会社員にとって、所得税はいつの間にか納付されている税金と感じる人が多いのではないでしょうか。なぜなら、源泉徴収義務者である会社が、従業員の代わりに所得税の申告や納付を済ませてくれるからです。
しかし脱サラなどで、個人事業主となり従業員を雇えば、自分が源泉徴収義務者となり手続きをおこなわなければいけません。そこで本記事では、源泉所得税とはそもそもどのような税金なのか、その対象や計算方法、納付期限、納付方法など源泉徴収に関する基本的な知識を詳しく解説します。
この記事を監修した税理士
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
源泉所得税とは?誰が納付する?
源泉所得税とはどのような税金なのでしょうか。会社に勤めていると、源泉徴収について耳にすることはあっても、源泉徴収の仕組みについて知る機会はほとんどないでしょう。
そこでここでは、そもそも源泉所得税とはどのような税金なのか、またその源泉徴収の義務を負う源泉徴収義務者の条件や対象について詳しく解説します。
源泉所得税とは?所得税との違いは?
企業や個人事業主は人を雇った場合、従業員の代わりに所得税を給与から天引きし国に納付しなければなりません。このように、雇用主があらかじめ給与から所得税を天引きし、国に納めることを源泉徴収といいます。またこのようにして納められる税金が源泉所得税です。
一方所得税とは、1年間の所得に応じてその人自らが支払う税金のことをいいます。源泉徴収税は月々の給与や賞与から天引きされるため、納税資金を準備する必要はありません。しかし所得税は確定申告の際にまとめて支払うため、準備しておく必要があります。
このように所得税と源泉所得税は同じ所得にかかる税金ですが、その納付方法や納付者が異なるという点を理解しておきましょう。
源泉徴収義務者の条件
源泉徴収しなければならない義務を負っている人を源泉徴収義務者といい、人を雇って給与を支払ったり、税理士や弁護士、司法書士などに報酬を支払ったりする会社や個人がこれに該当します。また民間の会社だけでなく、給与などの支払いをする官公庁や学校、人格のない社団や財団なども源泉徴収義務者となります。
ただし常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払っている個人は、その支払いについて源泉徴収する必要はありません。さらに源泉徴収義務を負わない個人が、税理士や弁護士、司法書士などに支払う報酬も源泉徴収しなくてもよいことになっています。たとえば個人の確定申告を税理士に依頼した際に支払う報酬などです。
個人事業主が源泉徴収義務者となったら?
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源泉徴収の対象
通常、源泉徴収の対象となるのは従業員に支払われる給与や賞与、退職金などです。また個人や法人に支払われる報酬や料金などについても源泉徴収の対象となり得ます。この場合、支払いを受けるのが個人か法人かによって、その対象となる範囲は異なるため注意が必要です。
個人に支払われる報酬や料金のうち源泉徴収の対象となるのは以下の通りですが、細かく区分されているため、迷う場合は管轄の税務署へ問い合わせるほうが確実でしょう。税金について「わからなかった」は通用しません。
- 原稿料や講演料
- 弁護士や税理士など特定の資格の保有者に支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- ホテルや旅館などで行われる宴会などで接客をするホステスなどに支払う報酬・料金
- スポーツ選手やモデル、外交員などに支払う報酬・料金
- 映画やテレビなどへの出演料
- スポーツ選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
※支払いを受ける者が法人の場合、源泉徴収の対象となるのは、馬主である法人に支払う競馬の賞金です。
源泉所得税の計算について
人を雇い雇用主になった場合は、源泉所得税の計算方法は知っておくべき知識のひとつでしょう。まずは源泉徴収税の対象となる所得から説明します。次に、復興特別所得税や源泉徴収税の電算機計算の特例について、また令和3年分から変わる変更点についても詳しく説明するので参考にしてください。
源泉徴収税が徴収される所得
源泉徴収税の対象となる所得は、おもに従業員に支払う給与、賞与、退職金などです。また顧問弁護士や税理士に支払う報酬も含まれます。
さらに外部の業者に何らかの仕事を依頼した場合、依頼先が法人であれば源泉徴収の必要はありませんが、個人の場合は依頼した内容によって必要となるケースがあるため注意しましょう。このほか利子や配当、年金などにも源泉所得税がかかります。
復興特別所得税の加算について
