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青色申告特別控除で65万円控除を受けるには?55万円や10万円との違い、適用条件を詳しく解説

最終更新日: 2024年02月14日

青色申告特別控除とは、青色申告で所得税の申告をする事業者が受けられる控除です。青色申告特別控除額は65万円、55万円、10万円の3種類で、事業所得からそれぞれの金額が引かれ、税金が計算されます。

とくに65万円の青色申告特別控除を受けられれば大きな節税になるため、青色申告で受けたいと考える事業者も多いでしょう。

青色申告特別控除を受けるためには、65万円、55万円、10万円の金額によって条件が異なります。

この記事では、青色申告特別控除を受けるための要件を控除額ごとにわかりやすく解説しています。

この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・1級FP技能士)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業

青色申告特別控除とは

青色申告特別控除とは

青色申告特別控除とは、青色申告事業者の事業所得金額を減らし、節税につなげられる制度です。控除額は「65万円」「55万円」「10万円」の3種類あり、青色申告で確定申告をすると適用されます。

基本の控除額は55万円ですが、一定の条件を満たすと65万円に増額することが可能です。提出が遅れたり書類に不備があったりすると10万円に減額されます。

65万円、55万円、10万円の青色申告特別控除を受けるための条件は以下の通りです。

【全員共通の適用条件】

  • 開業届を提出している (初年度から青色申告を行いたい場合)
  • 青色申告承認申請書を提出している

【控除額ごとの適用条件】

青色申告特別控除額 要件
65万円
  • 55万円の要件
    +
  • e-Taxで電子申告している
  • 電子帳簿保存を行っている
55万円
  • 不動産所得(事業的規模)か事業所得がある
  • 複式簿記で記帳している
  • 発生主義で記帳している
  • 青色申告決算書(貸借対照表&損益計算書)を確定申告書に添付している
  • 期限内に申告書を提出している
10万円
  • 単式(簡易)簿記でもOK
  • 青色申告決算書(損益計算書)を確定申告書に添付している
  • 事業所得、不動産所得、山林所得のいずれかがある

参考:青色申告特別控除|国税庁

青色申告特別控除を適用できる人

青色申告特別控除を受けるための要件

青色申告特別控除を受けるには、以下の2つの要件をクリアする必要があります。

  • 開業届を提出 (初年度から青色申告を行ないたい場合)
  • 青色申告承認申請書を提出

開業届を提出している

青色申告によって確定申告する場合、青色申告者として認められる必要があります。そのために「開業届」を提出しましょう。

個人事業の開業・廃業等届出書
個人事業の開業・廃業等届出書

開業届とは、税務署に対して「個人事業主として開業した」ということを届け出る手続きです。書類を作成して提出するだけで手続きは完了ですが、開業届は原則として開業日から1ヶ月以内に届け出る必要があります。

開業届には「職業」欄の記入には注意が必要です。開業届を提出して課税対象の業種に該当する場合、事業所得が年間で290万円を超えると事業税が発生します。税率が職業によって異なり、後から変更するのは手間がかかるので、最初に主となる職業と税率を確認して届出を行ないましょう。

青色申告承認申請書を提出している

「青色申告承認申請書」は開業届を出した個人事業主の中でも、青色申告によって確定申告を行なうことを希望する人が提出する申請書です。

所得税の青色申告承認申請書
所得税の青色申告承認申請書

必要事項を記入した書類を提出するだけで手続きが完了します。これから開業する場合には、開業届と共に青色申告承認申請書を提出するとスムーズに手続きが完了するでしょう。

青色申告承認申請書は、確定申告を行なう年の3月15日までに提出が必要です。ただし、その年の1月16日以後に新たに事業を開始したり不動産の貸付けを開始したりした場合は、その事業開始日等の日から2ヶ月以内に提出します。期限を過ぎると翌年の確定申告からでなければ青色申告ができませんので注意してください。

【コラム】サラリーマンでも青色申告特別控除を受けられるの?

