所得税には扶養控除という制度があり、会社で行なう年末調整や確定申告で扶養控除対象者を申告すると納める所得税を減らすことができます。
個人事業主と、年末調整で「扶養控除等申告書」を提出しなかった給与所得者は、扶養控除を受けるために確定申告をしなければなりません。
扶養控除の対象者と確定申告の方法について詳しく解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
扶養控除対象者の条件
所得税では扶養控除対象者の条件に該当する人がいる場合は、申告すると扶養控除として一定金額の所得控除が受けられます。所得とは給与などの収入から必要経費を引いて残った金額のことです。
この金額に税率をかけて所得税が決まるため、控除額は納める税金に大きく影響します。扶養控除対象者の条件は、申請年の12月31日時点で次の①~④のすべてに該当することです。
① 配偶者以外の16歳以上の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
② 納税者と生計を一つにしていること。
③ 年間の合計所得金額が48万円以下であること。
(給与のみの場合は給与収入103万円以下が所得48万円以下。給与控除の最低額が55万円であるため「収入103万円-給与控除55万円=所得48万円」と計算)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
申請年の12/31時点で16歳以上
所得税の控除対象扶養親族は、申請年の12月31日時点で16歳以上が対象です。
ただし住民税の計算では16歳未満の扶養親族も扶養控除の人数にカウントします。確定申告書の内容が住民税の計算のもととなるため、確定申告するときは忘れずに記載しましょう。
確定申告の更正の請求もできますが、申告済みの確定申告書や必要な書類をそろえるのも手間がかかりますので忘れないようにしましょう。
配偶者以外の親族
確定申告の扶養控除対象は、子供や親又は兄弟など6親等内の血族および3親等内の姻族です。具体的には次の表に載っている範囲になります。
また、扶養控除の対象に配偶者は含まれません。妻や夫は、収入要件などを満たせば、「配偶者控除」や「配偶者特別控除」という別の控除の対象となるからです。
納税者と生計を一つとしている
確定申告で扶養控除を受ける条件の「生計を一つにしている」とは、生活を共にしているということです。ひらたく言うと、生活にかかる費用の管理がまとめてされているということです。
そのため、単身赴任や自宅外通学の大学生も生計を一つにしていると判断します。また、別居の親も継続的に仕送りをして、生活を支えていれば生計を一つにしていると判断します。
年間の合計所得金額が48万円以下
扶養控除対象となる収入要件は、年齢や収入の内容によりちがいます。対象となる年間の合計所得金額48万円以下についてご説明します。
収入と所得は違うということを理解しましょう。扶養するための収入要件などと聞くと、もらった給与や年金をイメージされると思いますが、少し異なります。所得は収入から認められている控除を引いたものです。
給与であれば給与所得控除額を、年金収入であれば公的年金等控除額を収入から引き、残った所得が48万円以下であれば扶養控除の対象とすることができます。
収入種類 | 収入額 | 控除額 | 所得 |
給与のみ | 103万円 | 55万円 | 48万円 |
65歳未満老齢年金のみ | 108万円 | 60万円 | 48万円 |
65歳以上老齢年金のみ | 158万円 | 110万円 | 48万円 |
また、遺族年金や障害年金は収入に含めずに計算します。老齢年金と扱いが異なりますので注意してください。
青色申告事業専従者として給与をもらっていない・白色申告事業専従者でない
個人事業主の所得税の確定申告には青色申告と白色申告があります。青色申告している個人事業主の事業に従事している配偶者、扶養親族、事業専従者を青色申告事業専従者といいます。また、白色申告している個人事業主の事業に従事している配偶者、扶養親族などを白色申告事業専従者といいます。
個人事業主の経営する事業に配偶者やその他の親族が従事している場合、個人事業主が給与を支払います。青色申告を選択している個人事業主の場合、支払った給与は青色申告事業専従者の給与として全額経費算入します。白色申告している場合は、白色申告事業専従者の給与として、配偶者86万円それ以外50万円まで経費算入します。
