取締役は全ての会社に置く必要のある、企業の意思決定を行う役職です。一般従業員とは待遇や役割、求められるスキルが大きく異なります。そのため取締役の役割や向いている人材を適切に把握することが重要です。
また基本的には従業員から出世する形で就任しますが、その他にも就任方法は多岐に渡ります。
本記事では取締役の役割や一般従業員との違い、仕事内容などを解説します。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
取締役とは
取締役とは会社の運営を適切に進めるために、意思決定や監督、監査などを行う立場の役職です。英語で「Director(ディレクター)」と呼びます。
取締役の人数は会社法内で定められており、株式会社には1人以上の取締役を設置する義務があります。また企業の意思決定を取締役の間で議論する場である「取締役会」を設置する場合は3人以上の選任が必須です。
取締役会を設置しない場合は、1人もしくは2人でも問題ありません。
会社が進んでいく方向性を正しく定めて事業を成長させるためにも、取締役の存在は欠かせないといえます。
一般従業員との違い
取締役と一般従業員は「契約形態」「任期」「任命・解任」「給料」といった様々な点で大きく異なります。
取締役 | 一般従業員 | |
---|---|---|
契約形態 | 委任契約 | 雇用契約 |
任期 | 最長10年 | なし |
任命 | 株主総会の決議によって選任 | 取締役からの雇用 |
解任 | 株主総会の決議によって解任可能 | 自由に解雇は不可能 |
給料 | 株主総会の決議によって決まる「役員報酬」 | 勤務実績によって決まる「給与」 |
取締役は一般従業員が出世して就任することも多いです。その場合は契約内容が雇用契約から委任契約に切り替わります。雇用契約の場合は労働力の提供が主な仕事ですが、委任契約の場合は会社から経営を任されることになります。
取締役の任期は最大10年ですが、実務上2年から5年であるケースが多いです。また任期を迎えずとも辞任といった形で役員を離れることも可能となっています。
多くの要素において取締役と一般従業員は異なりますが、福利厚生については同様の扱いとなっています。そのため取締役だけに適用される福利厚生は原則ありません。
代表取締役など法的な肩書きとの違い
以下の4つの役員の肩書きについては会社法上で定められています。
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代表取締役
「代表取締役」とは取締役の中から選出される企業の最高責任者です。
取締役との違いは代表権の有無です。代表取締役は対外的に見た際の企業の代表となります。例えば融資を受ける際や重要な契約を行う際は、代表取締役の肩書きや名前を用いて契約を行います。
株式会社の場合は必ず代表取締役を設置する必要があり、人数は2人以上でもかまいません。
会計参与
「会計参与」とはその名の通り会社の会計に参与する役職です。株主総会で選任され取締役と共同で会計書類の作成や保管、開示などを行います。
特例有限会社以外の全ての株式会社で任意的に設置可能です。しかし取締役会を設置しながら監査役を設置しない株式会社の場合は、会計参与の設置が義務となっています。
会計参与は以下のように税務や会計の国会資格を有する者しか就くことができません。
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監査役
「監査役」とは企業の取締役の執務執行を監査するための役職です。株主総会で選任される会社法上の役職であり、取締役の職務に不正がないかを独自に調査・報告します。また違法行為の差止請求の権限がある点も特徴です。
監査役の設置は通常任意です。ただし取締役会設置会社もしくは会計監査人設置会社の場合、原則として監査役の設置が義務付けされています。監査役の設置によって、企業経営の健全性や適正性を担保する役割が期待できます。
社長、CEOなど形式上の肩書きとの違い
「社長」「CEO」「専務」などは法的には定められておらず、形式的な役職です。
会長 | 第一線を退いた創業者。名誉職や相談役的な立場として存在している場合が多い。意思決定の権限を持っている場合もある |
社長 | 会長がいない会社は最も権限が大きい |
副社長 | 社長の補佐的な役割 |
専務 | 社長や副社長の補佐的な役割を行う |
常務 | 専務よりも1つ下の立場であることが多い。日常業務から経営まで幅広い業務をこなす |