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

サラリーマンの方は基本的に給与所得のみしか生じておらず、青色申告の対象となる事業所得、山林所得もしくは不動産所得が無いため、青色申告特別控除は受けられません。 ただし、事業所得を生ずるような副業をやっている方は受けられます。

65万円の青色申告特別控除を受けるための要件

65万円の青色申告特別控除を受けるための要件

青色申告特別控除の中で最も控除額が多いのが65万円の控除です。65万円控除を受ける場合、以下の要件に該当する必要があります。

「事業所得」または「事業規模の不動産所得」がある

青色申告を行なうための要件として、下記3つのうちいずれかの所得に当てはまる必要があります。

所得名 内容
事業所得 自営業やサービス業など自らの事業による所得
不動産所得 一軒家やマンション・駐車場など、不動産の貸付による所得
山林所得 山林の伐採・立ち木のままの譲渡などによる所得

不動産所得は「事業的規模」と認められることが55万円(もしくは65万円)の青色申告特別控除の要件です。一般的にはアパート・マンションの場合は10室以上、貸家は5軒以上、駐車場は50台以上の賃貸を行なっている場合に事業的規模と認められます。

山林を取得してから5年以内に伐採や譲渡をした場合は、山林所得ではなく事業所得か雑所得になります。

また山ごと譲渡した場合、土地の部分は譲渡所得となるので注意が必要です。なお山林所得しかない場合、受けられる控除は10万円のみとなります。

複式簿記で記帳している

青色申告特別控除の55万円控除要件の一つに「複式簿記での記帳」が挙げられます。

複式簿記とは、ある取引に対して「お金の流れ」と「財産増減」の2つの観点から記帳を行なう帳簿の作成方法です。家計簿のように、支出と収入が記載されているだけの単式簿記と違い「借方」「貸方」によってお金や商品の流れが記録できます。

また「総勘定元帳」という事業における全てのお金の流れを記帳するための帳簿の作成も必要です。

複式簿記の記入例

複式簿記での記帳例
複式簿記での記帳例

複式簿記の記入は以下のプロセスで行ないます。

  1. 会計上の取引を把握する
    例:営業のために高速料金1,000円を支出した
  2. 取引を原因と結果に分類する
    例:高速料金を支払う(原因)、現金が1,000円減少した(結果)
  3. 仕訳によって貸方・借方を決定
    例:借方=高速料金の支払い(費用の増加) 貸方=現金の減少(資産の減少)
  4. 勘定科目にそって記帳
    例:借方=旅費交通費 貸方=現金

発生主義で記帳している

55万円の青色申告特別控除を受けるための要件の一つに、発生主義で記帳することが挙げられます。発生主義とは取引が発生した時点で、費用または収益を計上する記帳方法です。

つまり入金された時点・支払いした時点ではなく、売上による収入が確定した・費用の支払額が確定した時点で帳簿に記帳します。金銭のやり取りが行なわれていなくとも、取引が確定していれば「発生主義」として計上します。

青色申告決算書(貸借対照表及び損益計算書)を確定申告書に添付している

令和二年分以降用青色申告決算書1ページ
青色申告決算書1ページ目

「青色申告決算書」を作成することも要件の1つです。青色申告決算書とは「貸借対照表」「損益計算書」「損益の内訳の記入書(2枚)」の4枚の書類を指しています。

貸借対照表はバランスシートとも呼ばれ、勘定科目の残高を計算する表です。表の中には資産・負債・純資産(資本)を記載し、確定申告においては12月31日時点における事業者の財政状況を表します。

損益計算書とは、事業における儲けがいくらなのかを計算する書類です。確定申告においては1月1日から12月31日までの1年間の収入や支出の内訳を計算。「損益の内訳の記入書」には月ごとの売上や減価償却の費用を記載していきます。

期限内に申告書を提出している

55万円の青色申告特別控除を受けるには、毎年設定される「法定申告期限」までに提出する必要があります。申告期間は2月16日~3月15日で、2月16日や3月15日が土日祝日の場合には次の平日に後ろ倒しになります。

