年末調整と確定申告は両方とも所得税に関する手続きです。いずれか一方だけを行なう年もあれば、重複して手続きをする年もあります。


年末調整と確定申告は混同しがちですが、違いをしっかりと押さえるようにしましょう。この記事では年末調整と確定申告について次の点を解説していきます。
- 年末調整と確定申告、それぞれの概要と違い
- 年末調整と確定申告の両方が必要になるケース
- 年末調整が必要な人は誰か、確定申告が必要な人は誰か
所得税の仕組みを理解すれば節税を考える上でも役立ちます。年末調整と確定申告について正しく理解しておくことが大切です。
年末調整と確定申告の違いとは?

年末調整と確定申告は両方とも、所得税の税額を計算して納税する際の手続きである点では同じです。その一方で、誰が対象者なのかや手続きをいつまでに終えるのかなど、さまざまな点で違いがあります。まずはそれぞれの概要と違いについて見ていきましょう。
年末調整とは?
会社員などの給与所得者は、毎月の給与から所得税が源泉徴収されます。年の途中では正確な税額が確定していないため、給与から引かれるのは仮の税額です。
毎年12月に1年間の所得額が分かるので確定税額と既に天引きした税額の差額を計算して過不足を調整します。この年末に行う調整が年末調整です。
給与総額が2,000万円を超える人など、一部対象外の人もいますが、会社員やアルバイト、パートなど、基本的に給与所得者は年末調整をしなければいけません。
そして会社や個人事業主などの給与支払者は、年末調整を終えて1月までに税務署に届け出る必要があります。そのため社内向けには遅くとも、11月頃には従業員に年末調整の案内をするのが一般的です。
従業員は扶養控除等申告書など必要な書類に記入して、生命保険料控除証明書など証明書を添付して提出すれば、申告や納税を勤務先が代わりに行ってくれます。
確定申告とは?
確定申告とは1年間の所得額をもとに所得税額を計算して申告する手続きです。年間の所得額が多いと所得税が掛かり納税が必要になるので、翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告を行ないます。
個人事業主などは会社員や公務員と違い、会社に勤めていないため勤務先で年末調整を受けられるわけではありません。所得税が掛かる場合は確定申告が必要です。
また年の途中で退職して年末調整を受けられなかった人や、年末調整では受けられない医療費控除の適用を受けたい人なども、自分で確定申告をする必要があります。
年末調整と確定申告の違いとは?
年末調整と確定申告では次のような違いがあります。
年末調整 | 確定申告 | |
手続きをする人 | 納税者に代わって勤務先が行なう | 納税者が自分で行なう |
対象者 | 会社員や公務員などの給与所得者 | すべての人 |
対象となる所得 | 給与所得のみ | 給与所得を含む全10種類の所得 |
時期 | 遅くとも11月頃には企業が従業員に手続きの連絡をするのが一般的 | 翌年2月16日~3月15日 |
申請できる所得控除 | 医療費控除・寄附金控除・雑損控除を除く所得控除 | すべての所得控除 |
確定申告をする場合、年末調整は不要?

所得税の手続きという点で年末調整と確定申告に違いがないのであれば、「年末調整後にわざわざ重複して確定申告をせず、最初から確定申告だけををすれば良いのでは?」と考える人もいるでしょう。
しかし、自分で確定申告をする場合も勤務先の年末調整を不要にすることはできません。年末調整も確定申告も義務が生じるケースがそれぞれ法律で決まっています。どちらの要件にも該当する場合は両方とも手続きが必要です。
年末調整は会社員の義務
年末調整の対象となるのは「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員です。企業は対象者の年末調整を行なう義務があり、法律に違反すると罰則を科されます。
従業員は勤務先に扶養控除等申告書を提出するのが一般的であり、実質的に年末調整の手続きは必須です。勤務先で年末調整を行なわないのは、給与総額が2,000万円を越す場合や、アルバイトやパートを掛け持ちしていて他企業で年末調整をする場合などに限られます。
副業でも、給与収入ならば年末調整は必要
年末調整の対象になるかどうかは、その給与収入がメインの収入なのか副業に過ぎないのかは関係ありません。副業の場合でも給与収入を得たら年末調整が必要です。
たとえば事業を行なっている個人事業主が副業でアルバイトをする場合、給与収入があれば会社員や公務員と同じく年末調整を行ないます。メインの事業収入の確定申告をする際、給与収入分もまとめて両方とも申告することにして、年末調整を省略できるわけではありません。
なお会社員が副業をする場合や、フリーランスや学生、主婦などがアルバイト・パートを掛け持ちする場合は、年末調整は主たる勤務先で行います。
年末調整は複数の勤務先で行なうことはできず1ヵ所のみで行うので、掛け持ちしている他の勤務先では年末調整は行ないません。年末調整をしなかった勤務先から得た給与については、基本的に確定申告で対応します。
年末調整と確定申告の両方が必要な場合