執行役員 | 役員が定めた業務の執行・指揮には責任を持つ。役員ではないため、方針を決定する権限を持たない |
CEO(最高経営責任者) | 「Chief Executive Officer」の略。日本語では「最高経営責任者」
会社の経営方針や事業計画など経営事項の責任を負う。社長の位置付け |
COO(最高執行責任者) | 「Chief Operating Officer」の略。日本語では「最高執行責任者」
現場で社員たちの統制を取るなど、目の前の業績を担当する役割であることが多い。専務や常務の位置付け |
形式的な肩書きを持つ人は「代表取締役」や「取締役」という法的な肩書きを持っていることが多いです。「代表取締役会長」「代表取締役社長」「取締役専務」「取締役常務」「最高経営責任者取締役」などです。
肩書きに「取締役」とある場合は、会社法上の役員となります。
「社長」=「代表取締役」ではない
「社長」と「代表取締役」は同じ意味ではなく、異なる人を指す場合があります。
社長は社員の代表ですが法的拘束力のない肩書きです。それに対し代表取締役は、法的に最終意思決定権を持ちます。
そのため社長の上に会長を置いている会社では、代表取締役は会長の場合もあります。
法的に代表権があるのは会長や社長ではなく「代表取締役」であると理解しておきましょう。
取締役の役割
取締役の役割は取締役会の有無によって異なるため注意が必要です。
取締役は1人でもよく、取締役会を設置しなくても問題ありません。
ただし公開会社(上場企業)や監査役会設置会社、委員会設置会社では3人以上の取締役が必要です。また取締役会の設置も義務になっています。
【語句解説:取締役会】
株式会社の業務執行の意思決定を行う場。株主の意向に沿った企業運営になるよう、企業の方向性などを決定する。会社法上で年に4回以上の開催が義務付けられている。 |
取締役会を設置する会社における役割
会社に取締役会を設置する場合、取締役の主な役割は「監督」「意思決定」「監査」の3つです。
監督
取締役は経営方針や業務遂行などの会社運営に係る意思決定の適切な遂行を監視する役割を持ちます。
意思決定に基いて業務を執行するべき立場は「代表取締役」や「業務執行取締役」です。取締役はそれらの役職の職務執行について責任を持って監督し、意思決定の内容通りに経営を進めていきます。
経営や業務遂行の意思決定
株主総会で決定しない経営や業務遂行に係る以下のような事項の意思決定は、取締役が行います。
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監査
取締役会で決定した企業の意思決定に従って会社が運営されているかを、監査するのも取締役の役割です。また法令や株主総会の決議に違反した会社運営を行っていないかを確認します。
監査をするにあたって、報告要求や財務調査、違法行為の差止請求権といった権利が与えられます。
取締役会を設置しない会社における役割
会社に取締役会を設置しない場合は「業務執行の責任」と「会社の代表」が主な役割です。取締役の人数が3人未満の取締役会がない会社は、その規模も相まって独自の役割も比較的少なくなります。
業務執行の責任
取締役会がない会社の場合、業務執行の責任は取締役が担います。株主総会での決定事項などの行うべき業務を、自らが先頭に立って実現します。
意思決定と業務執行の2つの側面を両立して行う点が取締役会を設置しない会社の特徴です。
会社の代表
取締役会の設置がない会社は、取締役(代表取締役)が会社の代表として業務の執行を行います。
なお取締役(代表取締役)が2人選任されている場合は、過半数を持って業務を決定します。このような場合であっても、それぞれの取締役が会社の代表となって業務を行う点がポイントです。
取締役の仕事内容
取締役の役割を達成するための仕事内容は多岐に渡ります。以下の内容は規則として定められている訳ではないですが、役割の達成には必須とも言えるでしょう。
【取締役の仕事内容】
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いずれも会社の意思決定や運営において重要な役割を担っています。
取締役会
取締役会が設置されている企業の場合、取締役は定期的に取締役会へ参加します。取締役会は年に4回以上の開催が義務となっていますが、実際は毎月開催している企業が多いです。
取締役会では企業の運営方針や、業務の推進方法を取締役同士で話し合います。今後の企業の経営に直結する仕事であるため非常に重要と言えるでしょう。
株主総会の対応
