日本国内の会社に勤めていた会社員が、1年以上海外で勤務する場合、「非居住者」になります。
非居住者は一定額の所得が日本国内で発生していれば、確定申告を行なわなければなりません。
この記事では非居住者の課税対象や納税管理人の選定について詳しく解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
「国内源泉所得」がある「非居住者」は確定申告が必要
1年以上日本に居住している実績がない人は、税法上の「非居住者」にあたります。長期間海外赴任しているビジネスマンなどが多いです。
非居住者は国外で得た所得は課税されませんが、国内で発生した所得が一定額ある場合は課税の対象となる点に注意が必要です。
以下では非居住者・居住者の区別、国内源泉所得について解説します。
「非居住者」「居住者」の基準・違いは?
個人の納税義務者は「非居住者」と「居住者」に分けられます。
非居住者 | 居住者 |
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「非居住者」と「居住者」の違いは、住所または居所を日本国内に有するかどうかです。
つまり、生活の本拠となる住所が日本国内にある、または、住所がなくても1年以上生活の拠点となる居所や勤務先がある人は「居住者」、それ以外の人は「非居住者」と区分します。
「居住者」については、日本国内はもちろん日本国外の所得についても課税されます。
一方、「非居住者」は日本国内で発生する一定の所得(国内源泉所得)のみが課税対象です。
「国内源泉所得」に該当する所得の例
「国内源泉所得」とは日本国内で発生する所得を指します。
非居住者は日本国内に恒久的施設がある場合、国内源泉所得の確定申告が必要です。「恒久的施設」には、支店・工場・その他事業を行う一定の場所や代理人が含まれます。
主に以下の3つが当てはまります。
- 国内資産の運用・保有・譲渡によって得た所得
- 国内の不動産を貸し付けて得た対価
- 国内における一時所得
それぞれに当てはまる具体的ケースについて、以下で詳しく解説していきます。
非居住者でも確定申告が必要な3つの代表的なケース
非居住者でも確定申告が必要なケースには、以下の3つがあります。
国内源泉所得 | 具体的ケース |
---|---|
国内資産の運用・保有・譲渡によって得た所得 | 海外転勤前に住んでいた日本の住宅を売却した |
国内の不動産を貸し付けて得た対価 | 所有する住宅を海外赴任中だれかに貸している |
国内における一時所得 | 日本国内で契約した生命保険の満期保険金を受け取った |
① 海外転勤前に住んでいた日本の住宅を売却した
海外での勤務中に日本で住んでいた自宅を売却した場合は確定申告が必要です。日本に所有していた土地を売却し、その売上収入を得たときも同様に確定申告を行いましょう。
非居住者が日本国内にある不動産を売却した際、売却額の10.21%が源泉徴収されます。この源泉徴収された額は確定申告によって精算することが可能です。
ただし不動産の譲渡対価が1億円以下で、居住用に個人が購入したのであれば源泉徴収の必要はありません。
② 所有する住宅を海外赴任中だれかに貸している
海外勤務中に日本国内にある不動産を貸し付けた場合、確定申告が必要です。
受け取る不動産の賃料から20.42%が源泉徴収されます。ただし個人が居住するために借りた場合は、源泉徴収は不要です。
ちなみに不動産所得は、受け取った賃料から固定資産税、修繕費、借入利子、減価償却等の経費を差し引いた上で計算されます。
確定申告を行うと、基礎控除、寄附金控除、雑損控除のみ、所得控除として控除が可能です。
③ 日本国内で契約した生命保険の満期保険金を受け取った
日本の生命保険会社で加入した保険商品から利益を得た場合、基本的に確定申告が必要です。
ただし日本が外国と結んでいる租税条約の中には、満期保険金について日本での課税が免除されるものもあります。この規定が適用される国に住んでいる場合、確定申告をせずとも自動的に免税されます。
また保険期間が5年以内のもの、もしくは保険期間が5年を超えていても保険期間の初日から5年以内に解約したものから利益を得た場合も、確定申告の必要はありません。この場合の税率は15.315%で源泉徴収されます。
しかし租税条約で日本での課税が免除される国に住んでいる場合、日本の生命保険会社を通じて「租税条約に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。
租税条約は日本の税法よりも優先して適用されます。そのため、租税条約の上限税率を上回る分の税金は源泉徴収に含まれません。
