RSUの確定申告を自分で行いたい方に向けて、書類作成時に必要になるRSUでの所得計算シミュレーターを開発しました。
最終更新日: 2025年01月17日
e-Taxで電子申告する方法から申告時の必要書類、初心者の方向けにRSUで確定申告が必要になるタイミングまで解説しています。
ぜひ最後までご覧ください。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
安田亮（公認会計士・税理士・CFP🄬）1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。所得税・法人税だけでなく相続税申告もこなす。
RSUとは？ストックオプション・RSとの違い
そもそもRSUとは具体的に何なのか、RSUの基礎を確認しましょう。
RSUとは
RSUとはRestricted Stock Unit(リストリクテッド・ストック・ユニット)の略語で、日本語では「譲渡制限付き株式ユニット」と訳されます。RSUを簡単に言うと「自社株を数年に分けてもらう権利を付与される制度」のこと。
RSUはアメリカの企業では、ボーナスの一部として普及しています。日本では、主に外資系企業において給与体系の一部として浸透しています。
そもそも現在の日本企業において、役員の報酬体系で一般的なものには、大きく分けて以下のようなものがあるので見ていきましょう。
| ①金銭報酬(基本報酬+賞与+業績連動報酬) ②株式報酬(SOやPS、RSUなど) ③その他(役員持株会や社宅など) |
上記のとおり、今回のテーマ「RSU」は、②株式報酬に含まれます。
RSUの仕組みを見ていきましょう。
まず、入社した時など特定のタイミングで社員に対して一定数の株式が割り当てられます。 この割り当てのことを「Grant」と言います。Grantは「付与」という意味の英単語です。
ただしGrantのタイミングでは、株式はまだ社員のものではありません。それではいったい、いつ社員のものになるかと言うと、一定の条件をクリアしたタイミングです。条件は段階的にクリアされていきます。
具体例を見ていくと、わかりやすいでしょう。
たとえば入社時に「自社株100株が5年間にわたって割り当て(Grant)される権利」を付与されたという場合です。
- 1年目：5株
- 2年目：15株
- 3年目：20株
- 4年目：25株
- 5年目：35株
このように、Grantされた自社株100株は「5年間ずっと会社に在籍する」という条件を満たすことによって、初めて社員のもの(Vest)となります。
社員が株式を全て自らのものにするためには、約束された期間中は会社に在籍しなければなりませんし、株価が上がると自分の利益にもなるので会社の業績をアップさせるよう努めます。
会社によってはパフォーマンスの高い社員に新たなRSUが付与されるケースもあります。これによって優秀な社員が他の会社に流れてしまうことを防ぎつつ、自社業務へのモチベーションを高めてもらうことを期待しています。
RSUにまつわる3つの用語の確認しておきましょう。
【RSUにまつわる3つの用語】
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RSU・SO(ストックオプション)・RS(特定譲渡制限付株式)の違い
株式報酬にはRSU以外にも支給形態があります。
ここでは、SOとRSの違いを見ておきましょう。
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※特定譲渡制限がついた株式(特定譲渡制限付株式)とは、「譲渡についての制限があり、かつ譲渡期間が設けられている株式」を指します。
SOの具体例を見てみましょう。
たとえば「今後5年間はいつでも自社株を100株まで1株100円で購入して良い」というSOを付与されたとすると、その後株価が値上がりして1株200円になったとしても、100円で購入できるのです。市場価格が200円ですので、その時点で売却すれば売却益を得ることができます。
株価が下がった時は株を購入しなければ(SOの権利を行使しなければ)、 そもそも株を保有しないため損になることもありません。
RSでは、会社の業績に応じて毎年自社株が付与されます。付与されて数年間は株式を譲渡(売却)できない期間があり、この期間が経過すれば換金することができます。
SOとRSの主な違いは、次のとおりです。
| SO | RS | |
| 対象者 | 誰でも付与対象者になる | 役員のみが付与対象者 |
| 払込金額 | 権利を行使する時に株式購入金額を払い込む | 勤務報酬を株式で受け取るという制度なので払込の必要がない |
RSUを採用する企業が増えている
RSUはAmazonなど外資系企業では一般的に採用されていますが、日本の企業ではまだ導入事例の少ないインセンティブ制度です。
しかし近年は楽天やメルカリなど一部の大手企業でも採用されるようになり、注目が集まってきました。
RSUは確定申告が必要！
会社で源泉徴収される給与以外の収入が20万円を超える場合、確定申告が必要です。
