この記事では寄附金控除の概要について説明し、控除の上限や計算方法、税額控除できる寄附金、確定申告で寄附金控除をする方法について紹介します。
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
寄附金控除(所得控除)とは
寄附金控除(所得控除)は確定申告の際に所得から寄附金の額に応じた控除額を差し引いて、節税できる制度です。寄附金すべてを所得から控除できるわけではなく、寄附金控除の対象となる寄附金やその金額には決まりがあります。
まず寄附金控除とは何かについて概要を説明し、寄附金控除の対象になる寄附や、具体的な計算方法について紹介しましょう。
寄附金控除(所得控除)とは
寄附金控除(所得控除)とは国や地方公共団体、NPO法人などに寄附を行なった場合、確定申告の際に所得控除が受けられる制度です。
課税対象となる所得から差し引く所得控除の一種で、控除額が多いほど所得税が少なくなります。
寄附金控除の対象団体
寄附金控除の対象になる寄附は「特定寄附金」と呼ばれ、次の団体に寄附した場合に該当します。
- 国、地方公共団体
- 特定公益増進法人に対する寄附のうち、教育や科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献に寄与すると認められた法人
独立行政法人
地方独立行政法人のうち、一定の業務を主たる目的とするもの
日本司法支援センター、自動車安全運転センター、日本私立学校振興・共済事業団及び日本赤十字社
公益社団法人、ユニセフなど公益財団法人
私立学校法人
社会福祉法人
更生保護法人 - 特定公益信託のうち一定のもの
- 政治活動に関する寄附金のうち一定のもの
- 「国境なき医師団」など認定NPO法人に対する寄附金のうち一定のもの
寄附金控除の上限と計算方法
寄附金控除額は、寄附した金額をすべて控除できるわけではありません。その年の総所得金額等の40%が上限になり、1年間に支出した特定寄附金の総額から2,000円を差し引いた額が寄附金控除額です。
この寄附金控除額を1年間の所得から差し引き、所得に応じた税率を乗じたものが寄附金控除後の税額になります。
寄附金控除の計算例
年収450万円のサラリーマンが3万円のふるさと納税をした場合にどれくらい節税できるのか、計算例と共に見てみましょう。
給与所得控除額の計算
最初に、給与収入額450万円に対する給与所得控除額を計算します。給与所得控除額の計算方法は国税庁のページで確認できますが、この事例では以下の通りです。
給与所得控除額:4,500,000円×20%+440,000円=1,340,000円
給与所得金額の計算
給与収入金額450万円から給与所得控除額を引いて給与所得額を求めます。
給与所得金額:4,500,000円-1,340,000円=3,160,000円
所得控除額の計算
給与所得金額から差し引く所得控除金額を求めます。この事例で適用する所得控除は基礎控除と寄附金控除の2つで、それぞれの金額および合計額は以下の通りです。
基礎控除額:480,000円
寄附金控除額:30,000円-2,000円=28,000円
所得控除額(合計):28,000円+480,000円=508,000円
課税所得金額の計算
給与所得金額から所得控除額を引いて課税所得金額を算出します。
課税所得金額= 3,160,000円-50,8000円=2,652,000円
所得税額の計算
所得税の税率は課税所得金額の大きさによって変わり、この事例で適用される税率は10%です。課税所得金額に税率10%を乗じて所得税額を求め、さらに所得税額に復興特別所得税の税率2.1%を乗じて復興特別所得税額を求めます。
所得税額:2,652,000円×10%-97,500円=167,700円
復興特別所得税額:167,700円×2.1%=3,521円
所得税と復興特別所得税の合計額は171,200円です。
一方、寄附金控除の適用を受けない場合(所得控除が基礎控除のみの場合)の所得税額は、以下のようになります。
所得税額:(3,160,000円-480,000円)×10%-97,500円=170,500円
復興特別所得税額:170,500円×2.1%=3,580円
所得税と復興特別所得税の合計額は174,000円です。つまり、寄附金控除による節税額は下記の通りです。
寄附金控除による節税額:174,000円(寄附金控除なし)-171,200円(寄附金控除あり)=2,800円
上記の例の場合、寄附金控除の適用を受けることで、2,800円の節税になります。
寄附金特別控除(税額控除)とは
寄附金控除のうち、いくつかの寄附については所得控除だけでなく寄附金特別控除として税額から控除する計算方法を選ぶこともできます。税額控除は税額から直接差し引けるため、所得控除よりも節税効果が高いです。
ここでは寄附金特別控除(税額控除)の概要と対象団体、計算方法を紹介します。
寄附金特別控除(税額控除)とは
寄附金特別控除(税額控除)とは所得税の算出額から直接控除できる方法です。所得から差し引いて税率を乗じる所得控除に比べ、節税効果が高くなります。
税額控除ができる寄附金特別控除は、特定寄附金のうち限られた寄附金が対象です。寄附金控除と比較して、有利になる方を選択できます。ただ、一般的には税額控除の方が有利です。
寄附金特別控除の対象団体
寄附金控除だけでなく寄附金特別控除の対象になるのは、次の3種の団体への寄附です。
- 政党等寄附金
- 認定NPO法人
- 公益社団法人等(公益社団法人、公益財団法人、私立学校法に規定する法人、社会福祉法人、更生保護法人、国立大学法人等)
寄附金特別控除の上限と計算方法
寄附金特別控除の計算方法は3種の寄附金それぞれに異なります。
政党等寄附金
(政党等に対する寄附金の年間合計額-2,000円)×30%
認定NPO法人