非居住者の確定申告は出国前に納税管理人の選定をしよう
「納税管理人」とは非居住者に代わって確定申告書の提出や納税を行う人を指します。
転勤などで非居住者になる場合は、出国前に納税管理人を選定しておきましょう。
納税管理人を選定していれば確定申告期間に納税のためだけに帰国する必要がなくなります。
納税管理人の選定方法
納税管理人を選定するためには、その非居住者の納税地を管轄する税務署に、以下の「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出しなければなりません。
「所得税・消費税の納税管理人の届出書」の記載項目は以下の通りです。
① 納税地非居住者(納税管理人を指名した人)の納税地
納税地の判断は定められた判断基準もありますが、海外赴任などで非居住者となる場合はそれまでの住所が納税地となるケースが多いです。
② 住所・氏名・個人番号(マイナンバー)・職業
記載した個人番号については、提出時に本人確認書類での確認が必要になります。
③ 納税管理人の住所・氏名等
納税管理人となる人や法人の住所・氏名等を記載します。
④ 非居住者の国外住所
非居住者となった後の、国外での住所または居所を記載します。
⑤ 納税管理人を定めた理由
海外赴任等、本人が国内での確定申告等の税務処理が行えない理由を記載します。
⑥ 出国や帰国の予定日
出国や帰国の予定日を記載します。なお帰国予定日になっても、納税管理人が自動的に解任されることはありません。
⑦ 国内源泉所得の所得内容
国内で生じる所得について、「事業所得」「不動産所得」「給与所得」「譲渡所得」といった所得区分を選択してマークします。
所得税・消費税の納税管理人の届出書は「[手続名]所得税・消費税の納税管理人の届出手続」からダウンロードできます。
納税管理人を選定した後は、税務署などの発送する書類などが直接納税管理人に届くようになります。確定申告や税金の納付だけでなく、所得税に係る届出などの諸手続きも納税管理人が代理で行うことが可能です。
納税管理人の選定方法
納税管理人は納税者に代わって納税に関する書類の受領、納税や還付金の受け取りなど、税に関するすべての手続きを管理します。
納税管理人になることに資格は必要ありませんが、家族や友人などの身近な人よりも税理士などのプロに依頼することが推奨されます。
家族・友人を納税管理人に選任しない方が良い理由のひとつが、納税手続きの代行に関する負担が大きいことです。
うまく手続きができないことによるトラブル発生の可能性があるので、できる限りプロに依頼することをおすすめします。
納税管理人の選定をしないとどうなる?
年の途中から海外に勤務する場合、出国日までにその年の日本国内の所得に関して確定申告を行わなければなりません。
また出国後に国内源泉所得がある場合も、出国後からその年の12月31日までの所得について、その翌年の2月16日〜3月15日までの間に確定申告が必要です。
もし上記のケースに当てはまる人が確定申告をせず出国したり、納税管理人を選定せずに出国したりすると、「無申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが発生します。
無申告加算税は期限までに申込書を提出しなかった場合に、納付すべき金額の5〜20%が課されます。延滞税は納付期限までに納税を行わなかった場合に課され、その税率は納付されていない金額に対して2.5〜14.6%です。
もし納税管理人を選定せずにすでに出国してしまった人は、今すぐにでも納税管理人届出書を提出することをおすすめします。
非居住者はe-Taxを使った電子申請ができないので要注意
非居住者はe-Taxを利用した電子申請を利用できない点にご注意ください。e-Taxを利用できるのは日本国内居住者のみです。
e-Taxの申請時にはマイナンバーカードが必要です。マイナンバーカードに紐づけられている署名用電子証明書を利用して、手続きを簡便化しています。
しかし国外に転居した場合はマイナンバーカードの効力が失われます。それにより署名用電子証明書をはじめとしいた各種電子証明書も無効になります。
なお、署名用電子証明書はパスワード設定時の氏名・生年月日・住所を証明するものです。そのため国内転居であっても転居が行われた時点で一度失効します。海外転居が失効の条件ではない点にご注意ください。
年の途中に非居住者になったら確定申告が必要
年の途中で非居住者になった場合も、確定申告が必要になるケースがあります。
会社員(給与所得)と個人事業主、それぞれのケースについて解説します。
会社員(給与所得者)の確定申告の方法
