適切な家事按分を行えば、より多くの経費を計上できます。按分割合を比較的自由に決められるため、税務署から指摘を受けないようにするためには、正しい知識を身に付けておくことが重要です。家事按分できる経費や計算方法、税務調査での扱いなどを解説します。
家事按分とは
家事按分とは事業費と生活費を合理的な基準の割合で分ける作業のことです。個人事業主が確定申告を行う際に、経費を算出する方法として用いられます。
具体的には自宅兼事務所で仕事をする場合などに、家賃や光熱費、水道代や通信費などの一部を事業経費として計上する方法になります。事業とプライペートの割合を作業時間や日数などを基準に分けた経費を申告可能です。
ただ、白色申告と青色申告のどちらの確定申告方法を取るかによって、経費として計上できる家事按分の範囲や条件が変わります。以下にそれぞれでの家事按分の計上基準をまとめましたのでご覧ください。
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白色申告での家事按分
白色申告の場合、かかる費用のうち、業務に関係する割合が50%を超えていなければ家事按分で経費を計上することはできません。
家賃にしても電気料金にしても、仕事で少し使っているという程度では経費と認められないということです。ただ、業務部分とプライベート部分を「明確に区分できる」場合のみ、経費計上が認められます。
青色申告での家事按分
青色申告の場合、業務において必要であると判断できる合理的な理由があれば、すべての経費を家事按分で計上することができます。業務に関係する割合が50%を超えているかどうかを考慮する必要はありません。
青色申告は複式簿記での記帳義務など煩雑な会計処理が必要ですが、必要経費として計上できる範囲は白色申告よりも大幅に増えることになります。加えて青色申告だと節税にもなるため、家事按分する経費が多い場合は青色申告を勧めます。
家事按分の経費対象として認められる3つの基準
家事按分で経費を計上する際、基準として把握しておきたい3つのポイントをご紹介します。
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業務に直接関係するかどうか
経費が業務に直接関連していることが必要です。支出の対象となる業務が特定でき、その目的や効果が明確であれば、経費として計上できます。
たとえば、仕事場として使っている住宅であっても、庭の手入れや改装費などの維持管理費は業務につながる効果が一切ないため、家事按分の経費としては認められません。
業務を遂行する上で必要かどうか
経費が業務を遂行するために必要であることも重要な基準です。たとえば、PCや携帯電話で顧客とのやり取りをする必要がある業務の場合、通信費や光熱費などは必須の支出として計上できます。
具体的にどれだけ顧客と電話やPCでやり取りをしていたかなど、必要であるかを示す根拠をしっかりと保持しておきましょう。
業務にかかった金額を区別できるかどうか
経費の中で業務に関連する金額を明確に区別できる必要があります。家賃や光熱費の場合、業務で使う部屋の面積や使用時間に基づいて按分計算をおこないます。そのため、業務用としてどのくらいの使用があったかを示すデータや記録を残しておくことが大切です。
業務にかかる金額を具体的に把握し、適正な按分ができることが要求されます。
家事按分できる経費と計算方法
家事按分は「水道光熱費」や「家賃」など、さまざまな項目に対して適用できます。費用の割合は時間や使用範囲などを基準に決定するケースが多いです。
水道・ガス代金の家事按分
自宅で事業をおこなう場合、ガス・水道にかかる費用は時間で按分するのが一般的です。業務用とプライベート用を明確に分けることは難しいため、仕事の作業時間を基準に費用を割ります。計算の例は以下の通りです。
水道・ガス代の計算方法
(例)自宅兼事務所で作業。業務時間は1週間で約40~45時間程度で、月の水道光熱費合計で2万円だった。
- 40時間÷(24時間×7日)≒0.24
- 20,000円×0.24=4,800円
水道・ガス代経費として「4,800円」で計上することができます。
通信費の家事按分
自宅のインターネット回線やスマホなどを業務で使用している場合は、通信費として家事按分して経費計上が可能です。一般的には水道・ガス代金と同様に使用時間から割合を求めます。
通信費の計算方法
(例)平日は業務のみ、土日はプライベートのみでネットやスマホを使っている。月のインターネット利用料・通信費は1万5,000円。
- 5日÷7日×100≒0.7(70%が事業用経費)
