会社を退職する際に受け取る退職金について、税金はどうなるのだろう?と、漠然な疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?
この記事では、
退職金は源泉徴収されるのか?
退職金の所得税、住民税はいくらくらいになるのか?
退職金に対する税額の計算はどのようにするのか?
など、退職金の源泉徴収や所得税、住民税の計算方法などについて解説いたします。
退職金の源泉徴収について
退職金に関する源泉徴収は、給与所得と同じように退職先で源泉徴収をしてから受け取ります。
退職金は税制上の優遇措置があり、特別な計算式があります。
この章では、退職金の源泉徴収の基本について解説します。
退職金とは
退職金は「会社を定年退職する」もしくは「途中で辞める」ときに勤務先から支払われる所得で、法律上「退職所得」として扱われます。退職金=退職所得と捉えてもよいでしょう。
一般的に退職所得に分類されるお金は以下のとおりです。
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退職金の金額は「その企業で何年働いていたか」「会社にどれくらい貢献したか」で決まるのが基本です。しかし、退職金の支払い自体は法律で義務付けられておらず、会社が支払わなくても違法になりません。そのため事前に勤めている会社の退職金制度を調べておきましょう。
退職金は「退職所得」で分離課税の対象
退職金は課税対象の所得です。「退職所得」として分離課税で計算され、所得税・住民税・復興特別所得税が源泉徴収または特別徴収としてあらかじめ引かれます。
源泉徴収票は退職時に会社から交付される
退職所得の源泉徴収票は会社が発行し、退職者へ交付するよう法律で定められています。
退職後、1か月が過ぎても送られてこない時には会社に問い合わせて発行を依頼しましょう。もし発行に応じてもらえないときは、以下の対応策が考えられます。
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また、退職金の源泉徴収については、事前に「退職所得の受給に関する申告書」の提出があります。
次に「退職所得の受給に関する申告書」について解説します。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出について
「退職所得の受給に関する申告書」の基礎知識も身につけておきましょう。こちらは源泉徴収より聞き慣れないかもしれませんが、提出の有無で受け取る退職支給額が大きく変わるので非常に重要な書類です。
「退職所得の受給に関する申告書」とは
「退職所得の受給に関する申告書」とは、所得税法第203条1項で定められた事項を申告するための申請用紙です。退職金にも課税されることは説明済みですが、この申告書を提出していないと一律20.42%もの税率で源泉徴収されるのです。
この申告書を会社に提出すれば、20.42%を源泉徴収されることなく適正な税額を計算し、源泉徴収されることになります。したがって会社が退職金の額に応じた適切な所得税・住民税・復興特別所得税を計算してくれ、自身での確定申告の必要もなくなります。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合
申告書提出によるメリットは、主に以下の2つです。
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「退職所得の受給に関する申告書」が未提出の場合
申告書が未提出の場合だと源泉徴収額が一律20.42%となります。この場合は自身での確定申告をすれば、払いすぎた税金の還付を受け取ることができます。
退職金の源泉徴収票の見方
退職金から源泉徴収された金額や内訳は、給与所得と同じく源泉徴収票で確認できます。
給与所得の源泉長徴収票との違い
この票は給与所得の源泉徴収票とは違い、退職金を受け取った人の状況で変化する「区分」が存在します。まずは源泉徴収票に記載される内容と見方について、以下の表で確認してみてください。
記載欄名 | 記載する事項 |
支払いを受ける者 | 個人番号(マイナンバー)住所・氏名や役職名。 |
区分 | 退職所得の受給に関する申告書の記載内容などによって決まる要素。上段・中段・下段のいずれかを使用。 |
支払金額 | 支払いが決まった退職手当等の金額。 |
源泉徴収税額 | 年度内に源泉徴収すべき金額の合計。 |
特別徴収額 | 年度内に特別徴収すべき地方税の合計。 |
退職所得控除額 | 支払われる退職手当等にかかる退職控除額。 |
勤続年数 | 源泉徴収額の計算の基になる働いていた期間。 |
摘要 | 源泉徴収額の計算の基になる数値など計算に関する内容。 |
支払者 | 退職手当を支払った者の住所・個人番号・電話番号など。 |
(参考:国税庁|退職所得の源泉徴収・特別徴収票)
区分の欄は、『退職所得の受給に関する申告書』提出の有無などによって、以下3つの種類に分けられ記載されます。
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申告書の提出はメリットが大きいため、必ず提出するようにしましょう。
退職金の所得税額の計算方法
退職所得の受給に関する申告書には、自分で計算した退職所得(課税される退職金の所得金額)を記載する必要があります。
下記で解説する「退職所得控除」の計算式を利用し、正確な金額を算出しましょう。
退職金の所得税額の計算方法
退職金の所得税額の計算方法は以下のとおりです。
※1,000円未満の金額は端数として切り捨て |
退職金にかかる税金は退職所得控除を差し引いてから値から1/2を乗じることで、最終的な課税所得額を算出します。
かかる税率及び控除額は、以下の「課税退職所得税の税額表」に基づいて決定されます。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
(参考:国税庁|退職金と税)
退職金の所得税額の求め方
では実際に、具体例を基にして退職金の所得税額を計算します。今回計算に使う具体例を、以下のように設定しました。
- 勤続期間:34年と8ヶ月⇒1年未満は切り上げるので35年で計算
- 退職金:3,000万円
- 退職理由:定年退職・障害での退職ではない
- 退職所得に関する申告書は提出済み
まずは退職所得金額を算出します。具体例だと退職所得金額は勤続20年超の数値の適用です。