(認定NPO法人等に対する寄附金の年間合計額-2,000円)×40%
公益社団法人等
(公益社団法人等に対し一定の要件を満たす寄附金の年間合計額-2,000円)×40%
上で求めた寄附金特別控除額の100円未満の端数は切捨てになります。控除額はその年の総所得金額等の40%が上限になり、それを超える控除はできません。
住民税における寄附金控除について
寄附金控除は所得税と住民税の両方から差し引ける場合もあります。ふるさと納税や日本赤十字社などへの募金は、所得税だけでなく住民税からも差し引けます。所得税から控除できるそのほかの寄附金も、都道府県・市区町村が条例で指定したものなら住民税から控除できます。
ここでは住民税における寄附金控除について紹介します。
住民税にも寄附金控除が適用される場合がある
所得税だけでなく、住民税にも寄附金控除が適用できる場合があります。確定申告の際に住民税からの控除を申告することで、住民税の節税が可能です。ただし、所得税の場合とは控除対象となる寄附金が異なり、自治体によっては申請できない寄附金もあります。
住民税における寄附金控除の対象となる寄附金
住民税の寄附金控除の対象になるのは、次の3種の寄附金です。
- 都道府県・市区町村に対する寄附金(ふるさと納税)
- 住所地の都道府県共同募金会/日本赤十字社支部に対する寄附金
- 都道府県・市区町村が条例で指定した寄附金
「都道府県・市区町村が条例で指定した寄附金」とは、所得税の控除対象になる寄附金(公益社団法人、公益財団法人、私立学校法上の法人、社会福祉法人、更生保護法人、国立大学法人等に対する寄附金)のうち、都道府県・市区町村が条例により指定したものです。
所得税の控除対象になる認定NPO法人でないNPO法人への寄附金でも、都道府県または市区町村が条例で個別に指定した場合は住民税の寄附金控除の対象になります。
住民税における寄附金控除の上限と計算方法
住民税における寄附金控除の計算方法は、寄附金の種類によって異なります。
「都道府県・市区町村に対する寄附金(ふるさと納税)」と「住所地の都道府県共同募金会/日本赤十字社支部に対する寄附金」の住民税における寄附金控除額を算出する場合、次の計算式で求めます。
(寄附金の総額 - 2,000円) × 10%
なお、寄附金の総額は総所得額等の30%が上限です。また、「都道府県・市区町村が条例で指定した寄附金」の場合、都道府県が指定する寄附金と市区町村が指定する寄附金では、それぞれ税率が異なるため注意しましょう。
都道府県が指定する寄附金:(寄附金の総額-2,000円)× 4%
市区町村が指定する寄附金:(寄附金の総額-2,000円)× 6%
都道府県と市区町村のどちらからも指定された寄附金の寄附金控除額は、税率10%で計算します。ただし、全国に20市(2021年1月現在)ある指定都市に住所を有する場合は、税率が次のように変わります。
都道府県:2%
市区町村:8%
都道府県と市区町村のどちらからも指定された寄附金の場合は、他の自治体と同じく10%で計算してください。
ふるさと納税にあって寄附金控除にない2つの特例
ふるさと納税は地方自治体に寄附をすると、地方の特産品がもらえる人気の制度です。ふるさと納税で寄附金控除を受ける場合には、他の寄附金にはない特例があります。
ここではふるさと納税だけにある2つの特徴について説明し、他の寄附金との違いを紹介しましょう。
確定申告が不要な「ワンストップ特例制度」
寄附金控除を受けるためには確定申告をしなければなりません。しかし、ふるさと納税には申請で確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」があります。
申請の期限は寄附をした年の翌年1月10日までで、本来所得税から控除される分の額も含んだ控除額の全額が翌年度の住民税から控除されます。
また、ふるさと納税以外にも寄附をしていて確定申告をする場合、ワンストップ制度との併用はできません。ふるさと納税と一緒に確定申告する必要があります。
申請条件
ワンストップ特例制度を利用するには要件があり、次の2つに該当する人が対象です。
- 確定申告や住民税の申告をする必要がない給与所得者等
- 年間の寄附先が5自治体以内
申請の流れ
①:申請用紙を用意する
申請には申請用紙が必要です。ふるさと納税をした自治体から寄附金受領証明書と一緒に送られてくる場合があります。手元にない場合は、自治体に問い合わせてみましょう。
②:本人確認書類を用意する
申請書を送る際に、マイナンバーもしくは本人を確認できる書類の写しを同封しなければなりません。マイナンバーカードの有無により、次の3つのパターンのうちいずれかの方法をとります。
マイナンバーカードを所有している場合
マイナンバーカードの両面の写し
マイナンバーカードを所有していない場合
運転免許証もしくはパスポートを持っている場合、以下の2点が必要です。
- マイナンバーの確認のため通知カードもしくは住民票(マイナンバー入り)の写し
- 運転免許証もしくはパスポートの写し
運転免許証もパスポートも持っていない場合は、以下の2点が必要です。
- マイナンバーの確認のため通知カードもしくは住民票(マイナンバー入り)の写し
- 健康保険証や年金手帳など、提出先自治体が認める公的書類2点以上の写し
③:申請用紙に必要事項を記入する
申請用紙に必要事項を記入します。漏れのないよう、すべての項目を書き入れましょう。
④:ふるさと納税を行った自治体に送付する
封筒に入れ、必要な額の切手を貼ってふるさと納税を行った先の自治体に送付します。
住民税の特例控除
ふるさと納税の寄附金控除では基本控除額のほかに、個人住民税所得割額の2割を限度とする特例控除が適用されます。計算式は次の通りです。
(寄附金-2,000円)×(90%-所得税×1.021)
寄附金控除には確定申告が必要!
