年金受給者の方は「公的年金等の収入金額が400万円以下」で「それ以外の所得が20万円以下」である場合、所得税の確定申告を行なう必要はありません。
年金受給者にとって確定申告をするべきかの判断基準となる「確定申告不要制度」について、わかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
「確定申告不要制度」に該当する年金受給者は確定申告不要
「確定申告不要制度」の要件をすべて満たす年金受給者は、所得税の確定申告を行なう必要はありません。
【年金受給者に係る「確定申告不要制度」の要件】
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「確定申告不要制度」は年金受給者の確定申告手続きにおける負担を軽減するために設けられています。
公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下(すべて源泉徴収対象の場合に限る)
公的年金等の収入金額の合計額が「400万円」を超えて、そのすべてが源泉徴収の対象となっている場合は確定申告をしなければなりません。
源泉徴収とは支払者がその支払をする際に一定割合により所得税額を計算し、支払金額からその所得税額を差し引いて国に納付する制度のこと。公的年金等は基本的に源泉徴収の対象となっている場合がほとんどです。
しかし、外国において支払われる公的年金等は源泉徴収の対象となりません。そのため、受給している場合は確定申告が必要です。
公的年金等とは
公的年金等とは20歳以上60歳未満のすべての人が加入している「国民年金」や、会社員が加入する「厚生年金」などのことを指します。
【公的年金等の例】
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公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下
源泉徴収対象の公的年金等の収入金額が合計「400万円」以下の場合でも、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が「20万円」を超えていれば確定申告をしなければなりません。
「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とは
「公的年金等に係る雑所得以外の取得」とは、公的年金以外の所得のことを指しています。パートやアルバイト収入などの「給与所得」、私的年金や個人年金などの「雑所得」が該当します。
【公的年金等に係る雑所得以外の所得の例】
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公的年金の収入金額は「源泉徴収票」で確認可能
確定申告が必要であるかどうかを判断するための公的年金の収入金額は「源泉徴収票」で確認可能です。
サンプル画像の(1)にあたる「支払金額」の箇所に、その年に支払われた年金の合計額が記載されています。「支払金額」が400万円を超えていないかどうかを確認しましょう。
公的年金等の源泉徴収票は1月の下旬ごろにかけて、国民年金機構より送付されます。
「確定申告不要制度」の対象者でも申告が必要なケース
「確定申告不要制度」の対象者であっても、所得税の還付を受ける場合は確定申告が必要です。
また給与所得など「公的年金等にかかる雑所得以外の所得」がある場合、住民税の申告が必要になる可能性があります。
所得税の還付を受ける場合
所得税の還付を受けるためには確定申告が必要です。公的年金等から所得税・復興特別所得税が源泉徴収されている方でも、次のケースにあてはまる場合は所得税の還付を受けられる可能性があります。
【所得税の還付を受けられる可能性があるケース】
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「確定申告不要制度」に該当する場合は原則として申告不要ですが、還付を受けられる可能性がある場合は申告を検討するとよいでしょう。
住民税の申告が必要な場合
「確定申告不要制度」の対象でも、以下のケースに該当する場合は住民税の申告が必要になる可能性があります。
【住民税の申告が必要になる可能性があるケース】
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たとえば「生命保険料控除」や「医療費控除」、「損害保険料控除」などの各種控除を受ける場合は住民税の申告が必要になります。
所得税の確定申告を行なう場合は税務署に提出した確定申告書が各市区町村へ共有されるため、住民税の申告を改めて行なう必要はありません。
確定申告で還付金を受けられる可能性のあるケース
確定申告で還付金を得られる可能性のあるケースを見ていきましょう。
