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【税理士監修】銀行からの貸し剥がしと貸し渋り 今からできる対策は?

最終更新日: 2020年01月07日

バブル崩壊後に大きな社会問題になった銀行の「貸し剥がし」「貸し渋り」とは何だったのか、その後30年を経た現在も貸し剥がしや貸し渋りは続いているのかを解説します。もし銀行のそんな仕打ちにあったときの取るべき対策についても紹介します。

この記事を監修した税理士

風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川

 

貸し剥がしとは

貸し剥がしの意味を説明
貸し剥がしとは

銀行による貸し剥がしとはどんな行為で、それによって企業はどんな影響・被害をこうむるのでしょうか?貸し剥がしが起きた時代背景やその後の状況についても見ていきましょう。

貸し剥がしとは

貸し剥がしとは、銀行が融資先の企業から様々な手段を使って、最初の約束より早く回収しようとする行為です。

貸し剥がしにあった企業は当然、運転資金がショートするなどで、経営上のピンチに陥ります。下手をすると倒産しかねない、というより実際に貸し剥がしによって会社がバタバタと倒産していった時代がありました。

それが1990年代、土地の価格が下がり始めたバブルの崩壊の時代です。

80年代は株価バブル、地価バブルがどんどん膨らんだいわゆる「金余り」の時代で、当時の銀行員は取引先の会社に「お金を借りてください」と頼んで回っていました。

貸し剥がしが起こる理由

銀行が貸し剥がしをするのは、融資が不良債権化する可能性があると判断したときですが、それ以外に融資総額を減らして自己資本比率を高めたいとう理由もあります。

銀行が自己資本率を上げるため

融資先個々の経営状況だけでなく、銀行が総融資額を減らして自己資本比率を上げようとしたときも貸し剥がしが起きやすくなります。

まさにそれが起きたのが1992年(平成4年)度のバーゼル合意の日本への適用でした。

バーゼル合意とは、国際的な活動をする銀行の経営を健全化するための取り決めで、1988年に「貸出総額に対して常に自己資本を8%以上にする」という目安を定めました。

日本の銀行はバブル期に土地神話を背景にじゃんじゃんお金を貸していたので、この基準に合致するために融資の回収を急いだのです。

それによって、融資先の経営が危ないから回収するのではなく、総融資額を減らしたいから貸し剥がし先を探すという、企業にとってはまことに迷惑なことがどこの銀行でも横行しました。

貸し剥がしは違法?

貸し剥がしそのものは違法ではありません。基本的に「貸したお金を返してもらう」という行為であること、また銀行が違法と言われないような手段を選ぶからです。

貸し剥がしによって融資先の企業が倒産した場合は、銀行側の手法によっては破産法に抵触する可能性がありますが、現実問題としては立証が難しく、そもそも破産した後では「後の祭り」です。

個人に対する貸し剥がしはある?

貸し剥がしとは、一般的に企業(法人または個人)の事業資金の融資の回収を指します。

個人の住宅ローン、フリーローンなども返済期限を守らなかったら一括返済を求められます(期限の利益の喪失)が、貸し剥がしとは言いません。

ただし、期限の利益の喪失をどの程度厳格に、あるいは早急に行使するかはケースバイケースで銀行によっても違うので、貸し剥がし的な行為がないとは言えません。

貸し渋りとは

雨が降っても傘を貸さない銀行のイメージ
貸し渋りとは

貸し剥がしとセットで語られることが多い貸し渋りも、銀行が融資の不良債権化を怖れ、融資総額を減らして自己資本比率を上げようとする保身的なパフォーマンスです。

貸し渋りとは何か

貸し渋りとは、以前なら融資してくれたようなケースでも貸してくれなくなることです。銀行側からみると、経営に問題がなく以前なら稟議が通った案件でも融資を断ることです。

バブル崩壊後は、貸し剥がしととも貸し渋りがどこの銀行でも横行して、企業経営者は銀行の豹変ぶりに驚き、資金繰りに窮して腹を立てました。もちろん、そのために倒産した会社も数知れません。

貸し渋りが起こる理由

貸し渋りが起きるのは、貸し剥がしとまったく同じで、

  • 貸出総額を縮小して自己資本比率を上げるため
  • 融資が不良債権化することへの怖れ

という理由からです。

貸し渋りの問題点

融資を断る貸し渋りは、当然ながら経済活動の活力を損ない、将来性のある企業の成長をはばむ結果を招きます。

前代未聞の長期不況だった「失われた20年」の責任の一端が貸し渋りにあることは間違いありません。

政府も貸し渋りの横行を黙って見ていたわけではなく、貸し渋りによる倒産が社会問題になっていた2008年に「改正金融機能強化法」を制定して、金融機関に対して「お金を回すから融資しなさい」と12兆円の公的資金を準備しました。

しかしこの制度の利用を申請したのは発足後4ヶ月でわずか3行のみで、総額1,210億円にすぎませんでした。これは当時の銀行が本来の責務を忘れるくらいに委縮しきっていたことを明白に物語っています。

 

貸し渋り・貸し剥がしの違いと対策

双子のイメージ
貸し剥がしと貸し渋りの違い

貸し渋りも貸し剥がしも銀行の目的は同じですが、新規融資を断るのとすでに貸してあるお金を強引に回収するのでは当然違いがあります。

貸し剥がしは会社が優位、貸し渋りは銀行が優位

貸し剥がしは、返済期日を決めて融資しているお金を期日前に回収しようとするのですから、借主である会社はそれに応じる義務はありません。銀行側もそれを知っているので最初はひたすら低姿勢です。

一方で貸し渋りは、融資の申し込みを断ることなので裁量権は一方的に銀行側にあります。また、正当な「融資のお断り」か貸し渋りかは、外部から見てすぐ分るようなものではありません。

