高齢の両親などを養っている場合、所得税や住民税の計算を行う際に「老人扶養控除」が適用されるため、税金計算上有利な取扱いとなるでしょう。しかし老人扶養控除の適用を受けることで、思わぬデメリットが生じるかもしれません。
この記事では、老人扶養控除の要件や条件別の控除額、デメリットについて解説します。老人扶養控除についてきちんと理解することで、適用すべきかどうかを判断しましょう。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
老人扶養控除とは
老人扶養控除は70歳以上の親族を扶養している方が受けられる扶養控除です。
子供や親、祖父母などの親族を扶養している人は、基本的に居住費や食費などの生活費を負担しています。そのため、家族を養うために、扶養者は多くの金銭的負担を背負っているでしょう。
そこで家族・親族を養う扶養者に対して、一定の金額を所得金額から控除することで、その金銭的な負担を少しでも軽減する取り組みがなされています。このことを扶養控除と呼び、どのような人を扶養親族とするかによって、その金額が定められています。
その中で、扶養親族の年齢が70歳以上の場合、老人扶養控除と呼ばれる扶養控除が適用されるのです。
老人扶養控除の対象になる4つの要件
扶養控除の適用を受けると、所得税や住民税の負担が軽減されることとなります。そのため、適用できるかどうかは厳格に要件が定められており、誤って扶養控除を適用してしまうと、後から追加で納税が発生するかもしれません。
老人扶養控除を適用するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 70歳以上の配偶者ではない親族である
- 所得金額が48万円以下である
- 同一の生計である
- 事業専従者としての収入がない
これらの要件が、それぞれどのような内容となっているのか、確認していきましょう。
70歳以上の、配偶者ではない親族である
老人扶養控除の適用を受けるためには、老人扶養控除の対象となる人がその年の12月31日現在で70歳以上であることが必要です。
また、生活費を負担しているなどの要件を満たしていたとしても、対象となるのは親族のみです。親族となるのは、原則として6親等内の血族、及び3親等内の姻族です。
親や祖父母のみならず、兄弟姉妹や甥・姪、叔父や叔母、いとこなどは6親等内の血族となります。また、配偶者の親や祖父母、配偶者の兄弟姉妹などは、3親等内の姻族という扱いです。一方、いとこの配偶者は4親等の姻族であるため、この親族には含まれません。
なお、配偶者控除・配偶者特別控除という別の所得控除が適用されるので、配偶者については老人扶養控除の対象にはなりません。
所得金額が48万円以下である
老人扶養控除対象者の所得金額は48万円以下でなければなりません。
扶養に入れようとする人の所得金額が大きい場合、扶養されているとはいえないため、老人扶養控除の適用を受けられません。そのため、所得がわずかにしかないことが、老人扶養控除の適用を受けるための要件となっています。
なお、所得金額は収入金額とは異なるので、注意が必要です。
この点は、後ほど「老人扶養控除対象となる限度額は?」で詳しく説明します。
同一の生計である
扶養している人と扶養される人が同一の生計にあることが、老人扶養控除の要件となります。扶養される人は扶養する人のお金で生活をしているため、扶養控除の対象となるのです。
なお、生計が同一であるということは、必ずしも同居していることを意味しません。一緒に生活していなくても、仕送りをして生活費を負担していれば、同一の生計にあるため、老人扶養控除の対象となります。
事業専従者としての収入がない
親族に事業専従者としての収入がないことが老人扶養控除の要件となっています。なお、事業専従者とは、個人事業主と同一生計にある親族で、その事業主の事業に従事している人のことです。
青色申告を行う事業主の場合、事業専従者に対して支払った給与が、青色事業専従者給与として必要経費の額に含まれます。また白色申告を行う事業主の場合、事業専従者がいて、かつ確定申告書に必要事項を記載することで、事業専従者控除の適用を受けられます。
事業専従者として給与を受け取った人は、老人扶養控除の対象者にはなりません。老人扶養控除の適用を受けるか、事業専従者として給与を受け取るか、いずれかを選択することとなるのです。
老人扶養控除対象となる限度額は?
