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タックスヘイブンとは?国や問題点、対策税制について解説

最終更新日: 2023年01月13日

タックスヘイブンとは税金が課されない、もしくは著しく軽減される国・地域のことです。有効に活用できれば、企業・個人は税負担を軽減できます。

しかし現在はタックスヘイブンが問題視されており、国内だけでなく、世界的にも対策がなされています。税収に大きく関わり、我々の生活にも関節的に影響するため見逃すことはできません。

この記事では、タックスヘイブンの概要や国、問題点とその対策について解説します。

この記事を監修した税理士

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

 

タックスヘイブンとは

タックスヘイブンとは租税回避地のことです

タックスヘイブン(Tax Haven)とは得られる所得や所有する資産に課される税金が、無税もしくは大きく軽減される国や地域です。「租税回避地」や「低課税地域」と呼ばれることもあります。

具体的には、イギリス領ケイマン諸島やバージン諸島、モナコ、ルクセンブルク、アメリカのデラウェア州などが該当します。多国籍企業や裕福層がこれらの地域に資産を移して租税回避をしているケースが多いです。

2016年の「パナマ文書」や2021年の「パンドラ文書」によって、その利用実態が明らかにされました。

またタックスヘイブンの国が他国より税率を低くする目的は、他国の企業や個人を呼び込むことです。脱税やマネーロンダリングを助長するなど問題視される側面もありますが、タックスヘイブン自体は違法ではありません。

タックスヘイブンの種類

一言でタックスヘイブンと言っても、各国で行われている税制は様々です。「一切税金を課さない国」や「特定の業種が優遇される国」「国外の所得には課税しない国」の3つの種類に分けられます。

無税(タックスパラダイス)

タックスヘイブンの中でも、税金が一切課されない(無税の)地域を「タックスパラダイス」と呼びます。

具体的には「所得税が課されない」「租税条約(税金に関する他国との取り決め)がない」といった地域です。一例を挙げると、ケイマン諸島では所得税や法人税は課されない等があります。

特定の業種に対しての税の優遇措置(タックスリゾート)

タックスヘイブンで特定の業種に対して税の優遇措置を取っている地域を「タックスリゾート」と言います。

例えばアイルランドでは、企業の特許や知的財産に関連する収益に係る法人税率は6.25%となっています。通常の法人税率は12.5%(2022年現在)であるため、他業種の2分の1の税負担で済むのです。

また日本の基本法人税率23.2%と比較すると、一目瞭然と言えるでしょう。

他にもパナマやリベリアでは海運業が、スイスでは一定の投資所得が優遇される制度等が存在します。

国外の所得に課税をしない(タックスシェルター)

「タックスシェルター」とはタックスヘイブンの内、国外の所得に課税をしない地域です。一例として香港では、香港外の源泉所得税(オフショア所得)が非課税となっている等が挙げられます。

他にも租税条約を締結しながらも、税率が低いことから源泉課税がされないといった税制優遇制度も存在します。

タックスヘイブンの国一覧

タックスヘイブンの国一覧

タックスヘイブンの国一覧

  • アメリカのデラウェア州
  • ケイマン諸島
  • ヴァージン諸島
  • パナマ共和国
  • 香港
  • モナコ
  • ルクセンブルク
  • リヒテンシュタイン
  • キプロス
  • ニューカレドニア
  • モルディブ

など

これらのタックスヘイブンとされる国・地域には「秘匿性が高い」「国の干渉が少ない」「法人の設立・運営が容易」の3つの特徴があります。

秘匿性が高い

タックスヘイブンの国や地域は、個人や法人の資産に関する情報の秘匿性が高く、公開されることがほとんどありません。秘匿性を売りにして、企業や富裕層の資産を誘致しています。

国の干渉が少ない

国や地域の規制が整備されておらず、過大に干渉されることがありません。

法人の設立・運営が容易

タックスヘイブンとされる国や地域は自国の資源や産業に乏しく、税金を優遇することで外国からの資金を集めようとしています。そのため法人の設立や運営は比較的容易です。

法人設立後、実質的な活動を要求されないので、ペーパーカンパニーとして利益を守れます。

タックスヘイブンの問題点

タックスヘイブンの問題点
(画像提供:PIXTA)