銀行の貸出件数が極端に減った「失われた20年」に貸し渋りがあったことは明らかですが、個々のケースが貸し渋りに当たるかどうかは即断できず、貸し渋りを禁止するのは困難なのです。

貸し剥がしができない場合

民法で、債務は期限が到来するまでは履行しなくてよいと定められています。(136条1項)

借りたお金は約束の期限前に返す義務はないのです。これを「期限の利益」といい、銀行はこの法律を無視して貸し剥がしをすることはできません。

しかし、借りた側に契約違反などがあると、期限の利益が無効になることがあり、それを「期限の利益の喪失」というのです。

民法が定める期限の利益の喪失は、債務者が破産手続きに入った場合、債務者が入れていた担保の価値を減らすような行為をした場合に適用されます。

しかし、民法の規定以外に貸借契約を結ぶときに、特約で期限の利益の喪失事由を定めるのが普通で、その特約の中に「決められた期限に返済が行なわれなかった場合は、債務者は期限の利益を失い、債務の残額を一括で支払う」という条項がかならずと言っていいほどあるでしょう。

過去に1回でも返済期限に遅れたことがあれば、銀行はそれを盾に一括返済を迫るのが貸し剥がしの常套手段の1つです。

貸し渋りの対策は業績を上げること

令和の時代も本格的な景気回復にはまだまだで、貸し渋り傾向は続くと考えられます。

貸し渋り対策の王道は会社の業績を上げることです。経営状況が良好で財務内容にも問題がなければ、貸し渋りにあう可能性も低くなります。

また、単に現在の経営状態がたまたま良好だというだけでなく、会社の強みや弱みを意識していること、将来のビジョンや見通しがしっかりしていることが重要です。

それは融資を申し込むときに要求される事業計画書に反映され、銀行を納得させる有力な材料になります。

銀行との長年の取引実績や担当者との友好的な関係に頼っていると、いざ貸し渋りにあったときに慌てることになります。

貸し剥がし・貸し渋りにあったら

救助を待つイメージ
貸し剥がしと貸し渋りにあったら

貸し剥がしや貸し渋りにあうと、経営者はまず銀行の態度が手の平を返したように変わったことに驚き、強い怒りを感じます。しかし、会社が生き残るためには腹を立て、茫然自失している暇はなく、早急に対策を立てる必要があります。

倒産の危険性あり!迅速に対応しよう

貸し剥がし、貸し渋りにあったら、倒産に直結する危機的状況と言わなければなりません。迅速な対応が必要ですが、残念ながら実際に貸し剥がし、貸し渋りにあってからでは、銀行対応でできることは非常に限られています。

貸し剥がしにあったときにできることは、銀行の甘い言葉に乗せられて返済しないこと、担当者の口約束を信用しないことです。

しかし、銀行は最初は低姿勢で来るので、それが貸し剥がしだとはなかなか気づきません。いち早く貸し剥がしの兆候に気づき、相手に先手を取られないことが重要です。

貸し渋りにあったときにできることは、新規の融資をあきらめて現在の融資のリスケジュールを申し出ることです。

毎月50万円返済してる融資がある場合は、20万円に減らしてもらうことができれば資金繰りにある程度の余裕ができます。バブル崩壊の時代ならそれも難しいでしょうが、令和の今日なら経営状態が安定していればリスケジュールが通る可能性は少なくありません。

【金融庁】貸し剥がしホットライン

金融庁は2002年(平成14年)に「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」を設けました。これは「中小企業など借り手の声を幅広く聞くために貸し渋り・貸し剥がしに関する情報の電子メール・ファックスによる受付制度」(金融庁ホームページより)です。

平成14年の開設から3年間で1,786件の情報がホットラインに寄せられました。その中には貸し渋りが500件、貸し剥がしが380件ありました。その他も実質的な貸し渋り、貸し剥がしに相当する事例です。

参照:「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」情報の受付状況

さらに金融庁は、貸し渋り・貸し剥がしの情報を集めるだけでなく、平成17年には「金融サービス利用者相談室」を立ち上げて、金融機関とのトラブルの相談にも応じています。

ただし「相談室」は、問題点や論点を整理するなどでアドバイスをし、他の金融機関の紹介もしますが、仲介やあっせんは行わず、トラブルのあった金融機関との調停も行なっていません。

監修税理士のコメント

風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川

企業業績や財務内容が悪化している状況では、金融機関に融資を希望したとしても、融資額の回収が見込めなければ、金融機関が融資を渋るのはある意味当然といえば当然といえるかもしれません。そのため、まずは融資を引き出すための実績作りをしていくことも必要だと思います。 バブル崩壊後に大きな社会問題になった銀行の「貸し剥がし」「貸し渋り」とは何だったのか、その後30年を経た現在も貸し剥がしや貸し渋りは続いているのかを解説します。もし銀行のそんな仕打ちにあったときの取るべき対策についても紹介します。

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貸し剥がしや貸し渋りを事前に防ぐためには、銀行にあら捜しをされるような経理上の問題点がないことが重要です。決算前に帳簿の帳尻を合わすのではどうしてもミスやほころびが生じがちなので、ふだんから税理士と密に連絡を取っておくことが必要です。

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この記事を監修した税理士

風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川

風間優作(かざまゆうさく) 1985年千葉県銚子市出身。兵庫県立大学大院卒業。 上場会社経理部にて一般経理実務を経験した後、Big4監査法人及び税理士法人にて、公認会計士・税理士としての実務を経験し独立開業を果たす。現在は会計監査やIPO実務だけではなく、個人・法人税務からM&Aや事業承継に係る税務業務まで幅広く対応している。