近年、おもにデジタルアート分野で注目を浴びているNFT(Non Fungible Token)。デジタルデータが唯一無二のものであることを証明する技術であり、様々な作品が売買されたことが話題になっています。
NFTの取引によって利益を得た場合の税務上の取扱いについて解説します。
NFTの取引で一定額の利益が出たら確定申告が必要
NFT取引は基本的に仮想通貨で行われ、取引によって利益を得た場合は確定申告が必要です。
NFTの性質と、利益を確定申告しなければならないケースについて解説します。
NFT(非代替性トークン)の資産価値
NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)とはデジタル資産の鑑定書や証明書のようなもので、主にデジタルアートやゲームなどの分野で使われている技術です。
仮想通貨と似ている概念ですが、NFTと仮想通貨では代替性の有無が異なり、NFTは「非代替性トークン」、仮想通貨は「代替性トークン」と呼ばれます。
たとえば仮想通貨のひとつであるビットコインの場合、どのビットコインでもビットコインである点では変わりがなく代替が可能ですが、NFTに紐づく資産は唯一無二であり代替性はありません。
NFTによってデジタルコンテンツの唯一性を保証できるようになったため、デジタルの世界で資産価値が生まれやすくなりました。現在では、NFT専用のマーケットプレイスで仮想通貨を支払い、NFTアートの購入などが可能です。
NFT取引の利益を確定申告しなければならないケース
NFTコンテンツの取引で利益が出た場合には、他の商品の取引と同じく、利益額に応じて確定申告をしなければなりません。利益を申告する必要があるのは、主に以下の条件に該当する人です。
- NFT取引で年間20万円超の利益を得たサラリーマン
- NFT取引で年間48万円超の利益を得た学生・専業主婦
- 個人事業主
NFTの所得区分は取引の性質によって判断される
2022年1月に国税庁が発表した「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」によると、NFT取引が課税所得になる場合の所得区分は以下のように分類されます。
ケース | 所得区分 |
NFTの譲渡によって利益を得た場合 | 譲渡所得 |
役務提供の対価としてNFTを得た場合 | 事業所得 給与所得 雑所得 |
それ以外の場合 | 雑所得 |
NFTコンテンツを制作・販売して得た利益については、「事業所得」または「雑所得」に当たります。事業として利益を得ているのかどうかと収入規模で判断され、収入300万円以下で帳簿の記入などをしていない場合は雑所得として扱われます。
このように取引の内容によって所得区分が異なります。国税庁が出している以下の情報を参考にしつつ、自分の行った取引がどの区分に当てはまるのか判断しましょう。
NFTの取引で課税される3つのタイミング
NFTで利益を得て確定申告が必要になる主なケースは3つです。
- NFTを制作・販売して仮想通貨を受け取ったとき(一次販売)
- NFTを売却して仮想通貨を受け取ったとき(二次流通)
- NFTを仮想通貨で購入したとき
NFT取引で得た利益を正しく申告できるように、NFT取引の利益がいつ発生するのか、どの所得区分に当てはまるのかを確認しておきましょう。
①NFTを制作・販売して仮想通貨を受け取ったとき(一次販売)
NFTアートを制作・販売して利益を得た場合、基本的には雑所得とみなすことができます。ただし場合によって所得区分は異なるでしょう。
|
制作活動を継続的に行っていて事業性が認められれば、事業所得に該当すると考えられます。販売したNFTが転売される度に一定割合を報酬としてもらう場合は、そのロイヤリティ報酬も事業所得です。
一方で会社員や主婦が趣味でNFTアートを制作・販売して利益を得るようなケースでは、雑所得にあたると考えられます。
現行法ではNFT取引の利益を分離課税とする規定はないため、雑所得として計上する場合は総合課税です。
②NFTを売却して仮想通貨を受け取ったとき(二次流通)
持っているNFTを売却して仮想通貨を受け取った時、そのNFTが購入時よりも値上がりしていれば利益が発生したことになります。利益額は以下の式で求められます。
売却時のNFTの価格-購入時のNFTの価格 =利益額 |
例えば、あるNFTを1ETH(時価:15万円)で購入し、その3カ月後に1ETH(時価:20万円)で売却した場合、利益は20万円-15万円=5万円 です。
NFTを売却した際に出た利益は、場合によって以下のような所得区分になると考えられます。自分の行った取引がどの区分に当てはまるのか確認してみましょう。
営利目的で継続的に取引をしている場合 | 雑所得・事業所得 |