寄附金控除で節税するためには、確定申告が必要です。寄附をした事実だけでは、所得税や住民税から控除されません。確定申告には、寄附したことを証明する必要書類の添付も必要です。
ここでは確定申告で寄附金控除するために必要な書類と書き方について説明していきます。
寄附金控除には確定申告が必要
寄附金控除によって所得税や住民税を安くするには、寄附したことを証明する受領証明書など、必要書類を揃えて確定申告しなければなりません。
ふるさと納税でワンストップ特例制度を利用した場合は確定申告の必要はありませんが、それ以外は必ず確定申告する必要があります。
寄附金控除に必要な書類
確定申告で寄附金控除を申告する際に必要な書類は、次の通りです。
- 確定申告書
- 寄附金受領証明書
- マイナンバーカードもしくは番号通知カード、マイナンバー記載の住民票
- 本人確認書類
- 源泉徴収票
確定申告書は税務署や国税庁のホームページで取得できます。また確定申告書等作成コーナーを利用して作成したり、e-Taxで提出したりする場合には確定申告書の用意は必要ありません。
寄附金受領証明書は、寄附をした団体などから交付されます。サラリーマンなど給与所得者が申告する場合は所得金額を証明するため、源泉徴収票が必要です。
寄附金控除に必要な書類の書き方
寄附金控除に必要な確定申告書の書き方について説明します。確定申告書で寄附金控除に関係する箇所は、第一表に1ヶ所、第二表に2ヶ所です。
第一表
第一表の「寄附金控除」の欄に計算した寄附金控除額を書き入れます。
30,000円-2,000円=28,000円
第二表
次に、第二表の「寄附金に関する事項」の欄に寄附金の内容と金額、「住民税に関する事項」の欄に金額を計算して記入します。
住民税の計算は、次の通りです。
都道府県:30,000円-2,000円×4%=1,120円
市区町村:30,000円-2,000円×6%=1,680円
政令指定都市に在住している場合は、次の計算になります。
都道府県:30,000円-2,000円×2%=560円
市区町村:30,000円-2,000円×8%=2,240円
上記以外の確定申告書の書き方に関しては下記の記事をご覧ください。
寄附金控除は年末調整では対象外なので注意
会社員の場合、所得控除に関する証明書を会社に提出することで、生命保険料控除などの所得控除を年末調整で受けることができます。しかし、寄附金控除や医療費控除、雑損控除に関しては、年末調整で控除を受けることができません。これらの控除は個別の判断が必要になるためです。
寄附金控除のまとめ
寄附金に関する控除では所得控除のほかに税額控除を選択できる場合があります。どちらか有利な方を選ぶことができるため、それぞれの計算方法で試算してみることが大切です。また、所得税だけでなく住民税からも控除ができ、ふるさと納税の場合は確定申告が不要の特例もあります。
確定申告をする際は期限内(2/15~3/15)に申告できるよう、早めに必要書類を揃えて準備しましょう。
寄附金控除で節税しよう
寄附金控除は確定申告をしなければ受けられません。年末調整では受けることができないため、サラリーマンの場合は確定申告をすることで払い過ぎた税金を取り戻せます。寄附金が控除の対象になるかを必ず確認し、申告するようにしましょう。
監修税理士のコメント
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寄附金控除に関する疑問は税理士に相談しよう
寄附金控除の計算は複雑で、ふるさと納税だけでなく複数の団体に寄附をしていると正確な申請が難しい場合もあります。サラリーマンなど、確定申告をしたことがない人は特に大変でしょう。そのような場合は税理士に相談するのもおすすめです。
税理士に相談すれば寄附金控除できる寄附金を的確に判断し、正しい確定申告を指導してもらえます。「寄附金控除の計算がよくわからない」「申請が難しい」という人は、一度問い合わせてみるとよいでしょう。
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