青色申告は「難しい、大変だ」というイメージがある方も多いのではないでしょうか? 特に複式簿記の知識が必要な帳簿の書き方は、多くの方にとっての悩みどころではないかと思います。
この記事では青色申告をするための必要書類から帳簿のつけ方、申告書の記載方法までの一連の流れを紹介。初めて青色申告をされる方もスムーズに進められるように、わかりやすく解説します。
この記事の監修税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
青色申告の控除額で書き方と必要帳簿が異なる
青色申告で適用される青色申告特別控除には「65万円」「55万円」「10万円」の3パターンがあります。「65万円」もしくは「55万円」控除を受ける場合は「複式簿記」を、10万円控除を受ける場合は「単式簿記」で記帳しなければなりません。
それぞれで必要帳簿が異なり、「65万円」もしくは「55万円」の青色申告特別控除を受ける場合は「主要簿」と「補助簿」の作成が必要になります。
【必要な帳簿の早見表】
控除の種類 | 65万円控除・55万円控除 | 10万円控除 |
---|---|---|
記載方法 | 複式簿記 | 単式簿記 |
必要な帳簿 | 【主要簿】
・仕訳帳 ・総勘定元帳 【補助簿】 ・現金出納帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・経費帳 ・固定資産台帳 |
・現金出納帳
・売掛帳 ・買掛帳 ・経費帳 ・固定資産台帳 |
確定申告に必要な書類 | ・確定申告書
・青色申告決算書(損益計算書、貸借対照表) |
・確定申告書
・青色申告決算書(損益計算書) |
青色申告特別控除については次の記事でくわしく解説しています。「自分がどの控除に該当するかわからない」などの場合は、ぜひ合わせて参考にしてください。
65万円、55万円控除は「複式簿記」10万円控除は「単式簿記」で記帳
青色申告の控除額によって大きく異なるのは「複式簿記」と「単式簿記」の違いです。65万円、55万円と大きく控除をとるためには複式簿記による記帳が必要になります。
複式簿記とは、取引ごとに借方と貸方を使用した仕訳を計上して、仕訳の累積で損益計算書と貸借対照表を作成する方法です。
一方で単式簿記は、取引ごとの仕訳の作成は必要ありません。現金出納帳などの必要な帳簿に取引を記載して集計できるようにしておき、損益計算書の科目ごとに帳簿から集計した数字を記載すれば大丈夫です。
【記帳の具体例】
例えば備品5万円を購入した場合を例にして、それぞれの方法を確認してみましょう。
<複式簿記の場合>
複式簿記では以下の仕訳を計上します。
(借方) | 金額 | (貸方) | 金額 |
---|---|---|---|
備品消耗品費 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
<単式簿記の場合>
単式簿記では現金出納帳の出金欄に50,000円、摘要欄に備品を購入した旨を記載するだけです。
このため単式簿記では損益の集計はできるものの、貸借対照表の作成は困難です。
控除額別の必要な帳簿
「65万円控除、55万円控除」と「10万円控除」では作成すべき必要な帳簿が異なります。
「65万円控除、55万円控除」では「主要簿」と「補助簿」を作成する
「65万円控除、55万円控除」では複式簿記が求められますが、作成書類には必ず作成が必要な「主要簿」と該当する場合だけ作成が必要な「補助簿」があります。
主要簿は発生する取引のすべてを記録する帳簿のことで、具体的には取引ごとに仕訳を作成して記録する「仕訳帳」と仕訳を科目ごとに集計した「総勘定元帳」です。
補助簿は主要簿の補助的な位置付けで、該当するものがある場合に作成します。例えば固定資産があれば固定資産台帳を作成するといった具合です。補助簿は内容をより詳細に記録したものになります。
65万円控除と55万円控除は必要な帳簿、確定申告に必要な書類はまったく同じです。両者の違いは「e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存をおこなうかどうか」という要件の違いのみですので、帳簿と書類は同じものを用意しましょう。
「10万円控除」は「補助簿」の作成のみでOK
「10万円控除」は単式簿記でよいので、主要簿である仕訳帳と総勘定元帳の作成も求められておらず、補助簿だけを作成すればよいことになります。
全ての控除額で必要となる補助簿の記帳方法
青色申告において共通で必要な「補助簿」の記帳方法を書類ごとに解説します。
現金出納帳の書き方
現金出納帳は日々の入出金を発生順に記帳して、残額を明確にする帳簿です。
【記入項目】
項目 | 記入内容 |
---|---|
日付 | 実際に現金が入金された日や出金した日 |
勘定科目 | 経費の種類(項目別) |
適用 | 相手先や商品名 |
借方金額 | 入金した金額 |
貸方金額 | 出金した金額 |
差引残額 | 現在の残額 |
勘定科目は次の記事で一覧で解説しています。「どの勘定科目を使えばよいのかわからない」場合はぜひあわせて参考にしてみてください。
預金出納帳の書き方
預金出納帳は、預金口座別の入出金内容を取引ごとに記載したものです。
【記入項目】
項目 | 記入内容 |
---|---|
