額法」と「定率法」の2種類です。減価償却の方法の届出を提出していなければ基本的に、個人事業主は定額法、法人は定率法で計算します。
定額法 | 定率法 | |
特徴 | 耐用年数にわたって、毎年減価償却費が同額になる | 減価償却費の金額は償却開始年度のはじめの年が一番多く、年とともに減少する。 |
対象者 | 主に個人事業主 | 主に法人 |
なお個人事業主でも、税務署長に減価償却の方法を選定して届出をすれば定率法を適用することが可能となる場合があります。
まずは耐用年数を算出
中古車の減価償却を行なうためには、耐用年数が重要です。以下の計算式で、中古車の耐用年数を算出しましょう。
【新車の耐用年数】
軽自動車 | 4年 |
普通自動車 | 6年 |
【中古車の耐用年数】
中古車の経過年数が、新車の耐用年数以内の場合 | 「新車の耐用年数-経過年数」+「経過年数×0.2」(1年未満の端数は切り捨て)
※1年未満の端数があるときは端数を切り捨て、年数が2年以下になる場合は2年とする |
中古車の経過年数が、新車の耐用年数より大きい場合 | 新車の法定耐用年数×0.2
※1年未満の端数があるときは端数を切り捨て、年数が2年以下になる場合は2年とする |
「中古車の経過年数が、新車の耐用年数以内の場合」の計算例
初度登録から2年10ヵ月経過した普通自動車を例に計算します。
「6年(72ヵ月)-2年10ヵ月(34ヵ月)」+「2年10ヵ月(34ヵ月)×0.2」 =38ヵ月+6.8ヵ月 =44.8ヵ月 =3.7年 |
1年未満の端数がある場合は切り捨てるので、この場合の耐用年数は「3年」です。
「中古車の経過年数が、新車の耐用年数より大きい場合」の計算例
10年落ちの軽自動車の耐用年数を見てみましょう。新車の軽自動車の耐用年数は4年であるため、経過年数が耐用年数を上回っています。
計算式に当てはめて耐用年数を計算すると「4年×0.2=0.8年」です。年数が2年に満たないときは2年とするので、このケースでの耐用年数は2年となります。
定額法での計算方法
定額法は耐用年数の期間内で毎年同じ減価償却額を計上する計算方法です。そのため計算しやすく、また定率法に比べて初年度の利益を増やしやすい特徴があります。
耐用年数を算出したあと、「取得価額×定額法の償却率(耐用年数に応じて変動)」で計算しましょう。
定額法の減価償却費の計算式
【定額法の計算式】
取得価額×定額法の償却率(耐用年数に応じて変動) |
【定額法の償却率】
耐用年数 | 定額法の償却率 |
2年 | 0.5 |
3年 | 0.334 |
4年 | 0.25 |
5年 | 0.2 |
6年 | 0.167 |
定率法の計算例
初度登録から13ヵ月(2年落ち)経過した中古の普通自動車を、200万円で購入した場合を計算してみましょう。なお、個人事業主が前年の1月1日に購入したものと仮定します。この場合初年度に12ヵ月分の償却費を計上します。
まずは耐用年数の計算です。1年未満の端数は切り捨てとなるため、このケースでの耐用年数は「5年」です。
耐用年数:(6年-13ヵ月)+(13ヵ月×0.2)=約5.1年 |
耐用年数5年の時の定額法の償却率は0.2なので「取得価額×定額法の償却率」にあてはめると、以下になります。
各年の償却費:200万円×0.2=40万円 |
定額法の場合は毎年同じ計算式です。そのため、償却が終わるまでの各年の償却費の金額は以下になります。
【計算結果】
約2年落ち・200万円の中古自動車を1月中に購入した場合の、各年の減価償却費(定額法)
初年度 | 40万円 |
2年目 | 40万円 |
3年目 | 40万円 |
4年目 | 40万円 |
5年目 | 40万円 |
定率法での計算方法
定率法は減価償却の初年度が一番多く、年とともに減価償却額が減少する計算方法です。初年度の節税効果が大きく、後年の経費の負担を減らせるメリットがあります。
定率法の減価償却費の計算方法
【定率法の計算式】
未償却残高(取得価額-前年度までの減価償却累計額)×定率法の償却率 |
※上記の金額が償却保証額(取得原価×保証率)に満たなくなった年以後は「改定取得価額×改定償却率」
【定率法の償却率】
耐用年数 | 定率法の償却率 | 改訂償却率 | 保証率 |
2年 | 1 | – | – |
3年 | 0.667 | 1 | 0.11089 |
4年 | 0.500 | 1 | 0.12499 |
5年 | 0.400 | 0.5 | 0.10800 |
6年 | 0.333 | 0.334 | 0.09911 |
定率法の計算例
定額法の例と同様、初度登録から13ヵ月経過した中古の普通自動車を200万円で購入したケースで、毎年の減価償却費を計算してみます。
耐用年数は定額法と同様で5年です。定率法の償却率は0.4となります。
