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年末調整と確定申告の違いとは? 両方必要な場合と申告の方法

最終更新日: 2023年12月22日

年末調整は1年の給与から発生する税金を計算し、事前に天引きされた源泉徴収税額との差額を整える手続きです。

一方、確定申告は、1年間の所得とその所得に対する税金を計算し、源泉徴収された税金や予定納税額などがあれば、その差額を整える手続きとなります。

この記事では年末調整と確定申告の違い、それぞれ申告が必要な人、年末調整と確定申告の両方が必要になるケースについて説明します。

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

 

年末調整と確定申告の違いとは?

年末調整

年末調整と確定申告は「誰が対象者なのか」「書類提出のタイミング」「控除できる項目」が異なります。以下にそれぞれの違いをまとめました。

年末調整 確定申告
手続きをする人 納税者に代わり勤務先が行う 納税者が自分で行う
対象者 会社員や公務員などの給与所得者 すべての人
対象となる所得 給与所得のみ 給与所得を含む全10種類の所得
時期 遅くとも11月頃には企業が従業員に手続きの連絡をするのが一般的 翌年2月16日~3月15日
申請できる所得控除 医療費控除・寄附金控除・雑損控除を除く所得控除 すべての所得控除

年末調整とは?

年末調整は、給与所得者が対象の税金に関する手続きです。従業員は勤務先へ必要書類を提出し、勤務先は税額を計算の上、税務署や従業員が住んでいる市町村へ必要な
年末調整書類を提出します。

会社員などの給与所得者は毎月の給与から所得税が源泉徴収されていますが、年の途中では正確な税額が確定していないため、仮の税額が毎月の給与から引かれています。

そのため1年間の所得額が分かる毎年12月に、確定税額と既に天引きした税額の差額を計算して過不足を調整します。この年末に行なう作業が年末調整です。

年末調整の対象者

会社員やアルバイト、パートなどの給与所得者は基本的に年末調整をしなければいけません。ただし「給与総額が2,000万円を超える人」は年末調整の対象外です。

年末調整の時期

従業員の勤務先である会社や個人事業主などの給与支払者は、年末調整を終えて1月までに税務署や従業員の住む市町村に必要書類を提出する必要があります。そのため社内向けには遅くとも、11月頃には従業員に年末調整の案内をするのが一般的です。

確定申告とは?

確定申告とは1年間の所得額をもとに、所得税額を計算して申告する手続きです。個人事業主など勤務先で年末調整を受けておらず、所得(利益)を得て所得税が発生した人は、確定申告が必要です。

確定申告の対象者

また、年の途中で退職して年末調整を受けられなかった人や、年末調整では受けられない医療費控除の適用を受けたい人なども、自分で確定申告をする必要があります。

確定申告の時期

確定申告をする期間は、所得が生じた1月1日〜12月31日の翌年2月16日~3月15日です。

年末調整と確定申告で受けられる控除の違い

年末調整と確定申告には、受けられる控除に違いがあります。以下の表にまとめました。

控除名 年末調整 確定申告
基礎控除
配偶者控除
配偶者特別控除
扶養控除
ひとり親控除
生命保険料控除
地震保険料控除
寡婦控除
社会保険料控除
小規模企業共済等掛金控除
障害者控除
勤労学生控除
住宅借入金等特別控除(2年目以降)
医療費控除 ×
寄附金控除 ×
雑損控除 ×
住宅借入金等特別控除(初回) ×

〇=受けられる ×=受けられない

控除の具体的な内容については、下記記事で詳しく説明しています。

年末調整と確定申告の両方が必要な人は?

給与をもらう会社員などの給与所得者は、年末調整を受けることが一般的であり、個人で確定申告をする必要は通常ありません。ただし、年末調整と確定申告は対象の所得・控除が異なります。

そのため勤務先で年末調整を受けていても、追加で確定申告が必要な場合があります。法的な必要性はなくても、年末調整とは別に確定申告を行うことで、納税者にとって得るものが大きい場合もあります。具体的なケースごとに詳しく見ていきましょう。

