年末に勤務先で発行される源泉徴収票。確定申告をした経験のある方や経理事務を担当したことがある方でなければ、記載されている数字の根拠を理解するのは難しいのではないでしょうか?
源泉徴収票の見方を理解できれば、年末調整で受け取れる還付金の額も計算できるため、確認しておきましょう。
今回の記事では、源泉徴収票の見方や特殊なケースでの対応方法などを徹底的に解説します。
この記事を監修した税理士
多田紘大税理士事務所 – 兵庫県
源泉徴収票とは?
源泉徴収票とは勤務先から得た給与や差し引かれた社会保険料、所得税額などを記載した書類です。
年末調整時に給与総額から給与所得控除及び各所得控除を差し引いて所得税額を確定させた後に作成するもので、代表取締役を含め給与の支払いを受けた人に発行されます。
源泉徴収票はさまざま場面で必要になるため、まずは基本的なことから押さえておきましょう。
総給与額と所得税額がわかる
源泉徴収票を確認すれば、1年間に受け取った給与総額や年末調整によって確定した源泉所得税と復興特別所得税からなる「源泉徴収税額」がわかります。
また、納めた社会保険料や各種所得控除額のほか、配偶者の有無や扶養親族の数などが記載されており、源泉徴収票は所得税額を計算する際に必要なすべての情報を記載した書類なのです。
源泉徴収票が必要な場面とは?
源泉徴収票は給与額や所得税額を確認するだけではなく、さまざまな場面で必要となります。どのような場面で必要なのでしょうか?詳しくみていきましょう。
確定申告時に必要
多くの会社員は勤務先で行う年末調整によって1年間の所得税額が確定します。所得税を払いすぎていれば還付金として会社から受け取れるなど、税額の計算を会社が代行してくれるため確定申告は不要です。
しかし、臨時的または偶発的に一時所得を得たり副業で収入を得たりなど、給与収入以外に収入がある場合は確定申告する必要があり、提出時に源泉徴収票を添付しなければなりません。
また、年収2,000万円を超えるサラリーマンも確定申告が必要です。
- 一時所得・雑所得を得た人(一定額を超えた場合)
- 副業で収入のあった人(一定額を超えた場合)
- 土地・建物・株式などで譲渡所得を得た人
- 一定額を超える医療費を支払った人
- ふるさと納税でワンストップ特例制度が適用されない人
- 年収2,000万円超の人
- 給与を2カ所以上からもらっている人
転職時に必要
会社を辞めた際は、その年の1月1日から退職時までの給与額と源泉所得税額を記入した源泉徴収票を発行してもらいます。転職した新しい勤務先で年末調整を行う際に必要になるのです。
公的年金の裁定請求で必要
年金を受給する際の「裁定請求」では収入を証明する書類が必要です。所得証明書や課税証明書のほか、源泉徴収票も証明書類として提出できます。
賃貸契約や融資を受ける際に必要
アパートなどの賃貸契約や金融機関でローンを組む際に源泉徴収票の提出を求められます。また保育園などの入園の際には、保護者が就労している証明として提出が必要です。
いつ発行してもらえる?
12月分の給与計算を行い年末調整した後に発行されます。一般的には給与明細と一緒に渡されるケースが多いでしょう。ただ、源泉徴収票は翌年の1月31日までに発行すればよいとされているため、1月分の給与明細発行時に渡す場合もあります。
どこで発行してもらえる?