そのため、青色事業専従者と白色申告における事業専従者は控除対象配偶者や控除対象扶養親族にはなれないルールになっています。
扶養控除と似た控除や併用可能な控除
確定申告で認められる控除は扶養控除以外にもあります。 控除の種類によっては、扶養控除と併用可能なものや、所得が38万円を超えていても対象となる控除もあります。対象となる控除額が多ければ所得税の節税になります。確定申告書に記載を忘れると控除を受けられませんので注意が必要です。扶養控除以外の各種控除について詳しくご説明します。
配偶者控除と配偶者特別控除
扶養控除の対象者の説明でも少し触れましたが、配偶者は血族とも姻族とも定義されていないため扶養控除を受けることができません。そのかわり、所得が48万円以下の場合は配偶者控除を受けることができます。
また、控除対象配偶者のうち12月31日の年齢が70歳以上の老人控除対象配偶者は、70歳未満の配偶者よりも控除を多く受けられます。
さらに、配偶者が48万円を超える所得があるため配偶者控除の対象外でも、要件を満たせば、配偶者の所得金額に応じて一定の金額の所得控除が受けられます。これを配偶者特別控除といいます。
配偶者特別控除の要件
① 控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること。
② 配偶者が、次の要件全てに当てはまること。
(1) 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)。
(2) 控除を受ける人と生計を一にしていること。
(3) その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払いを受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
(4) 年間の合計所得金額が48万円を超え133万円以下であること。引用元:国税庁「配偶者特別控除」
勤労学生控除
勤労学生控除とは、納税者本人が働きながら一定の条件の学校に通っている場合に受けることができる所得控除です。納税者の大学生の子供などを対象とした控除ではありませんので間違えないようにしてください。
勤労学生控除の対象となる人の要件
勤労学生とは、その年の12月31日の現況で、次の3つの要件すべてに該当する人です。
① 給与所得などの勤労による所得があること② 合計所得金額が75万円以下で、かつ①の勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること。例えば、給与所得だけの人の場合は、給与の収入金額が130万円以下であれば給与所得控除55万円を差し引くと所得金額が75万円以下になるので該当します。
③ 特定の学校の学生、生徒であること
(1) 学校教育法に規定する小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校など
(2) 国、地方公共団体、私立学校法の第3条に規定する学校法人、国立病院機構など一定の者により設置された専修学校又は各種学校のうち文部科学大臣が定める基準を満たすもの
(3) 職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行なう職業訓練法人で2年以上の一定の課程を履修させるもの
当てはまるかどうか判断できないときは、通学している学校の窓口で確認してください。
障害者控除
障害者控除とは、納税者自身および同一生計の配偶者や扶養親族が障害者に当てはまる場合に受けられる控除です。扶養控除の対象外の16歳未満の扶養親族も対象となります。また、扶養控除や配偶者控除との併用もできます。
障害者控除は「障害者」と「特別障害者」の区分や障害等級など要件が複雑です。対象者のひとつの基準として、身体障害者手帳・療育手帳・愛護手帳・愛の手帳・みどりの手帳などの交付を自治体から受けていることが挙げられます。
詳しくは国税局電話相談センターの税についての相談窓口に相談ください。
年齢ごとの扶養控除額
確定申告で扶養控除の対象にできる親族がわかったところで、控除される金額を確認してみます。扶養控除の金額は一律ではなく、年齢や同居・別居など扶養親族の区分により決まっています。
扶養控除額の一覧表
区分 | 年齢(12月31日時点) | 同居・別居の要件 | 扶養控除額 |
一般の控除対象扶養親族 | 16歳以上 | 要件なし | 38万円 |
特定扶養親族 | 19歳以上23歳未満 | 要件なし | 63万円 |
老人扶養親族 | 70歳以上 | 要件あり | 同居:58万円