老人扶養控除の対象となるためには、いくつかの要件があります。
この中で毎年確認が必要となるのは、「所得金額が48万円以下である」ことです。老人扶養控除の対象となる人は所得制限が設けられているため、その金額に注意しなければなりません。
その中で間違えやすいのが、所得金額と収入金額との違いです。また、年金だけを受け取っていると、年金以外に給与がある人とでその考え方が異なるため、確認していきましょう。
所得が年金だけの場合:158万円
老人扶養控除の対象となるには、公的年金等の収入金額は158万円以下であることが必要です。
老人扶養控除の対象となる人が年金だけを受け取っており、他に収入がない場合、年金から所得が発生します。年金を受け取った場合、その所得区分は「雑所得(公的年金等)」です。
雑所得(公的年金等)の所得金額は、「公的年金等の収入金額-公的年金等の控除額」で計算します。このうち公的年金等の控除額は、老人扶養控除の対象となる70歳以上の人の場合、110万円となります。そのため、老人扶養控除の対象となるには、公的年金等の収入金額は158万円以下でなければなりません。
公的年金等の収入金額=公的年金等の控除額+所得金額 |
158万円=110万円+48万円 |
年金以外に給与所得がある場合:213万円
年金以外に給与所得を受け取っている場合、213万円以下の収入であれば、老人扶養控除の要件に当てはまります。
年金以外に給与所得を受け取っている場合、給与からも所得が発生します。この給与は「給与所得」となり、年金とは区分して所得金額の計算を行います。そのため、雑所得(公的年金等)に加えて給与所得の計算も行う必要があるのです。
給与所得の金額は、「その年の給与収入額-給与所得控除額」で計算します。給与所得控除額は、給与収入の金額によって変動しますが、その最低金額は55万円となっています。そのため、公的年金等控除額110万円と給与所得控除額55万円を合計した165万円の控除を受けられるため、合計では213万円までの収入であれば、所得は48万円以下となります。
給与と年金の合計収入金額=公的年金等控除額+給与所得控除額+所得金額 |
213万円=110万円+55万円+48万円 |
例えば、年金の収入金額が120万円、給与の吸入金額が93万円の場合、以下のような計算を行います。
雑所得(公的年金等)120万円-110万円=10万円
給与所得 93万円-55万円=38万円
合計 10万円+38万円=48万円
この場合、合計収入は120万円+90万円=213万円、所得金額は48万円となり、老人扶養控除の適用が受けられます。
ただし、雑所得(公的年金など)と給与所得はそれぞれに区別して計算する必要があり、両方の収入を合算したうえで控除額も合算して適用することはできないので注意が必要です。
老人扶養親族が障がい者の時は?
障がい者本人や、扶養親族に障がい者がいる人について、障がい者控除と呼ばれる控除金額が適用されます。加えて、障がい者控除の対象となった家族が70歳以上の場合、老人扶養控除の適用も受けることが可能です。
つまり、老人扶養親族が障がい者の場合、障がい者控除と老人扶養控除の両方を適用できます。
これにより、障がい者本人や障がい者の家族がいる人の控除額はさらに大きくなり、金銭的な負担が軽減されるでしょう。
分類 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
障がい者 | 27万円 | 26万円 |
特別障がい者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障がい者 | 75万円 | 53万円 |
所得税の障がい者控除の金額は、一般の障がい者の場合27万円、特別障がい者の場合40万円、同居特別障がい者の場合75万円となっています。また、老人扶養控除の金額は原則48万円、同居老親等に該当する場合は58万円です。
例えば、自身の母親(75歳・特別障がい者)と同居する場合、同居特別障がい者75万円、老人扶養控除(同居老親等)58万円の合計133万円の控除が受けられます。
所得税と住民税の控除額まとめ
老人扶養控除を適用するための収入要件について、具体的な金額で確認してきました。そこで、実際に老人扶養控除の適用を受けると、どれだけの控除額となり、いくらの税額が減額となるのでしょうか。
実際の収入金額に応じた、老人扶養控除の影響額を確認していきましょう。
所得税について
所得税の計算上、老人扶養控除の金額は以下のようになります。
区分 | 控除額 |
老人扶養控除 | 48万円 |
老人扶養控除のうち同居老親等 | 58万円 |
また、所得税の税率は所得金額に応じて変動します。
例えば、50歳のサラリーマンが自分の母親(75歳)を老人扶養控除に入れる場合、どれくらいの税額が軽減されるのかをまとめました。ここでは、給与所得控除のほか、社会保険料控除(収入金額×15%で計算)と基礎控除の適用を受けるものとして計算しています。