「未償却残高(取得価額-前年度までの減価償却累計額)×定率法の償却率」にあてはめて計算してみましょう。
→償却保証額(200万円×償却保証率0.10800=21.6万円)を下回ったため、4年目からは改定償却率を使用する
|
【計算結果】
約2年落ち・200万円の中古自動車を1月中に購入した場合の、各年の減価償却費(定率法)
初年度 | 80万円 |
2年目 | 48万円 |
3年目 | 17.28万円 |
4年目 | 21.6万円 |
5年目 | 21.6万円 |
自家用車としても使う場合は減価償却費が減る
車を事業用だけでなく、プライベートでも利用しているときには減価償却費の金額を全額経費にできません。事業用で使う分だけが減価償却費となります。
走行距離や利用時間など、合理的な基準(検証可能な数値)で考えた結果、プライベート分で2割を使用している場合で考えましょう。もし車両の1年目の減価償却費を計算した結果が100万円だった場合、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | |||
減価償却費の計上 | 減価償却費 | 100万円 | 車両運搬具 | 100万円 |
家事按分計上 | 事業主貸 | 20万円 | 減価償却費 | 20万円 |
プライベートで2割を使用しているため、減価償却費の100万円の20%は経費として認められないので「事業主貸(じぎょうぬしかし)」勘定で処理を行ないます。
その結果、80万円だけが経費として計上されるのです。
事業主貸や家事按分(かじあんぶん)については以下の記事で詳しく解説しています。
節税するなら4年落ちの中古車がおすすめ!
中古車を買う際に「4年落ち・5年落ち・10年落ちのどの中古車を買うべきか」悩む方も多いのではないでしょうか?
経費計上を考慮してお得に中古車を購入するなら、定率法を使うと1年で償却できる「3年10ヶ月落ち(4年落ち)の中古車」がおすすめです。
3年10ヶ月落ちなら1年で全額計上できる(事業年度の初月に購入した場合)
中古車の耐用年数の求め方は「法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%」のため、3年10ヶ月落ちの中古車の場合は以下となります。
72ヶ月-46ヶ月+46ヶ月×0.2=35.2ヶ月=約2年11ヵ月 |
1年未満の端数を切り捨てるため、耐用年数は2年です。つまり11ヶ月分を切り捨てることができます。「3年10ヶ月落ちの中古車」は2年という耐用年数が算出されるギリギリのボーダーラインなのです。
定率法の場合、耐用年数2年の償却率は1.000です。そのため、耐用年数2年の中古車を年度の初めに購入すれば、費用を全てその年度の減価償却費に計上できます。
なおここでとくに注意すべきポイントは「年度初めに購入する必要がある」点です。理由を以下で解説します。
中古車を購入する際の注意点
中古車を事業用に購入する際には、購入するタイミングが特に重要です。また事前に買取相場を調査しておくと、将来お得に買い換えられます。購入する前に考えておきたいポイントを見ておきましょう。
購入するタイミングは「年度最初の月」
購入の初年度からなるべく多く経費計上をしたい場合は、事業年度の最初の月に購入しましょう。
減価償却費は月ごとに算入されるため、最初の月に購入すればフルで減価償却費を計上できるためです。個人事業主であれば1月に購入しましょう。
たとえば購入金額が200万円の場合、新車購入であれば初年度の減価償却額は200万円×0.167(耐用年数6年の償却率)で33.4万円ですが、中古車購入で、かつ年度の初月に購入した場合であれば200万円×0.334(耐用年数3年の償却率)で66.8万円、初年度に計上できます。
一方、たとえば年度が1月に始まる個人事業主が12月に購入し利用し始めた場合、1月から償却した場合の12分の1の額しか経費として計上できません。
前述した「3年10ヶ月落ちの中古車を購入する場合」も、1年で中古車の費用を全て償却するには、年度の初月から償却する(事業用途で使用し始める)必要があります。
売却時を考慮して値落ちしにくい車を選ぶ
車を買い換えるときは、今まで乗っていた車を下取りに出すことが多いですよね。
買い替えの際に高く下取りできた場合、買い替え時点で車両の売却益が計上されます。車を使用している時点で先に減価償却費を費用計上できますので、経費のほうが早めに計上できます。
将来、少しでもお得に買い換えるためには、なるべく高く下取りをしてもらえる、価値が落ちにくい車を選んでおくのがおすすめです。
できるだけ中古車市場の買取相場価格を事前に調査しておくとよいでしょう。
中古車の改造や改良を行なう場合に注意!