別居:48万円 |
16歳以上 一般の控除対象扶養親族
一般の控除対象扶養親族は、その年の12月31日時点で16歳以上が対象です。同居・別居の要件はありません。扶養控除額は一律38万円です。仮に、高校一年生で1月の早生まれの子供がいるとすると、その年は対象にならないため控除を受けることができませんので、扶養親族の生年月日を確認して申告するようにしてください。
19歳以上23歳未満 特定扶養親族
特定扶養親族は、その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満が対象です。同居・別居の要件はありません。扶養控除額は一律63万円です。
この年齢は大学や専門学校などで高額な学費の支払いが発生する年齢です。お金がかかる分、扶養控除額も多くなるということです。学生でなくても控除額は63万円です。特定扶養親族に該当するか否かは年齢で判断するためです。
70歳以上 老人扶養親族
老人扶養親族は、その年の12月31日時点で70歳以上が対象です。同居・別居により扶養控除額が異なります。同居は58万円、別居は48万円です。ご高齢のため、長期入院や老人ホームに入居していることもあると思います。病院への入院は同居と判断し、老人ホームへ入居している場合は別居と判断します。この判断も、その年の12月31日時点の現況で行ないます。
確定申告書の扶養控除の書き方と必要書類
確定申告書で扶養控除を受けるために必要な書類と、確定申告書の書き方について説明します。
扶養控除の確定申告に必要な書類
確定申告で扶養控除を受ける際に、扶養控除対象となる扶養親族が国内に居住している場合には添付書類は不要です。確定申告書に扶養控除額を記入するたけです。
扶養控除対象者が障害者であっても、70歳以上の老親であっても扱いは同じで、障害者手帳の写しなどを添付する必要はありません。ただし、扶養控除対象となる扶養親族が国内非居住者である場合は、確定申告で扶養控除にするために添付書類が必要です。
扶養親族が海外にいる場合には添付書類が必要
確定申告で扶養控除を受ける際に、扶養控除対象となる扶養親族が国外に居住している場合は申告書に「親族関係書類」および「送金関係書類」の2つを添付する必要があります。また、添付書類が外国語で記載されている場合には翻訳文も必要です。
親族関係書類
扶養控除を受けようとする国外居住親族が、納税者の親族であることを証明する書類で、次の①~④のようなものが該当します。
①戸籍謄本の写し
②国又は地方公共団体が発行した書類(住民票など) ③ 国外居住親族の旅券(パスポート)の写し ④ 外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日および住所又は居所の記載があるもの) |
送金関係書類の種類
納税者が国外居住親族の生活費又は教育費に充てるための費用を、必要の都度、国外居住親族に支払ったことを証明する書類で、次の①~②のようなものが該当します。
① 送金者が納税者で、送金先の口座が扶養控除の対象となる親族名義の振込用紙やその写し
② クレジットカードやファミリーカードの利用料が納税者の口座から引き落としてされている利用明細書やその写し |
また、上記の添付書類を年末調整のときに会社に提出していれば、源泉徴収票の扶養控除額に内容が反映されています。そのため、確定申告書への添付は不要となります。
確定申告書の書き方
確定申告書はそれぞれ第一表と第二表からなり、第一表に扶養控除の合計額を記入し、第二表に扶養控除親族の氏名・続柄・生年月日・控除額・マイナンバーを記入します。扶養親族が16歳未満の場合には、「住民税に関する事項」欄も記入します。
確定申告書第一表
確定申告書第二表
確定申告書の様式のダウンロードは以下のリンクから行なうことができます。
また最近はe-Tax(電子申告)での確定申告も増えています。Web上で送信して提出するだけでなく、作成した確定申告書を印刷して提出することも可能です。e-Taxを考えている方は、こちらの「確定申告書等作成コーナー」から申告書が作成できます。
扶養控除の誤りを確定申告後に修正したい場合
確定申告書を記入するときは収入や扶養控除などの各種控除の内容や計算に誤りがないか注意して作成しますが、それでも、申告後に間違いに気付くことがあります。確定申告は細かなルールも多く複雑ですから仕方ありません。
そんなときは提出した確定申告書の内容を修正することができます。修正の仕方は「訂正」「更正」「修正」の3種類で、修正する時期や内容により呼び方が異なり、新たに税金が課せられる場合もあります。