タックスヘイブンは企業や個人にとってメリットになる一方で、社会的な問題点も存在します。具体的には「脱税に繋がる恐れ」や「マネーロンダリングに使われる恐れ」等です。

特に「パナマ文書」「パラダイス文書」「パンドラ文書」が公開されたことでより問題視されるようになりました。

お金の流れを把握するのが難しく脱税につながる

タックスヘイブンの問題点の1つに、脱税に使われることが挙げられます。海外取引の調査が難しく、お金の流れを把握しにくいためです。

これまで日本政府は、国外へ多額の送金を把握したり、他国と連携し海外にある金融口座の情報を閲覧したりと、包囲網を敷いてきました。しかし租税回避行為の手口も高度化しているので、政府は税逃れを防ぐ仕組みづくりを課題としています。

パナマ文書・パラダイス文書・パンドラ文書で問題に

2016年に「パナマ文書」2017年に「パラダイス文書」が公開され、タックスヘイブンが問題視されました。これらの公開によって、権力者や大富豪が多額の資産をタックスヘイブンに置いていることが判明したのです。その結果、数十億円規模の申告漏れや、アイスランドの首相の辞任等、大きな問題が生じました

更に2021年10月には「パンドラ文書」公表によって再び世界中を騒がせています。書類約640万点、画像約300万点、メール100万点超、スプレッドシート50万点が流出し、以下のような問題が判明しました。

パンドラ文書で判明した問題

  • 世界の有力者が国外の会社を使って租税回避をした手法
  • イギリスの不動産1500軒以上がオフショア企業を通じた購入であり、汚職疑惑のある個人も所有していた事実
  • チェコ首相がフランスの邸宅2軒を購入した際のオフショア投資会社の存在を公表しなかった事実
  • ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領の家族が、オフショア会社のネットワークに長期間ひそかに所有していた事実

マネーロンダリング(資金洗浄)に使われる

タックスヘイブンの問題点として「マネーロンダリング(資金洗浄)」に使われる点があります。マネーロンダリングとは、以下のような手段を用いて所有する資金の出所を分からなくする行為です。

  • 架空または別名義の口座で送金を繰り返す
  • 株や債券等を購入することで資金の出所を分からなくする

悪意のある団体や個人がマネーロンダリングをすることで、あたかも適法で資産を得たかのように装えます。

特にタックスヘイブンでは個人情報が強く守られているため、誰がどのように資金を使用したかが不透明です。その結果、悪意や違法性のある資産隠しができてしまい、犯罪を助長する恐れが存在します。

例えば「犯罪組織が被害者から騙し取った資産を、タックスヘイブンの企業に送る」等の悪用方法が考えられます。

タックスヘイブンに対する規制

タックスヘイブンに対する規制

タックスヘイブンが問題視されるようになり、国内だけでなく世界的にも対策がなされています。日本における主な対策税制は「外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)」です。一方でOECD(経済協力開発機構)では「ミニマムタックス」が進められています。

税規制が進むことでタックスヘイブンを利用した租税回避が難しくなり、国内の税収入の安定に繋がるでしょう。

日本のタックスヘイブン対策税制

日本では「外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)」が定められています。

外国子会社合算税制とは、租税回避が目的の外国子会社の利益を日本の親会社の利益と合算して課税する制度です。当税制を用いると、タックスヘイブンでの利益も日本での課税対象となり、租税回避を防げます。

ただし当税制は、あくまでも租税回避行為の規制が目的です。そのためタックスヘイブンでの所得が全て対象になるわけではありません。具体的には、事業の実態のないペーパーカンパニー等に該当する場合にのみ規制の対象となります。

OECDが進めている規制

OECDが進めている主な規制は「ミニマムタックス」です。OECD(経済協力開発機構)とは38の先進国が加盟する国際機関で、脱税や有害な税慣行の是正を含む様々な活動が行われています。

またミニマムタックスとは、タックスヘイブンでの税率が最低税率を下回る場合、親会社等に上乗せ課税を行う制度です。なお最低税率は15%と定められる見通しです。日本での法人税率は23.2%であるため、全額是正はできませんが、租税回避の大きな規制となるでしょう。