株主総会での対応も取締役の重要な仕事です。株主総会には各事業年度の終了後に行う「定時株式総会」や「臨時株式総会」などがあります。
株主総会では前事業年度の業務内容や今後の経営方針の説明、株主からの質問への回答などを行います。株主総会は投資家に対して業務内容や経営状態を説明を行うので、資金調達に直結する場です。
株主総会での対応が悪いと、自社に投資する投資家が減るリスクが発生します。そのため適切に時間をかけた準備が大切です。
経営者への助言
代表取締役などの経営者に対して助言をするのも取締役の仕事です。代表取締役は組織のトップですが、一任し過ぎるとワンマン経営に繋がるリスクが発生します。
経営者のワンマン経営が生じると、株主や顧客、取引先といった利害関係者が不利益を受けます。そのため普段から経営者に助言を行い、ワンマン経営を防止するのが重要です。
しかし生え抜きの取締役の場合は上下関係などの理由から、直接的に意見するのが難しいケースも多いでしょう。その際は社外取締役を選任して、客観的な意見をもらうのが望ましいです。
なお「社外取締役」とは文字通り、企業の外部の人間が取締役に任命された際の役職です。現在は改正会社法の成立によって、上場企業を中心に増加している傾向があります。
顧客との関係構築
取締役自身が顧客への挨拶や商談に向かい、関係を構築するケースもあります。重要な案件である場合、取締役が直接関与した方が話もまとまりやすくなるためです。また顧客としても、一般従業員より取締役に足を運んでもらえた方が好印象となるでしょう。
もちろん全ての顧客と関係を構築するのは難しいです。しかし取締役という肩書きによって交渉や人間関係が有利になることは多々あります。そのため「自分は経営しかしない」といった意識は取り除くべきと言えるでしょう。
取締役の選び方
取締役は一定の欠格事由に該当する方を除いて、特別な条件なく選任できます。しかし既存の取締役が勝手に決めてよいものでもありません。取締役を選任するには株式総会を開き、株主の同意が必要です。
選任要件
基本的に取締役を選任するための特別な要件は存在しません。しかし会社法331条によって一定の欠格事由が定められています。
【会社法331条によって定められている欠格理由】
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また現に監査役である方は、取締役との兼任ができません。他にも取締役である方がこれらの欠格事由に該当した場合、取締役としての地位を失う点にも留意しましょう。
選任方法
取締役の選任は株式総会の普通決議によって行われます。普通決議とは決議権を持つ株主の半数を定足数として、出席株主の過半数の賛成により成立する決議です。ただし定款によって定足数を緩和している場合、決議権を有する株主の3分の1以上の出席で問題ありません。
株主総会の前に予め誰を取締役として選任するかを決めておきます。そして選任された取締役が株主総会で承認されると、正式に就任できるのです。
選任人数
取締役は最低でも1人以上選任する必要があります。また企業に取締役会を設置する場合は、3名以上の選任が必須です。なお取締役の選任人数に上限はありません。
しかし取締役が多すぎる場合、会議が難航し企業としての意思決定が遅れるリスクが発生します。一方で取締役が極端に少ないと、企業のワンマン経営に繋がるリスクが生じるでしょう。企業の規模によって適切な取締役の人数は変動するため、実情に応じた人数を定めることが大切です。
取締役を選ぶ選択肢
取締役は一般従業員から出世して選任される場合が多いです。しかしそれだけでなく、企業の規模や実情に合わせた選択が重要です。
自社に合った選び方を行うことでより事業が円滑に進み、業績の向上も期待できます。そのため様々な選択肢の特徴を正しく理解しましょう。
親族や知人
オーナー企業の場合、親族や知人を取締役に選任するケースも多いです。オーナー企業とは創業者やその親族、創業時のメンバーなどが役員となり、会社の中心を担っている企業です。
具体的には事業を親から子へ継承するために入社し、いずれは子が代表取締役になるといったケースが挙げられます。親族や知人を取締役に選任すると、経営者の考えに近い企業運営が期待できるでしょう。
一方で取締役の全員が親族や知人になると、意思決定時に客観的な判断ができなくなるリスクが生じます。
経営と執行を分けて選ぶ
一定の規模がある企業の場合、取締役を経営と執行で分ける場合も多いです。コーポレートガバナンスの観点より取締役は代表取締役と社外取締役で固めます。そして企業の運営は執行役員に任せるといった方法です。なおコーポレートガバナンスとは、企業の不祥事を防ぐために、社外の管理者に運営を監視させる仕組みです。