年末調整と確定申告の両方を行うケースは次のような場合が考えられます。
- 年末調整後に敢えて自分で確定申告をしたほうが良い場合
- 年末調整を受けた後に確定申告をしなければいけない場合
2つの違いは確定申告が義務かどうかです。2は義務が発生するため年末調整済みであっても重複して確定申告をしなければいけません。忘れずに手続きを行ないましょう。
【両方必要なケース①】年末調整では受けられない控除を受けたい場合
所得控除の適用を受ければ税負担が軽くなりますが、医療費控除・寄附金控除・雑損控除の3つの控除については年末調整では手続きができません。これらの控除を受けたい場合は確定申告で申請します。
また住宅ローンを組んだ人が受けられる住宅ローン控除は、2年目以降は年末調整で対応できますが1年目は確定申告が必要です。
【両方必要なケース②】年末調整で保険料控除の書類提出が出来なかった場合
年末調整の時期までに保険料控除の証明書を用意できず提出できなかった場合でも、翌年に自分で確定申告をすれば所得控除の適用を受けられます。
控除証明書を紛失して再発行手続きをしたものの年末調整に間に合わない場合や、年末に生命保険やiDeCoなどに加入したため証明書類が年末調整の後に届く場合は、控除の適用を受けるために確定申告を行いましょう。
【両方必要なケース③】会社に知られたくない控除を受けたい場合
所得控除の中には本人や家族に関する情報に関連するものがあります。たとえば寡婦控除やひとり親控除、障害者控除の適用を受けることを、職場に知られたくないと考える人もいるでしょう。
そのような場合は年末調整の提出資料では控除欄に記入せず、自分で確定申告をして控除の適用を受ければ職場に知られずに済みます。年末調整は実質的に必須なので手続きをしないことはできませんが、適用を受ける控除すべてを記入する必要はありません。
【両方必要なケース④】副業所得が20万円を超える場合
会社員が副業をして給与所得・退職所得以外の所得額が20万円を超える場合には確定申告の義務が生じます。職場で年末調整をする場合でも確定申告が必要になり、両方とも手続きをしなければいけません。
また副業をして2ヵ所以上から給与の支払いを受けている場合も、年末調整がされなかった給与(主たる給与以外の給与)と給与所得・退職所得以外の所得額との合計額が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
年末調整と確定申告の重複について

ここまで年末調整と確定申告の違い、両方の申請が必要になる場合について紹介しましたが、そもそも所得税の手続きを二重に行なうことに違和感を覚える人がいるかもしれません。
たとえば年末調整と確定申告が重複した場合、税金が二重に取られる心配はないのでしょうか?
ここでは年末調整と確定申告で申請の内容が重複している場合の扱いについて解説します。
年末調整と確定申告は重複してもいいのか?
会社員や公務員が年末調整を受けた後に確定申告をした場合、年末調整ではなく確定申告の内容が優先されます。年末調整と確定申告が重複しても、税金が二重に取られたり申請した控除が二重に適用されたりすることはなく、特に問題はありません。
すでに解説したように、年末調整も確定申告も必要になる場合があるので、両方とも必要であればどちらの手続きも忘れずに行ないましょう。
年末調整と確定申告の記載内容について
年末調整と確定申告の両方をする場合、年末調整で申請した以外のことを確定申告で申告書に記載すれば良いわけではありません。給与所得について年末調整で申請している場合でも、確定申告では給与所得を含めたすべての内容を書類に記入して提出します。
たとえば年末調整で生命保険料控除の適用を忘れた場合、確定申告書に生命保険料控除だけを記入すれば、他の内容は年末調整の内容で申告したことになるわけではありません。確定申告をする際には源泉徴収票を用意して、給与額なども申告書に記入する必要があります。
年末調整の申請方法

会社員や公務員であれば毎年関わることになるのが年末調整です。年末調整の申請方法ついて確認しておきましょう。
年末調整の対象者
年末調整の対象となるのは「給与所得者の扶養控除等申告書」を年末調整を、行なう日までに提出している人です。1年間継続して勤務している人だけでなく、年の途中から勤務している人も対象になります。
年の途中に退職した人は基本的に年末調整の対象とはなりませんが、死亡によって退職した人など、例外的に年の途中に年末調整を行なうケースがいくつかあります。
また給与所得者であっても給与総額が2,000万円を超える人は年末調整の対象外となるため、自分で確定申告をしなければいけません。
必要な届け出用紙
年末調整で記入・提出する主な用紙は次の3つです。
申告書 | 受けられる控除 |
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、基礎控除 |
給与所得者の配偶者控除等申告書 | 配偶者控除、配偶者特別控除 |
給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除 |
また住宅ローン控除の適用を受ける場合は住宅借入金等特別控除申告書を提出します。
それぞれの申告書の書き方や記入例については、次の記事で紹介しているので、記入方法がよく分からない場合は参考にしてください。
年末調整に必要な各種書類
年末調整で必要になる書類としては次のものが挙げられます。
- 生命保険料控除証明書
- 地震保険料控除証明書
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金を証明する書類
- 国民年金や国民健康保険などの社会保険料の控除証明書
- 配偶者特別控除のための収入証明書(源泉徴収票など)
- 住宅ローン控除に必要な住宅借入金等特別控除申告書、借入金の年末残高等証明書
年末調整で添付書類として提出する書類は、適用を受ける所得控除の種類によって変わります。保険会社などから届く書類もあれば自分で用意する書類もあるので、年末調整の時期が近づいたら書類がすべて揃っているか確認するようにしましょう。
扶養控除申告書が未提出の場合、源泉徴収税額が高くなる
給与所得者が主たる勤務先に提出しなければいけない扶養控除等申告書が未提出の場合、所得税額の適用が変わってきます。
毎月の給与から天引きされる所得税額は「給与所得の源泉徴収税額表」をもとに計算されます。源泉徴収税額表には甲欄と乙欄があり、扶養控除等申告書を提出している従業員に適用されるのが甲欄、未提出者に適用されるのが乙欄です。
乙欄が適用されると甲欄が適用された場合に比べて、一般的に源泉徴収税額が高くなり手取り額が減ってしまいます。確定申告で正しい税額に精算できますが、敢えて扶養控除等申告書を出さず手取り額を減らす意味はないので、申告書は忘れずに勤務先に提出しておきましょう。
確定申告の対象者と申請方法

