生命保険等の保険の契約をした時「保険料は確定申告や年末調整で保険料控除の対象になる」と保険屋さんに聞いた覚えはないでしょうか? 保険料控除は必要書類に一定の情報を記載することで所得税が少なくなる制度ですが、控除額には定められた計算方法や上限があります。
今回は保険料控除の1つである生命保険料控除の書き方や、計算するといくら戻るのかなど説明していきます。
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
確定申告の生命保険料控除とは
生命保険料控除を含む保険料控除は、支払った保険金から一定額を所得から差し引ける控除制度です。確定申告時は「確定申告書」、年末調整時は「保険料控除申告書」に、所得税法で定められた計算式に基づき計算した数値を記載することで控除を受けられます。
保険料控除の種類
生命保険料控除は、4種類ある保険料控除のうちの1つです。保険料控除の計算方法や、上限額は保険の種類ごとに異なります。控除の対象となる保険の区分は以下です。
保険料控除の種類 | 申告時の必要書類 | 控除額 |
生命保険料控除 | 生命保険の掛金の控除証明書 | 年間の支払保険料に応じて決まっている |
地震保険料控除 | 地震保険の掛金の控除証明書 | 支払金額から算出
(上限5万円。加入している保険の種類による) |
社会保険料控除 | 国民年金控除証明書等 | 1年間に支払った全額 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済・個人型拠出年の支払い証明書 | 同上 |
保険料は「支払った年」が控除の対象です。たとえば、2022年分の国民年金保険料を2023年に支払った場合、2023年分の所得控除(保険料控除)となります。
また保険料は支払った人が控除の対象者となるため、たとえば配偶者名義の保険料であっても支払った人が夫であれば、夫の保険料控除とすることが可能です。
生命保険料控除の対象は3種類
生命保険料控除は「一般の生命保険」、「介護医療保険」、「個人年金」の3種類が対象です。
生命保険料控除の種類 | 分類 |
一般の生命保険料 | 旧生命保険 |
新生命保険 | |
介護医療保険料 | 新生命保険 |
個人年金保険料 | 旧生命保険 |
新生命保険 |
「一般の生命保険料」と「個人年金保険料」は「新と旧」に分類されています。「新と旧」は控除額の計算式と上限額に違いがあります。
確定申告で還付金を受け取れる
自営業者は確定申告、会社員は年末調整で原則、年間の所得税を計算します。個人事業主は年末調整の対象外のため、必ず自分で確定申告をおこなう必要があります。また会社員でも、年末調整時に保険料を書き忘れていたなどの理由で保険料控除の適用を受けなかった場合、確定申告をすることで還付を受ける事もできます。
年末調整の期限は勤務先の処理状況によりますが、確定申告の期限は通常3月15日です。
所得税は年間の収入をもとに税額を計算します。会社員の場合は年間の給与所得(発生月でなく1月~12月に支給されたもの)の合計額から各種控除を差し引いた額に税率をかけて計算します。会社員や公務員等の給与所得者が対象の年末調整は会社がおこなうため、生命保険料控除等を記載した必要書類を会社に提出すればあとは会社の方で税額を計算してくれます。
例 会社員の方の所得税計算イメージ
給与収入-給与所得控除=所得金額
所得金額-所得控除(「保険料控除」、「扶養控除」等)=課税所得 課税所得×税率=納税額 |
「保険料控除」は上記の「所得控除」に含まれます。
※給与所得控除とは収入金額に応じて一定額を給与収入から差し引く控除です。
※計算された納税額は「源泉徴収票」の「源泉徴収税額」の欄に記載されています。
会社員が年末調整で控除を受けなかったり期限までに提出できなかった場合、確定申告で還付を受ける事ができます。(年末調整で計算した税額と確定申告で保険料控除を考慮して計算した税額との差額が還付されます)
例 会社員の確定申告時の還付イメージ
年末調整で計算した税額-確定申告で保険料控除を考慮して計算した税額=差額が還付 |
年末調整で保険料控除を受けるのを忘れた場合
会社員が年末調整で「保険料控除」の記入を忘れていた場合、原則期限内であれば年末調整をし直せます。ただし年末調整の再計算はかなり手間がかかるため、最終的には会社の判断による所が大きいです。
年末調整で再計算を会社にしてほしい場合、早めに会社に申し出ることをおすすめします。
年末調整に間に合わなかった場合で「保険料控除」の還付を受けたい場合は自分で確定申告をすることも可能です。年末調整や確定申告の対象者と期限は、以下のとおりです。
種類 | 対象者 | 期限 |
年末調整 | 会社員等の給与所得者 | 1月31日 |
確定申告 | 個人事業主、年末調整で保険料控除を書き忘れた人等 | 3月15日 |
※年末調整は通常、12月~遅くても1月初旬に終わる会社が多いです。
※確定申告は自分で申告する方法と税理士に代理して申告してもらう方法があります。
生命保険料控除額の計算方法
生命保険料控除は支払った額の全額が控除の対象となるのではなく、一定の計算方法により算定した額が控除の対象となります。生命保険料控除は「一般の生命保険」、「介護医療保険」、「個人年金」に分類され控除額の合計が「最大12万円」となっており、計算方法は少し複雑です。