また執行役員とは取締役が決定した方針に従って会社の業務を行う役職です。会社法上の役職でなく、雇用契約を結んでいる方に付ける形式的な役職である点に留意しましょう。
取締役を経営と執行に分けることで不祥事が起こりにくく、迅速な対応が可能になるなどのメリットが生じます。
合併、買収先の企業幹部
規模の大きい企業が小さい企業を買収・合併した際は、買収・合併した企業の幹部を取締役にするのも有効です。通常、企業の買収や合併が生じると、規模が大きい企業の役員比率が高くなる傾向にあります。しかし規模の小さい企業の役員をそのままのポストに置く方が、事業移管や合併手続きがスムーズになりやすいです。
また一定のポストに就きにくい環境である場合、優秀な人材の流出にも繋がる恐れがあります。そのため合併・買収した企業からもできるだけ取締役を選任するべきと言えるでしょう。
経営者と似た意見の人
経営者と似た意見の人を取締役に選任することも有効な選択肢の1つです。経営者と似た意見の人を集めると、経営者の意見に共感し、すぐに行動に移せる組織作りが可能となるでしょう。企業の意思決定が円滑に進むため、その分会社の成長するスピードも早まると言えます。
しかしトラブルが起きそうな際に、歯止めをかける責任感が必要となる点に留意しましょう。
部門ごとのトッププレーヤー
企業は営業部門や法務部門といった様々な部門によって構成されています。取締役には各部門のトッププレーヤーを選任する場合も多いです。
各分野に精通した人同士で意見の交換ができれば、より効率的な戦略をスピーディに立てることができます。また各部門に精通している方がトップとなるため、一般従業員への指示出しも円滑に行えるでしょう。
取締役に向いている人
一般従業員と取締役では求められるスキルや意識が大きく異なります。取締役は人の上に立ってより責任のある立場となるため、それに見合ったスキルや意識が必要となるのです。
取締役を選定する際は必要な知識を有しているかの確認が大切です。またこれから取締役になる方は取締役に見合った人間になれるよう努めましょう。
マネジメント能力のある人
取締役に就任すると各部署をまとめる管理職の上に立って、会社に利益をもたらす必要があります。
組織をマネジメントするには、部下である管理職の育成は必須です。またワンマン経営の上層部には従業員が付いてこないため、上手な人間関係の構築も求められます。
特定の分野の専門知識がある人
営業や会計、法務といった特定の分野に係る専門知識がある人は取締役に向いています。取締役は会社の意思決定の他にも、担当分野の責任者として部門を取りまとめることもあるためです。
その際に担当分野に関する専門知識を有していると、適切な判断やスムーズな業務執行に繋げられます。また一般従業員からの信頼感にも繋がり、より組織としてまとまることができるでしょう。
企業の成長を考え、守る意識のある人
取締役には企業の成長を考えて、守る意識を持つことが大切です。企業の経営を長い間行うと様々なトラブルが生じます。取締役はそれらのトラブルに対して真摯に対応する必要があるのです。
例えば時代の流れに伴って需要が変動し、業績が落ちた際に、どのように対応するかを考えなければなりません。また従業員の不祥事といったトラブルとも真剣に向き合える方でなければならないでしょう。
自分が就任している期間はもちろんですが、その先を見据えた行動を取れるかどうかが重要となります。
取締役の登記方法
取締役を含む役員の変更(就任・辞任・解任・志望・退任・重任(再任))があった際は登記の手続きが必要です。役員の変更が決定した日から「2週間以内」に「管轄の法務局」で手続きを行います。
なお変更の期限は「株主総会の翌日」を起算日として2週間以内です。取締役の選任や解任は株主総会での決議を受けた時点で正式に決まります。また取締役会設置会社の代表取締役の選定は、取締役会の決議が行われた日が起算日です。
社内で選任を決定をしたタイミングでは、正式に選任が確定しているわけではないので注意しましょう。
取締役の登記費用
資本金が1億円以下の企業の取締役の登記には「1万円」の登録免許税を要します。一方で資本金が1億円超の企業の場合は「3万円」です。この金額は1人あたりではなく、1件当たりの費用となります。また登記費用は役員の就任・退任・重任(再任)であっても同様です。
