「納税管理人」という仕事をご存知ですか?
納税管理人とは、海外に住んでいる方が日本で納税をする必要がある場合に、様々なサポートを行う仕事です。海外で暮らしている方にとって、納税時期が来るたびに日本に帰国して手続をすることはあまりにも面倒ですよね。そこで活躍するのが納税管理人です。
この記事では、海外居住者の方々が日本でスムーズに納税を行うために欠かせない「納税管理人」について、気になるポイントを詳しく解説していきます。
この記事を監修した税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
納税管理人とは
まず、納税管理人とは何かについて説明していきます。納税管理人の定義、納税管理人が必要となるケースなど、基本的な情報をチェックしましょう。
納税管理人とは
海外居住者に代わって、日本での納税手続に必要な事務処理を行う人のことを、「納税管理人」と言います。所得税の確定申告はもちろん、相続税や固定資産税などについても、海外で暮らす納税者に代わって手続きを行います。
申告書の作成、納税の代行、還付金の受領、税務署との書類のやりとりなど、納税に関する幅広い手続を行うので、納税管理人と税理士はとても近い仕事だと感じることでしょう。
しかしながら、税理士資格を持たない納税管理人が、申告書の作成や税務調査への立ち会い、税務相談といった税理士の独占業務を行うことは当然許されませんので注意が必要です。この点は後述します。
納税管理人が必要になる場合
日本の所得税や消費税は、海外居住者の場合、「日本国内で得た源泉所得」に対して課税されます。したがって、次に挙げるようなケースに該当する方は、必要に応じて納税管理人を選定することになります。
〈納税管理人が必要になるケースその1〉
- 海外に居住することになる年の1月1日から出発日までの間に、日本国内で一定の所得を得ている場合(あらゆる所得が対象となり、保険金や損害賠償金なども含まれる)
- 海外に出発後、国内に所有している不動産を貸し付けて得た所得や、国内にある資産を譲渡したことで得た所得がある場合(消費税が発生する場合を含む)
- 証券会社の口座で国内上場会社の株式を所有しており、日本国内で株式の売却を行った場合
- 日本国内の企業から配当や利子を受け取る際、租税条約による減税・免税を受けたい場合
また、上記のような所得税・消費税以外の納税でも納税管理人が必要になる場合があります。日本国内で発生した相続や贈与によって一定の資産を得た場合です。
〈納税管理人が必要になるケースその2〉
- 相続税または贈与税の納税義務がある場合
さらに、固定資産税と住民税についても納税管理人が必要となる場合があります。
〈納税管理人が必要になるケースその3〉
- 1月1日時点で日本国内に不動産を所有していたために、固定資産税の納税義務が発生している場合
- 1月1日時点で日本国内に居住していたために、住民税の納税義務が発生している場合
納税管理人になるための資格は必要ないが、税理士がオススメ!
ここでは納税管理人になるための資格や要件について説明していきます。「税理士でなくても納税管理人にはなれるが、できれば税理士に依頼するのがベター」というポイントを押さえておきましょう。
資格は必要ない
納税管理人になるための条件はただ一つ、「居住地が日本国内にある」ということだけです。それ以外の資格や要件は不要ですので、個人や法人問わず誰でもなることができますし、報酬の有無も問われません。
納税管理人には税理士がオススメ
誰でもなれるのが納税管理人ですが、依頼する仕事の内容次第では、そうもいかない場合があります。
たとえば、単に確定申告書を提出したり、税務署からの書類を受け取ったりするなど、単純な事務処理だけを依頼するなら、誰が納税管理人でも構いません。
しかし、確定申告書の作成や税務相談といった「税理士の独占業務」を依頼するような場合は、納税管理人も税理士資格を有する者でないといけません。
したがって、どんな仕事を依頼するか未確定である場合は、念のため税理士に納税管理人になってもらうのがおすすめです。
税理士に依頼するメリット
納税管理人を税理士に依頼するメリットは、なんと言っても「間違いが生じない」ということです。税務に詳しくない素人に納税管理人を依頼すると、手続の間違いや誤記などが生じ、その修正のために二度三度と余計な手間が発生することがあります。税理士に依頼しておけば、そのようなリスクはありません。