年の途中で非居住者になった会社員の給与は、出国前までの部分が年末調整の対象です。そのため会社側は、当年の1月1日から出国日までの範囲で年末調整を行ないます。
控除については、人的控除(扶養控除・配偶者控除など)は1年分、物的控除(社会保険料控除・生命保険料控除など)は出国日までの支払い分が対象です。
年末調整の対象外である医療費控除や寄附金控除などを受けたい場合や、給与以外に収入がある場合は、通常どおり自分で確定申告をしなくてはなりません。
また、出国後に国内源泉所得に該当する所得を得た場合は、確定申告を行ない税金を納める必要があります。
個人事業主の確定申告の方法
年の途中で非居住者になった個人事業主は、当年の1月1日から出国日までの範囲で確定申告を済ませる必要があります。確定申告の期限は出国日までです。
なお、1月1日から3月15日までの間に出国する場合は、前年分と当年分の確定申告をしなくてはならないので注意しましょう。
出国後は国内に恒久的施設を置いていなければ、国内で事業収入を得たとしても税金が課せられることはありません。
ただし、国内源泉所得に該当する所得がある場合は、確定申告を行い税金を納める必要があります。
海外勤務になると年末調整・源泉徴収の扱いが変化する
会社員の給与は、通常であれば源泉徴収や年末調整の対象です。
しかし非居住者になった場合は扱いが変わり、年末調整や源泉徴収の対象とならないケースがあります。
年末調整の対象にならないケース
非居住者の給与が年末調整の対象になるかどうかは、国内居住期間が1年を超えるかどうかで判断します。
【国内居住期間が1年未満の場合】
従業員の国籍に関わらず、日本国内居住期間が1年未満の場合は年末調整の対象になりません。
【国内居住期間が1年以上の場合】
従業員の国籍に関わらず。国内居住期間が1年以上になると居住者扱いとなり、年末調整の対象です。
なお、年の途中で非居住者になった場合、年末調整の対象となるのは出国日までに支払われた給与です。
出国後の給与については、国内の会社から支払われていても国内源泉所得には当たらないため、年末調整の対象外になります。
源泉徴収が不要なケース
非居住者の海外勤務における給与は、国内の会社から支払われていたとしても国内源泉所得に該当しないため源泉徴収も行いません。
ただし以下のな場合は国内源泉所得として扱われるので源泉徴収が発生します。
- 海外赴任中の非居住者が1ヶ月以上日本で勤務し、給与が支払われた
- 賞与やボーナスに、非居住者となる前の勤務の分が含まれている
海外勤務者が帰国した場合は確定申告が必須
海外で勤務をしていた非居住者が日本に帰国し、居住者となった場合は確定申告が必要です。
非居住者が居住者になったときの確定申告は複雑な部分もあるので、確定申告の時期になる前に流れを理解しておきましょう。
非居住者が帰国した場合はすべての所得が課税対象になる
海外で1年以上暮らしている非居住者は、国内源泉所得が課税の対象になりました。そのため、国内源泉所得がない非居住者は確定申告の必要がありません。
しかし非居住者が帰国し、居住者に戻った場合は国内源泉所得に限らずすべての所得が課税の対象になります。
そのため帰国した年の確定申告では、帰国するまでの国内源泉所得と帰国後の所得を合計して確定申告をする必要があります。
非居住者が帰国した場合、以下のいずれかに当てはまる人は確定申告が必要です。
- 帰国後の収入が2,000万円を超える
- 帰国前の国内源泉所得と帰国後の年末調整の対象給与および退職所得以外の所得の合計が20万円を超える人
医療費控除などは「帰国後に支払った額」を基準にして計算する
確定申告をするときに気になるのが各種控除です。税制上の控除はいくつか種類できます。種類によって考え方が異なるので注意が必要です。
特別控除のうち、確定申告をしないと適用できない控除は「帰国後に支払った額」を基準にして計算をします。
たとえば医療費控除であれば、帰国後から10万円以上医療費を支払った場合に適用できます。
配偶者控除などはその年の12月31日時点の状況をもとにして計算する
配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除などは、確定申告の対象となる年の12月31日時点の状況によって計算をします。
たとえば、海外勤務をしていた人が2024年12月31日時点で帰国し、日本にいる場合は配偶者控除や扶養控除等の対象になります。
ただし「予定では12月31日に帰国していたがトラブルが起きて1月1日に帰国した」という場合は2024年12月31日時点では日本に居住していないので、2024年分の確定申告では配偶者控除等を適用できません。