なお「登録免許税」とは会社や人などの登記や登録、特許、免許、認可などについて課税される税金です。原則は金融機関での現金納付ですが、税額が3万円未満の場合などは、収入印紙での納付も認められています。
また登録免許税以外にも取締役などの印鑑証明書や登記変更後の登記事項証明書などの取得費用も要します。他にも登記の変更手続きを司法書士に依頼する場合は、1件につき3万円程度の報酬が必要です。
取締役の登記の必要資料
取締役の登記を行う際は様々な資料を持参する必要があります。しかし必要な資料は取締役会の有無によって異なるため注意が必要です。
【取締役会設置会社】
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【取締役会非設置会社】
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登記が遅れた際の罰則
取締役の登記は変更から2週間以内という期限があります。万が一手続きが遅れた場合であっても変更自体が無効になるわけではありません。しかし罰則が発生する恐れがあります。
申請を怠ったまま2週間が経過した場合、代表者個人が100万円以下の過料を課される可能性があります。更に放置を続けると、休眠会社とみなされて解散手続きになる「みなし解散」の対象となるリスクも生じます。
そのため役員変更の際は迅速に手続きを行うことが重要です。
取締役になる方法
取締役になる方法として一般的なのが「会社内で昇進を重ねる」です。所属する会社で実績を積み、部下の育成を行い、企業に貢献し続ければ取締役の候補になる可能性が生じます。
しかしその他のルートで取締役に就任しているケースも数多く存在します。将来的に取締役になりたいと考えている人は、様々な手段の中から最も自分に適した選択が大切です。
子会社・グループ企業への出向
規模の大きい企業だと子会社やグループ会社を有している場合も少なくありません。そして親会社から取締役として子会社やグループ会社に出向し、ノウハウを浸透させるといったケースも多いです。
現在勤めている会社で成果を出し続け、上層部の信頼を得ると、出向といった形で取締役に就任できるケースがあるのです。
M&A(吸収合併)
M&Aによって合併した企業の取締役に就任するケースもあります。
「M&A」とは「企業の合併・買収」のことです。複数の企業が1つに合併したり、企業が他の企業を買収して会社の経営権を取得します。この際に経営権を得た企業の役員として、新たに取締役へ就任できるケースが存在するのです。
一言でM&Aといっても様々ですが、それぞれの企業文化や経営システムの統合のために監督する必要があります。
事業承継
「事業継承」とは会社経営の権利を後継者に引き継ぐことです。事業継承には「M&A」「社内承継」「親族内承継」の3種類があります。
日本の企業の99%以上は中小企業とされており、多くの企業で世代交代の時期になっています。そのため現在の取締役が子どもや親族、従業員にポストを継承させるといったケースも多いです。
MBO(マネジメントバイアウト)
「MBO」とは企業の経営陣が既存の株主から株式を買い取って、経営権を取得することです。日本語で「経営陣買収」と呼ばれる場合もあります。
中小企業の場合、取締役になる後継者に自社の株式を所有させる目的で行われることがあります。親族の場合は後継者に株式を相続できますが、従業員の場合は有償譲渡とするのが一般的であるためです。
またMBOには事業継承以外にも自由な経営や迅速な意思決定に繋がるといったメリットもあります。
経営者への紹介
紹介によって取締役に迎え入れられるケースもあります。特に元経営者や弁護士、公認会計士といった資格を持つ者は企業からの需要も多いです。
そのため取締役として活躍できる経験やスキルの習得が重要です。また様々な人脈を形成できる経験を積むことで経営者へ紹介される可能性が増えるでしょう。
ヘッドハンティング
企業としても優秀な人材が取締役に就任すれば、企業の業績向上が期待でき、企業の価値も上がります。そのため取締役の経験や専門的なスキルがある方は、企業側からヘッドハンティングされる可能性もあります。
もちろんヘッドハンティングされる前提の受け身の姿勢でいるのは良くありません。しかしヘッドハンティングされるほどの経験やスキルがあれば、他の道からでも取締役になれる可能性が高まります。そのため日々経営者視点の経験を積み、専門性のあるスキルの習得が大切です。
取締役に求められているスキル
取締役には様々なスキルが求められます。これらのスキルは取締役になるために必要であるのはもちろん、取締役として活躍するのにも必須です。
