老人扶養控除を活用すれば、所得税や住民税の支払金額を大きく減らすことが可能です。一方で適用条件が細かく決められているので、やや難しい制度といえます。
この記事では、老人扶養控除の定義や条件、控除される金額についてくわしく解説します。
老人扶養控除=70歳以上の親族を扶養に入れて節税ができるしくみ
老人扶養控除とは、
「70歳以上の親族を扶養に入れている方向けの控除制度」
です。一般的な扶養よりも大きな節税効果のある点が特徴です。
老人扶養控除に入った70歳以上の人は「老人扶養親族」と呼びます。
所得税や住民税の額は、その年の所得の大きさによって変動します。老人扶養控除を活用すれば、課税対象となる所得を減らせるので、結果的に納税金額が減るわけです。
「同居」か「別居」かで控除金額が変わる
扶養に入れる親族と同居しているか別居しているかで、控除される金額が変わります。
扶養に入れる対象 | 控除金額 |
69歳以下 | 38万円 |
70歳以上&扶養者と別居 | 48万円 |
70歳以上&扶養者と同居 | 58万円 |
また「同居」については、必ずしも同じ家に住んでいる必要はありません。以下のようなケースでは同居に該当すると認められることが多いです。
- 別居ではあるが、生活費や医療費を継続的に仕送りしている
- 親が一時的に入院をしているが、住民票の住所は同じ
重要なのは生活を共にしていることより、「扶養に入れる親族が納税者のお金で生計を立てているかどうか」です。
老人扶養親族が障がい者の場合は控除を併用できる
障がい者本人や、扶養親族に障がい者がいる人について、「障がい者控除」と呼ばれる控除金額が適用されます。加えて、障がい者控除の対象となった家族が70歳以上の場合、老人扶養控除も併用できます。
分類 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
障がい者 | 27万円 | 26万円 |
特別障がい者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障がい者 | 75万円 | 53万円 |
たとえば自身の母親(75歳・特別障がい者)と同居する場合、同居特別障がい者75万円、老人扶養控除(同居老親等)58万円の合計133万円の控除が受けられます。
老人扶養控除が適用できる4つの条件
老人扶養控除を適用するには、以下4つの条件を満たしている必要があります。
- 70歳以上の配偶者ではない親族である
- 所得金額が48万円以下である
- 同一の生計である
- 事業専従者としての収入がない
順番に詳しく解説します。
70歳以上の配偶者ではない親族である
1つ目の条件は、「老人扶養控除の対象となる人がその年の12月31日現在で70歳以上である」ことです。加えてその対象は、配偶者ではない親族である必要があります。
親族の範囲も決められています。別居の場合は以下に該当することが条件です。
- 父母
- 祖父母
- 配偶者の父母
- 配偶者の祖父母
- 配偶者の兄弟姉妹
- 兄妹姉妹
- 甥姪
- 叔父叔母
- 従兄弟
同居の場合は納税者もしくは配偶者の父母・祖父母のみ(=直系親族)が対象です。別居より対象範囲が狭いので注意してください。
所得金額が48万円以下である
老人扶養控除対象者の所得金額は48万円以下でなければなりません。
扶養に入れようとする人の所得金額が大きい場合、扶養されているとはいえないため、老人扶養控除の適用を受けられません。
また所得金額は収入金額とは異なります。以下で具体例とともに解説します。
所得が年金だけの場合:158万円
公的年金等の収入金額が158万円以下なら、老人扶養控除の対象になります。
老人扶養控除の対象となる人が年金だけを受け取っており、他に収入がない場合、年金から所得が発生します。年金を受け取った場合、その所得区分は「雑所得(公的年金等)」です。
雑所得(公的年金等)の所得金額は、「公的年金等の収入金額-公的年金等の控除額」で計算します。このうち公的年金等の控除額は、老人扶養控除の対象となる70歳以上の人の場合、110万円となります。そのため、老人扶養控除の対象となるには、公的年金等の収入金額は158万円以下でなければなりません。
年金以外に給与所得がある場合:213万円
年金以外に給与所得を受け取っている場合、213万円以下の収入であれば、老人扶養控除の要件に当てはまります。
年金以外に給与所得を受け取っている場合、給与からも所得が発生します。この給与は「給与所得」となり、年金とは区分して所得金額の計算を行います。そのため、雑所得(公的年金等)に加えて給与所得の計算も行う必要があるのです。
給与所得の金額は、「その年の給与収入額-給与所得控除額」で計算します。公的年金等控除額110万円と給与所得控除額55万円(最低金額)を合計した165万円の控除を受けられるため、合計では213万円までの収入であれば所得は48万円以下となります。
同一の生計である