給与収入の額 | 軽減される税額(別居の場合) | 軽減される税額(同居の場合) |
300万円 | 24,000円 | 29,000円 |
400万円 | 24,000円 | 29,000円 |
500万円 | 48,000円 | 58,000円 |
600万円 | 48,000円 | 58,000円 |
700万円 | 96,000円 | 116,000円 |
800万円 | 96,000円 | 116,000円 |
900万円 | 96,000円 | 116,000円 |
1,000万円 | 96,000円 | 116,000円 |
住民税について
住民税の計算上、老人扶養控除の額は以下のようになります。
区分 | 控除額 |
老人扶養控除 | 38万円 |
老人扶養控除のうち同居老親等 | 45万円 |
住民税の税率は、所得金額の多い・少ないに関わらず、一律10%となっています。そのため、所得税とは違い、老人扶養控除を適用したことによる税額の軽減額は変わりません。
給与収入の額 | 軽減される税額(別居の場合) | 軽減される税額(同居の場合) |
すべて | 38,000円 | 45,000円 |
75歳未満の親族なら健康保険料が0円になる
税金計算の他、健康保険についても家族を扶養に入れることが可能です。そして、老人扶養控除の対象となった親や祖父母などは、健康保険の被扶養者となる可能性があります。
75歳未満の被扶養親族が健康保険の被扶養者となった場合、自身で健康保険料を負担する必要はありません。年金を受給しているだけでも国民健康保険料としてかなりの金額を負担しているため、税金以上に大きなメリットとなる場合もあります。
ただし、別居している人を健康保険の扶養に入れるには、被扶養者の年収より多い仕送りをしていることが必要です。この点は、老人扶養控除の対象とする場合に比べて、より厳しい条件が定められているため、注意しましょう。
老人扶養控除のデメリット
ここまで、老人扶養控除の適用を受けると税金や健康保険料の負担に大きなメリットがあるとご紹介してきました。
ただ、老人扶養控除の適用を受けることは、必ずしもメリットばかりではありません。そこで、どのようなデメリットがあるのか、その内容を確認しておきましょう。
介護保険料が上がる
老人扶養控除を適用することで、介護保険料が上がってしまうかもしれません。
老人扶養控除の被扶養者となった人は70歳以上であるため、年金などの収入金額に応じた介護保険料を支払わなければなりません。この介護保険料の金額の計算は、個人別に行われるのではなく、世帯収入金額に基づいて行われます。
親族が老人扶養控除の対象者になると、扶養者と同一世帯であるとみなされて世帯収入金額が増えてしまいます。その結果、以前より介護保険料の金額が増えてしまうのです。
例えば、親族がもらっている年金の額が、年間80万円以下であるとします。老人扶養控除の適用を受けなかった場合、この親族が納付する介護保険料の額は、年間でおよそ22,000円です。しかし、扶養者が老人扶養控除の適用を受けるために同一世帯となった場合、親族の年金収入が変わらなくても、介護保険料の額は年間およそ65,000円となります。
このように、扶養者と同一世帯になることで、親族が負担する介護保険料の額は大幅に増加してしまうのです。
介護サービスの利用料が上がる
介護サービスの利用料が上がってしまうことが老人扶養控除のデメリットとして挙げられます。
老人扶養控除の対象となる親などが介護サービスを利用している場合、その利用料を支払わなければなりません。この介護サービスの利用料は、対象となる人の経済状況によってその上限額が定められています。
例えば、世帯の全員が住民税を課税されておらず、本人の年金の額が80万円以下の場合、自己負担額の上限は1月あたり24,600円とされています。これに対して、世帯に住民税を貸されている人がいると、その上限額は月額44,400円と大幅に増加します。
毎月の上限額が2万円ほど増加すると、年間では24万円近く自己負担の額が増加してしまいます。介護サービスを利用している家族がいる場合、老人扶養控除に入れるとかえって介護サービスの利用料が増えてしまうのです。
老人ホーム等での食費や居住費が高くなってしまう
老人扶養控除を適用した場合、老人ホーム等での食費や居住費が高くなってしまうかもしれません。
老人扶養控除の対象となる人が老人ホームに入居している場合、扶養者は食費や居住費を負担しなければなりません。この食費や居住費は、世帯に属する人の住民税の納付状況や年金収入の額により、4段階に区分されています。
例えば食費の場合、住民税が非課税であり、年金収入が80万円以下の場合、毎月の上限額は12,000円です。一方、親族が老人扶養控除に入り扶養者と同一世帯になると、その上限額は42,000円になります。