確定申告期限前の場合は訂正申告を行なう
確定申告の期限内に申告内容の誤りに気付いた場合は訂正申告をします。税務署は、申告期限に一番近い日付の申告書を正式な申告書と判断しますから、正しい内容の確定申告書を再度提出すれば訂正申告できます。
しかし、提出側にも配慮が必要です。再度作成した確定申告書の1枚目に「訂正申告」と記入して、すでに提出した訂正前の確定申告書の提出年月日と申告税額を赤字で書き、再提出だと明確にわかるようにして提出すれば間違いありません。
確定申告の期限内のこの時点で誤りに気付いて対応できれば、新たな税金を課せられることはありません。誤りに気付いたときは迅速に対応しましょう。
最近はe-Taxで確定申告する人も増えています。e-Taxの場合、画面上で誤った内容の箇所を訂正入力して、すべての帳票を再度送信すれば訂正申告が完了します。
納税額を多く、もしくは還付額を少なく申告していた場合は更正の請求を行なう
確定申告の期限後に申告内容の誤りに気付き、還付額を少なく申告した場合は、住所地を管轄する税務署に更正の請求をします。既に確定申告書の処理は進んでいるので申告書自体の差替はできないためです。
更正の請求ができる期間は、原則として、法定申告期限から5年以内ですので、5年度分までさかのぼって更正の請求をすることができます。更正の請求書の提出には、その事実を証する書類の添付が必要です。その添付書類をもとに内容を調査し、正当だと認められたときは、減額更正の通知が届き、納め過ぎた税金が還付されます。
例えば、扶養控除の人数を追加して扶養控除額が増えた更正の請求書を提出する場合は、送金を証明する振込用紙など、扶養している事実を証明できる書類を添付することになります。
更正の請求は所得税を多く納付したときに還付を依頼するものですのでペナルティはありません。手数料も不要ですが、虚偽の内容で更正の請求を行なった場合は罰則があります。
記入方法は、上部の氏名等と更正の請求をする理由など記入し、誤って申告した申告書の内容を「申告し又は処分の通知を受けた額」に記入し、右横の「請求額」に正しい内容を記入します。
更正の請求書は以下のリンクからダウンロードできます。
また、e-Taxでも更正の請求手続きはできます。e-Taxの場合、画面上で更正の請求をする年度を選び進めます。画面上で選択できない年度は申告期限から5年経過しており、更正の請求の対象外ですので手続きすることができません。これは次に説明する修正申告も同様です。
納税額を少なく、もしくは還付額を多く申告していた場合は修正申告を行なう
確定申告の期限後に申告内容の誤りに気付き、還付額を多く申告した場合や納める税金が少なかった場合は、住所地を管轄する税務署に修正申告します。修正申告ができる期間は、原則として、法定申告期限から5年以内ですので、5年度分までさかのぼって修正申告することができます。
誤りに気付いたら早急に手続きをしてください。税務署の調査を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税がかからないためです。ただし、本来税金を納めるべき期日までに納められなかったとして延滞税がかかります。延滞税は利息のような性質のもので、延滞した日数で計算されるため少しでも早く修正申告して納税しましょう。
修正申告には「申告書第一表」と「申告書第二表」を提出します。令和3年分以前の申告書の場合、「申告書第一表」と別表の「申告書第五表」です。追納の必要がある金額は、修正申告書を提出する日までに納付しましょう。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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扶養控除以外にも、配偶者者控除や障害者控除など各種の控除があります。確定申告をする前に該当するものがないか確認しましょう。
ただ帳簿付けに慣れていて、日々処理をしている事業者であっても、確定申告書作成には時間がかかるもの。万が一申告が遅れれば、延滞税や加算税などのペナルティも発生します。
日々の仕事にできるだけ影響を与えず、早く確定申告を終わらせるためにも、税理士への依頼は有効な方法です。
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この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通