法定申告期限が過ぎた後でも確定申告は可能ですが、控除額が10万円になるので注意してください。

e-Taxで電子申告している

65万円の青色申告特別控除を受ける方法の1つにe-Taxでの申請が挙げられます。e-Taxとはインターネットを利用した電子申告・申請システムのことで、確定申告に必要な書類をデータで提出する申告方法です。

e-Taxで申請するメリットの一つに還付がスピーディーに行なわれる点があります。早く還付を受けたい場合にもメリットがあります。

電子帳簿保存を行なっている

青色申告特別控除の65万円控除を適用する場合のもう1つの方法として、「電子帳簿保存」が挙げられます。個人事業主の場合、確定申告の電子帳簿保存の対象となるのは「仕訳帳」と「総勘定元帳」です。

55万円の青色申告特別控除を受けられる条件

55万円の青色申告特別控除を受けるための要件

青色申告特別控除の内、55万円の控除を受けるには以下の7つの要件を満たす必要があります。65万円の特別控除では必要な「電子申告」「電子帳簿保存」は無くても問題ありません。

  • 「事業所得」または「事業規模の不動産所得」がある
  • 複式簿記で記帳している
  • 発生主義で記帳している
  • 青色申告決算書(貸借対照表及び損益計算書)を確定申告書に添付している
  • 期限内に申告書を提出している

10万円の青色申告特別控除額になる場合とは

10万円の青色申告特別控除を受ける場合とは
(画像提供:jannoon028/Shutterstock.com)

55万円や65万円の要件を満たせなかった場合、控除額は10万円になります。この仕組みをうまく利用すると、敢えて10万円の控除を選択して書類を簡単に作成できます。10万円の選択によって、書類作成が簡単になる理由は下記の3つです。

  • 単式簿記で記帳できる
  • 貸借対照表を作成しなくて良い
  • 申告方法・保存方法が自由

10万円を選択すると複式簿記で記帳する必要がなくなります。単式簿記では1つの取引に対し勘定科目が1つなので、簿記の知識がなくても記帳できます。

白色申告の場合は、日々の複雑な帳簿付けは必要無いですが、青色申告特別控除などの特例は受けられません。

青色申告と白色申告の違いは以下で詳しく解説しています。

青色申告特別控除の計算方法!いくら節税できる?

青色申告特別控除でいくら節税できる?

青色申告特別控除を行なう場合、所得税や住民税、国民健康保険料はそれぞれいくら節約できるのでしょうか。以下の条件で節税できる金額を控除額別に計算します。

【例:東京都港区在住の32歳

  • 東京都港区在住の32歳
  • 事業収入は450万円
  • 基礎控除・青色申告特別控除以外の控除や経費はなし
  • 被保険者数は1人

所得税の計算方法

所得税は以下の式を用いて事業収入から経費や控除を引き、税率を求めて計算します。

(収入-経費-青色申告特別控除額-所得控除額)×税率=所得税額

税率は、課税される所得金額に応じて変化するため、所得税を計算する場合には以下の表を参照してください。

所得税の速算表
所得税の速算表 出典:No.2260 所得税の税率|国税庁

控除額ごとに所得税を求めると以下の表のようになります。

青色申告特別控除の控除額 所得税額
65万円 (450万円-65万円-48万円(基礎控除))×20%(税率)427,500円246,500
55万円 (450万円-55万円-48万円(基礎控除))×20%(税率)427,500円266,500
10万円 (450万円-10万円-48万円(基礎控除))×20%(税率)427,500円356,500
0円(白色申告) (450万円ー48万円(基礎控除))×20%(税率)427,500円376,500

65万円の控除を受ける場合、白色申告と比べて所得税を13万円節税できます。

住民税

住民税とは、都道府県民税と市町村民税(東京都は特別区民税)の総称で、国ではなく地方公共団体(地方自治体)に納める税金です。地方公共団体によって住民税の金額は異なるため、算出にあたっては自治体の税率を確認する必要があります。