中古車を購入して、同時に改造や改良を行なった場合には注意が必要です。以下に当てはまる場合は新車と同様の扱いになり、中古車の耐用年数を適用できません。新車の法定耐用年数を適用する必要があります。
改造や改良が中古車の機能を高めて耐用年数を伸ばすものであり、かつ、その支出の金額が「その中古車と同じものを新車で購入する時の金額の50%」を超える |
購入した中古車を使用するために多額の追加費用をかけた場合には、追加費用が新車の購入金額の半分以上になっていないかを確認しましょう。
定率法利用の場合、事前の届け出も忘れずに
個人事業主が定率法を利用する場合は、事前に届出をする必要がある点にも注意しましょう。
中古車を効率よく減価償却をする場合には計画性が重要です。車の購入費は経費としても大きいものなので、利益の大きい年で節税したい場合はぜひ参考にしてください。
【ローンで購入する場合】ローン返済部分については「利息のみ」経費計上が可能
中古車を購入する際には、現金払いだけでなくローンで払うこともあります。また購入ではなくリース契約にすることもあるでしょう。
現金で支払う際には車両の購入費をもとに減価償却費を計算し、経費として計上しますが、ローンやリースの場合はどうなるのでしょうか。それぞれの会計処理とポイントをご説明します。
月々の「支払利息」のみ経費計上できる
ローンで車を購入する場合、元金部分は経費になりません。経費として計上できるのは利息だけになる点に注意しましょう。
ローンの元金部分は「未払金」勘定で仕訳を行ない、支払う度に負債を減らす処理をします。
【中古車をローンで購入する場合の減価償却費例】
|
以上のケースの会計処理は以下のようになります。車両購入時は利息分も合わせて車両の取得価額とし、月々の「支払利息」のみが経費として計上可能です。
借方 | 貸方 | |||
車両購入時 | 車両運搬具 | 200万円 | (長期)未払金 | 200万円 |
月々の支払時 | (長期)未払金 | 32,500円 | 現金預金 | 35,000円 |
支払利息 | 2,500円 | |||
月々の償却時 | 減価償却費 | 33,333円 | 車両運搬具 (もしくは「減価償却累計額」) | 33,333円 |
【リースで取得する場合】支払リース料を全額経費計上できる
車をリースで取得した場合は、月々のリース料を全額経費として計上することが可能です。なお資産計上されるファイナンス・リース取引は除く点に注意しましょう。またプライベートでも利用している場合は、家事按分が必要です。
リースは車を借りているだけで、所有権はリース会社にあります。そのため車両として資産計上をしないのがポイントです。
【中古車をリースで購入する場合の減価償却費例】
カーリースで月々の支払が25,000円であった場合、会計処理は以下の通りになります。
借方 | 貸方 | |||
リース契約時 | 仕訳なし | |||
月々の支払時 | リース料(賃借料) | 25,000円 | 現金預金 | 25,000円 |
カーリースでは車にかかる税金や諸費用、メンテナンス費用などはリース会社の負担となるため、借り手はリース料以外の費用を支払う必要がありません。
そのため、会計処理が簡素化できて費用の予測がたてやすいのがメリットです。
【新古車購入の場合】中古車と同じように減価償却できる
新古車の会計処理は中古車と全く同じです。新古車とはディスプレイや試乗車として利用される、新車に近い中古車のこと。
新品同様のきれいな状態であっても、中古車と同じように経過年数に応じて耐用年数を算出できます。
また新古車はナンバー登録されているので、車自体はほとんど未使用であるにもかかわらず、新車よりも短い期間で減価償却費を早く計上できるのです。
「新車が欲しいけど、早めに多くの減価償却費を計上してできるだけ出費を減らしたい」という方は新古車の購入を検討してみるのはどうでしょうか。
中古車の減価償却は税理士に相談してみよう!
中古車の減価償却のポイントは耐用年数と「定額法を用いるのか、定率法を用いるのか」状況に応じて判断するということです。
もし不明な点があったり、正しい会計処理ができるか不安だったりする場合は税理士に相談するのがよいでしょう。
税理士に相談するメリット
税理士は税務に関してのスペシャリストです。仕事で使っている自動車の調子が悪くなってきた場合などや買い替えを考える場合には気軽に相談してみましょう。
これまでみてきたように、個人事業主と会社経営者では減価償却をする場合の計算式が違うことがあり、迷うことも多いと思います。
税理士に相談することで、自身に合った自動車の選び方を最適化してくれるだけでなく節税についての考え方を深めることができるでしょう。
税理士を選ぶ際のポイント
やはり、最も重要なのは節税に関しての深い知識があり、中古車購入のサポート経験がある税理士が最も頼りになる存在でしょう。
こうした節税に関してアドレスをしてくれる税理士とは長期的に顧問契約を結びたいと考える経営者も多いと思います。
長期的に契約を考えるのであれば、コミュニケーション能力が高く「手の合う」税理士を積極的に選ぶようにしましょう。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通