- 105,000円×0.7=10,500円
通信費として「1万500円」で経費として申告できます。
地代家賃の家事按分【ケース別に解説】
賃貸物件を自宅兼事務所としているなら、家賃を家事按分し地代家賃の勘定科目で経費計上できます。地代家賃の家事按分は、床面積の割合で分けるのが一般的です。
3LDKマンションのうち1部屋を仕事用にした場合
先ほど「地代家賃の家事按分は、床面積の割合で分けるのが一般的」と説明した通り、仕事専用の部屋がある場合の按分率の計算は比較的容易です。
(例)70㎡の3LDKのマンションの6畳(団地間で約8.7㎡)を仕事部屋として使用している場合。家賃は50万円。
- 8.7(事業用床面積)㎡÷70(総床面積)㎡≒0.124
- 500,000円×0.124=62,000円
地代家賃として「6万2,000円」を経費として申告できます。
持ち家の場合
自宅が賃貸ではなく持ち家の場合は、建物部分の減価償却費を家事按分により経費にできます。減価償却費とは、購入価格を一定期間にわたり分割して計上する経費のことです。また固定資産税や火災保険料を家事按分して経費計上するケースもあります。
住宅ローンを組んで物件を購入しているケースでは、ローンの元本部分は経費にできません。ただし、利息部分は家事按分により経費計上できます。
持ち家の地代計算方法
(例)持ち家の床面積25%を使用して、業務をしている場合。減価償却費は130万円。
- 1,300,000円×0.25=325,000円
家賃・地代として「32万5,000円」を経費計上できます。
(例)その年の固定資産税が20万円で、持ち家の25%を業務で使っている場合
- 200,000円×0.2=50,000円
家賃・地代として「5万円」を経費計上できます。
リビングの一角などで仕事をしている場合
リビングなど多目的なスペースで仕事をしている場合は、普段の生活スペースと仕事のためのスペースを分離させることが必要です。例えばパーテーションで区切れば床面積の割合が明確になるので、按分率を計算することができます。
難しい場合には「水道光熱費」の項目で紹介したように、仕事に使用する時間の割合から按分率を計算できます。
時間割合での家賃計算方法
(例)自宅のリビングで作業。1週間のうち平日の5日間、合計40時間程度業務をおこなう場合。家賃は10万円。
- 40時間÷(24時間×7日間)≒0.24
- 100,000円×0.24=24,000円
家賃・地代として「2万4,000円」を経費計上できます。
電気代の家事按分
デザイナーやプログラマー、映像編集といったパソコン必須の業務に就いている個人事業主の方にとって、電気料金は特に重要でしょう。電気代を按分する方法はいくつかあり、コンセントの数や使用時間で按分するのが一般的です。
電気代の計算方法
(例)コンセント数で按分する場合。コンセントは10個あり、うちの2個を仕事用に使っている。電気代は5,000円。
- 2個(仕事用のコンセント) ÷10個(自宅内の全コンセント)=0.2
- 5,000円×0.2=1,000円
電気代として「1,000円」を経費計上できます。仕事部屋を持っている、業務日数や時間が安定している人におすすめの方法です。
(例)電気の使用時間に基づいて計算する場合。平日40時間程度の稼働。電気代は5,000円。
- 40時間÷(24時間×7日間)≒0.24
- 5,000円×0.24=1,200円
電気代として「1,200円」を経費計上できます。特定の仕事部屋がなく、使用するコンセントが変わる場合はこちらの方が按分しやすいでしょう。
車にかかる費用の家事按分
1台の自動車を仕事とプライベートで共用している場合、事業に関係する費用を経費にできます。「利用時間」「利用日数」「走行距離」のいずれかで按分するのが一般的です。車両本体の購入代金は、按分対象の減価償却費として扱えます。
ただし、自動車の価値を高めるための費用や、耐用年数を延ばすための費用は、経費として認められないことに注意しましょう。修繕費ではなく「資本的支出」とみなされます。
車両にかかる料金の具体例
また、家事按分により割合を求めて計上する主な車関連費用としては、「ガソリン代」「駐車場代」「自動車保険料」「自動車税」「車検費用」「修繕費」が挙げられます。
仕事で自家用車を使用する場合には、さまざまな費用を経費として家事按分することができますが、こちらでは、特に頻度の多いガソリン代の具体的な按分率の計算方法をご紹介したいと思います。
ガソリン代の計算方法
(例)走行距離で按分する場合。1か月の走行距離が300kmで、うち仕事で走った分が100km。ガソリン代は1,000円。