復興特別所得税は、2011年3月11日の東日本大震災によって被害を受けた被災地復興のために導入されました。2013年1月1日より2037年12月31日までの期間に支払われる所得に課せられます。
復興特別所得税は、源泉徴収義務者が通常の源泉徴収所得税と合わせて納付しなければなりません。その対象となる所得は、源泉徴収の対象となる所得と同じです。
源泉徴収税の電算機計算の特例について
給与所得に対する源泉所得税および復興特別所得税の額は税額表を適用して算出します。ただし、電子計算機などで事務処理している場合は、月額表の甲欄を適用する給与に限り財務省が告示する計算式によって算出することが可能です。電子計算機とは、会計ソフトなどの計算を自動的におこなうツールのことをいいます。この特例を適用することで年末調整の過不足税額を抑えることができ、エクセルなどで容易に計算することが可能となるのです。
甲欄を適用する給与とは、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払う一定の給与等を指します。この特例によって算出した税額と税額表を用いて算出した税額との間に差異が生じても、年末調整で精算されるため納税額に過不足が生じる心配はありません。
令和3年分の源泉徴収税額について変更点を確認
令和3年分の源泉徴収税額表が、国税庁から公表されています。令和3年分の源泉徴収税額表における税額について変更はありません。ただし令和2年度税制改正により「寡婦(寡夫)控除の見直し及びひとり親控除の創設」がおこなわれ、令和3年1月1日以後に支払う給与等の源泉徴収事務から改正後の規定が適用されます。
この制度では「ひとり親」に該当する場合はひとり親控除として35万円、「寡婦」に該当する場合は寡婦控除として27万円の所得控除が受けられますが、これらは年末調整の際に精算される控除です。
給与所得の源泉徴収税の計算と税額表
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出
源泉徴収税を計算する前に、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。この申告書を提出してもらう従業員は、メインとなる勤務先が自分の会社の場合のみです。たとえばほかにも勤務先があり、そちらがメインであれば提出してもらう必要はありません。
なお、この申告書が提出されないと、源泉徴収税額表の甲欄ではなく乙欄が適用されてしまい、源泉徴収税額が高くなって従業員の手取り額が減ってしまいます。年末調整も受けられなくなるため、正しい税額に精算するためには従業員本人が確定申告をしなければいけません。
未提出だと確定申告をする手間がかかるなど不利益を被ることを従業員に伝え、その年最初に給与の支払いを受ける日の前日までに提出するように伝えましょう。
給与所得の計算方法
源泉徴収税の税額表(月額表・日額表)
確定した「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」を基に、源泉所得税と復興特別所得税を算定しましょう。算定する際には、国税庁の「源泉徴収税額表」を利用します。月給払いの場合は「月額表」を、日雇いなどの日給の場合は「日額表」を使いましょう。
源泉徴収税額表には「甲欄」・「乙欄」・「丙欄」がありますが、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した人は「甲欄」を、提出しなかった人は「乙欄」が適用となります。また日雇いなどの従業員は「丙欄」が適用されます。
賞与・退職金・報酬の源泉徴収の計算と税額表
それでは次に、賞与や退職金、報酬の源泉徴収の計算方法をそれぞれ説明します。賞与も源泉徴収の対象なので、給与とは別に源泉所得税を支払わなければなりません。賞与の源泉徴収税額の算出方法は、給与の場合よりやや複雑になっているため注意が必要です。退職金と報酬の場合は、計算方法そのものが異なります。
<賞与の場合>賞与の源泉徴収税額表を参照する
賞与の源泉徴収税額の算定には、次の3つのステップが必要です。
- 前月の給与から社会保険料を差し引く
- 国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」上で、扶養人数と①で求めた金額から「賞与の金額に乗ずべき率」を求める
- 賞与額から社会保険料を差し引いた金額に②の税率を乗じる
賞与の場合も「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しているかどうかで甲欄と乙欄に区分され、参照する数字が異なってくるため注意しましょう。
<退職金の場合>退職所得額の計算に注意する
退職金制度を設けている場合、退職金も源泉徴収の対象となるため源泉徴収税額を算出しなければなりません。