扶養している人と扶養される人が同一の生計にあることが、老人扶養控除の要件となります。扶養される人は扶養する人のお金で生活をしているため、扶養控除の対象となるのです。
なお、生計が同一であるということは、必ずしも同居していることを意味しません。一緒に生活していなくても、仕送りをして生活費を負担していれば、同一の生計にあるため、老人扶養控除の対象となります。
事業専従者としての収入がない
親族に事業専従者としての収入がないことも、老人扶養控除の要件となっています。
事業専従者とは、個人事業主と同一生計にある親族で、その事業主の事業に従事している人のことです。
事業専従者として給与を受け取った人は、老人扶養控除の対象者にはなりません。老人扶養控除の適用を受けるか、事業専従者として給与を受け取るか、いずれかを選択することとなるのです。
老人扶養控除を適用するメリット
老人扶養控除の適用には、税務上と社会保険上のメリットがあります。両者について詳しく解説していきます。
老人扶養控除で所得税&住民税を節税できる
一番のメリットは節税効果です。課税所得から控除される分、所得税と住民税の額が安くなります。
具体的にどのくらい安くなるのか、所得税と住民税にわけてシミュレーションを見てみましょう。
所得税の節税金額シミュレーション
所得税の計算上、老人扶養控除の金額は以下のようになります。
区分 | 控除額 |
老人扶養控除 | 48万円 |
老人扶養控除のうち同居老親等 | 58万円 |
また、所得税の税率は所得金額に応じて変動します。
たとえば、50歳のサラリーマンが自分の母親(75歳)を老人扶養控除に入れる場合、どれくらいの税額が軽減されるのかをまとめました。ここでは、給与所得控除のほか、社会保険料控除(収入金額×15%で計算)と基礎控除の適用を受けるものとして計算しています。
給与収入の額 | 軽減される税額(別居の場合) | 軽減される税額(同居の場合) |
300万円 | 24,000円 | 29,000円 |
400万円 | 24,000円 | 29,000円 |
500万円 | 48,000円 | 58,000円 |
600万円 | 48,000円 | 58,000円 |
700万円 | 96,000円 | 116,000円 |
800万円 | 96,000円 | 116,000円 |
900万円 | 96,000円 | 116,000円 |
1,000万円 | 96,000円 | 116,000円 |
住民税の節税金額シミュレーション
住民税の計算上、老人扶養控除の額は以下のようになります。
区分 | 控除額 |
老人扶養控除 | 38万円 |
老人扶養控除のうち同居老親等 | 45万円 |
住民税の税率は、所得金額の多い・少ないに関わらず、一律10%となっています。そのため、所得税とは違い、老人扶養控除を適用したことによる税額の軽減額は変わりません。
給与収入の額 | 軽減される税額(別居の場合) | 軽減される税額(同居の場合) |
すべて | 38,000円 | 45,000円 |
老人扶養親族は健康保険料を負担する必要がなくなる
老人扶養親族側には社会保険上のメリットがあります。扶養された親族は、健康保険料を負担しなくても保険適用を受けられるのです。
ただし老人扶養親族は75歳未満であることが条件です。75歳以上の場合は後期高齢者医療保険への加入が義務づけられています。
老人扶養控除を受ける際の注意点3つ
老人扶養控除にはメリットだけでなく、注意しておきたい点もあります。事前に把握した上で、老人扶養控除を活用するかどうか決めましょう。
介護保険料が上がる
老人扶養控除を適用することで、介護保険料が上がってしまうかもしれません。
老人扶養控除の被扶養者となった人は70歳以上であるため、年金などの収入金額に応じた介護保険料を支払わなければなりません。この介護保険料の金額の計算は、個人別に行われるのではなく、世帯収入金額に基づいて行われます。
親族が老人扶養控除の対象者になると、扶養者と同一世帯であるとみなされて世帯収入金額が増えてしまいます。その結果、以前より介護保険料の金額が増えてしまうのです。
介護サービスの利用料が上がる
介護サービスの利用料が上がることも、老人扶養控除のデメリットです。
老人扶養親族が介護サービスを利用している場合、その利用料を支払わなければなりません。この利用料は、対象となる人の経済状況によってその上限額が定められています。
たとえば親と別居しており、親の年金の額が80万円以下の場合、自己負担額の上限は1月あたり24,600円です。一方で親と同居しつつ老人扶養控除にも入れているなら、その上限額は月額44,400円と約2万円増加します。
老人ホーム等での食費や居住費が高くなる
老人扶養控除を適用した場合、老人ホーム等での食費や居住費が高くなってしまうかもしれません。
老人扶養控除の対象となる人が老人ホームに入居している場合、扶養者は食費や居住費を負担しなければなりません。この食費や居住費は、世帯に属する人の住民税の納付状況や年金収入の額により、4段階に区分されています。
