グローバル化が進む中、海外ビジネスの展開に向け、社員を外国に駐在させる事業者も多くなっています。その際に気になるのが駐在員の税金問題。駐在員の給与などに関わる所得税の仕組みは非常に複雑です。
たとえば日本での給与は源泉徴収されますが、非居住者に関してはその限りではありません。非居住者における源泉徴収の考え方について、具体例などを出しながらわかりやすく解説します。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
非居住者や外国法人への支払いに源泉徴収は必要?
日本国内に発生源のある所得を「国内源泉所得」と言います。非居住者もしくは外国法人に対して「国内源泉所得」を支払者が日本国内から支払う場合は源泉徴収が必要です。
国内源泉所得の支払いが国外で行なわれる場合、源泉徴収の必要は原則としてありません。しかし支払者の住所や居所、事務所や事業所が国内に存在する場合は源泉徴収が必要です。これは国内源泉所得を国内で支払ったとみなすためです。
つまり非居住者等への支払いでも日本国内で生じた所得がある場合、支払者には所得税および復興特別所得税を源泉徴収して納付する義務があります。
居住者と非居住者の区分
日本の所得税法では居住者と非居住者は以下のように区分されています。
国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人を「居住者」とし「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
「住所」とは文字通り住んでいる所であり、生活の本拠となる場所です。「居所」とは生活の本拠ではないものの、現在そこで生活している場所のことです。
例えば単身赴任の場合、家族の住んでいるところが住所であり、単身赴任先が居所になります。
海外勤務の場合、勤務期間が1年に満たない期間の場合は「居住者」となり、1年以上の期間の場合は出国した次の日から「非居住者」となります。「非居住者」の場合、国内源泉所得が所得税の課税対象です。
区分 | 内容 | 国内源泉所得 | 国外源泉所得 |
非永住の居住者 | 以下2点のいずれも満たす者
・日本国籍を有していないもの ・過去10年以内に国内に住所を有していた期間の合計が5年以下の者 |
課税 | 国内で支払われたもの及び国内に送金されたもののみ課税 |
永住の居住者 | 以下2点のいずれかを満たすもの
・国内に住所を有する者 ・現在まで引き続き1年以上居所を有する個人のうち、非永住者以外の者 |
課税 | 課税 |
非居住者 | 居住者以外の個人
(1年以上の予定で日本を離れる人は非居住者に該当) |
課税 | 非課税 |
非居住者の所得のうち源泉徴収が必要な所得
非居住者も国内源泉所得がある場合には、日本で所得税を支払うことが必要です。所得税法では、次の国内源泉所得の範囲が定められています。
【国内源泉所得の範囲】
種類 | 源泉徴収 | 税率 |
資産の運用・保有・譲渡による所得 | 不要 | – |
組合契約事業の利益の配分 | 必要 | 20.42% |
国内の土地等の譲渡による所得 | 必要 | 10.21% |
人的役務の提供事業の所得 | 必要 | 20.42% |
不動産の賃貸料 | 必要 | 20.42% |
利子 | 必要 | 15.315% |
配当・貸付金利子 | 必要 | 20.42% |
工業所有権等の使用料 | 必要 | 20.42% |
給与その他人的役務の提供に対する報酬、公的年金等、退職手当等 | 必要 | 20.42% |
事業の広告宣伝のための賞金 | 必要 | 20.42% |
生命契約保険に基づく年金 | 必要 | 20.42% |
定期積金の給付補てん金 | 必要 | 15.315% |
匿名組合契約に基づく利益の分配 | 必要 | 20.42% |
その他 | 不要 | – |
ただし給与や不動産の譲渡など条件によっては、国内源泉所得とならない場合もあります。該当する取引がある場合には、内容などを充分確認しなければなりません。
また非居住者に対する支払いが外貨によって行なわれている場合は、円に換算して計算してください。支払期日の電信買相場で換算しましょう。
源泉徴収税額の納付方法
源泉徴収とは、所得税を支払うべき人に給与や配当などを支払う人が、その支払額から一定の金額を差し引いて本人に対して支払い、差し引いた額は、本人に替わって国に納付する仕組みです。
源泉徴収義務者
源泉徴収義務者とは海外在住者に対して、給与や配当など日本で源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする人(法人)です。源泉徴収義務者は、海外在住者に支払いを行なう時に、所得税及び復興特別所得税を差し引いて支払い(源泉徴収)差し引いた金額は、国に納付する義務があります。
源泉徴収をする時期
所得税及び復興特別所得税の源泉徴収をする時期は、原則として実際に源泉徴収の対象となる所得を支払う時です。契約などで所得を払うことが確定していても、実際に支払われなければ源泉徴収をする必要はありません。
源泉徴収税額の納付
源泉徴収義務者は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を、原則として徴収した日の属する月の翌月10日までに支払わなければなりません。「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」など必要書類を添えて、金融機関、所轄税務署の窓口やe‐Taxで納付することになります。
非居住者に源泉徴収票は不要だが支払調書は必要
