「外国税額控除」を活用すれば二重課税を避けられ、余計な所得税を徴収される心配がなくなります。
外国税額控除を受けるためには確定申告をする必要がありますが、用意する書類が多く計算も複雑です。
そこで今回は外国税額控除について解説するとともに、確定申告の方法をわかりやすく解説します。
外国税額控除=所得税の二重課税を防ぐしくみ
外国税額控除とは、日本に住んでいる間に所得を得て、所得税を現地で納めた場合、日本での確定申告で控除を受けられるしくみです。
例えば、米国株式での配当では10%の源泉徴収がおこなわれますが、日本でも証券会社を通じて20.315%の税金を源泉徴収されます。日本と海外で税金を二重に納めているわけです。
外国税額控除はこういった二重課税を調節するために設けられており、外国で納めた税金をその年の所得税額から差し引けます。
外国税額控除を受けられる人
外国税額控除を受けられるのは、下記の条件に当てはまる人です。
- 日本に居住している人
- 居住地が日本であるときに、外国で所得を得て現地で所得税を納めている人
- 確定申告をした人
海外での所得とは、海外株式の配当金や海外にある不動産の収入などが該当します。
外国税額控除対象の外国所得税には適用範囲がある
外国税額控除の対象となる外国所得税には範囲があり、下記のように定められています。国税庁のホームページより一部抜粋したので確認しておきましょう。
外国所得税に含まれるもの
- 超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
- 個人の所得またはその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
- 個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、微税上の便利のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
外国所得税に含まれないもの
- 税を納付する人がその税の納付後、任意にその金額の全部または一部の還付を請求することができる税
- 税を納付する人が税の納付が猶予される期間を任意に定めることができる税
- 複数の税率の中から税を納付することとなる人と外国もしくはその他地方公共団体またはこれらの者により税率を合意する権限を付与された者との合意により税率が決定された税のうち一定の部分
その他、国税庁のホームページでは外国税額控除の適用対象を確認できます。該当するのかをしっかりとチェックしておきましょう。
ただし外国税額控除の適用範囲には公開されていないものもあり、税に詳しくない人には判断がしづらくなっています。自身の所得が外国税額控除の適用範囲内か迷う場合は、プロの税理士に依頼をするのがおすすめです。
外国税額控除のための確定申告
外国税額控除を受けるためには確定申告をしなければなりません。ここでは、外国税額控除で確定申告する際に必要な書類や記入例を説明していきます。
確定申告に必要な書類
外国税額控除を受ける際には下記の書類が必要になります。
- 確定申告書
- 外国税額控除に関する明細書
- 外国所得税を課されたことを証明する書類等
- 国外所得総額の計算に関する明細書
- 各年の控除限度額や納付した外国所得税の記載した書類
3や4は取引先が発行する「年間取引報告書」を利用すれば問題ありません。また、5は繰越控除を利用している場合に必要です。
「外国税額控除に関する明細書」と申告書の記入例
外国税額控除で確定申告する際には、外国税額控除に関する明細書と確定申告書を提出します。給与所得を得ているならば源泉徴収票と、証券会社が発行する「年間取引報告書」に記載されている数字を記入しながら計算するとよいでしょう。
外国税額控除に関する明細書では、外国で得た課税所得と源泉徴収された税額を記入します。
出典:国税庁HP(一部加工) |
確定申告書には給与所得や外国で得た課税所得を記入します。
出典:国税庁HP(一部加工) |
実際の所得税の計算では各種控除額などを差し引いて計算されます。下記の控除限度額の欄にあるように「①×③/②」などの式に従って計算していきましょう。
所得税の計算のほか、復興特別所得税の控除限度額や住民税の計算を行っていきます。
出典:国税庁HP(一部加工) |
これで「外国税額控除等の金額」が求められました。金額を、確定申告書の赤枠の部分に転記します。
出典:国税庁HP(一部加工) |
外国税額控除の計算方法
外国税額控除は国内外で課された税額から計算します。「限度額がある」「繰越できる」などいろいろなルールが定められているため、事前にしっかりと確認しておきましょう。
外国税額控除額を求める計算式