帰国者の確定申告の手順
海外から帰国し居住者になった人の確定申告の流れは以下の通りです。
① 確定申告が必要かチェックをする
はじめに行うべきことは確定申告が必要かチェックすることです。
確定申告をするべき基準がある以上、場合によっては確定申告の必要がない可能性があります。
確定申告が必要になる条件は以下の通りです。
- 帰国後の収入が2,000万円を超える
- 帰国前の国内源泉所得と帰国後の年末調整の対象給与および退職所得以外の所得の合計が20万円を超える人
海外勤務をしていた人であればほとんどの場合確定申告が必要です。
② 確定申告に必要な書類を用意する
確定申告が必要であれば、申告書作成などに必要な書類を手元に用意します。
控除を適用させるために必要な書類や源泉徴収票を用意して確定申告書を作成しましょう。
③ 確定申告書を作成する
帰国して居住者に戻っているのであれば、e-Taxを利用した電子申請が可能です。
e-Taxを使えば簡単に確定申告書が作成できますが、注意点があります。
海外転出をした場合、マイナンバーカードは返納されているので失効しています。マイナンバーカードを有効にするためには市区町村の役場で継続使用手続きをしなければなりません。
カードの継続使用手続きをするときに、電子証明書の更新も必ず行いましょう。
注意点はカードや電子証明書の更新をしたその日のうちは、マイナポータル等にアクセスできない点です。1日おいて情報が同期されてから使用しましょう。
もしe-Taxが使用できないのであれば、税務署の窓口などで確定申告書をもらいましょう。手書きで作成する場合は計算違いや数字の転記ミスに十分注意してください。
④ 所轄の税務署に提出する
確定申告書を作成したら、誤りがないかチェックをして問題がなければ所轄の税務署に提出します。
提出方法はe-Taxによる電子申請、郵送、窓口への持ち込みの3パターンがあります。
郵送で提出するときには所轄の税務署が内部事務をセンター化していないかを確認してください。
東京都など、利用者が多い一部の税務署では内部事務をセンター化し、効率化を進めています。内部事務のセンター化をしている税務署に郵送をしても受け付けてもらえないので注意してください。
内部事務のセンター化をしている税務署でも窓口での受理や相談業務は受け付けているのでご安心ください。
⑤ 追加納税や還付金の受け取りをする
確定申告書を提出したあとは結果を待ちます。追加納税や還付金の受け取りが発生した場合は必要な手続きを取ってください。
e-Taxであればログイン後、メールボックスでなにかお知らせが届いていないか確認できます。
確定申告の相談・納税管理人の依頼は税理士がおすすめ
非居住者の確定申告は、居住者とは異なり手間も時間もかかります。
特に海外赴任などで忙しいときに、確定申告の準備をするのは非常に大変です。このようなときには税理士を納税管理人に指定することで、煩雑な処理などを任せることが可能です。
確定申告の相談を税理士に行うメリット
確定申告の相談を税理士に行うメリットは以下の3つです。
- プロの知見を活用できる
- 節税につながる
- 時間的な余裕が生まれる
各種所得における必要経費の判断などは、プロである税理士の知見が最も活きる場面です。
費用は発生しますが、コスト以上の効果が期待できます。
税理士を納税管理人に選定するメリット
納税管理人を税理士に依頼するメリットは以下の3つです。
- 申告書の不備を防げる
- 家族などの負担を心配する必要がない
- 安心して確定申告を任せられる
納税管理人を家族に依頼するケースも多いですが、家族にとっては大きな負担となることもあります。単純な確定申告や納税だけの処理であれば問題ありませんが申告書の不備などにより、税務署からの問い合わせや確認があった場合には大きな負担がかかります。
実際にそのような事情で、最初は納税管理人を家族に設定していた人が税理士に変更したケースも見られます。
また税理士を納税管理人として選任するメリットは安心感です。税務に精通しているため、イレギュラーな処理も難なくこなしてくれます。
納税管理人の経験がある税理士をミツモアでさがそう!
海外赴任や中・長期の海外在住生活が決まったら、海外からの納税にも詳しい税理士に相談できると安心です。
暮らしに関わるあらゆるサービスの見積もりプラットフォーム「ミツモア」では、質問に回答するだけであなたにぴったりの税理士から見積もりをもらうことができます。
ミツモアには非居住者の確定申告経験のある税理士も登録されています。海外からの納税は複雑な手順もあるので、知識のある税理士に相談しましょう。