給与支払者に「源泉徴収票の発行義務」があるため、勤務先が作成して発行します。ただ、会社が倒産した場合は源泉徴収票の入手が困難です。
その場合、破産管財人が事務処理を行っている場合は源泉徴収票を発行してくれる場合もあります。
また、税務署に相談すれば給与明細での確定申告を認めてくれるケースもあるため、給与明細は最低1年分を保管しておきましょう。
アルバイトも発行してもらえる
アルバイトでも一定の所得を得れば所得税を納める必要があり、アルバイト先の雇用主は源泉徴収を行う義務があります。
ただ、1カ月の所得が88,000円未満の場合は非課税であり、所得税を納める必要がありません。アルバイトとして雇用されている期間、1カ月でも所得が88,000円以上であれば源泉徴収されるため、源泉徴収票は発行されます。
源泉徴収票の見方
源泉徴収票に記載されている各項目の金額は、見方のわからない方に理解するのは困難でしょう。特に、源泉徴収税額は決められた計算式によって算出されているため、「控除にはどんなものがあるのか」「何を参照して計算すればよいのか」などを知らないまま理解するのは不可能なのです。
源泉徴収税額の求め方を理解できれば、年末調整で受け取れる還付金の額も計算できるようになるので覚えておきましょう。源泉徴収票の各項目を説明するとともに、源泉徴収税額の計算方法を解説します。
下記の源泉徴収票を抜粋した図の番号を参照しながらご覧ください。
総給与所得
1月1日から12月31日までの1年間の収入金額は、上記①の「支払金額」で確認できます。いわゆる「年収」を知りたい場合には、支払金額の欄を確認するだけでよいでしょう。
収入金額である支払金額をもとに給与所得控除額を求め、源泉徴収税額が計算されます。
所得控除とその内訳
②の「所得控除額の額の合計」には各種所得控除額の合計が記載されています。所得控除額とは、以下の所得控除を合計した金額です。
社会保険料控除
社会保険料等とは、健康保険料・厚生年金保険料等・雇用保険・介護保険料の合計額です。全額を所得から控除でき、小規模共済等掛金も含まれます。
毎月の給与から天引きされているので、それぞれの内訳を知りたい場合は給与明細を確認しましょう。1年間の支払金額合計を③の「社会保険料等の金額」に記入します。
小規模共済等掛金控除
中小企業基盤整備機構での共済契約金や個人型確定拠出年金「iDeCo」の掛け金がある場合に適用される控除です。③の「社会保険料等」に含めます。
生命保険料控除
生命保険・医療保険・学資保険・個人年金保険などの掛け金がある場合に適用される控除です。④に記入します。
地震保険料控除
地震保険の掛け金を支払っている場合に適用される控除です。⑤に記入します。
配偶者特別控除
配偶者の所得に応じて一定の金額が控除されます。配偶者控除との併用は不可です。「給与所得者の配偶者控除等申告書」に基づいて計算された配偶者特別控除額を⑥に記入します。
配偶者控除
妻の給与所得が一定額以下の場合に受けられる控除です。
扶養控除
年齢16歳以上の配偶者以外の親族に適用される控除です。⑦に人数を記入します。
障害者控除
障害者本人また家族に障害者がいる場合に適用される控除です。⑧に人数を記入します。
寡婦(寡夫)控除
妻(夫)と死別また離婚し再婚していない人で、扶養親族がいる場合に適用される控除です。源泉徴収票の下のほうに人数を記入する欄があります。
勤労学生控除
生活費のためにアルバイトをしている学生を対象とした控除です。源泉徴収票の下のほうに人数を記入する欄があります。
基礎控除
すべての人に一律に適用される控除です。2018年度の税制改正で2020年度分より最大38万円から48万円に引き上げることが決まっており、所得制限も設けられます。源泉徴収票には記載されません。
源泉徴収税
源泉徴収税額は年末調整後の源泉所得税と復興特別所得税の合計額を記入しますが、年末調整をしない場合は1年間に源泉徴収された所得税と復興特別所得税の合計金額を記入します。
年末調整された場合に、源泉徴収票の「源泉徴収税額」に記入する金額を算出する手順をご説明しましょう。
まず、「支払金額」に基づいて「給与所得控除後の金額」を下記の表から算出します。
給与などの収入金額 | 給与所得控除額 |
180万以下 | 収入金額×40%
65万円に満たない場合は65万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円超1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1,000万円超 | 220万円 |
たとえば、年収300万円の場合は「収入金額×30%+18万円」を選択するため、「給与所得控除後の金額」は「300万-(300万円×30%+18万円)=192万円」です。
次に、算出した給与所得控除後の金額から所得控除の合計額を差し引いて「課税所得金額」を求めます。
仮に所得控除の合計額を70万円として計算した場合、「192万円-70万円=122万円」が「課税所得金額」です。
給与所得控除後の金額-所得控除の合計額=課税所得金額 |
