毎年2月半ばは確定申告の時期です。医療費控除や住宅ローン控除などを受けるためには確定申告で書類を提出する必要があります。
確定申告は申請者本人か税理士にのみできると考えていませんか?確定申告に伴う作業のうち、申請者以外が代理でできることがあります。
結論をいうと、夫や家族の確定申告書類を代理で提出することは問題ありませんが、税理士以外が代わりに書類を作成することは税理士法によって禁じられています。
確定申告作業を代理で行って良い範囲や代理で申請する場合の注意点などを解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
確定申告書類の代理作成に関する注意点
まずは確定申告で提出する書類について、代理作成に関する注意点を2つ確認しましょう。
① 税理士のみが書類作成の代行ができる
税理士とは税務に関する高度な知識と資格を持つ人のみが就くことができる職業です。
税理士をはじめとした士業は、法律によって該当する独占的に業務を行うことが許可されています。税理士であれば独占業務に確定申告書類の代理作成も含まれます。
税理士資格を持たない人が確定申告書類を作成することはもちろんのこと、非税理士が作成した書類に税理士が名義貸しをすることも違法です。
税理士資格を持たない人が確定書類申告の代理作成を行った場合、税理士法に違反し2年未満の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
② 家族ができるのは書類の【代筆】
確定申告書類を代理で作成することは税理士以外には許されていませんが、代筆であれば法律に抵触しません。
たとえば申告者本人が手のケガによって書類作成ができない場合、記入事項に関する情報を申告者本人が収集し、計算を行ったうえで、数字のみを記入・入力してもらう場合は「代筆」にあたり、税務署類の作成には当たりません。
税理士法に違反するケースとそうでないケースを簡単に説明すると以下の通りです。
税理士法に違反するケース
- 税理士資格を有さない者に確定申告書類の作成を丸投げする
税理士法に違反しないケース
- 税理士資格保有者に確定書類申告の作成を丸投げする
- 税理士資格を有さない者に数字の記入のみを手伝ってもらう
確定書類申告の作成について、気になることや困ったことが発生したのであれば自己解決するのではなく税理士に相談することをおすすめします。
確定申告書類の代理提出に関する注意点
確定申告書類を代理で提出してもらうことに関して、法律に特別な記載はありません。
そのため法律上は代理提出に関してのルールがないことになります。
確定申告書類の代理提出に関して、注意点を3つご紹介します。
① 委任状は不要
役所で行う手続きを代理で行うことから、委任状が必要なのではと心配になる方も多いですが、確定申告書類の提出に関して委任状は不要です。
ただし「代理人届出書」の記入・添付が必要なので忘れないようにご注意ください。
代理人届出書は国税庁ホームページの「D2-9 申告・申請等事務代理人届出手続」からダウンロードできます。
② 代理人は家族が推奨される
代理人を選出するにあたって、特別な資格などは必要ありません。
ただし代理人として選出されるのは家族や親族など、申告者本人に近しい人が多いです。
友人・知人に依頼しても良いですが、その場合は「代理で提出するだけ」ということを明確にし、トラブルに巻き込まれないようにしましょう。
③ 郵送・電子申告(e-Tax)での申請も可能
確定申告の書類は、税務署の窓口に直接提出するほかにも、郵送やe-Taxを用いての電子申告も可能です。
直接提出が難しい場合でも郵送や電子申告であれば気軽に行えます。
郵送や電子申告で確定申告を行う方法は「確定申告の書類を郵送や電子申告(e-Tax)で提出する方法」で詳しく解説しています。
確定申告書類の代理提出で必要なもの
確定申告書類を代理提出するときに必要なものは以下の3つです。
提出前に再度確認して、必要なものをすべて持参しているかチェックしましょう。
確定申告書類
確定申告では複数の書類を提出します。
利用したい控除が多い人は提出する枚数が多くなるので、提出したい書類がすべて揃っているかを必ず確認しましょう。
提出するべき書類は透明のクリアファイルなどにまとめておき、他の書類やチラシ・プリントなどとは異なる場所で保管して混ざらないようにしましょう。
代理人届出書
代理人届出書は「D2-9 申告・申請等事務代理人届出手続|国税庁」から書式をダウンロードできます。
印刷して必要事項を記入し、届出書を作成しましょう。
記入は黒のボールペンで行います。こすってインクが消えるタイプのペンは申請書類に使えないのでご注意ください。
納税者本人(申告者)の本人確認書類
代理提出をするときに忘れがちなのが、納税者本人(申告者)のマイナンバー(個人番号)と本人確認書類です。
納税者本人のマイナンバーと本人確認書類は、以下の2パターンで用意できます。
パターン1:マイナンバーカード
もっともシンプルなのは納税者本人のマイナンバーカードを持参することです。
マイナンバーカードはマイナンバー(個人番号)が記載された顔写真付きの身分証明書なので、スムーズに本人確認が完了します。