「退職金3,000万円」-「退職所得控除額{800万円+70万円×(35-20)}」=1,150万円
「1,150万円」に1/2を乗じると、課税所得金額は575万円となる。 |
次に、算出した退職所得金額に所得税率と控除額を当てはめて課税所得額を計算します。所得金額は575万円なので、税率20%・控除額42万7,500円です。
「所得金額575万円」×「20%」-「42万7,500円」=「課税所得額72万2,500円」 |
以上の計算結果を考慮し、最終的な源泉徴収額を算出します。
72万2,500円×(72万2,500円×2.1%)=約73万7,672.5円 |
1円未満は切り捨てるので、73万7,672円が最終的な「退職金の所得税および復興特別所得税の源泉徴収税額」になります。所得税額を差し引いた退職金は2,926万2,328円です。(約10%の住民税も考慮するとさらに-57万5,000円)
ちなみに、退職所得に関する申告書が未提出だと、手取りは2,387万4,000円で約538万円の差が出ます。
退職金の税金の計算は以下のサイトで簡単にシュミレーションすることが出来ます。
退職金の確定申告をすべき人3パターン
退職金を受け取った年に自分で確定申告を行うべき人には、以下の3パターンが該当します。
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それぞれのケースについて、以下で詳細をご紹介します。
『退職所得の受給に関する申告書』が未提出の人
退職所得の受給に関する申告書が未提出の場合は、必ず確定申告すべきです。ここまでの記事の説明通り、未提出だと「一律の源泉徴収」の関係で、余計に税金を納めることになるからです。
また、退職所得控除も受けられないため、そのままにしてしまうと非常に高額の所得税や住民税を支払うことになるでしょう。
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確定申告を行えば払いすぎた税金の還付が受けられるため、未提出者は確定申告の実施をおすすめします。
副業や退職後の事業が赤字になった人
不動産などの副業(不動産所得)や退職後の事業(事業所得)が赤字になった場合も、確定申告を行いましょう。副業や事業で発生した赤字は、損益通算(一定期間内の利益から損失額を引いて所得を減らす)によって所得から赤字分の金額を控除でき、それでも損益通算しきれない赤字分は退職所得と損益通算できます。
つまり、赤字分を引いた分だけ、税金の還付が受けられるのです。ただし、難しい制度や計算を理解しなければならないため、税理士などの専門家に相談して書類を作成すると良いでしょう。
年の途中で退職した人
年の途中で退職した人は、必ず自分で確定申告するべきです。なぜなら、そのままだと会社が実施する年末調整が行われず、税金の還付が受けられないからです。
所得税は前年の所得を考慮して決定されており、年途中で退職し収入が落ちている場合も前年分の所得税が引かれています。
つまり、確定申告を行うことで退職した年度の所得で計算しなおすため、収入が落ちている場合は所得税が還付されるケースがあります。そのときに医療費控除や生命保険控除などの控除も申請すれば、支払う税金がさらに安くなるでしょう。
死亡退職による退職金の源泉徴収について
退職金の受取人が亡くなってから3年以内に発生した退職金を相続人が受け取る場合は、所得税ではなく相続税が課せられます。
退職金の受け取り方「一括」と「分割」について
退職金は企業によって、一時金で受け取るか分割で年金として受け取るかを選択できます。さらに年金の受け取りは、終身年金と有期年金に分けることがでます。それぞれのメリット、デメリットについて解説します。
退職金を一括で受け取る
先に述べたように、退職金を一時金として一括で受け取った場合、退職所得として分離課税で所得税額が計算されます。
税額の負担が少なくなるように優遇措置があり、一度の所得税の申告で全額を受け取ることが出来ます。
退職金を分割で受け取る
分割で年金として受け取った場合は「雑所得」になり税金の計算方法が異なります。退職所得は受け取った年の計算ですが、年金は受け取っている期間中は課税対象になるので、金額によっては公的年金等と合計して確定申告が必要です。
退職金を分割・終身年金で受け取る
終身年金は生きている限り年金を受け取ることができます。一時金の金額以上に長生きをすれば年金の方が得になります。自分がいつまで長生きできるかは分かりませんが、「一時金の金額÷年金月額=年月数」を考えてみましょう。
例えば一時金の金額が1,000万円・年金月額が10万円の場合、年月数は1,000万円÷10万円=100ヶ月です。100ヶ月以上年金を受け取ると年金の方が得になります。
退職金を分割・有期年金で受け取る
有期年金は終身年金とは違い、年金支給期間が決まっています。有期年金の場合は年金で受け取る金額の総額と一時金額を比べます。一時金の金額は、企業年金の種類や会社によって換算率が異なります。
以下の表は、年金と一時金の比較例です。
○社 | △社 | □社 | |
年金額 | 10万円/月 | ||
支給期間 | 10年 | ||
総受取額 | 12,000,000円 | ||
一時金 | 8,381,972円 | 9,576,525円 | 10,770,362円 |
一時金の年金換算年月数 | 7年 | 8年 | 9年 |
メリットとデメリット
退職金を一時金と分割(年金)で受け取るかの選択は、金額だけでなく老後の計画や企業の安定性をみて判断しましょう。一時金と年金のメリットとデメリットは以下です。
受け取り方法 | メリット | デメリット |
一時金 | ・一括でまとまったお金が手に入る
・住宅ローン控除や家の修繕費にあてられる |
・無駄遣いが増える |
分割(年金) | ・定期的に入金されるので計画的に使用できる
・無駄遣いが少ない |
・年金の受け取りは課税対象になる |
分からないことがあれば税理士に相談してみよう!
退職所得と雑所得は税金の計算方法が違います。退職金の受け取り方によって税金が異なるので分からないことがあれば税理士に相談してみましょう。
監修税理士のコメント
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
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この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川