一回限りの取引でたまたま利益が出た場合 | 譲渡所得 |
③NFTを仮想通貨で購入したとき
専用のマーケットプレイスでNFTを購入する場合、仮想通貨で対価を支払うことが多いです。その際、仮想通貨の値上がりによって、購入時に利益が発生することがあります。この場合、利益額は以下の式で求められます。
NFT購入時の仮想通貨の価額-仮想通貨を取得した時の価額 = 利益額 |
例えば、1ETHを15万円で取得したと仮定します。その3カ月後、あるNFTを1ETHで購入したとき、1ETHの価値が20万円に値上がりしていたとすると、20万円-15万円=5万円 の利益が出たことになるのです。
商品を購入したときに利益が発生するという考え方は馴染みが薄いかもしれません。見落とさないように注意しましょう。
NFT取引の確定申告をするときの注意点
①NFT取引の日時や金額は自分で記録しておく
NFT取引では、株式投資や仮想通貨取引のように証券会社や取引所から取引明細が発行されるわけではありません。確定申告をするときに損益計算ができるように、自分で記録をつけて残しておく必要があります。
そのためNFT取引をするときは、売買の日時・購入または売却したNFTの品目・購入時や売却時の価格・手数料など、損益計算に関わる情報を記録しておくことが大切です。
確定申告の時期が近づいてから集計を始めると、記憶を辿ったり過去の取引履歴を確認したりするのに時間がかかることがあります。余計な手間をかけないためにも、管理台帳を作成して取引の度に記入しておきましょう。
②美術品として売却する場合は非課税になることがある
美術品等を売却した場合で所得区分が譲渡所得にあたるケースでは、金額が30万円以下であれば一般的に所得税は非課税になり、譲渡所得の計算には含まれません。
NFTアートを売却して、事業所得や雑所得などではなく譲渡所得に該当する場合は、この規定に沿って非課税になる可能性が考えられます。
しかし非課税になるのは法律(所法9条・所法令25条)上「生活に通常必要な動産」です。デジタル資産が動産に当たらない場合には、この規定の対象外となり非課税にならないかもしれません。
③NFTアートの制作費用は必要経費に含まれない
国税庁が2023年1月時点で公表した質疑応答資料によると、経費として認められるのは「NFTを組成するために要した費用」であり、「デジタルアートの制作費」は含まれないという見解が示されています。
つまりプラットフォーム上でNFTを売買するために必要な手数料(ガス代)は経費として扱えますが、制作のために購入したソフトウェア代などは認められない可能性が高いので注意しましょう。
④NFT取引にも消費税がかかる
NFT取引の場合には消費税がかかります。同じデジタル資産である仮想通貨の譲渡には消費税がかからないため、混同しないようにしましょう。
仮想通貨に消費税がかからないのは、支払い手段に類するものが非課税とされているからです。一方でNFT取引は支払い手段というよりも資産の譲渡としての性格が強いため、普通の商品と同様に消費税がかかります。取引の際には注意しましょう。
NFT・仮想通貨(仮想)取引の損益通算の考え方
NFTを購入する際に仮想通貨を売却すると確定申告が必要になることがあります。NFT取引ではイーサリアムなどの仮想通貨を使うことが多いので、仮想通貨取引の課税関係も理解しておかなければいけません。
ここでは、仮想通貨取引で利益を得た場合の税金の考え方について、仮想通貨を売却した場合や仮想通貨で商品を購入した場合など、ケース別に見ていきます。
仮想通貨を売却した場合
仮想通貨は、含み益の状態では課税対象になりません。売却して利益が確定した時点ではじめて課税対象になります。
売却時の仮想通貨の価額-取得時の仮想通貨の価額 = 利益額 |
たとえば1ビットコインを40万円で購入して、その後に1ビットコインを70万円で売却した場合は、「70万円-40万 = 30万円」となり、利益額は30万になります。
仮想通貨で商品を購入した場合
保有している仮想通貨を使って商品を購入した場合にも、損益が出ることになります。商品の購入は仮想通貨の譲渡・売却にあたるからです。
仮想通貨の譲渡時の価額が取得時の価額を上回っていれば、その差額が所得額になり、逆に下回っている場合は差額が損失額になります。
仮想通貨の譲渡時の価額 - 仮想通貨の取得時の価額 = 利益額 |
NFT資産を仮想通貨で購入する場合も同様の計算になるので、うっかり損益の発生を見落とすことが無いようにしましょう。
仮想通貨同士を取引した場合
仮想通貨同士を取引した場合は、単に交換しただけと考えてしまうと利益を認識しにくく、確定申告に含めるのを忘れてしまう場合があるため注意が必要です。