「医療費控除」や「住宅借入金等特別控除」などの各種控除を受けることで、納めすぎた税金が返ってくる可能性があります。
年間の医療費が10万円を超えている
年間の医療費が10万円を超えている場合「医療費控除」によって還付金が戻る可能性があります。医療費控除を受けるためには病院で発行される領収書が必要なので、領収書は必ず保管しておきましょう。
またその年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額を超える医療費を支払った場合、医療費控除を受けられます。
住宅ローンを利用して住宅を購入した・リフォームした
住宅ローンを利用して住宅を購入した場合や、リフォームした場合の費用も控除対象です。
またバリアフリー化や多世帯同居改修、省エネ工事など、特定のリフォームをした場合には「特定増改築等住宅借入金等特別控除」が適用されます。
社会保険料を支払っている
社会保険料を支払っている場合は「社会保険料控除」を受けられます。企業に勤務し給与所得がある場合には、社会保険料控除は年末調整で受けることができました。しかし年金を受給していると年末調整を受けられません。
そこで、社会保険料を支払っている場合には、確定申告によって控除分の税金を返還してもらう必要があります。なお、同一生計の親族の国民年金保険料を支払っている場合は、確定申告によって社会保険料の追加控除が可能です。
生命保険料を支払っている
一部の生命保険契約を除いて、生命保険料を支払っている場合は「生命保険料控除」の対象です。
平成24年1月1日以後に締結した新契約と、平成23年12月31日以前に締結した旧契約では取扱いが異なり、所得控除額は前者が最大4万円、後者が最大5万円です。
新契約と旧契約の両方の保険料を払っている場合、控除額の上限は両契約合計で4万円または5万円になります。
配偶者と離婚もしくは死別した
結婚していた人が、配偶者と離婚したり死別したりした場合にも、確定申告によって還付金が得られる場合があります。
夫婦が離婚や死別すると「寡婦(夫)控除」の対象になり、27万円の控除が発生するからです。婚姻関係に変化があった場合には、控除額が増え還付金が発生する可能性があるので、忘れずに確認するとよいですね。
災害や盗難にあった
自身や扶養家族が地震や台風、水害など災害の被害に遭った場合、その復旧には費用がかかってしまいます。この費用は「災害関連支出」といい、被災者に発行される罹災証明があれば「雑損控除」という控除を適用することが可能です。
雑損控除として認められるためには、罹災証明と共に災害関連支出に該当する領収書を提出する必要があります。
また強盗などの盗難被害にあった場合にも、盗難届を提出することで買い戻しに必要な費用や発生した損害を復旧するための費用が控除されます。この時も、復旧に要した支出の領収書は取っておきましょう。
ただし、詐欺被害は雑損控除の対象にならないので注意してください。
ふるさと納税など寄附を行なった
ふるさと納税(都道府県・市区町村に対する寄附)や国・日本赤十字社・公益社団法人などへの寄附を行なった場合「寄附金控除」を受けられます。
控除できる金額は寄附金額から2,000円を引いた額で、所得金額の40%相当が限度です。なおふるさと納税に関しては、2015年以降ワンストップ特例制度により、寄附先が5自治体以内であれば確定申告をせずに寄附金控除を受けることも可能になっています。
扶養親族等申告書が未提出
扶養親族等申告書を提出していない場合、源泉徴収の際に各種控除が反映されません。
公的年金が受給者に支払われる際には、所得税が源泉徴収されます。配偶者控除などの各種控除を考慮した上で源泉徴収してもらうためには、その年最初の公的年金等の支払い日前日までに「扶養親族等申告書」の提出が必要です。
提出していない場合は確定申告をして反映させましょう。
年金に係る税金の計算方法
年金以外に収入がある場合など確定申告を行なう場合には、源泉徴収されている所得税や公的年金等に係る雑所得などを算出して申告しなくてはなりません。それぞれの計算方法を解説します。
所得税の計算方法
年金受給者の所得税を計算するためには、1年間で受け取った年金の金額から、国民健康保険料や介護保険料などの控除を差し引いたうえで計算します。計算式は以下の通りです。
所得税=(年金額−各種控除)×5.105(※)
※所得税率5%×復興特別所得税率1.021%
なお、課税対象となる年金額は65歳未満と65歳以上で異なります。65歳未満は「108万円以上」、65歳以上は「158万円以上」からが課税対象ですので、これ以下の所得額の場合、所得税は発生しません。
公的年金等に係る雑所得の計算方法
公的年金等に係る雑所得は国税庁の速算表を用いて計算します。
公的年金等に係る雑所得の金額=(a)×(b)-(c)
また公的年金のうち「遺族年金」「障害年金」については非課税となっているため所得税は発生せず「老齢年金」のみが所得税の対象となっています。