RSUで確定申告が必要な場面は、株を取得したタイミングと売却したタイミングの2通りです。
必要な場面1：Vest(株を取得したタイミング)
RSUでは、譲渡制限が解除された日に株主としての権利が確定します。したがって、譲渡制限の解除日における時価相当額が「給与所得」として課税対象となります。
必要な場面2：Sell(株を売却したタイミング)
株を市場に売却して売却益が出たら、そのタイミングで税金が発生します。所得の分類としては「譲渡所得」に該当します。これは、通常の株売買の場合と同じです。
RSUの確定申告のやり方【Vest編シミュレーション付き】
譲渡制限が解除され、株主としての権利が確定した場合(英語ではこの状態をVestedと言います)の、確定申告のやり方を紹介します。
1．時価相当額を計算する
| 時価相当額＝Vest時点の市場価格×株式数×為替レート(TTM) |
※TTMとは、金融機関が顧客と外国為替取引を行なう際の当日受け渡しの基準レートのこと。
たとえば11月1日に譲渡制限が解除され、その時点での株価が100ドル、株式数が100株、為替レートが110だったとします。
この場合、
(Vest時点の市場価格)100ドル×(株式数)100株×(TTM)110＝1,100,000円が時価相当額だと算出できます。
2．税率を掛けて計算する
制限解除時(Vest)の時価総額は給与所得として計上されるため、給与所得にかかる税率が適用されます。
下記のシミュレーターを利用しながら、給与所得を計算してみてください。
※所得控除については加味しておりません。
※所得税は超過累進税率ですが、簡易的に最高税率の部分で税額を計算しております。
1. 給与所得の計算
RSU時価総額：
給与所得として計上：
2. 課税額の計算
適用所得税率：
所得税額：
住民税（10%）：
納税額合計：
確定申告時の納税額計算方法は下記の記事をご覧ください。
| 関連記事：確定申告前に所得税率を計算しよう！節税対策と納税準備は早めに｜ミツモア |
【補足】“支払調書”でわかることもある
ここまで計算方法を説明してきましたが、勤務先から「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」を受け取れる場合は、その調書を用いて給与収入を計算することが可能です。
RSUの確定申告のやり方【Sell編シミュレーション付き】
株を売却して売却益が出たら(Sell)、そのタイミングで税金が発生します。所得の分類としては「譲渡所得」に該当します。この譲渡所得における確定申告のやり方を見ていきましょう。
1．譲渡所得を計算する
| 譲渡所得額＝売却額−購入額 |
購入額はどのように計算するかと言うと、次の方法で算出します。
| 貰った時の株価(ドル)×株数×貰った時の為替(TTM) |
Vestの場合と同様、利用するレートはTTMです。
2．税率を掛けて計算する
譲渡所得額の算出が出来れば税率をかけて、課税所得額を算出します。
下記のシミュレーターを利用しながら、課税所得額を計算してみてください。
1. 譲渡所得の計算（確定申告用）
取得価額（Vest時）：
売却額：
譲渡所得：
2. 課税額の計算
所得税（15.315%）：
住民税（5%）：
納税額合計：
※確定申告時の記載事項
取得価額、売却額、譲渡所得を申告書に記入してください。
取得価額、売却額、譲渡所得を申告書に記入してください。
RSUの確定申告のやり方【必要書類の収集】
ここまでの解説で、課税される給与所得金額、譲渡所得金額がわかったら、申告に必要な書類を作成します。
下記は確定申告に必要書類の一覧です。
- 確定申告書
- 本人確認書類
- 収支内訳書
- 給与や退職金の源泉徴収票
- 各種、控除を受けるための控除証明書
ちなみに、確定申告書や収支内訳書は、「確定申告書作成コーナー」にて確定申告する場合や、e-Taxを利用する場合は手元に用意する必要はありません。
確定申告の提出書類や提出方法、 提出先などの詳細は、下記の関連記事で解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
| 関連記事：確定申告のやり方は？全くわからない方向けに流れや具体的な手順を解説！| ミツモア |
RSUの確定申告のやり方【確定申告書の作成】
ここからは、e-Taxを使って、確定申告書の作成方法を解説します。
1. e-Taxのサイトにアクセス
まず、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセスし、ページトップにある「作成開始」ボタンをクリックします。
提出方法の選択
提出方法を選択します。マイナンバーカードの利用手続きに関しては、下記の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。
関連記事：確定申告にマイナンバーカードは必要？ e-Taxの申請準備を解説！
所得税の選択
RSUの申告の場合は、「所得税」を選択します。