マイナンバーカードの写しを持参しても受け付けてもらえるので、「マイナンバーカードを紛失したときのリスクが心配」という方は写しを持っていくようにしましょう。
パターン2:マイナンバー記載の住民票 + 運転免許証など
納税者本人がマイナンバーカードを持っていない場合、マイナンバー(個人番号)が記載された住民票と、そのほかの身分証明書をセットで持参しましょう。
住民票は市役所や区役所などの役場で発行できますが、受付時に何も言わないとマイナンバーが記載されていない住民票が発行されるケースが多いので、必ず「マイナンバーが書かれた住民票をお願いします」と伝えてください。
住民票とともに添付する身分証明書は、顔写真つきのものを推奨します。
運転免許証やパスポート、住民基本台帳カード(住基カード)は公的な機関が発行している顔写真付きの身分証明書なので信頼性が高く、本人確認がスムーズに行われます。
確定申告を代理で行う場合の手順
確定申告を代理で行ってもらう場合の手順を紹介します。
手順を紹介する前に確定申告の「代理」について下記にまとめます。
- 作成の代理ができるのは税理士のみ
- 提出の代理ができる相手に規定はない
- 税理士でない者は確定申告書類の代筆のみ可能
誤って税理士ではない無資格者に確定申告書類の作成を依頼しないように十分に注意しましょう。
1.確定申告書類を作成する
確定申告書類の作成を代理でできるのは税理士のみです。
税理士に確定申告書類の作成を依頼し、必要な書類などを渡しましょう。
受けたい控除の種類によって必要な書類は異なります。
たとえば医療費控除を受けるのであれば、「医療費控除の明細書」または「セルフメディケーション税制の明細書」を作成し、添付が必要です。
① 住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)の場合
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
- 登記事項証明書
- 工事請負契約書 または 家屋の売買契約書の写し
- 市区町村からの補助金決定通知書など補助金等の額を証明する書類
- 贈与税の申告書など住宅取得等資金の額を証明する書類
② 医療費控除の場合
- 医療費控除の明細書 または セルフメディケーション税制の明細書
- 寄附した団体などから交付を受けた寄附金の受領証(領収証)
2.代理の提出者を選ぶ
確定申告書類を代理で提出する人の選定に関して、特別な条件はありません。
家族や親族など身近な人はもちろんのこと、友人・知人に依頼することも可能です。
代理で提出してもらいに行く人には「確定申告書類を代理で提出する」ことを説明しましょう。
税務署員に対し「確定申告を代理でしに来た」と伝えてしまうと、書類を受領してもらえないなどのトラブルが発生する可能性があるためです。
3.代理人届出書を作成する
代理で提出する人を決定したら、「代理人届出書」を作成しましょう。
代理人届出書は「D2-9 申告・申請等事務代理人届出手続|国税庁」からダウンロードし、A4サイズの紙に印刷して記入します。
青色の欄に必要事項を記入してもらいましょう。
4.納税者本人の身分証明書を用意する
納税者本人の身分証明書も忘れずに用意しましょう。
身分証明書の原本を持参することに不安があるのなら、写しでも問題ありません。
マイナンバーカードのコピーを取る場合は裏面の個人番号も忘れずにコピーしてください。
5.税務署へ代理で提出してもらう
必要書類が揃ったら代理人に書類を提出してもらいます。
代理人が提出に来ても、よほどの不審点がなければ書類は受理されます。
変にうしろめたく思ったり、挙動不審になったりせず、堂々と提出しましょう。
納税者本人による確定申告が難しい場合の対処法
様々な理由で納税者本人による確定申告が難しいこともあるでしょう。
この章では2つのパターンに分けて、本人による確定申告が難しい場合の対処法をご紹介します。
加齢や寝たきりで動けない・病気などで認知能力が下がっている方などの場合
納税者本人が加齢や寝たきりなどで動くことができない、あるいは認知症や障害などで認知能力が下がっている場合は確定申告の作業を1人で行うことは不可能でしょう。
この場合も代理提出が可能です。しかし書類の代理作成はできないので、税理士に依頼をしてください。
確定申告書類の作成ができない場合は、成年後見人制度を活用しましょう。
事前に家庭裁判所からの選任が必要ですが、後見人となった方は納税者本人として権利を行使できるので、確定申告書類の作成も可能になります。
納税者が海外居住者の場合
海外に居住している場合は「納税管理人」を指定できます。
海外居住者は確定申告をするためだけに国内に戻るのは現実的ではなく、代理で提出を依頼したくとも家族など身近な人も海外にいる可能性が高いためです。
納税管理人は以下に挙げる納税義務を果たすための一連の手続が可能です。
- 確定申告書の提出
- 税務署等からの書類の受け取り
- 税金の納付や還付金の受け取り
ただし納税管理人であっても申告書の代理作成はできません。
確定申告書類の代理作成は税理士にのみ許されている点に注意が必要です。
納税管理人は個人・法人問わず指定できます。
能善管理人を指定したら管轄の税務署長に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出してください。