日付 | 預金に入出金のあった日付 |
科目 | 預金の相手の勘定科目 |
適用 | 取引の相手先や内容 |
預入 | 入金した金額 |
引出 | 出金した金額 |
残高 | 銀行口座の預金残高 |
買掛帳・売掛帳の書き方
買掛帳は仕入れに関係する取引を発生順に記録していく帳簿です。どんな商品を仕入れて、その代金をいつ支払ったのかがわかります。
一方、売掛帳は売上取引に関する取引の内容を発生順に記録していく帳簿です。誰にいくらで売却して、いつ代金を受け取ったのかがわかります。
【記入項目】
項目 | 記入内容 |
---|---|
日付 | 買掛帳:仕入れた商品が到着した日
売掛帳:商品を納めた日 |
適用 | 買掛帳:仕入れた商品名
売掛帳:納めた商品名 |
金額 | 買掛帳:仕入れた商品の金額
売掛帳:売り上げた商品の金額 |
支払(受入)金額 | 支払った商品代金 |
買掛帳と売掛帳は「いつ・何を・誰に・いくらで」の観点から、仕入れや売り上げの事実がわかるようにする必要があります。
経費帳の書き方
経費帳は仕入れ以外、例えば交通費や接待交際費などの出費について、発生順に記載していく帳簿です。勘定科目別に、「いつ・何のために・いくら」経費として支出したのかを記入していきます。
固定資産台帳の書き方
固定資産台帳は、産業用機械や土地・建物といった固定資産について、減価償却分を経費算入する際などに用いられます。
【記入項目】
項目 | 記入内容 |
---|---|
資産名 | 固定資産の名称 (わかりやすいように任意のもの) |
区分 | 国税庁の耐用年数表にある区分名から該当するもの |
取得年月日 | 固定資産を取得した日付 |
耐用年数 | 国税庁の耐用年数表にある耐用年数から該当するもの |
償却方法 | 「定額法」と記入 |
償却率 | 国税庁が定める耐用年数ごとの償却率 |
年月日 | 取得や減価償却する年月日 |
摘要 | 購入や減価償却などの状況 |
取得価額 | 取得価額を記入 |
減価償却額 | 減価償却する価格 |
帳簿価額 | 前年における未償却の残高から減価償却額を引いた額 |
65万円、55万円控除に必要な主要簿の記帳方法
65万円および55万控除を受けるのに必要な主要簿の記帳方法を解説します。
仕訳帳の書き方
仕訳帳は、日々の取引について、勘定項目を用いてひとつの取引を借方と貸方両方に分けて記載し、貸方と借方の金額は常に同一になるよう記入します。
仕訳については取引ごとに処理が異なります。見慣れない仕訳に出くわした時は税理士や会計士に相談しましょう。
総勘定元帳の書き方
総勘定元帳は、すべての取引を勘定科目ごとに分類して記載する帳簿です。記載事項はすべて仕訳帳から転記します。
青色申告の帳簿付けのポイント
青色申告の帳簿付けのポイントは発生主義で記載することです。発生主義とよく比較される方法に現金主義があります。青色申告に必要な発生主義の内容を、現金主義と比較して解説します。
帳簿は発生主義で記載する
発生主義とは「取引の発生を認識したとき」に仕訳を計上する方法です。現金が実際に入出金したタイミングではなく、収入や費用が確定したタイミングで仕訳を記載します。
例えば仕入先から12月18日に物品50,000円を発注し、12月20日に納品、実際の支払は1月25日であったとします。
この場合の仕入の認識は、仕入をして支払をしなければならないと確定したタイミング、すなわち物が納品された12月20日になります。
【仕訳の記載例 (発生主義)】
12月20日
(借方) | 金額 | (貸方) | 金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 50,000円 | 買掛金 | 50,000円 |
1月25日
(借方) | 金額 | (貸方) | 金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 50,000円 | 現金預金 | 50,000円 |
【仕訳の記載例 (現金主義)】
もしも現金主義で仕訳すると、以下の通りになります。
12月20日
仕訳なし
1月25日
(借方) | 金額 | (貸方) | 金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 50,000円 | 現金預金 | 50,000円 |
青色申告では発生主義で仕訳を計上するので、この仕入は12月の費用になります。
帳簿は7年間、領収書などは5年間保存する
青色申告をして納税を済ませたからといって、すぐに帳簿を処分してはいけません。帳簿や領収書には保存義務があるのです。万が一税務調査があった際には、これらの書類を提示する必要があります。
保存期間は、仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、預金出納帳などの帳簿類が7年間、領収書が5年間とされています。
帳簿類と領収書の保存期間は異なりますが、保存期間の長い帳簿類に合わせて、帳簿類も領収書も1カ所にまとめて7年間保管した方が管理が楽になります。
確定申告の際に帳簿を提出する必要はない
青色申告で必要な帳簿は控除額によって異なりますが、いずれも確定申告の際に提出する必要はありません。確定申告の際には帳簿を元にして作成した「貸借対照表」や「損益計算書」を「確定申告書」とあわせて提出します。