それぞれの生命保険料の上限額は以下のとおりです。「保険料生命保険料控除」の種類と区分は「控除証明書」に記載されています。
生命保険料控除の種類 | 分類 | 上限 |
一般の生命保険 | 旧生命保険 | 4万円~5万円 |
新生命保険 | ||
介護医療保険 | 新生命保険 | 4万円 |
個人年金保険 | 旧生命保険 | 4万円~5万円 |
新生命保険 |
2012年から制度変更された
生命保険料控除の上限額が2012年に変更されました。「2011年12月31日まで」に契約したものは「旧生命保険」、「2012年1月1日以後」に契約したものは「新生命保険」の対象です。
「旧生命保険か新生命保険」かは毎年保険会社から送られてくる「保険料控除証明書」に記載されています。保険料控除証明書は10月から11月頃に送られてきます。紛失した場合は保険会社に問い合わせると再発行してもらえる場合が多いです。
2012年1月1日以後に「旧生命保険」を更新した場合は「新生命保険」が適用されます。
保険の内容 | 対象となる期間 | 控除の上限額 |
旧生命保険 | 2011年12月31日までに契約したもの | 5万円 |
新生命保険 | 2012年1月1日以後に契約したもの | 4万円 |
旧契約の場合の計算方法
旧生命保険料控除は「年間の支払額」をもとに以下のとおり控除額を計算します。「年間の支払額」とは「控除証明書」に記載されている(控除証明書の一番下に記載されている場合が多い)数字で「申告額等」の名称で表示されています。
年間の支払保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,000円超~50,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,000円超~100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 50,000円 |
例 年間の支払い生命保険の額が「80,000円」の場合の控除額
80,000円×1/4+25,000円=45,000円 |
新契約の場合の計算方法
新生命保険料控除も「年間の支払額」をもとに以下のとおり控除額を計算します。
年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超~40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超~80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 40,000円 |
例 年間の支払い保険料の額が「80,000円」の場合の控除額
80,000円×1/4+20,000円=40,000円 |
新・旧契約共に加入している場合の計算方法
「新・旧」共に加入している場合の控除額の計算は以下のとおりです。
年間の支払保険料等 | 控除額 | 上限 |
旧生命保険料控除>6万円の場合 | 旧生命保険の計算式で計算した金額
(新生命保険料を除外する) |
50,000円 |
旧生命保険料控除≦6万円の場合 | 旧生命保険と新生命保険の計算式で計算した金額の合計額 | 40,000円 |
例 年間の支払い保険料の額が「旧生命保険、40,000円」、「新生命保険、5,000円」の場合の控除額
40,000円×1/2+12,500円=32,500円
32,500円+5,000円=37,500円 |
※旧生命保険料が「6万円以下」のため「新・旧」両方の合計額で控除額を計算します。
生命保険料控除でいくら戻る?
生命保険料控除を申告した場合、税金はいくらもどるのか計算してみましょう。
例 年間の支払保険料の額が以下の場合の控除額
生命保険料控除の種類 | 分類 | 年間の支払保険料 |
一般の生命保険 | 旧生命保険 | 70,000円 |
新生命保険 | 40,000円 | |
介護医療保険 | 新生命保険 | 50,000円 |
個人年金保険 | 旧生命保険 | 40,000円 |
生命保険料控除額の計算式
42,500円(①の金額)+32,500円(③の金額)+32,500円(④の金額)=107,500円 |
上記の計算式から生命保険料の控除額は「107,500円」となります。
年末調整で生命保険料控除をし忘れた会社員が生命保険料控除を申告することによる還付額(減額)のイメージは以下のとおりです(概算のため正確に計算した数字とは前後し、端数処理等の計算も省略しています)。
所得税 107,500円×5%=5,375円
住民税 107,500円×10%=10,750円 5,375円+10,750円=16,125円(申告した事による減額または還付のイメージ) |
※「年収400万円、配偶者一人」と仮定した場合、所得税率は5%になるため5%で計算しています。(復興所得税「所得税率×102.1%」は省略しています)
※住民税は還付ではなく減額になります。
※住民税はどの市区町村もおおむね10%です。
年末調整の際の生命保険料控除の書き方
会社員等の給与所得者が年末調整で保険料控除の適用を受けるためには「保険料控除申告書」に必要な情報を記載し、「生命保険料の控除証明書」を裏面に貼り付けて会社に提出します。年末調整は「会社員等の給与所得者」を対象とする制度のため、個人事業主は対象外です。
生命保険料控除の記載区分は以下のとおりです。
生命保険料控除の記載区分 | 分類 |