計算の具体例
たとえば以下の条件の場合、公的年金等に係る雑所得の金額は「314万円」になります。
【条件】
【計算式】 4,500,000円×85%-685,000円=3,140,000円 |
シミュレーションサイトを使えば自動で計算可能
「計算が複雑で自分で計算するのが難しい・・・」という方はシミュレーションサイトの活用をおすすめします。公的年金の控除額や雑所得の計算を誰でも簡単に行なうことができますよ。
年金受給者の確定申告書の書き方
公的年金と個人年金を受け取っている人が確定申告をする場合の確定申告書の書き方について解説します。確定申告書の第一表と第二表を提出することになるので、用紙を用意して実際に記入・作成してみてください。
年金の確定申告に必要な書類
公的年金と個人年金以外に所得がない年金受給者が確定申告をするときには以下の書類が必要になります。
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確定申告書は国税庁のホームページからダウンロードできます。
「公的年金等の源泉徴収票」は公的年金を受給している人に日本年金機構から届き、個人年金を受給している人には保険会社から支給額が記載された書類が届きます。これらの書類は1年間に支給された年金額が判明してから作成・発送されるので、書類が手元に届く時期は年末や年明け以降です。
医療費控除などの所得控除の適用を受ける場合には所得控除に関連した書類も添付します。また確定申告の手続きでは本人確認書類の提示または写しの提出も必要です。マイナンバーカードがあればマイナンバーカードを、ない場合は通知カードなどの番号確認書類と運転免許証などの身元確認書類を用意して下さい。
所得控除の適用を受けるために必要な添付書類や本人確認書類として使える書類は以下のサイトで確認できます。
確定申告書の書き方
ここでは公的年金と個人年金を受け取っている人が確定申告をする場合の確定申告書の書き方について解説します。確定申告書の第一表と第二表を提出することになるので、用紙を用意して実際に記入・作成してみて下さい。
第一表
第一表では用紙の左側に収入金額・所得金額・所得控除額の順に記入し、これらの金額をもとに右側の列で所得税および復興特別所得税の税額を計算して記入します。
収入金額等(緑の欄)
「収入金額等」の欄に1年間に受け取った年金額を記入します。国民年金や厚生年金などの公的年金の年金支払額は「公的年金等の源泉徴収票」で確認して申告書の「雑・公的年金等」に記入してください。
個人年金を受け取っている場合は、保険会社から届く通知物(「支払年金額等のお知らせ」など)に記載された年金額を「雑・その他」に記入します。
所得金額等(水色の欄)
「所得金額等」の欄に「収入金額等の欄で記入した年金支払額から、公的年金等控除額や必要経費を引いた額」を記入してください。
「雑・その他」には個人年金の収入金額から経費として計上できる保険料額を引いた額を記入します。保険会社から届く通知物に記載された金額をもとに記入しましょう。
所得から差し引かれる金額(赤色の欄)
「所得から差し引かれる金額」の欄に適用を受ける所得控除の控除額を記入します。所得控除ごとに対象者や控除額が決まっているので、以下のサイトを参考にしながら自分がどの所得控除を適用できるのか確認して下さい。
税金の計算(青色の欄)
「所得金額等」の欄で記入した合計額から「所得から差し引かれる金額」の欄で記入した合計額を引いて課税所得金額を求めます。1,000円未満の端数を切り捨てた額を「税金の計算」の欄の1番上「課税される所得金額」に記入してください。
「上の㉚に対する税額」欄に所得税額を記入しますが、所得税額は課税所得金額に税率を掛けて計算します。税率は課税所得金額に応じて変わります。
所得税額を求めたら2.1%の税率を掛けて復興特別所得税額を計算し、1円未満の端数を切り捨てた額を「復興特別所得税額」に記入してください。
「所得税及び復興特別所得税の額」の欄に所得税と復興特別所得税の合計額を記入します。「源泉徴収税額」には「公的年金等の源泉徴収票」や「支払年金額等のお知らせ」に記載された源泉徴収税額の合計額を記入してください。
計算した税額と納付済の源泉徴収税額を比較して、追加で納税が必要な場合は不足額を「納める税金」に、納め過ぎている場合は還付金額を「還付される税金」に記入します。
その他(ピンク色の欄)
公的年金等の収入がある人は「公的年金等以外の合計所得金額」に金額を記入します。配偶者特別控除を受ける場合は「配偶者の合計所得金額」に配偶者の所得額を記入してください。
第二表
第二表では第一表で記入した所得や所得控除について詳細な内容を記入します。
所得の内訳
受給している年金ごとに収入金額や源泉徴収税額を記入します。所得の種類には「雑」、種目には年金の名称を記入し、「公的年金等の源泉徴収票」や「支払年金額等のお知らせ」を確認しながら支払者の名称・所在地や金額を記入してください。