個人情報と収入情報の入力
生年月日や、給与以外の収入があるかどうかを確認します。
RSUの収入がある場合は、1つ目の質問は「はい」を、2つ目の質問は「いいえ」選択してください。
3つ目の質問は、予定納税の有無によって変わります。
関連記事：予定納税って？減額申請のやり方も確定申告の記入方法も知りたい！
給与所得の入力
源泉徴収票に基づき、給与所得を情報を入力します。右側のガイド画像を参考にしながら入力を進めましょう。
RSUの所得を入力
①支払い金額： RSUの「給与所得」で計算された金額の合計
源泉徴収税額： 課税されていないでしょうから通常は「0」です
社会保険等の金額： 空白のままでOKです
支払者： 海外法人からであれば本社の簡単な住所と会社名（全角での入力）
分離課税の所得入力（配当所得または譲渡所得がある方のみ）
配当所得または譲渡所得がある方は、いずれかの入力をしましょう。
配当所得または譲渡所得がない方は、こちらの手順まで飛ばしてください。
分離課税の所得入力
課税方法の選択へ移りましょう。課税所得が900万円を超える場合は、累進税率が源泉徴収の税率よりも高くなるため、「申告分離課税」を選択する方が納税額が低くなります。
続いて、株を売却した方は、取引形式に応じて項目をチェックしたあと、「株式等の「取引明細」などの内容を入力する」をクリックしてください。
関連記事：総合課税とは？ 分離課税との違いや計算方法をわかりやすく解説
取引明細の入力
こちらの画面で、先ほどシミュレーターを通じて計算した譲渡による収入金額などを入力していきます。
配当等の支払通知書の入力
配当等の支払通知書の入力に進み、個別に配当等を入力するをクリック、そうすると、入力画面が出てきます。
こちらで、先ほど計算した配当金額の入力に進みましょう。
ページに戻り入力終了へ
譲渡損失の金額を繰り越しがない方は、いいえを選択し、入力終了へ進みます。
所得控除・税額控除の入力
続いて、所得控除・税額控除の入力に移ります。該当する控除がある方は入力をしてください。
入力内容の確認
納税額が表示されますので、確認をしましょう。
より詳細な手続きを知りたい方は、下記の記事でも解説していますので、参考にしてください。
関連記事：確定申告をe-Taxで提出しよう！必要なものや確定申告の流れを解説
RSUの確定申告を行う際の注意点3つ
これからRSUの確定申告を自分で行いたい方が注意しなければならない点は、下記の3つです。
- 権利確定時と売却時の課税の違いを理解する
- 為替レートを確認する
- 外国税額控除など二重課税の回避の申請を行う
上記を確認せずに申告をすると、誤った申告をしてしまい、必要のない税負担、または過少申告に伴う罰金や税務調査の対象となるため、大変危険です。
それぞれ詳しく解説します。
権利確定時と売却時の課税の違いを理解する
RSUの確定申告をする際に最も重要なのが、権利確定時と売却時の課税の違いを理解することです。権利確定時には給与所得として最高55%（住民税含む）の税率が適用され、売却時には譲渡所得として一律20.315%（住民税含む）の税率が適用されます。
これらは異なる所得区分として扱われるため、申告の際は明確に区別する必要があります。
権利確定時の課税を知らず、売却時のみ申告すると、数年後に税務調査で指摘され、高額な追徴課税が発生する可能性があります。また、給与所得と譲渡所得の区分を誤って申告すると、税率の違いにより、余計な税金を支払うことになってしまい、リスクがとても大きいです。
為替レートを確認する
RSUの確定申告では、適切な為替レートの使用も重要なポイントです。権利確定時と売却時では、それぞれの時点でのTTM（電信仲値）を使用する必要があります。
為替レートを誤って使用すると、所得金額の計算が不正確となり、追徴課税のリスクが発生します。特に、権利確定時の為替レートを使うべきところで売却時のレートを使用してしまうというミスを、初心者は起こしてしまいがちのため、注意が必要です。
為替レートは日本銀行や主要銀行のウェブサイトで確認することができるので、申告前にチェックしてみてください。
外国税額控除など二重課税の回避の申請を行う
国際的な二重課税を避けるための手続きも重要です。外国税額控除の適用対象である場合、控除を申請しないと本来必要のない税負担が発生してしまいます。
二重課税の回避の申請を怠ると、日本と外国の両方で課税され、過大な税負担を強いられることに。
控除の対象かどうか事前に確認するようにしましょう。
監修税理士からのコメント
RSUは課税されるタイミングや所得の種類など、税務申告の処理を誤るリスクが非常に高いものです。
分からない場合はご自身で判断せず、税理士に相談しましょう。
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2025年（令和6年分）の申告に関する最新情報
2025年（令和6年分）確定申告の申告期間：令和6年2月17日~3月17日（土日祝日除く）
申告は期限後にも行えますが、ペナルティが発生するため期限内に行いましょう。
