個人事業主であれば、車にかかる費用は経費として計上可能です。
しかし、一括で費用計上するのではなく「減価償却」を行ない、複数年にわたって計上する必要があります。また事業とプライベートで兼用している場合は、事業で使っている分を按分して正しく経費に計上しなければなりません。
今回は個人事業主が経費で落とせる車の費用を項目別に紹介します。
ローンやリースなど購入方法別の経費処理方法や、注意すべきポイントも詳しく解説していきますので、参考にしてみてください。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
個人事業主の車を経費にできるケース
個人事業主が事業のために購入した車は、経費に算入できます。しかし全てのケースで全額が算入できる訳ではありません。基本的には「事業で使用した分のみ」が軽費として計上できます。
事業のみに使う車は全額経費にできる
事業のためにのみ使用する車であれば、全額経費計上が可能です。
基本的に「経費で落とせる車種」「落せない車種」等の区分はありません。たとえ高級車であっても常識の範囲内であれば、通常の車と同様、経費に算入することができます。
しかし当然ですが、個人事業主が事業で使用していることが客観的に証明できる車に限られます。
たとえば製造業の方がスポーツカーを購入した場合は、事業との関連性が薄いため、経費として認められない場合もあるでしょう。
プライベートと兼用で使う車は「仕事で使った分」を経費にする
個人事業主がプライベートと兼用している車は、適切に「按分」して経費に計上する必要があります。
按分とはプライベートと事業で使用した割合をそれぞれ算出し、事業で使用した割合分を計上することです。
以下のケースを想定して実際に按分してみましょう。
- 取得価額:400万円
- 平日の5日間は事業目的、週末の2日間はプライベートで使用
1週間のうち5日分のみが経費として計上できるため、次の計算式で経費を算出します。
4,000,000円(取得価格)×5日/7日≒2,857,143円
この場合に経費に算入できる金額は「2,857,143円」です。残りの「1,142,857円」はプライベートでの使用となるため、費用計上はできません。
按分方法は、使用日数で計算しなければならない等の決まりはありません。重要なのは、事業のために使用した割合を客観的、かつ合理的に説明できることです。
そのため、車の走行距離を活用するなど、自分に合った按分方法を選択しましょう。
プライベートのみで使用する車は経費にできない
プライベートのみで使用する車は経費に算入することはできません。
経費に算入できるのは、あくまでも個人事業主が事業のために使用する費用に限られています。
誤って費用計上をすると、罰則の対象となり、加算税や延滞税を課される可能性があります。車は高額な費用であるため、追加で支払う税金も多額になる恐れがあるため注意しましょう。
車の経費処理方法【新車・中古車・ロ―ン・リース】
車の費用の経理処理方法は、車の購入方法によって異なります。車を購入した場合は、減価償却の処理をしていきますが、一括購入した時とローンで購入した時でも処理方法が異なるため、注意が必要です。
ここでは、購入方法別の経費処理方法を解説していきます。
新車を一括購入する場合
個人事業主の車の購入費用は、1年間の経費に全額算入することはできません。車の耐用年数に基づいて、複数年にわたって費用計上する「減価償却」を行ないます。
車は長年にわたって利用できる高額なものであり、期間の経過に伴って価値が減少すると考えられているため、会計上も価値の減少部分のみを経費として算入するのです。
また、一概に減価償却と言っても、耐用年数は車の種類によって異なり、計算方法も「定額法」と「定率法」があります。特に届出をしていない場合、個人事業主は定額法で減価償却を行なうこととなります。自身の車の耐用年数と、適切な償却方法を理解した上で手続きを行ないましょう。
耐用年数により減価償却する
減価償却をする期間は「法定耐用年数」によって資産の種類ごとに決まっています。例えば耐用年数が4年の資産は、基本的に4年間で減価償却を行ないます。
車の耐用年数は、車の種類によって異なる点に留意しましょう。
【一般自動車の耐用年数】
車の種類 | 耐用年数 |
---|---|
通常の軽自動車
(総排気量が0.66リットル以下) |
4年 |
通常の普通自動車 | 6年 |
貨物自動車
(ダンプ式) |
4年 |
貨物自動車
(ダンプ式以外) |
5年 |
報道通信用の自動車 | 5年 |
その他の自動車 | 6年 |
【運送事業用・貸自動車業用・自動車教習所用の車の耐用年数】
車の種類 | 耐用年数 |
---|---|
小型車(総排気量が2リットル以下) | 3年 |