記帳手段は会計ソフトやエクセル、手書きどれでもOK
青色申告に必要な仕訳の記帳は必ずしも会計ソフトを利用しなければならない訳ではありません。エクセルや手書きでも、必要な帳簿が作成できれば大丈夫です。
それぞれにメリットやデメリットがありますが、迷ったときは会計ソフトの使用がおすすめです。
各記帳手段のメリット・デメリット
各基調手段のメリットとデメリットを一覧表でまとめました。
手書き | エクセル | 会計ソフト | |
---|---|---|---|
メリット | ・ノートなどを使い手軽に帳簿をつけることができる
・自分の好きな様式で作成できる |
・手軽に帳簿をつけることができる
・自分の好きな様式で作成できる ・計算式を利用できるので便利 |
・知識が少なくても、勘定科目と金額を入れれば帳簿を作成できる
・青色申告決算書や確定申告書の作成まで連動して作成できるものも多い |
デメリット | ・全ての記載事項の漏れがないかなど、簿記・会計の知識がある程度ないと難しい
・計算を自分でしないといけないので、取引が増えると大変 |
・全ての記載事項の漏れがないかなど、簿記・会計の知識がある程度ないと難しい | ・費用がかかる
・帳簿そのものの理解が進まないことがある |
手書きやエクセルは費用もかからず、帳簿を手軽につけられます。以下のような場合には特におすすめです。
【手書きやエクセルがおすすめの場合】
- 取引量が少ない
- 取引先が少ない、掛取引が少ないなど、取引内容が単純
- 簿記の知識が豊富で、自分の好きな様式で記帳したい
迷ったら会計ソフトがおすすめ
複式簿記は複雑なので、特に貸借対照表の作成など、手書きやエクセルだと簿記や会計の知識がないと難しいところになります。記帳方法がよくわからない場合は会計ソフトの使用がおすすめです。
【会計ソフトがおすすめの場合】
- 簿記、会計の知識に自信がない
- なるべく手間をかけずに楽に帳簿付けをしたい
- 取引量が多い
- 掛取引や未収、未払が多いなど取引内容が単純ではない
青色申告をするということは、取引量も多く規模も大きくなってきていることが多いのではないでしょうか。複式簿記は会計ソフトを利用すると圧倒的に便利です。もし迷われたなら、会計ソフトの利用を強くおすすめします。
青色申告におすすめの会計ソフト3選
会計ソフトには、ご自身のパソコンにインストールして使用するものとクラウド型のものがあります。前者は買い切りですが、改正ごとにアップデートが必要ですし初期費用もかかります。
クラウド型は毎月使用料がかかりますが低額で利用を開始でき、アップデートの手間もありません。またトラブルなどでデータが紛失するリスクもなく安心です。現在ではクラウド型が主流となってきています。
「freee」や「マネーフォワードクラウド会計」など、クラウド型で使えるおすすめの会計ソフトを紹介します。
freee
freeeは操作画面が見やすく、簿記の専門用語もわかりやすく言い換えてくれるなど、初心者でも使いやすい会計ソフトです。スマホアプリもあり、隙間時間にスマートフォンから入力できるので便利です。
そして銀行口座やクレジットカードから明細を自動で読み込んでくれるので、金額の入力の手間が省けます。連携金融機関の数も多く、一般的に個人事業主の方が利用している銀行でしたらまず対応しているのではないでしょうか。
追加料金でレシートの写真読み取りにも対応しています。レシートからの仕訳入力も楽にできそうですね。
マネーフォワードクラウド会計
マネーフォワードクラウド会計も、スマホアプリに対応しています。また銀行口座やクレジットカードから取引明細を自動で読み込めるので、入力の省力化を図れます。
他社製品に比べて簿記の知識があることを前提とした設計になっていますので、完全な初心者には難しく感じる面もあるかもしれません。しかし少しでも経験のある方は、キャッシュフローレポートなどの各種会計レポートを簡単に出力できますので経営状態の確認に活用できます。
またマネーフォワードクラウドの他の各種サービス(請求者作成や経費清算など)とも連携できるので、他の事務作業も効率化できて便利です。
やよいの青色申告オンライン
やよいの青色申告オンラインは、弥生会計のクラウド型ソフトです。弥生シリーズは「23年連続売上実績No.1」と古くから会計ソフトのシェアを誇っており、税理士からの支持も強く安心感のある会計ソフトです。
こちらも前述した2つの会計ソフトと同様にスマホアプリに対応し、銀行口座やクレジットカードから取引明細を自動読み込みにも対応しています。初心者でも分かりやすいシンプルな機能と画面で、初めて青色申告する方にもおすすめです。
古くから多くの方に利用されてきた会計ソフトなので、サポート体制も充実しています。
ミツモアでは会計ソフトの製品比較や相見積もりを取れる無料サービスを提供しています。「多くの会計ソフトから比較検討したい」「実際の導入イメージを掴みたい」といった方は、ぜひあわせて参考にしてみてください。
監修税理士からのコメント
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
税理士への相談はミツモアで
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