年末調整と確定申告の両方をする義務がある人
  • 本業以外の所得が20万円を超える人
年末調整と確定申告の両方をしたほうがいい人
  • 医療費控除や寄附金控除など、年末調整で対応できない控除を受けたい人
  • ふるさと納税を6か所以上で行っている人
  • 住宅ローン控除を初めて利用する人
  • 年の途中で退職して、退職金を受け取った人
  • 職場の年末調整で、保険料控除の書類を提出できなかった人
  • 会社に申請する控除を知られたくない人

本業以外の所得が20万円を超える人

会社員が副業をして、給与所得や退職所得以外の所得が20万円を超える場合、確定申告の義務が生じます。たとえ職場で年末調整が行なわれていても、両方とも手続きをしなければいけません。

また2ヵ所以上から給与の支払いを受けており、片方が20万円を超える場合も確定申告が必要です。

不動産の売却で20万円以上の利益が発生した場合も、原則として確定申告が必要となります。マイホームの売却で得た利益に対する譲渡所得の3,000万円控除を適用する際も、確定申告が必要です。

医療費控除やふるさと納税など、年末調整で対応できない控除を受けたい人

所得控除の適用を受ければ税負担が軽くなりますが、医療費控除・寄附金控除・雑損控除の3つの控除については年末調整では手続きができません。これらの控除を受けたい場合は確定申告で申請します。

また住宅ローンを組んだ人が受けられる住宅ローン控除は、2年目以降は年末調整で対応できますが1年目は確定申告が必要です。

ふるさと納税を6か所以上で行っている人

給与所得者がふるさと納税を行った場合、原則として、確定申告が必要です。ただし確定申告をしなくても「ワンストップ特例制度」を利用すれば、寄附金控除が受けられます。

この特例制度を利用するには、1年間の寄附先の自治体が5つ以内でないといけません。そのためもし寄附先が6つ以上の自治体になると、寄附金控除を受けるために確定申告が必要です。

また寄附先が5つ以内でも、医療費控除や雑損控除と同時にふるさと納税の寄附金控除を受けたい場合は、ワンストップ特例制度は利用できません。確定申告で寄附金控除の申請が必要となります。

住宅ローン控除を初めて利用する人

初めて住宅ローン控除を利用する年には、確定申告をしないと控除を受けられません。

住宅ローン控除は住宅ローンを使って自宅を購入やリフォームする際に、残債に応じた金額が所得税から差し引かれる仕組みです。これは所得から差し引かれる控除ではなく、所得税の金額から直接差し引かれる税額控除となっています。

ただし、2年目以降は年末調整で手続きが可能です。その場合、確定申告は必要ありません。

年の途中で退職して、退職金を受け取った人

「退職所得の受給に関する申告書」を以前の雇用先に提出していた場合、退職金の支給時には源泉徴収されるため、通常は確定申告が必要ありません。

また通常前の雇用先で得た給与が年間で20万円未満の場合は、確定申告が不要です。しかし新しい職場での年末調整が行われる際に、以前の雇用先での源泉徴収票を提出していない場合に確定申告を行うと、過払いした所得税が返金される可能性があります。

もしも以前の雇用先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、確定申告を行うことで源泉徴収された税金が還付される可能性があります。ただし、受け取る退職所得の額や具体的な条件によっては還付されないかもしれません。

また年の途中で退職し年末調整が行われない場合、源泉徴収された所得税が精算されません。所得控除が適用されないため、所得税を過剰に納めてしまうことになる可能性があります。このような場合は退職所得を含む確定申告を行うことで、過剰に納められた源泉徴収税が還付されることが想定されます。

職場の年末調整で、保険料控除の書類を提出できなかった人

年末調整の時期までに保険料控除の証明書を用意できず提出できなかった場合でも、翌年に自分で確定申告をすれば所得控除の適用を受けられます。

控除証明書を紛失して再発行手続きをしたものの年末調整に間に合わない場合や、年末に生命保険やiDeCoなどに加入したため証明書類が年末調整の後に届く場合は、控除の適用を受けるために確定申告を行ないましょう。

会社に申請する控除を知られたくない人

所得控除の中には本人や家族に関する情報に関連するものがあります。たとえば寡婦控除やひとり親控除、障害者控除の適用を受けることを、職場に知られたくないと考える人もいるでしょう。

そのような場合は年末調整の提出資料では控除欄に記入せず、自分で確定申告をして控除の適用を受ければ職場に知られずに済みます。年末調整は実質的に必須なので手続きをしないことはできませんが、適用を受ける控除すべてを記入する必要はありません。

年末調整と確定申告は重複してもいいの?