会社員や公務員は年末調整で所得税の申告や納税が完了することが多いので、確定申告のことがよく分からないという人もいるでしょう。
しかし年末調整済みでも確定申告が必要になる場合があり、会社員や公務員であっても確定申告と無縁ではありません。確定申告について理解しておくことが大切です。ここでは確定申告の対象者と申請方法を解説します。
確定申告の対象者
所得の種類によって確定申告が必要になる条件に違いが生じます。確定申告が必要になるのは主に次のケースです。
確定申告が必要になるケース | |
①給与所得がある人 |
|
②公的年金を受給している人 |
|
③退職所得がある人 |
|
①~③以外の人 | 次の計算において残額がある場合
|
確定申告の期間
確定申告をする期間は、所得が生じた年の翌年2月16日~3月15日です。申告・納税の義務があるにもかかわらず、期限までに手続きをしないとペナルティーが科されるので、確定申告は期限までに必ず終わらせましょう。
なお申告書の提出後に間違いに気づいた場合は、申告期間内に再度申告書を提出すれば訂正できます。手続き期限までに申告書が重複して提出された場合は後のものが優先されるので、税金が二重に取られる心配はありません。
確定申告のやり方
所得税の税額は次の流れで計算します。
- 1年間の収入や経費を集計する
- 収入と経費から所得額を求める
- 所得額から所得控除額を差し引き、税率をかけて所得税額を求める
- 税額控除を適用して納税額を求める
これらの金額を確定申告書に記入して、添付書類とともに税務署に提出します。確定申告のやり方は次の3つです。
- 申告書を税務署に持参して提出する
- 申告書を税務署に郵送して提出する
- e-Taxを使ってパソコンやスマホで提出する
確定申告書は税務署に行けばもらえますが、国税庁サイトからダウンロードすることもできます。
また確定申告書等作成コーナーを使って申告書を作成すれば、パソコンで入力して申告書を作れるので手書きする手間がかからずに済みます。
e-Taxとは電子申告システムのことで、パソコン画面上で確定申告書の作成から提出まで終えられるので便利です。e-Taxを使うには利用申請等の手続きが事前に必要になり、手続きに時間がかかる場合があるので、早めに準備をするようにしましょう。
確定申告の納付方法
確定申告をして所得税を納付する場合、主な納税方法は次の5つです。
- 振替納税を利用する
- e-Taxで納付する
- クレジットカードで納付する
- QRコードによりコンビニで納付する
- 金融機関や税務署の窓口で現金で納付する
e-Taxやクレジットカードで納付する場合はパソコン画面上で手続きができます。確定申告書等作成コーナーなどを使ってQRコードを作成してコンビニで納付する場合、納付できる金額の上限は30万円です。
現金で納付する場合は、税務署または所轄税務署管内の金融機関に用意してある納付書を使って納付します。
還付申告の期限は5年間
医療費控除や生命保険料控除の適用を確定申告で申請し忘れていた場合など、何らかの理由で所得税を多く払っていた人は、還付申告をすれば税金の払戻しを受けられます。
還付申告ができるのは、所得が生じた年の翌年1月1日から5年間です。たとえば保険料控除を受け忘れた年がある場合でも5年以内であれば手続きができるので、その年の保険料控除証明書を保険会社から取り寄せて還付申告をしましょう。
監修税理士のコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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年末調整と確定申告はともに所得税に関する手続きですが対象者などが異なります。重複して必要な場合もあれば両方とも不要な場合もあるので、両者の違いを理解した上で必要な手続きを忘れずに行いましょう。
確定申告のやり方がよく分からない場合は税理士に早めに相談するようにしてください。ミツモアでは確定申告に強い税理士を検索でき、見積りの依頼もできるようになっています。
この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通