退職者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合は、退職手当等の支給額に20.42%の税率を乗じて計算した額が、所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額です。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合には、退職所得は以下の計算式で算出されます。
退職所得控除額は次の計算式で求められますが、勤続年数により異なり、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満の場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
退職所得を算出したら、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」から該当する税率を乗じて源泉徴収税額を算出します。なお、退職所得控除額が支給される退職金を上回る場合は、当然のことながら所得税はかかりません。
<報酬の場合>報酬の源泉所得税の考え方の計算方法
弁護士などの士業やデザイナーなどへの源泉所得税の計算では、源泉徴収税の税額表のような表は使いません。計算方法は、所得税を引く前の支払い金額が100万円を超える場合と100万円以下の場合で次のように異なります。
源泉所得税を引く前の支払金額が100万円を超える場合:支払金額×20.42%+102,100円
源泉徴収税の納付期限と遅れた時のペナルティ
源泉徴収税をきちんと計算し算出しても、納付期限に間に合わなければ意味がありません。税金は早めの申告・納付が基本です。ここでは源泉徴収税の納付期限について詳しく解説します。また、万が一納期限を過ぎた場合、どのようなペナルティがあるのかについても詳しく説明していきます。
源泉徴収税の納付期限は毎月10日
会社が従業員や個人に給与や報酬を支払った場合、先述したように源泉徴収税を算出し納税します。徴収した源泉徴収税は、翌月の10日までに管轄の税務署に納付しなければなりません。給与の支払いが月初でも月末でも納付期限に変わりはないため、支払いのタイミングから納付まで期限が短い場合は注意が必要です。
「納期の特例」について
源泉徴収税は翌月10日までの納付が原則ですが、忙しい事業活動のなかで毎月算出するのは大変です。そのため国は「納付の特例」を設けて会社の負担を軽減しています。
この特例を利用できるのは、給与や賞与の支払いを受ける従業員が常時10人未満の小規模事業所のみです。この制度では、次のように年2回の納付が認められています。
- 1月〜6月までの源泉徴収税の納期限:7月10日
- 7月〜12月までの源泉徴収税の納期限:翌年の1月20日
この特例を利用したい場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を作成し、管轄の税務署へ提出しましょう。ただし11人以上の従業員を雇っている場合は納付の特例は利用できず、毎月源泉徴収税を納める必要があります。
納付期限を遅延してしまったら!「不納付加算税」「遅延税」について
万が一納付期限を過ぎてしまった場合は、「不納付加算税」と「遅延税」がペナルティとして課せられるため注意が必要です。
不納付加算税とは、納付すべき源泉徴収税の10/100の割合で課税される税金です。しかしながら、税務署よりお知らせがくる前に自主的に納付すると、その割合は5/100に減額されます。
また前月の末日から起算して1年前までの間に納付遅延がなく、かつ1ヶ月以内の納付遅延であれば不納付加算税は課せられません。たまたま「忘れてしまった」という状況でも、1ヶ月以内に納付すれば不納付加算税は免れるということです。
一方、延滞税は源泉所得税の納期限の翌日から課せられます。令和2年の延滞税は、納期限の翌日から2ヶ月間は年2.6%の割合で計算し、それを過ぎると一気に年8.9%まで税率が上がるため注意が必要です。もし忘れてしまったという場合は、できるだけ急いで納付するように心がけましょう。
源泉所得税の納付方法と納付書の書き方
源泉所得税を算出した後、どのような方法で納付すればいいのでしょうか。昨今は、さまざまな納付方法が認められているため、自分に都合の良い方法を選ぶことができます。うっかり忘れてしまったということがないように、確実に納付できる方法を選びましょう。
納付方法
源泉所得税は次の5つの方法で納めることができます。
- クレジットカード払いでの納付
- ネットバンキングを利用して納付
- ATMでの納付
- e-Taxでの納付
- 銀行や郵便局での納付
(1)クレジットカード払い