小型車でも大型車でもないもの(総排気量が2リットル超3リットル未満) | 4年 |
大型乗用車(総排気量が3リットル以上) | 5年 |
積載量2トン以下の貨物自動車 | 3年 |
積載量2トン超の貨物自動車 | 5年 |
乗合自動車 | 5年 |
減価償却計算は年単位でなく、月単位で計算することに注意が必要です。
【1年の途中で車を取得した場合の定額法での計算式】
1月中に購入した場合は、1年車を使用したことになりますが、12月中に購入した場合では、1カ月しか使っていないとみなされ、償却できるのは1カ月分になります。
定額法と定率法
減価償却の方法は「定額法」と「定率法」の2つがあります。個人事業主の車の減価償却では、計算の簡易さから「定額法」を用いることが多くあります。
また、減価償却方法について何も届出をしていない個人事業主の場合は、「定額法」で計算することになります。
定額法とは「毎年同じ金額を計上して減価償却を行なう」償却方法です。毎年一定の額を経費に計上できるため、計算が容易なのが特徴です。
一方、定率法とは「資産の残高から一定の割合で減価償却を行なう」償却方法を指します。耐用年数の最初の方に多くの減価償却費を計上できる点が特徴です。
法定耐用年数 | 償却率(定額法) | 償却率(定率法) |
---|---|---|
3年 | 0.334 | 0.677 |
4年 | 0.250 | 0.500 |
5年 | 0.200 | 0.400 |
6年 | 0.167 | 0.333 |
減価償却の計算例【定額法】
個人事業主が1月中に普通自動車(新車)を300万円で購入した場合に、定額法で償却するケースを考えてみましょう。
通常の普通自動車は法定耐用年数が「6年」で、定額法の償却率が「0.167」です。
上の計算式から、1年の減価償却費50.1万円が算出されます。
1年目 | 501,000円 |
2年目 | 501,000円 |
3年目 | 501,000円 |
4年目 | 501,000円 |
5年目 | 501,000円 |
6年目 | 494,999円 |
減価償却の計算で間違いやすい点が、最終年の償却費です。耐用年数の最終年においては全額を償却せず「1円」を残す規則となっています。
この「1円」は「備忘価額」と言い、減価償却が終わった後の帳簿上における車の価値です。仮に1円を残さないと、その資産が会計上存在しないことになります。
そのため車を使用し続ける限りは、残存価額1円の車を帳簿上も持ち続ける必要があるのです。
そして車を処分するタイミングで、残りの1円の備忘価額を処理する仕組みとなっています。
中古車の場合
中古車は新車と比較して耐用年数が短いため、早めに多額の減価償却費を経費に計上できるので減価償却で有利になる場合があります。
しかし、それが節税になるかは個々の収入金額にもよるため、一概には言えない点に注意しましょう。
中古車の減価償却について、詳しくは以下の記事で解説しています。
ローンの場合
個人事業主が車をローンで購入した場合、まず購入費用を「借入金」または「未払金」として処理を行ないます。購入金額は、通常の購入費と同様に減価償却が可能です。
未払金は、毎月ローンを支払う度にその金額を減らしていき、減価償却する費用は「減価償却費」として計上します。
ここで注意したいのが、ローンの返済分は毎月の経費にならず、ローン返済の利息分のみ経費にできる点です。ローンの返済分は、購入時に未払金として計上した負債を、資産科目で相殺する形になります。
- 240万円の車を20回払いのローンで購入
- 耐用年数は4年
- 支払時毎の返済利息は1万円
【購入時の仕訳例】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
車両運搬具 | 2,400,000円 | 未払金 | 2,400,000円 |
【ローン返済時の仕訳例】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払金 | 120,000円 | 現金(普通預金) | 130,000円 |
支払利息 | 10,000円 | ||
減価償却費 | 50,000円 | 車両運搬具(または「減価償却累計額」) | 50,000円 |
リースの場合
車の取得で多く利用されるリース方法では、車の所有はリース会社であるため車は自分の資産と考えません。
そのため減価償却を行なう必要がなく、毎月のリース料を経費として扱います。「リース料」として仕訳すればOKです。
【仕訳例】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
リース料 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