また税理士に依頼すれば、納税に関するあらゆる手続を任せられるので、税務にまつわる時間的・精神的な負担を大幅に低減できます。
納税管理人を税理士に依頼する際の費用相場
納税管理人を税理士に依頼する際は、「毎月数千円を支払い、確定申告時期など多忙な月にかぎり一定の追加料金を支払う」という顧問契約形式を取る例が多いようです。
月額料金の相場は依頼する事務処理の内容に比例しますが、通常の事務処理であれば5千円程度に収まり、1万円を超えることはないでしょう。
ただし、相続税の納税手続のように、作業量が非常に多い仕事を依頼する場合は、顧問契約形式ではカバーしきれないため、別途報酬を支払うことになります。
選定する際に提出する必要書類
ここでは納税管理人の選定に必要な書類について説明します。選任時だけでなく、解任時にも一定の書類が必要となることに注意しましょう。
納税管理人届出書を提出する
納税管理人を選定するためには、所轄の税務署や自治体窓口に対して、納税者・納税管理人それぞれの氏名・住所・連絡先などを記入した「納税管理人届出書」を提出する必要があります。
納税管理人届出書のひな形は税金の種類別に異なるので、国税庁HPを参照してください。
納税管理人届出書は、日本を出国するまでに提出することを要します。すでに海外に在住している段階で納税管理人を選定することになった場合は、できるだけ速やかに届出書を提出してください。言うまでも無く、届出書の提出自体も、納税管理人が代行できます。
なお、納税管理人届出書にかぎらず、税務署に申請書や申告書を提出する際は、個人ならマイナンバー、法人なら法人番号の記載が必須となります。詳しくは国税庁のHPを参照してください。
届出書の提出の有無は確定申告の手続にも影響する
納税管理人届出書を提出するかどうかで、確定申告の手続が以下のように変わります。
〈届出書を提出した場合〉
海外出国までに届出書を提出した場合、「その年の1月1日から出国までに得た全所得」および「出国の翌日から12月31日までに得た国内源泉所得」の合計額については、納税管理人を通じて翌年2月16日~3月15日までに確定申告すれば足ります。
〈届出書を提出しなかった場合〉
1月1日から海外出国までの間に給与所得以外の所得(不動産所得や事業所得など)を得ていた場合、出国までに確定申告をする必要があります。
このように、納税管理人を選任しただけで届出書を提出していないと、確定申告の手続で不利な扱いを受けることになるので注意してください。
【注意】解任する場合も書類は必要
納税管理人には、納税者の税務を代理・代行する権限が与えられています。そのため、もし納税管理人を解任しても、税務署へ解任届を提出しないまま放置していると、元納税管理人が勝手に行動して依頼人に損害を与えるおそれも否定できません。
そのような事態が起きないよう、納税管理人を解任した場合は、すぐに所轄の窓口へ解任届を提出してください。
解任届のひな形および手続については国税庁HPを参照してください。
納税管理人に関する注意点
最後に、納税管理人に関する注意点をまとめます。納税管理人を利用する納税者の場合、確定申告の所得控除や税務署等に提出する書面の記入に関するルールがやや異なってくることを押さえてください。
所得控除の範囲に気をつけよう
納税管理人を利用する人=海外居住者は、国内に居住する納税者と比べた場合に、「所得控除制度が適用される範囲」が異なってきます。
海外居住者でも通常通り認められる所得控除は次の3つです。
- 基礎控除
- 雑損控除
- 寄付金控除
それに対して、次の5つの所得控除については、「納税者が出国する前に支払った金額」だけが控除対象となり、出国後に支払った金額は控除されません。
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
申告書の名前や印鑑、還付口座の欄に気をつけよう
確定申告書等に記載する名前や住所は、納税者だけでなく納税管理人のものも併記してください。ただし、捺印する印鑑は必ず納税管理人のものでないといけません。
また税金の還付を受ける場合、還付口座は納税管理人名義であることが必要です。
監修税理士のコメント
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
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この記事を監修した税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