たとえば食費の場合、住民税が非課税であり、年金収入が80万円以下の場合、毎月の上限額は12,000円です。一方、親族が老人扶養控除に入り扶養者と同一世帯になると、その上限額は42,000円になります。
毎月の上限額が30,000円も増加するのは、多くの人にとって負担なはず。老人扶養控除を適用することで、総合的な負担が本当に減るのか事前に検討しましょう。
扶養控除申告書の書き方
サラリーマンの方など、多くの方は老人扶養控除の適用を受けるために、年末調整で扶養控除申告書を勤務先に提出します。
もともと、扶養控除申告書は年末調整の必要書類ですが、この申告書を提出すれば自動的に老人扶養控除が計算されるわけではありません。
そこで、老人扶養控除の適用を受けるために、どのように記載する必要があるのか、確認していきましょう。
扶養親族が70歳以上で、同居しているケース
扶養控除申告書とは、以下のような1枚の書類です。
年末調整を行う際に勤務先から交付され、年末調整の計算を行う前に提出します。
住所や氏名など、記載内容に難しい点はないため、ほとんど意識せずに記載している方も多いでしょう。しかし、老人扶養控除の適用を受ける際には、ポイントを抑えておく必要があります。
ここでは、扶養親族が70歳以上で同居している場合、扶養親族が70歳以上で同居していない場合、障がい者控除の適用を受ける場合の記載例を確認していきましょう。
扶養親族が70歳以上で、同居しているケース
扶養親族が70歳以上で同居している場合、老人扶養控除の中でも大きな金額の控除を受けられます。
そのため、扶養控除申告書に次の2つが分かるように正しく記載しなければなりません。
- 70歳以上であること
- 同居していること
70歳以上であることを明らかにするために、控除対象者の生年月日を記載します。
同居していることを明らかにするため、「同居老親等」にチェックを入れる。
この2点を正しく記載することで、老人扶養控除(同居老親等)の適用を受けることができるのです。
扶養親族が70歳以上で、同居していないケース
扶養親族が70歳以上で同居していない場合も、老人扶養控除の適用を受けられます。
この場合、扶養控除申告書には、次の2点を記載します。
- 70歳以上であること
- 同居していないこと
70歳以上であることを明らかにするため、控除対象者の生年月日を正しく記載する。
同居していないことは、「その他」にチェックを入れることで明らかにします。
なお、同居していない場合には、仕送りしているなどの事実があり、同一の生計であることが要件とされています。年末調整において、仕送りをしたことを示す書類の提出は求められていませんが、銀行の振込明細や預金通帳などの書類は保管しておきましょう。
障がい者控除と併用するケース
老人扶養控除の対象者の中には、障がい者控除の対象となる人もいると思います。このような場合、老人扶養控除だけでなく、障がい者控除の記載も必要となります。
障がい者控除の記載は、同じ扶養控除申告書に行います。控除対象扶養親族の下に、障がい者などに該当する人がいる場合にチェックを入れ、その人数を記載する欄が設けられているため、そこに正しく記載しましょう。
確定申告や還付申告でも老人扶養控除を申請できる
新たに老人扶養控除の対象に親を入れようとしたものの、会社の年末調整に間に合わなかった場合、自身で確定申告を行って適用を受けられます。
また、過去に老人扶養控除の適用を受け忘れていた場合には、過去にさかのぼって還付申告ができます。
ここでは、確定申告により老人扶養控除を適用する方法について解説していきます。
年末調整に間に合わない場合は確定申告
勤務先に提出する扶養控除申告書は、勤務先ごとに提出期限が決まっているため、年末調整に間に合わない場合があります。この場合、年末調整では老人扶養控除の適用を受けないで、確定申告で老人扶養控除の適用が受けられます。
確定申告で老人扶養控除の適用を受ける場合、第一表の「⑲扶養控除」の欄に老人扶養控除額を記載します。また、第二表の「◯配偶者や親族に関する事項」に、対象者の氏名・個人番号・続柄・生年月日を記載します。
勤務先から交付される源泉徴収票が必要なので、なくさないようにしましょう。
所得控除の額が増加するため、確定申告を行うと、納めすぎた税額が還付金として戻ってきます。
過去5年分をさかのぼる還付申告
会社員は、通常確定申告を行う必要はなく、年末調整ですべての税額計算が完結します。過去に確定申告していない年分については、確定申告期限を過ぎてからでも、還付申告を行って税額を還付してもらえます。
還付申告を行う場合、最長5年分までさかのぼることができます。
還付申告を行うことで、老人扶養控除によって本来支払う必要のなかった分の税金が返却されるかもしれません。
還付金がもらえるかもしれないと思う方は、還付申告を行ってみましょう。
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