会社員や公務員が年末調整を受けた後に確定申告をした場合、年末調整ではなく確定申告の内容が優先されます。

年末調整と確定申告が重複しても、税金が二重に取られたり申請した控除が二重に適用されたりすることはなく、特に問題はありません

すでに解説したように、年末調整も確定申告も必要になる場合があるので、両方とも必要であればどちらの手続きも忘れずに行ないましょう。

確定申告するなら、年末調整はしなくてOK?

所得税の手続きという点で年末調整と確定申告に違いがないのであれば、「年末調整後にわざわざ重複して確定申告をせず、最初から確定申告だけををすれば良いのでは?」と考える人もいるでしょう。

しかし自分で確定申告をする場合も勤務先の年末調整を不要にすることはできません。年末調整も確定申告も義務が生じるケースがそれぞれ法律で決まっています。どちらの要件にも該当する場合は両方とも手続きが必要です。

年末調整は会社の義務で、従業員は必然的に行う

年末調整の対象となるのは「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員です。企業は対象者の年末調整を行なう義務があり、法律に違反すると罰則を科されます。

従業員は勤務先に扶養控除等申告書を提出するのが一般的であり、実質的に年末調整の手続きは必須です。勤務先で年末調整を行なわないのは、給与総額が2,000万円を越す超す場合や、アルバイトやパートを掛け持ちしていて他企業で年末調整をする場合などに限られます。

副業でも、給与収入ならば年末調整する

年末調整の対象になるかどうかは、その給与収入がメインの収入なのか副業に過ぎないのかは関係ありません。副業の場合でも給与収入を得たら年末調整が必要です。

たとえば事業を行なっている個人事業主が副業でアルバイトをする場合、給与収入があれば会社員や公務員と同じく年末調整を行います。メインの事業収入の確定申告をする際、給与収入分もまとめて両方とも申告することにして、年末調整を省略できるわけではありません。

なお会社員が副業をする場合や、フリーランスや学生、主婦などがアルバイト・パートを掛け持ちする場合は、年末調整は主たる勤務先で行います。

年末調整は複数の勤務先で行うことはできず1ヵ所のみで行うので、掛け持ちしている他の勤務先では年末調整は行いません。

年末調整をしなかった勤務先から得た給与については、基本的に確定申告で対応します。

年末調整書類の提出方法

年末調整の手続きは通常、11月から翌年1月下旬にかけて実施されます。

従業員は扶養控除等申告書といった必要書類に記入して、生命保険料控除証明書などの各自必要な証明書を添付して提出すれば、申告や納税を勤務先が代わりに行なってくれます。

手順は以下の通りです。

  1. 従業員:源泉徴収票を11月上~中旬に会社に提出
  2. 従業員:給与所得者の扶養控除等(異動)申告書など、必要な届出書を11月中~下旬に会社に提出
  3. 会社:12月に年末調整の計算を実施
  4. 会社:翌年1月に税務署や市区町村に申告書類を提出

従業員が年末調整で提出する用紙

年末調整で記入・提出する主な用紙は次の3つです。

申告書 受けられる控除
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、基礎控除
給与所得者の配偶者控除等申告書 配偶者控除、配偶者特別控除
給与所得者の保険料控除申告書 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除

また住宅ローン控除の適用を受ける場合は住宅借入金等特別控除申告書を提出します。

それぞれの申告書の書き方や記入例については、次の記事で紹介しているので、記入方法がよく分からない場合は参考にしてください。

関連記事:年末調整書類の書き方~年末調整手続の電子化についても解説

年末調整で必要な各種書類

年末調整で必要になる書類の例は以下です。

  • 生命保険料控除証明書
  • 地震保険料控除証明書
  • 個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金を証明する書類
  • 国民年金や国民健康保険などの社会保険料の控除証明書
  • 配偶者特別控除のための収入証明書(源泉徴収票など)
  • 住宅ローン控除に必要な住宅借入金等特別控除申告書、借入金の年末残高等証明書