仮想通貨同士の交換は、ある仮想通貨で別の種類の仮想通貨を購入したことになるため、仮想通貨で商品を購入した場合に準じて考えます。
別の仮想通貨を購入する際、保有していた仮想通貨を売却して所得が生じていれば、税額計算に含めなければいけません。
購入した仮想通貨の取得時の価額が、売却した仮想通貨の取得時の価額を上回る場合は、その差額が所得額にあたります。
NFT取引の無申告がばれた場合のペナルティリスク
「NFT取引で得た利益を申告しなくてもばれないのでは?」と考えている人もいるかもしれません。しかし税務署は取引所から情報を得て、無申告の疑いがある人を探し出すことが可能です。
もし申告せずに放置していたところを税務署に指摘された場合、ペナルティとして本来の税額よりも多額を支払うことになってしまいます。
延滞税が発生する
確定申告の期限を過ぎてから税金を納付した場合、「延滞税」が発生します。本来の税額より少なく申告していた場合も、申告をしていなかった場合も支払う必要があります。
延滞税の額は遅れた日数に比例して増加するので、期限後に気づいた場合にはなるべく早く納付することが大切です。
延滞税=本来納付すべき税金×延滞税率×延滞日数÷365 |
延滞税の税率は以下の通りです。
- 法定納期限から2か月以内・・・7.3%または「延滞税特例基準割合 +1%」のうち低い方
- 法定納期限から2か月経過後・・・14.6%または「延滞税特例基準割合+7.3%」のうち低い方
※令和5年1月1日~令和5年12月31日は「延滞税特例基準割合 + 1%」で2.4%になっている
例えば2カ月以内に支払う場合の延滞税率を2.4%として、40万円の税金を50日遅れて納付した場合にかかる延滞税は以下のようになります。
40万円×0.024×50÷365=1315.06…
100円未満を切り捨てるので、延滞税は1,300円です。
過少申告加算税が課される
支払うべき納税額よりも少ない額を申告していた場合には、期限内に自主的に申告を修正すればペナルティは課されません。
しかし期限後に税務署から指摘を受けてから申告を修正した場合、延滞税に加えて「過少申告加算税」が課されるので注意しましょう。
過少申告加算税の額は、追納する税額の10%です。ただし追加で納める税額が「もともと申告していた税額」「50万円」のいずれかよりも大きい場合、超えた分については税率15%になります。
無申告加算税が課される
申告期限内に確定申告をしなかった場合は、「無申告加算税」が課されます。先ほど紹介した「延滞税」とは別にかかる税金なので注意しましょう。
税務署に指摘される前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税の税率は納税額の5%ですみます。
いっぽう税務署の指摘を受けてから期限後申告をした場合、税率は以下の通りになります。
- 納税額のうち50万円までの部分・・・15%
- 納税額のうち50万円を超える部分・・・20%
自主的に申告したほうがペナルティが軽いので、申告を忘れていることに気づいたら、なるべく早く対応することが大切です。
監修税理士のコメント

京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区たちばな台
NFTの確定申告に関する疑問点は税理士に相談を
NFT取引で得た利益を税務上どのように取り扱うかについて解説してきました。
NFTはここ数年で普及し始めたばかりなので、まだまだ税務上の取扱いが明確になっていない部分も多いです。そのため、うっかり申告ミスや申告漏れが発生してしまうこともあるかもしれません。
NFT取引の確定申告に関して分からないことがあれば、税金のプロである税理士に相談してみるのが良いでしょう。
質問に答えるだけでぴったりの税理士から見積もりが届く
質問にあわせて地域と依頼したい内容を回答すると、ミツモアに登録している多数の税理士の中から条件に合う税理士の見積もりが届きます。
自分で何人もの依頼先候補を探すのは大変ですが、1回依頼するだけで複数の税理士から見積もりをもらうことができるのでかなりラクです。
チャットで依頼内容について気軽に相談
気になる税理士がいたら、サイト内のメッセージで担当業務の範囲やオプションなどを相談することも可能です。
直接会って面談をするのはハードルが高いという方でも、チャットなら気軽にやり取りができますよ。
料金・口コミ評判を比較して選べる
見積もりの料金はもちろん、過去にミツモアでその税理士にお仕事を依頼した利用者からの口コミ評価も確認できます。
口コミからはサービスの質や人柄などがうかがえることが多く、金額以外の判断材料も得られるので安心です。
この記事の監修税理士

京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区たちばな台