一般従業員とは性質の異なるスキルを高い水準で求められるので、自身に必要な能力の習得に励みましょう。
企業経営力
取締役の大きな役割は、企業全体の運営です。そのため企業の成功に繋がる業務推進能力や責任感といった企業経営力が必須となります。
もちろん短期的に成果をあげるための企業経営力も重要です。しかしそれだけでなく、自身の任期以降も視野に入れた長期的な視点で考える能力が重要となります。
マネジメント経験
取締役の立場になると一般社員のトップに立って指揮・監督を行う必要があります。そのためプレーヤーとして高い能力を持っているだけでなく、部下をマネジメントするスキルも重要です。
役員や管理職を経験する機会があれば、部下と良好な関係を築き、能力を最大限引き出す工夫をしましょう。
ブランド戦略・マーケティング力
管理職は企業の利益を拡大するために、ブランド戦略やマーケティングに係るスキルを要します。マーケティングとは一言で言うと「売れる仕組みを作るための活動」です。具体的には「広告宣伝活動」や「市場調査」「効果検証」など多岐に渡ります。
良い商品を提供していてもマーケティングを疎かにすると業績は伸びません。そのため取締役がトップに立って商品を売る仕組み作りを行うことが、企業の成功にとって重要となります。
コンプライアンス意識
「コンプライアンス」とは企業が法令や規則を遵守することです。企業がコンプライアンス違反を起こすと、顧客からの信頼は低下し、信頼回復のために長い年月を要します。また信頼回復には多くの費用を要するので、企業にとって大きな損失となります。
そのため取締役が率先してコンプライアンス意識を高め、不祥事を起こさない組織作りが重要です。
ESGへの配慮
「ESG」とは「環境」「社会」「ガバナンス」の英語の頭文字を取った言葉です。ESGを無視した企業経営になってしまうと、企業の社会的な価値が低下します。その結果、顧客からの信頼が低下し、業績の低迷に繋がってしまうのです。
具体的には省エネや、温室効果ガスの削減、ワークライフバランスの向上といった取り組みが必要です。そのためESGと企業の利益を両立するスキルが、取締役にとって重要となるでしょう。
取締役になるためにプラスになる経験
取締役になるためには様々な経験が重要ですが、その中でも特にプラスになる経験があります。必須とまでは言いませんが、経験しておくと現場の動き方が想像しやすく、企業経営の視点からも有利に働きます。
就任の前に積極的にこれらの経験を積むことで、結果として取締役になる将来に繋がるでしょう。
人事・労務の経験
取締役になる際に人事や労務に係る経験があるとプラスに働きます。企業は人で成り立っているので、企業からして良い人材を集めるのが重要です。採用する人材や育成方法、長く働ける環境作りなどを知っていることで、より良い組織作りが可能となります。
そして取締役がこれらの知識を有していると、迅速に効果的な環境作りができるため、業績の向上にも繋がるでしょう。
グローバル経営・事業戦略の実績
グローバル経営や事業戦略の実績があると、取締役として組織に大きく貢献ができます。日本は人口減少といった理由からマーケットが縮小する可能性があります。そのためシェアを広げて業績を伸ばすには、海外進出や事業戦略が必要となるのです。
取締役がこのような経験を持っていると、組織として取り組みやすく、先手を打った経営が可能となるでしょう。
法務経験
現在は世間の目が厳しくなり、法律違反を犯すと企業の信用が急激に低下します。またインターネットの普及によって、悪い評判が広がる速度も早まっているのです。
企業の信用が低下すると、業績の低下はもちろん、資金調達も難しくなります。そのため今まで以上にコンプライアンスの視点を持って経営をしましょう。取締役として法律を犯さないのはもちろん、その意識を組織全体に浸透させることが重要となります。
財務経験
企業経営においては財務面の管理も非常に重要となります。海外ではCEO(最高経営責任者)に次いでCFO(最高財務責任者)が重要視されているほどです。
財務面が安定しないと資金繰りの悪化や債務超過に繋がるリスクが生じ、結果として経営が上手く行かなくなります。そのため会社の財務状況を判断しながら、バランスよく経営できる取締役は企業に貢献できるでしょう。
監修税理士からのコメント
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この記事の監修税理士
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