車のメンテナンスや車検などをリース会社に任せられるカーリースは、メリットの多い車の取得方法です。
開業前に購入した場合
開業前から所有している車を途中から個人事業主の事業用車として使う場合、通常の減価償却とは計算方法が異なります。
最初にプライベートで使用した期間に係る減価償却を行なって未償却残高を求めなければなりません。
- 本来の車の耐用年数を1.5倍した時の償却率を求める
- プライベートで使用した期間を計算し、それに対応する減価償却費を「旧定額法」で計算する
- 取得価額からプライベート期間における減価償却費を差し引いた値を求める(未償却残高)
- 未償却残高を基準として今後減価償却を行なう
「普通自動車(新車)を400万円で購入し、プライベートで4年使用した後に事業用とした」場合で考えてみましょう。
- 普通自動車の耐用年数(6年)×1.5=9年(旧定額法の償却率=0.111)
- 400万円×0.9×0.111×4年=159.84万円(プライベートで使用した期間の減価償却費)
- 400万円-159.84万円=240.16万円(未償却残高)
- 240.16万円を基準として毎年減価償却を行なう
ここからの減価償却は、通常通り本来の耐用年数(6年)に従って行ないます。
つまり事業1年目から3年目の減価償却費は「66.8万円」です。
※400万円(当初取得価額)×0.167(耐用年数6年の定額法における償却率)
1年目 | 668,000円 |
2年目 | 668,000円 |
3年目 | 668,000円 |
4年目 | 397,599円 |
また最後の年の減価償却費は、残高を1円残すことを忘れないようにしましょう。
なお購入時に中古車であった場合は、転用後の耐用年数を中古資産として計算します。
新車で購入している場合「自分で4年間使用したから中古扱い」とはならない点に注意しましょう。
車に付随して経費にできる費用【仕訳で使う勘定科目も】
車は取得価額以外にも、ガソリン代や車検、駐車場代といった費用を経費に計上できます。
費用内容 | 勘定科目 |
---|---|
車本体 | 車両運搬具 |
ガソリン代 | 車両費/旅費交通費/燃料費 |
保険料 | 車両費/損害保険料 |
税金 | 租税公課/車両費 |
車検代 | 車両費/租税公課(自動車重量税、印紙税部分)/損害保険料(自賠責保険部分) |
修理代 | 修繕費/車両費 |
駐車場代 | 地代家賃 |
洗車・備品代 | 車両費/修繕費 |
各費用は車と同様、全額を計上できる訳でなく、事業の割合に沿って按分する必要がある点に留意しましょう。按分割合は車本体と同様です。
車本体
車本体の勘定科目は「車両運搬具」です。
似たような名称で「車両費」がありますが、異なる点に注意しましょう。「車両費」は車を維持するために必要な費用を指します。
ガソリン代
ガソリン代は車の使用状況に応じて「車両費」「旅費交通費」などで仕訳します。
ただし車の使用が多く、ガソリン代が多い場合は「燃料費」や「ガソリン代」の勘定科目を作って仕訳すると、かかった費用が明確になります。
なお、一度どの項目で仕訳するかを決めたら、途中で科目を変えないようにしましょう。
保険料
個人事業主が車を事業で使用しているのであれば、それに付随する保険料も経費とすることができます。
「車両費」や「損害保険料」等の勘定科目で処理を行ないます。
【車にかかる保険料の例】
- 自賠責保険
- 任意保険
- 車両保険
しかし車をプライベートと兼用している場合は、車と同様に按分して計算をする必要があります。按分割合は車と同様になる点に留意しましょう。
税金
個人事業主の車に付随する税金も「租税公課」や「車両費」として経費に計上できます。
【車にかかる税金の例】
- 自動車税・軽自動車税(例年5月末納期限)
- 自動車重量税(車検時に納付)
- 環境性能割(自動車取得時に納付)
一概に車にまつわる税金と言っても多岐に渡るため、計上漏れがないように注意しましょう。
車検代
数年ごとにやってくる車検。車検の費用は、車の点検と自賠責保険料、重量税で構成されています。
そのため、車の点検に関する費用は「修繕費」に、自賠責保険料は「保険料」に、重量税は「租税公課」にそれぞれ計上します。
修理代
車の修理代は「修繕費」として仕訳します。
駐車場代
月契約で駐車場を借りた場合の駐車場代は「地代家賃」に仕訳します。
打ち合わせや出張先などで使った駐車場代は「旅費交通費」として計上します。
洗車、備品
洗車代は「車両費」として仕訳するとよいでしょう。
車専用の洗剤や消臭剤、携帯電話ホルダーなど、車で使う備品を購入した場合は「車両費」や「消耗品費」として計上します。
いずれに決めた場合も、途中で科目を変更しないように注意しましょう。
個人事業主が車を購入する際のポイント【青色申告・買い替え時期・名義】