住民税は「所得割」と「均等割」という2つの金額を用いて以下の式で計算します。

(収入-控除額-経費)×所得割-均等割=住民税額

「所得割」は納税者の所得に応じて金額が変動しますが「均等割」は同じ金額です。今回は以下の条件で計算を行ないます。

条件

  • 所得割:都民税(道府県民税)4%+特別区民税(市町村民税)6%=10%
  • 均等割:1,500円(都民税)+3,500円(特別区民税)=5,000円

控除額ごとに住民税を求めると以下の表のようになります。

青色申告特別控除の控除額 住民税額
65万円 (450万円-65万円-43万円(基礎控除))×10%(所得割)+5,000円(均等割)=347,000円
55万円  (450万円-55万円-43万円(基礎控除))×10%(所得割)+5,000円(均等割)=357,000円
10万円 (450万円-10万円-43万円(基礎控除))×10%(所得割)+5,000円(均等割)=402,000円
0円(白色申告) (450万円-43万円(基礎控除)×10%(所得割)+5,000円(均等割)=412,000円

65万円の控除を受ける場合、白色申告と比べて住民税を65,000円節税できます。

国民健康保険料

国民健康保険料も地方公共団体に納めるため、計算方法は事業所の所在地によって異なります。基本的に「医療分」「支援金分」「介護分」の3つの区分があることは共通です。

国民健康保険料を計算する場合、住民税と同様に所得割と均等割を用いて以下の式で計算します。

(収入-控除額-経費)×所得割-均等割=国民健康保険料

国民健康保険料の所得割や均等割は、以下の条件で計算します。

条件】

  • 所得割:医療分7.67%+支援分2.43%=10.1%
  • 均等割:医療分42,000円+支援分13,500円=55,500円

なお「介護分」については40歳から発生するため計算していません。

控除額ごとに国民健康保険料を求めると以下の表のようになります。

青色申告特別控除の控除額 国民健康保険料
65万円 (450万円-65万円-43万円(基礎控除))×9.59%(所得割)+60,100円(均等割)=388,078円
55万円 (450万円-55万円-43万円(基礎控除))×9.59%(所得割)+60,100円(均等割)=397,668円
10万円 (450万円-10万円-43万円(基礎控除))×9.59%(所得割)+60,100円(均等割)=440,823円
0円(白色申告) (450万円ー43万円(基礎控除)×9.59%(所得割)+60,100円(均等割)=450,413円

65万円の控除を受ける場合、白色申告と比べて国民健康保険料を62,335円節税できます。

青色申告特別控除でよくある質問

青色申告特別控除の計算における注意点

青色申告特別控除の適用に関し、よくある質問を纏めました。

所得が65万円以下の場合でも適用できる?

所得が65万円以下でも、青色申告特別控除を適用できます。

たとえば所得額が35万円で65万円控除の要件を満たしていた場合は、控除額は35万円です。

赤字の場合、青色申告特別控除を受けられる?

赤字の場合には、青色申告特別控除を受けられません。青色申告特別控除はそもそも所得があることを前提に設計されているからです。

青色申告者は赤字を最大3年間繰り越す「損失繰越」が可能ですが、損失繰越の金額には控除額は加算されません。

たとえば100万円の赤字で65万円の青色申告特別控除の適用対象でも「損益通算額を165万円にはできない」ということです。

不動産所得と事業所得の両方の所得がある場合はどうなる?

不動産所得と事業所得の両方がある場合、不動産所得から控除を適用します。不動産所得の控除で残額が発生したら、次に事業所得から控除します。

10万円控除で山林所得もあるときには、不動産所得・事業所得の次に控除しましょう。

青色申告して青色申告特別控除を受けよう

青色申告して青色申告特別控除を受けよう

青色申告特別控除で、特に留意する点は下記の5つです。

  • 65万円の特別控除を受けるには、e-Taxによる電子申告or電子帳簿保存が必要
  • 山林所得しかない場合や、不動産所得が事業的規模でない場合や書類が不足している(貸借対照表が付いていない)場合は、控除額が10万円となる
  • 所得が控除額未満の場合は「所得が控除の限度額」
  • 赤字の場合は適用不可
  • 事業と不動産の両方の所得がある場合は不動産所得から適用

55万円または65万円の控除を受けるなら、複式簿記で記帳しなければなりません。複式簿記は正規の簿記の原則に従っており、慣れていないと帳簿付けが大変です。

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監修税理士からのコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

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