確定申告の書類を郵送や電子申告(e-Tax)で提出する方法
確定申告の書類は窓口に提出する以外にも、郵送やe-Taxからの電子申告が可能です。
代理人を使っての窓口への提出にはこだわらず、郵送や電子申告で申請してみるのはいかがでしょうか。
郵送で確定申告書類を提出する方法
確定申告の書類を郵送で税務署に送るときには以下の注意点があります。
- 郵便物(際一種郵便物) または 信書便物で送付する
- 通信日付印(消印)を提出日とみなす
- 送付先は所轄の税務署 または 業務センター
所轄の税務署や業務センターを探すときは「税務署の所在地などを知りたい方」をご利用ください。
収受日付印のある確定申告書の控えが必要な場合は、複写によって作成した申告書の控えのと宛名を記入し必要額の切手を貼りつけた返信用封筒も同封します。
e-Taxを利用した確定申告の方法
e-Taxはオンラインで確定申告をはじめとした税に関する手続きができるサービスです。
特に給与所得者の場合はマイナポータルと連携することで、必要事項の記入・計算をが自動で行われるため、確定申告書の作成にかかる手間と時間を大幅に省略できます。
確定申告を税理士に代理で行ってもらうときの注意点
確定申告を税理士に依頼する場合にはいくつか注意点があります。
確定申告の代理を依頼する前に必ず確認しましょう。
確定申告書の作成のみならば相場は数万円程度
税理士に確定申告書の作成のみを依頼する場合の費用は数万円程度です。
ただし所得の区分によって費用は増減するので、本依頼を交わす前に必ず料金体系について確認しておきましょう。
申告書の作成のみを依頼するケースでは、給与所得のみ、退職所得のみ、雑所得のみなど、確定申告が必要な人や所得控除を受けるために申告を依頼するケースが考えられます。
このような場合は数万円で可能なことが多いです。
例外として難しい判断をともなう譲渡所得がある場合などは10万円を超える高額になるケースが多いでしょう。
個人事業主の場合は申告書作成の前に帳簿を作成しなければならないケースだと、申告書の作成だけを税理士に依頼することはあまり現実的ではありません。
その場合、税理士側も正確な申告ができないとして依頼を受けられないことがあります。
詳細は「確定申告の単回依頼(スポット依頼)は受け付けていない税理士もいる」で解説します。
青色申告の代理は10万円以上かかることもある
個人事業主で青色申告の代理を依頼する場合は、仕訳の数や売上の金額によって報酬が増減するケースが多いです。
青色申告の申請は作業量が多くなるため、10万円以上の費用負担が発生します。
税理士に依頼する形態には2パターンがあります。
- 1回のみ確定申告の代理を依頼する(スポット依頼)
- 顧問契約を結び年間を通して支援を受ける
1回のみ確定申告を依頼する場合(スポット依頼)
1回のみ確定申告の代理を依頼するスポット依頼の場合、費用の相場は以下の通りです。
個人事業主向け:青色申告の場合
年間売上高 | 報酬の相場 |
---|---|
500万円未満 | 30,000~100,000円 |
500万~1,000万円未満 | 150,000円~ |
1,000万~3,000万円未満 | 200,000円~ |
3,000万~5,000万円未満 | 250,000円~ |
5,000万円以上 | 要相談 |
白色申告の場合は青色申告とは異なり専門知識をさほど必要としないため、税理士に依頼することは稀です。
白色申告の書類のチェックのみであれば50,000~100,000円が相場です。
顧問契約を結ぶ場合
税理士と顧問契約を結んでいる場合、確定申告では毎月の顧問料の4~6か月分にあたる金額を決算料として支払うことが多いです。
顧問料の相場は以下の通りです。
記帳代行の有無 | 個人事業主 | 法人 |
---|---|---|
記帳代行あり | 30,000円~ | 40,000円~ |
記帳代行なし | 10,000円~ | 20,000円~ |
上記法人を例にすると、決算料の目安は40,000~60,000円程度がと考えられます。
確定申告の単回依頼(スポット依頼)は受け付けていない税理士もいる
個人事業主に注意していただきたい点が、1回のみ確定申告の代理を行ってもらうスポット依頼は断られる可能性があることです。
帳簿をつけていない場合や経費の精算を行っていないケースでは断られてしまう確率が上がるので、日ごろからこまめに帳簿をつけ、経費を整理するようにしましょう。
確定申告を代理で行ってもらうなら税理士に依頼するのがおすすめ
確定申告関係の作業を代理でやってもらうのであれ税理士に依頼することをおすすめします。
税理士であれば書類の作成もお任せできるうえ、節税に関するアドバイスも受けられるでしょう。
もし窓口に直接提出することに不都合があるのなら、郵送や電子申告を検討し、いずれも不可能な場合のみ代理人に提出してもらいましょう。
確定申告書類の作成を依頼できる税理士を探すときは必ず複数人とコンタクトを取りましょう。
人によって合う税理士は異なるので、複数の税理士とコンタクトをとることで比較検討をして選択肢を増やせます。
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