一般の生命保険 | 旧生命保険 |
新生命保険 | |
介護医療保険 | 新生命保険 |
個人年金保険 | 旧生命保険 |
例えば「一般の生命保険(新)」に2ヶ所加入している場合、原則は合計額を記入するのではなくそれぞれの会社に支払った年間の支払額を記入します。
必要な書類
会社員が生命保険料控除の適用を受けるための必要書類は「保険料控除申告書」と「生命保険料の控除証明書」です。
必要書類 | 内容 |
保険料控除申告書 | 申告書に必要な情報を記入して会社に提出 |
生命保険料の控除証明書 | 「保険料控除申告書」の裏面にのり付け等して貼り付ける |
※控除証明書は毎年10月~11月ごろに契約した保険会社から必ず送られてきます。
保険料控除証明書の書き方
生命保険料の計算が終わったら「保険料控除申告書」にその内容を記入します。
例 年間の生命保険料(一般の生命保険)の支払い額が「旧生命保険、40,000円」、「新生命保険、5,000円」の場合(保険会社の名称等の記入は省略しています)
控除額は見出し「新・旧契約共に加入している場合」の計算式を参照してください。
- 「一般の生命保険料」に保険会社等の名称、種類、保険期間、契約者名、受取人名を記載する
- 「新」または「旧」を記載
- 年間の生命保険料の支払い額を「保険料控除証明書」どおり「新と旧」それぞれ記載する((a),A,Bの欄、4ヶ所)
- それぞれの控除額を記載する(①、②の欄、2ヶ所)
- 控除額の合計額を記載する(③の欄)
- 実際の控除額を記載する(㋑の欄)
確定申告の際の生命保険料控除の書き方
個人事業主やフリーランス、あるいは会社員が年末調整で「生命保険料控除」を書き忘れていた場合、確定申告で「生命保険料控除」の適用を受ける事ができます。確定申告の期間は2月中旬~3月15日ですが3月に入ると税務署が混雑してきますので、税務署で直接相談したい方は2月中に行くのをおすすめします。
年末調整でも確定申告でも生命保険料控除の「計算方法」や「計算式」は同じですが書き方は異なります。
必要な書類
確定申告時に必要な書類は以下のとおりです。
対象者 | 必要書類 |
会社員等の給与所得者 |
|
個人事業主やフリーランス |
|
生命保険料控除証明書や源泉徴収票の原本は「電子申告(e-Tax)」の場合は記載内容を入力すれば提出を省略できます。ただし、税務署から内容確認のため提出を求められる場合がありますので、5年間保存しておく必要があります。
※紙や郵送で確定申告書を提出する場合であっても平成31年4月1日以後の申告は「源泉徴収票」の提出が不要となりました。
以下、生命保険料の控除証明書の参考画像です。
確定申告書の書き方
以下の例を参考に説明します。
例 年間の生命保険料(一般の生命保険)の支払い額が「旧生命保険、40,000円」、「新生命保険、5,000円」の場合(保険会社の名称等の記載は省略しています) |
控除額は見出し「新・旧契約共に加入している場合」の計算式を参照してください。
確定申告書第一表の書き方
上記画像の左側「生命保険料控除」の欄に「37,500」と記載(※計算式で計算した控除額を記入します)
確定申告書第二表の書き方
上記画像の右側「生命保険料控除」の新生命保険料の欄に「5,000」、旧生命保険料の欄に「40,000」と記載(※控除額ではなく実際の支払額を記入)
確定申告で生命保険料控除を受けるためのポイントまとめ
年末調整でも確定申告でも正しい知識さえあれば保険料控除の適用を受けるのは簡単です。確定申告で生命保険料控除を受けるためのポイントは以下のとおりです。
確定申告で生命保険料控除を受けるためのポイント |
|
年末調整や確定申告で保険料控除を受けるためのスケジュールは以下のとおりです。
時期 | 必要書類 | 内容 |
10月~11月ごろ | 生命保険料等の控除証明書 | 自宅に送られてくるため保管しておく(紛失した場合は再発行してもらう) |
11月~12月ごろ(会社員等の給与所得者のみ) | 保険料控除申告書(年末調整) | 会社から受け取った左記書類に必要な内容を記入し、控除証明書の原本を裏面に貼り付けて会社に提出 |
1月~2月ごろ | 確定申告書 | 自営業者や会社員で年末調整時に「保険料控除」の適用を受け忘れた場合は左記書類を税務署に提出 |
※確定申告書には還付される振り込み口座を記入する必要がありますので、口座を準備しておきましょう。
生命保険料控除は保険料控除証明書が到着してから年末調整や確定申告の時期まで期間が空きます。そのため控除を忘れてしまう、または証明書を無くしてしまい保険会社に再発行の連絡をするのが面倒くさくなってしまうケースも多いです。
仮に確定申告の期限が過ぎたとしても、生命保険料控除のみであれば罰金等はありませんので、税務署は提出を受け付けてくれます。
また確定申告書を提出したあとに生命保険料控除をし忘れたとしても、「更正の請求」(申告書の修正)を提出することで還付を受けられます。
更正の請求は5年に遡って提出することができますので、過去の分を控除し忘れたとしてもあきらめずに還付しましょう。
監修税理士からのコメント
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この記事の監修税理士
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区