年末調整で添付書類として提出する書類は、適用を受けたい所得控除の種類によって変わります

保険会社などから届く書類もあれば自分で用意する書類もあるので、年末調整の時期が近づいたら書類がすべて揃っているか確認するようにしましょう。
年末調整を受けないと、源泉徴収税額が高くなる点に注意

年末調整時に給与所得者が主たる勤務先に提出しなければいけない扶養控除等申告書が未提出の場合、所得税額の適用が変わってきます。

毎月の給与から天引きされる所得税額は「給与所得の源泉徴収税額表」をもとに計算されます。扶養控除等申告書を提出していない場合、提出した場合に比べて一般的に源泉徴収税額が高くなり手取り額が減ってしまいます

確定申告で正しい税額に精算できますが、敢えて扶養控除等申告書を出さず手取り額を減らす意味はないので、申告書は忘れずに勤務先に提出しておきましょう。

確定申告の流れと簡単に終わらせる方法

確定申告をする期間は、所得が生じた年の翌年2月16日~3月15日です。申告・納税の義務があるにもかかわらず、期限までに手続きをしないとペナルティが科されるので、確定申告は期限までに必ず終わらせましょう。

なお申告書の提出後に間違いに気づいた場合は、申告期間内に再度申告書を提出すれば訂正できます。手続き期限までに申告書が重複して提出された場合は後のものが優先されるので、税金が二重に取られる心配はありません。

年末調整と確定申告を両方行うときの注意点

年末調整を行った給与取得者が確定申告もするとき、年末調整後に発行される源泉徴収票を用意しておかなければなりません。

給与額や、既に年末調整で調整された所得税額を含めて申告しないと、誤った納税額が算出されてしまうためです。

会社員やパート、アルバイトの人が年末調整を行なう際には、勤務先から受け取った源泉徴収票を手元に用意しておきましょう。また源泉徴収票に記載の金額を書き間違えないように注意することも大切です。

確定申告のやり方

確定申告は以下の流れで行います。

①所得税額を計算する

②確定申告書を提出する

③納税する

所得税の計算方法は以下です。

  1. 1年間の収入や経費を集計する
  2. 収入と経費から所得額を求める
  3. 所得額から所得控除額を差し引き、税率をかけて所得税額を求める
  4. 税額控除を適用して納税額を求める

これらの金額を確定申告書に記入して、添付書類とともに税務署に提出します。提出方法は次の3つです。

  • 申告書を税務署に持参して提出する
  • 申告書を税務署に郵送して提出する
  • e-Taxを使ってパソコンやスマホで提出する

確定申告書は税務署に行けばもらえますが、国税庁サイトからダウンロードすることもできます。

また、確定申告書等作成コーナーを使って申告書を作成すれば、パソコンで入力して申告書を作れるので手書きする手間がかからず便利です。

e-Taxとは電子申告システムのことで、パソコン画面上で確定申告書の作成から提出まで終えられます。利用にはマイナンバーカードが必要です。

所得税の納付方法

確定申告をして所得税を納付する場合、主な納税方法は次の5つです。

  • 振替納税を利用する
  • e-Taxで納付する
  • クレジットカードで納付する
  • QRコードによりコンビニで納付する
  • 金融機関や税務署の窓口で現金で納付する

e-Taxやクレジットカードで納付する場合はパソコン画面上で手続きができます。確定申告書等作成コーナーなどを使ってQRコードを作成してコンビニで納付する場合、納付できる金額の上限は30万円です。

現金で納付する場合は、税務署または所轄税務署管内の金融機関に用意してある納付書を使って納付します。

監修税理士のコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

年末調整で受けられなかった控除がある場合は確定申告をすれば控除を受けられますのでご安心ください。複雑な内容でない場合、確定申告書等作成コーナーを使って作成すれば比較的楽に確定申告書を作れますのでオススメです。

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年末調整と確定申告はともに所得税に関する手続きですが対象者などが異なります。重複して必要な場合もあれば両方とも不要な場合もあるので、両者の違いを理解した上で必要な手続きを忘れずに行いましょう。

確定申告のやり方がよく分からない場合は税理士に早めに相談するようにしてください。ミツモアでは確定申告に強い税理士を検索でき、見積りの依頼もできるようになっています。

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この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・1級FP技能士)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。