個人事業主が車を購入する際には「青色申告」と「買い替えのタイミング」が重要です。
青色申告でお得に経費計上できる
個人事業主の確定申告の方法は、青色申告と白色申告の2通りあります。白色申告の場合は1件につき10万円以上、青色申告の場合は1件につき30万円以上が減価償却の対象です。つまり、青色申告の場合、30万円までなら減価償却しないことになります。一括で経費計上できることで、会計処理の手間を省くことにつながります。
ほかにも、家事按分の方法も青色申告と白色申告で異なります。青色申告の場合、事業で使う割合が小さくても仕事に必要であることが明確であれば、経費計上が認められます。一方、白色申告の場合は「業務・仕事の割合がおおむね50%超」の場合のみ家事按分の対象になりますので、その違いも頭に入れておきましょう。
また、副業でも青色申告を利用して経費計上は可能です。会社員であっても、開業届を提出すれば個人事業主になれるため、会社員として働きながら副業で個人事業主として青色申告を利用できます。
青色申告で作成が義務付けられている決算書は少し複雑で手間がかかるというデメリットもありますが、控除額の優遇や経費計上で有利になり、税負担が減るメリットがあるので、お得に確定申告したい方にはおすすめです。
買い替えタイミングにより税負担を軽減できる
買い替えの際に損失があれば、その金額を所得に組み込めるので税負担の軽減につなげられます。
個人事業主が車を売却した際の損益は「譲渡所得」に該当します。そして事業用の車である場合、車の売却損は事業所得との損益通算が可能となっています。
そのため所得が多い年に車を買い替えれば、売却した際の損失を所得に組み込むことで課税所得が減り、税負担の軽減につながるのです。たとえば車の売却で譲渡損失が100万円出た場合、事業所得と相殺し100万円を差し引けます。
また、売却した価格が減価償却後の価格を下回っている場合、その差額を損失として計上可能です。そのため耐用年数が残っている車を売却する際も、売れた値段によっては節税に繋げられます。
たとえば減価償却後の帳簿価額が200万円の状態で、車を100万円で売却した場合には、「200万円の経費を使って100万円を取得した」という考えで100万円を損失とできます。
家族名義の車も経費として認められる
事業用の車を購入する場合、原則として名義人は本人となります。しかし家族名義であっても「生計を一にする配偶者や親族」名義であれば、経費に計上することができます。
つまり、一緒に住んでいる夫や妻、両親や子名義である場合は個人事業主の経費として認められるのです。
反対に親族名義であっても、別居等が理由で生計が別の場合は、経費として認められないため注意が必要です。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
個人事業主の確定申告は税理士に依頼しよう
個人事業主の確定申告では、青色申告の方が節税メリットは大きく、おすすめの方法です。
しかし、提出書類の作り方などは複雑で負担が大きいもの。簿記など経理の知識がない場合は時間も手間もかかります。
そんなとき、強い味方になってくれるのが税理士です。
税理士に確定申告を依頼するメリット
税理士は税金のプロ。確定申告においては、帳簿作成から申告書の作成、提出までを一貫して依頼できる唯一の専門家です。
税理士に確定申告を依頼する大きなメリットは「時間をかけずに、間違いのない確定申告ができる」という点。
また、確定申告書には税理士の署名欄もあります。ここに署名があれば、不明瞭な記載が少ない、間違いのない申告書とみなされる場合も多いようです。
さらに、節税効果の高い経費計上をアドバイスしてくれる、という利点もあります。
車の購入費用も、取得時の登録手数料や取得税などを購入費用に含まなければ、一括してその年の経費に含むことができる、など、さまざまな節税の工夫があります。
1つの経費をどの科目でどのように計上するのか、税理士であれば、節税効果を考えて帳簿つけをしてくれます。
税理士への依頼できる内容は、帳簿つけから依頼するのか、確定申告書作成だけを依頼するのかなど、費用によって異なります。
税理士への依頼費用は全額経費として計上できますので、どこまで依頼するのか、費用対効果も考慮して、相談するのがおすすめです。
ミツモアで確定申告の税理士に見積りを依頼しよう!
個人事業主が経費で車を購入するには、節税対策も含め税理士に依頼するとメリットがあることはわかったと思いますが、税理士へ支払う報酬が気になるところではないでしょうか?
税理士の費用に大まかな相場はあるものの、実際はその業務の範囲などで、税理士ごとで報酬には違いがあります。だからといって、依頼した後に高かったなぁと公開したくないですよね。そんなときこそ、ミツモアで見積りを依頼しましょう。