クレジットカード払いとは、国税庁長官が指定した納付受託者へ源泉所得税の立替払いを委託することで支払う方法です。実際の手続きは「国税クレジットカードお支払いサイト」上でおこないます。
クレジットカード払いは、納付税額に応じた決済手数料がかかるため注意しましょう。
(2)ネットバンキングを利用して納付
ネットバンキングとは、インターネット上でおこなう金融取引のことです。ネットバンキングでは振込ではなく、ペイジーから手続きをおこないます。
ペイジーが利用できる金融機関で口座を開設し、e-Taxで源泉所得税額を申告・納付することが可能です。ただしペイジーの1日あたりの利用限度額に注意しましょう。
(3)ATMでの納付
ATMでの納付も可能です。この場合もクレジットカード払いやネットバンキングでの納付のように、e-Taxで申告する必要があります。
(4)e-Taxでの納付
ダイレクト納付ともいい、源泉所得税をe-Taxで申告し同時に納付する方法です。この方法を利用するためには、ダイレクト納付利用届出書を利用開始の1ヶ月前までに提出しなければなりません。
なお、e-Taxで源泉所得税を納付した場合には領収証書は発行されないので、領収証書が必要な場合には金融機関の窓口などで納付するようにしましょう。
(5)銀行や郵便局での納付
従来からの納付方法で、一番馴染みがあるのではないでしょうか。税務署から納付書が送られてくるので、必要事項を記入し銀行や郵便局の窓口で支払います。
納付書の書き方
次に納付書の書き方を説明しましょう。納付書は税務署から送られてくるものを利用します。記入項目は次の通りです。
- 納付する年度
- 支払日
- 給与等を支払った従業員数
- 給与等の支払総額(社会保険料や所得税等控除前の給与総額)
- 源泉徴収した所得税の総額
- 本税の欄に源泉所得税の総額
- 合計額の欄に源泉所得税の総額と延滞税(延滞税があれば)
※金額の前に「¥」を記入する - 納期等の区分欄に給与等を支払った日
税務署から納付書が送られてきたときにすでに記入されている欄については、それ以上の記入は必要ありません。
源泉所得税額が0円になる場合はどうする?
源泉所得税が0円になることもあり得ます。この場合は納付する税金はありませんが、税務署より送られてくる納付書には必要事項を記入して提出する必要があるため、忘れないようにしましょう。
源泉徴収税の計算を手軽にするツール
ここまで源泉所得税について、その計算方法や納付方法を説明しましたが、源泉所得税を簡単に計算できる手軽なツールがいくつかあります。従来の会計ソフトや利用者が増えつつあるクラウド型の会計ツール、ほかにもネット上には源泉所得税を計算してくれるサイトがあり非常に便利です。
会計ソフト
会計ソフトというと、「弥生」や「勘定奉行」がよく知られているのではないでしょうか。今では、「弥生」と「勘定奉行」のどちらも従来の会計ソフトをインストールするやり方とクラウド型の2タイプが用意されています。
これらの会計ソフトを使うメリットは、サポート体制がしっかりしていることでしょう。わからないことがあれば、気軽に問い合わせることが可能です。会計ソフトであれば、源泉所得税も簡単に計算できます。
会計ソフトには次のようなものがあるので、気になる場合にはそれぞれのWebページなどで調べてみるとよいでしょう。
- 弥生会計シリーズ
- 勘定奉行10
- 会計王
- 会計らくだ
オンライン(クラウド)会計ツール
昨今、利用者が増え続けている会計ツールがクラウド型の会計ツールです。先述したように、「弥生」も「勘定奉行」もクラウド型が用意されています。
クラウド型で人気が高いのが「freee」でしょう。クラウド型会計ソフト利用者の約4割のシェアを占めています。帳簿を付けるときに、最初にネックとなるのが勘定科目についてです。しかしfreeeのような会計ツールを利用すると、経理や帳簿の知識がなくても簡単に帳簿を付けることができます。
ほかにもマネーフォワードクラウド会計も人気です。シンプルで使いやすいため、個人事業主のようなそれほど複雑な会計処理を必要としない人に向いています。
かんたんネット会計も使いやすいと人気です。メールや電話だけでなくskypeを使って財務の専門家に相談できます。
人気のクラウド型会計ツールには次のようなものがあります。
- freee
- マネーフォワードクラウド会計
- かんたんネット会計
- 弥生会計オンライン
- 勘定奉行クラウド
- ちまたの会計
源泉所得税の簡単計算ツール
またネット上には、源泉所得税を計算してくれるサイトがいくつかあります。無料で簡単に使えるため試してみるのも良いでしょう。
この記事を監修した税理士のコメント
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
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