非居住者に対しては、源泉徴収票を発行する義務はありません。(年の途中から非居住者となった場合は、居住者であった期間分については源泉徴収票の作成が必要です)
ただし非居住者に国内源泉所得を支払った場合、支払調書を作成する必要があります。合計表を添付して、所轄の税務署に持参又は送付しましょう。費用は無料です。
国税庁ウェブサイトには、非居住者の国内源泉所得を支払う方を対象とした支払調書が掲載されています。以下を参考にして下さい。
参考:法定調書関係|国税庁 |
海外赴任者の給与の源泉徴収
非居住者となる海外赴任者の源泉徴収は、国内勤務による給与には20.42%で行ない、国外勤務による給与には行ないません。
しかしこれは原則であり、出国間際の場合は給与の計算期間によって変わります。出国間際の源泉徴収について以下の3つの例を解説します。
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給与支給日が出国後の場合
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非居住者の国内勤務による給与のため、20.42%の源泉徴収が必要です。
給与計算期間は国内で勤務しているものの、給与の支払日時点では非居住者に該当するためです。
給与計算期間中に出国した場合
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給与の計算期間中に出国した場合、源泉徴収は不要になります。
給与の計算期間において国内勤務分が1か月以下であるものは、全額が国内勤務分である場合を除き源泉徴収が不要になる例外があるためです。
今回の例の場合、9月1日~9月10日までの10日間のみが国内勤務分となります。そのため9月11日~9月30日の間に国外勤務による給与が発生していれば、源泉徴収は不要です。
賞与計算期間中に出国した場合
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この例の場合、賞与の計算期間のうち国内勤務をしていた割合に20.42%の源泉徴収を行なう必要があります。
賞与の計算期間中に出国した場合、国内勤務が1か月以内であれば源泉徴収を行なう必要はありません。
しかし国内勤務が1か月を超える場合には、国内勤務と国外勤務の期間の割合で按分して、国内勤務の割合分に20.42%の源泉徴収を行なう必要があります。
非居住者の年末調整
非居住者は年末調整の対象外です。これは年末調整の対象者が1年間雇用されている従業員であるためです。
しかし非居住者となる海外赴任者の場合、以下の2つの条件を満たしている人は年の途中で年末調整が必要になります。
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非居住者の不動産系の源泉徴収
数年間にわたる海外駐在が見込まれる場合、持ち家を賃貸にするケースや売却するケースもあります。不動産の売却や賃貸は、国内源泉所得となり基本的には源泉徴収の対象です。
ただし一定の要件を満たせば、源泉徴収の必要はありません。
不動産売買時の源泉徴収義務の判定
不動産賃貸時の源泉徴収義務の判定
非居住者の源泉徴収の減免・免除はある?
海外で働く場合に問題となるのが二重課税。二重課税とは、所得に対して日本と居住する国両方から課税されることです。国際的な二重課税を避けるために、日本は数多くの国と租税条約を締結しています。
租税条約を締結している国であれば、一定の手続きを行なうことにより、源泉徴収の減免や免除を受けられるでしょう。
租税条約について
日本は現在100を超える地域・国に有効な二国間租税条約を締結しています。その主な役割は二国間での「二重課税の回避」です。二重課税とは住んでいる国(居住地国)と所得を得た国(源泉地国)の双方で同時に課税されることです。
二重課税を防止するために、居住地国課税&源泉地国免税(減免)という租税条約が結ばれています。源泉地国で税金を支払った場合、源泉地国で還付請求により、減免又は免除されます。
【例:アメリカに居住する日本人駐在員の場合】
日本で稼いだ所得に対する日本での源泉徴収は、事前の手続き又は還付請求により、減免又は免除される |
源泉徴収の免除や還付請求
前述の考え方により、租税条約を締結している国に居住している方であれば「租税条約に関する届出書」を提出すれば源泉徴収が免除されます。提出はその源泉徴収対象となっている所得の支払いを受ける日の前日までに日本の税務署へ行なう必要があります。
また一度源泉徴収されてしまった所得に対しては、後日「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」を提出することで還付を受けられます。
【手続き】
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【還付請求における注意事項】
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非居住者の源泉徴収で悩んだら税理士にご相談を!
駐在員や海外法人への支払いに関する源泉徴収はとても難しいです。
現地での会計・税務の仕組みは、日本ではなかなか把握できない分野です。海外取引により、どちらの国で課税されるのか、両国で課税される場合にはどのような税制対策があるのかなどをきっちり把握しておく必要があります。
判断がつかないときは、国際税務に強い税理士に相談してみてはいかがでしょうか。海外の会計・税務の仕組みを考慮し適切な助言を受けられます。
監修税理士のコメント
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