算出した122万円の「課税所得金額」を「算出所得税額の速算表(令和元年度分の場合)」に当てはめて税額を計算します。
課税給与所得金額(A) | 税率(B) | 控除額(C) | 税額=(A)×(B)-(C) |
1,950,000円以下 | 5% | - | (A)×5% |
1,950,000円超3,300,000円以下 | 10% | 97,500円 | (A)×10%-97,500円 |
3,300,000円超6,950,000円以下 | 20% | 427,500円 | (A)×20%-427,500円 |
6,950,000円超9,000,000円以下 | 23% | 636,000円 | (A)×23%-636,000円 |
9,000,000円超17,420,000円以下 | 33% | 1,536,000円 | (A)×33%-1,536,000円 |
算出した「課税所得金額」が122万円ですから、一番上の「(A)×5%」で税額を求めます。
税額:122万円×5%=61,000円 |
最後に復興特別所得税を含めた税額とするために102.1%を掛けます。こうして計算された「年調年税額」が、源泉徴収表の「源泉徴収税額」に記入する金額です。上記の⑨に記入します。
年調年税額:61,000円×102.1%=62,200円(100円未満は切り捨てる) |
還付金の額を知りたい場合は、毎月天引きされている源泉所得税から上記の年調年税額を差し引いて計算します。
仮に、1年間に天引きされた源泉所得税が7万円なら「70,000円-62,200円」となり、7,800円が還付金として戻ってくるわけです。
退職・転職した時の源泉徴収票
退職して転職した際は源泉徴収票が必要となります。また、退職後の12月31日まで無職だった場合でも、翌年の確定申告で源泉徴収票は必要です。退職や転職した際の源泉徴収票についてご説明します。
退職後は必ず受け取る
退職した際、勤務先には源泉徴収票を発行する義務があります。源泉徴収票は新しい勤務先へ提出する必要があるため、必ず受け取りましょう。源泉徴収票は所得税法で退職後1カ月以内に発行することが会社に義務付けられています。なかなか交付されない場合は問い合わせるとよいでしょう。
転職先に提出する
年末調整では1月1日から12月31日までの給与所得総額から税額を計算するため、転職した際には前の会社で発行してもらった源泉徴収票を新しい勤務先に提出しましょう。
前職分の給与と転職先で得た給与を合算して年末調整を行ってくれます。前職での収入を知られたくないなど何らかの事情によって提出しない場合は、自分で確定申告を行い、前職分の所得を申告しなければなりません。
発行してもらえない時は?
前述したように、会社には源泉徴収票を発行する義務があります。退職後、1カ月を過ぎても交付されない場合は前会社に問い合わせしましょう。
催促しても対応してもらえない場合は、所轄の税務署に相談します。一般的には「源泉徴収票不交付の届出手続」の提出を勧められるので、国税庁のホームページから書式をダウンロードし給与明細のコピーを添付して税務署に提出しましょう。
「源泉徴収票不交付の届出手続」が提出されると、税務署は発行しない会社に対して行政指導を行います。行政指導を受ければ源泉徴収票が発行されるはずなので有効な方法です。
源泉徴収票を無くした時は再発行する
確定申告をはじめローンを組む際やアパートを借りる際に想定より多くの原本が必要になり、源泉徴収票が不足してしまった場合や、源泉徴収票をなくしてしまった場合はどうしたらよいのでしょうか?
会社には源泉徴収票の発行を求められたら交付する義務があるため、再発行は可能です。以下で詳しくご説明します。
会社に依頼すれば、すぐに再発行してもらえる
源泉徴収票を無くしてしまった際は再発行してもらえます。現勤務先に、また転職した場合は前勤務先に再発行を依頼しましょう。
年末調整を行う際に使用する「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」は保管する義務があるため、基本的にはすぐ発行してもらえます。ただ、年末の忙しい時期や事務処理を外部に委託している場合は、時間を要することもあるため注意が必要です。
発行してもらえない時は所轄の税務署に相談
「催促しても会社が発行してくれない」「会社が倒産してしまった」など、何らかの事情で源泉徴収票の入手が困難な場合は所轄の税務署に相談しましょう。会社が存在しているなら行政指導してくれますし、倒産している場合は給与明細での確定申告を認めてくれるケースもあります。
監修税理士のコメント
多田紘大税理士事務所 – 兵庫県
源泉徴収票の仕組みを理解することで、自分がどの程度の所得税を納めているかを把握することができます。また、万が一年末調整に誤りがあった場合でも、源泉徴収票の仕組みを理解していることで、誤りに早期に気づくことができます。その場合、源泉徴収票を作成している会社担当者に確認するようにしましょう。
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