- 100km(仕事での走行距離)÷300km(すべての走行距離)≒0.3
- 1,000円×0.3=300円
ガソリン代として「330円」を経費計上できます。運転日報をつけるなど「仕事で使用した分の走行距離の根拠」を明確に残しておくことが必要です。
(例)車の使用日数に基づいて計算する場合。平日は必ず仕事で車を使用する。ガソリン代は1,000円。
- 5日(仕事で使用した日数)÷7日≒0.7
- 1,000円×0.7=700円
ガソリン代として「700円」を経費計上できます。
駐車場代に関しても、使用した日数に応じて按分率を計算するのが一般的です。例えば1か月のうち、仕事で自家用車を5回使用した場合には、「5日(仕事で使用した日数)÷30日≒0.17」で、17%の按分率となります。
家事按分できない経費と具体例
家事按分で経費として計上することができる分かりやすい具体例として「水道光熱費」や「通信費」「地代家賃」などが挙げられます。一方、経費として認められず家事按分の対象とならない費用もあります。こちらでは家事按分できない経費の具体例をご紹介したいと思います。過去の判例を参考に載せますので、ご参考にしてください。
生計を一にする家族や親族にかかった賃料
生計を同一にする家族に対して支払う賃料は経費として計上できません。生計を共にする家族や親族の場合、支払った賃料が家族の所得に。業務にかかったつながらないためです。また、家族と行った旅行を慰安旅行として経費申請することもできません。
カフェなどで業務をおこなった時の食事代
カフェなどで1人でPC業務をおこなった際、飲み物代しか経費として計上することはできません。食事は業務上の必要性がないと判断されます。ちなみに、飲み物は仕事スペースを借りるための「場所代」と見なされるため、経費として計上できます。
ただ、クライアントや同僚が同行していれば、業務上の必要性が認められるため、交際費や会議費として計上できます。
出張先での食事代や目的地とは違う場所へのタクシー代
宿泊費やタクシー代は基本的に経費として計上できますが、朝食付きプランのように仕事と関係のない飲食を含んだ宿泊費や、出張先ではあっても業務に関係のない移動のための交通費は、業務上で必要な支出ではないため経費としては認められません。
仕事用のスーツや靴などの購入費
たとえ自身では「仕事用」だと思っていても、衣服など身につけるものはすべてプライベートでも使用することができてしまいます。この場合 業務との区別が明確ではないため必要経費としては認められません。ほかにも鞄や眼鏡などが該当します。
家事按分の経費が税務調査されるケースとは?
確定申告で家事按分をする際は、以下に挙げるポイントを意識しましょう。過剰な経費計上をしないことや、比率の妥当性を示せるデータを残しておくことが大切です。
過剰に家事按分で経費計上されているケース
確定申告で経費を多く計上できれば、その分所得が低くなるため税金も安くなります。ただし、過剰に経費を計上してしまうと、税務調査が入る可能性があります。
生活費を経費に入れたり、事業用の按分割合を不自然に多くしたりしないように注意しましょう。税務調査で不適切な処理を指摘されると、不足分の税金を追加されることにもなりかねません。
家事按分を行う際は、少しでも経費が増えるような割合を設定しがちです。その年の確定申告が受理されても、翌年以降に不適切な処理に対する指摘を受けると、過去の分もペナルティの対象になる恐れがあります。
家事按分の比率計算が曖昧なケース
家事按分に関して税務調査官を納得させるためには、決めた比率に妥当性を与えられるデータを残しておくことが大切です。家事按分の比率に合理的な根拠が見えない、税務署からの問答に曖昧な答えしか出せないと、疑われる可能性が高まります。
金額や人数が関係する家事按分については、それらを証明できる領収書などを保管しておきましょう。床面積の割合を示したいなら、建物の図面があると便利です。車関連経費の按分は、走行距離などの記録を使うと安心できます。
確定申告時の按分作業を意識し、日頃からデータを残すように心掛けておきましょう。按分割合の説明が難しい経費は、計上を諦めるのも1つの方法です。
家事按分に会計ソフトを活用して節税につなげよう
家事按分とは事業分と私用分が混ざっている費用を、客観的に納得できる割合で分ける作業です。適切な按分作業を行えれば、より多くの経費を計上できます。ただ、それぞれの費用ごとに按分比率や月ごとの推移が異なるため、管理を個人でおこなうのは労力がかかります。
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