外国税額控除額の求め方をみていきましょう。計算式は下記となります。
外国税額控除の限度額=その年分の全世界所得税額×(その年分の国外所得税額÷その年分の所得総額)
所得税額とは課税所得に所得税率または法人税を掛けた額です。所得税率は以下のように、所得の金額に応じて変わります。
課税される所得金額(課税総所得金額) | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
参照:国税庁「所得税の税率」
たとえば課税所得500万であれば、
500万円×20%(所得税率)-42万7,500円(控除額)=57万2,500円
です。
国外所得額が100万円だった場合、外国税額控除の限度額は以下となります。
57万2,500円×(100万円÷500万円)=11万4,400円
控除額の計算シミュレーション
外国税額控除での確定申告は、すでに源泉徴収されている金額を含めて所得税額を再計算することを意味しています。例えば、配当収入を30万円得た場合、外国での源泉徴収税額は
「30万円×10%=3万円」
国内での源泉徴収は、
「(30万円-3万円)×所得税率15.315%=41,300円(100円未満切り捨て)」
となります(住民税含まず)。
一方で確定申告した場合は配当収入30万円にそのまま所得税率をかけるため、
「30万円×15.315%=45,900円」
です。
源泉徴収した場合と比較して、4,600円多くなっています。つまり、実際に確定申告で還付されるのは3万円ではなく
「3万円-4,600円=25,400円」
となるわけです。
確定申告によって外国で源泉徴収された3万円が丸々戻ってくるわけではないですが、申告した場合は25,400円が還付されるため、確定申告したほうがよいことには間違いありません。
外国税額控除の確定申告の注意点
外国税額控除の確定申告を行う前に、必ず知っておきたい2つの注意点を紹介します。
外国税額控除には限度額がある
外国税額控除には限度額が設定されており、全額が還付されるわけではありません。もう一度、計算式をみてみましょう。
外国税額控除の限度額=①その年分の全世界所得税額×(②その年分の国外所得税額÷③その年分の所得総額)
国内外すべての所得のうち、外国で得た所得金額の割合「②÷③」の金額を控除できるという式になっています。また①をかけることで、多くの課税所得を得ている人ほど控除を最大限に利用できるわけです。
たとえば、総所得のうち外国で得た所得の割合が50%の場合、所得税の50%相当額まで控除できるということを意味します。
控除限度額を超す場合は3年の繰越が可能
外国税額控除は翌年以降3年間繰り越すことが認められています。外国税額控除の限度額を下回った際には「控除余裕額」として、翌年以降3年間で限度額を上回ったときに使用できるしくみです。
外国税額控除の確定申告をやらないとどうなるのか
外国税額控除の確定申告を怠ると、海外で得た所得に二重課税がかけられてしまうため、その分収入が減ってしまいます。2月16日〜3月15日の間に必ず確定申告の手続きを済ませましょう。
外国税額控除の申請を忘れてしまっても、5年以内であれば「更正の請求」と呼ばれる手続きをすることで控除を受けられます。しかし更正の請求は書類作成がやや複雑なので、期日までに確定申告を終わらせるに越したことはありません。
外国税額控除の計算が難しい場合はプロの税理士に任せよう
外国税額控除の計算は非常に複雑になっています。なぜなら外国税額控除には、以下のようなあいまいな側面があるからです。
- どのような所得税が対象になるか明確に公表されていない
- 所得を得た国ごとに控除の限度額が異なる
- 正確な所得税を計算した後でないと算出できない
外国税額控除の計算に手間と時間を取られたくない場合は、プロの税理士に依頼するのがおすすめです。特に国際関係に強い税理士であれば、煩雑な計算を短時間で正確に行ってくれます。
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外国税額控除について:まとめ
外国税額控除は外国で源泉徴収された税金を控除できる制度です。外国株式や投資信託などで配当金を得た場合には、限度額があることや3年間繰り越せることなどを考慮した上で活用しましょう。
ただ、外国税額控除を受けるには確定申告をしなければなりません。外国税額控除の申告は提出書類が多く、計算も複雑です。
確定申告の経験がない、計算方法を理解できないなど困った際は、税金のプロである税理士に相談するのがオススメ。確定申告書の作成も代行してくれるため、わからないことがあれば税理士のサービスを利用しましょう。
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