毎月の上限額が30,000円も増加してしまうと、金銭的な負担が大きくなってしまうでしょう。老人扶養控除を適用することで、本当に負担が減るかどうかしっかりと考えることが必要です。
扶養控除申告書の書き方
サラリーマンの方など、多くの方は老人扶養控除の適用を受けるために、年末調整で扶養控除申告書を勤務先に提出します。
もともと、扶養控除申告書は年末調整の必要書類ですが、この申告書を提出すれば自動的に老人扶養控除が計算されるわけではありません。
そこで、老人扶養控除の適用を受けるために、どのように記載する必要があるのか、確認していきましょう。
扶養親族の状況によって変わる書き方
扶養控除申告書とは、以下のような1枚の書類です。
年末調整を行う際に勤務先から交付され、年末調整の計算を行う前に提出します。
住所や氏名など、記載内容に難しい点はないため、ほとんど意識せずに記載している方も多いでしょう。しかし、老人扶養控除の適用を受ける際には、ポイントを抑えておく必要があります。
ここでは、扶養親族が70歳以上で同居している場合、扶養親族が70歳以上で同居していない場合、障がい者控除の適用を受ける場合の記載例を確認していきましょう。
扶養親族が70歳以上で、同居している
扶養親族が70歳以上で同居している場合、老人扶養控除の中でも大きな金額の控除を受けられます。
そのため、扶養控除申告書に次の2つが分かるように正しく記載しなければなりません。
- 70歳以上であること
- 同居していること
70歳以上であることを明らかにするために、控除対象者の生年月日を記載します。
同居していることを明らかにするため、「同居老親等」にチェックを入れる。
この2点を正しく記載することで、老人扶養控除(同居老親等)の適用を受けることができるのです。
扶養親族が70歳以上で、同居していない
扶養親族が70歳以上で同居していない場合も、老人扶養控除の適用を受けられます。
この場合、扶養控除申告書には、次の2点を記載します。
- 70歳以上であること
- 同居していないこと
70歳以上であることを明らかにするため、控除対象者の生年月日を正しく記載する。
同居していないことは、「その他」にチェックを入れることで明らかにします。
なお、同居していない場合には、仕送りしているなどの事実があり、同一の生計であることが要件とされています。年末調整において、仕送りをしたことを示す書類の提出は求められていませんが、銀行の振込明細や預金通帳などの書類は保管しておきましょう。
障がい者控除の記載例
老人扶養控除の対象者の中には、障がい者控除の対象となる人もいると思います。このような場合、老人扶養控除だけでなく、障がい者控除の記載も必要となります。
障がい者控除の記載は、同じ扶養控除申告書に行います。控除対象扶養親族の下に、障がい者などに該当する人がいる場合にチェックを入れ、その人数を記載する欄が設けられているため、そこに正しく記載しましょう。
確定申告や還付申告でも申請できる
新たに老人扶養控除の対象に親を入れようとしたものの、会社の年末調整に間に合わなかった場合、自身で確定申告を行って適用を受けられます。
また、過去に老人扶養控除の適用を受け忘れていた場合には、過去にさかのぼって還付申告ができます。
ここでは、確定申告により老人扶養控除を適用する方法について解説していきます。
年末調整に間に合わない場合は確定申告
勤務先に提出する扶養控除申告書は、勤務先ごとに提出期限が決まっているため、年末調整に間に合わない場合があります。この場合、年末調整では老人扶養控除の適用を受けないで、確定申告で老人扶養控除の適用が受けられます。
確定申告で老人扶養控除の適用を受ける場合、第一表の「⑲扶養控除」の欄に老人扶養控除額を記載します。また、第二表の「◯配偶者や親族に関する事項」に、対象者の氏名・個人番号・続柄・生年月日を記載します。
勤務先から交付される源泉徴収票が必要なので、なくさないようにしましょう。
所得控除の額が増加するため、確定申告を行うと、納めすぎた税額が還付金として戻ってきます。
過去5年分をさかのぼる還付申告
会社員は、通常確定申告を行う必要はなく、年末調整ですべての税額計算が完結します。過去に確定申告していない年分については、確定申告期限を過ぎてからでも、還付申告を行って税額を還付してもらえます。
還付申告を行う場合、最長5年分までさかのぼることができます。
還付申告を行うことで、老人扶養控除によって本来支払う必要のなかった分の税金が返却されるかもしれません。
還付金がもらえるかもしれないと思う方は、還付申告を行ってみましょう。
監修税理士からのコメント
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
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この記事の監修税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台