また規制の対象となるのは、収益額7.5億ユーロ超の多国籍企業グループとなっています。

当制度は2021年10月に最終合意され、2022年に多国間条約の締結や内国法の整備が行われます。そして最終的な導入は2023年の予定です。

またOECDでは「BEPSプロジェクト」によって様々な行動計画が制定されました。このことからもタックスヘイブンは、世界的に問題視されていると伝わってきます。

参考:BEPSプロジェクト|国税庁

タックスヘイブンを活用するメリット・デメリット

タックスヘイブンを活用するメリット・デメリット

タックスヘイブンの活用には、税負担を軽減したい企業もしくは個人にとって大きなメリットがあります。

しかしその一方で、タックスヘイブンの活用にはいくつかのデメリットがあるのも事実です。世界経済的なデメリットはもちろん、知らないと企業・個人としても損をする可能性があるため注意が必要です。

タックスヘイブンを活用するメリット

タックスヘイブン活用のメリットは「事業のスピード化」「二重課税の回避」の2つです。

事業のスピード化

会社で新たな事業を立ち上げる際は、スピードが重視されます。タックスヘイブンで事業展開すると、事業設立や銀行口座の開設などをよりスピーディーに進めることが可能です。

二重課税を回避

日本に本店のある企業であれば、日本国外で稼いだ収益にも日本の法人税が課せられます。海外の支店で稼いだ所得には、その国と日本の法人税が課せられているので、二重に税金が取られてしまうのです。

二重課税を防止するために、外国税額控除という制度や租税条約が整備されています。しかし条約を結んでいない国で事業を展開している場合、依然として二重課税のリスクが残ります。

タックスヘイブンで事業を展開することで、現行制度では回避できない二重課税の回避が可能です。

タックスヘイブンを活用するデメリット

タックスヘイブンのデメリットは大きく分けると3つあります。

  • 適法ではあるが、グレーゾーンの行動である
  • マネーロンダリングに利用される恐れがある
  • 企業・個人としての信頼性を失う恐れがある

タックスヘイブンの活用は違法ではありません。しかし世界的に規制が進んでいることからも、決して推奨されているわけではないです。中にはタックスヘイブンを活用した租税回避を良く思わない方もいます。その結果、企業・個人の信頼を失う恐れも生じるでしょう。

またタックスヘイブンは、マネーロンダリングによる違法行為を助長する可能性があります。そのため、世界的に見ても取り締まりを強化するべき項目であると言えます。

タックスヘイブンの利用方法

主な利用方法3つを説明します

タックスヘイブンの利用方法には以下の3つがあります。

  • 法人を設立(移転)する
  • ペーパーカンパニーを設立する
  • オフショア口座を開設する

タックスヘイブンに法人を設立(移転)する

海外に移住して本社を設立(移転)すれば、その国の税制を受けることになります。日本に資産や店舗がなく、働く場所を問わない仕事であれば、この方法を利用可能です。たとえばインターネットが繋がっていれば場所を問わずできるビジネスを行っている人や、投資家が該当します。

タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立する

ペーパーカンパニーとは法人登記がされているものの、事業活動の実態がない会社のことです。「ダミー会社」や「ゴースト会社」と呼ばれることもあります。ペーパーカンパニー自体に違法性はありませんが、脱税目的で悪用するのは違法行為です。

タックスヘイブンにオフショア口座を開設する

オフショア口座とは、広い意味では「海外にある銀行口座」のことで、狭い意味では「タックスヘイブンにある銀行口座」のことです。オフショア口座を持つことで日本国内の銀行より高い利率を受けられます。

また海外にオフショア口座を開設すると、日本の銀行では購入できない金融資産の購入もできます。

監修税理士のコメント

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

日本は諸外国と比べ法人税率がまだ高いと言われてます。ですので法人税率が高くない国に法人を設立することにより税金を少なくすることが可能になってます。しかしここに関しては短いスパンで税制改正が行われていて、パナマ文書の流出により税制改正の速度は加速しています。ですので税制改正等の情報は特に注意しましょう。

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この記事の監修税理士

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

越智聖(おちさとる)1980年愛媛県今治市生まれ。香川大学経済学部卒。大学卒業後愛媛県西条市の税理士事務所で12年間の勤務の間に税理士試験に合格し平成27年4月に愛媛県松山市にて独立開業。スタッフ5人。法人の顧問先102件、確定申告約130件(平成30年実績)相続税申告年間約5件。“人の為に動く”を経営理念とし、愛媛県で一番話しやすい税理士と言われている。