総合課税の譲渡所得、一時所得に関する事項
生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金、賞金など、一時所得に該当する所得がある場合に記入します。
社会保険料控除・生命保険料控除
社会保険料や生命保険料、地震保険料など、所得控除の対象となる保険料や掛金の額を記入します。自治体や保険会社から届く控除証明書などを確認しながら記入しますが、社会保険料控除の欄は記入例のように源泉徴収分と記入しても構いません。
年金受給者で働いておらず年末調整を受けられない場合は、各保険料について「支払保険料等の計」と「うち年末調整等以外」に記入する額は同じになります。
本人に関する事項
寡婦控除やひとり親控除など該当する所得控除の適用を受ける場合に記入します。
雑損控除に関する事項
雑損控除は災害や盗難、横領によって資産について損害を受けた場合等に適用できる所得控除です。雑損控除の適用を受ける場合には損害の原因や損害金額等を記入します。
寄附金控除に関する事項
寄附金控除の適用を受ける場合には、寄附先の名称と寄附金額を記入します。
特例適用条文等
住宅借入金等特別控除の控除額の特例など、特例を適用する場合に記入します。
配偶者や親族に関する事項
配偶者や親族の氏名・個人番号・生年月日などを記入します。
住民税・事業税に関する事項
所得税と住民税で取扱いが異なる項目について記入します。該当する項目がある場合には金額を記入して下さい。
確定申告書の提出期限
確定申告の期間は2月16日から3月15日までの1か月間です。1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の3月15日までに確定申告書を提出します。ただし3月15日が土日祝日の場合、税務署が開庁しておらず手続きができないため、その場合は次の平日が確定申告書の提出期限となります。
確定申告の提出期限を過ぎた場合でも、申告自体は受け付け可能です。しかし申告期限から1か月以内に自主的に申告しないと「期限後申告」の扱いとなり、無申告加算税という追加課税が発生する可能性があるため、十分に注意しておきましょう。
確定申告書の提出方法
確定申告は以下の3つの方法で提出します。
- 税務署に持参して提出
- 郵送での提出
- e-Taxによる提出
持参して提出する場合や、郵送する場合は、住所地を管轄する税務署に提出してください。
持参して提出する場合、必要書類が揃っているか確認した上で受理してくれるため、確定申告に慣れていない場合は安心して提出できます。しかし、確定申告の時期の税務署は非常に混み合い、待ち時間に2〜3時間以上かかることも珍しくありません。
最近では混雑を回避するため、自宅のパソコンで確定申告を終えられるe-Taxを使った提出や、郵送による提出が推奨されています。混雑を避けたい場合にはこちらの方法がおすすめです。
必要にもかかわらず確定申告しないとどうなるのか
給与と年金を受給し、確定申告不要制度に該当しない場合は確定申告を行わなければなりません。確定申告が必要にも関わらず行なわなかった場合は「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティが課せられる場合もあります。
無申告加算税は原則として納付税額に次の割合をかけた金額となります。
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また、延滞税については納付期限からどれだけの月数が経過したかによって税率が異なります。
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このように確定申告を行なわないだけで重いペナルティとなってしまう場合もあります。確定申告が必要かどうかは慎重に判断しましょう。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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年金受給者の「確定申告不要制度」に該当する場合は確定申告の必要はありません。しかし、年金以外に給与所得などがある場合は確定申告を行なう必要があるケースも多いです。
自身の収入状況や控除金額を把握して、必要に応じて確定申告を行ないましょう。「確定申告の手続きがよくわからない・・・」と困った際は、税の専門家である税理士のサポートを受けるのもおすすめです。
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この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通