多くの病院事務長や看護部長が、紙やExcelによるアナログな評価管理に限界を感じています。医師、看護師、コメディカル、事務職と、職種ごとに全く異なる評価基準が存在する医療現場において、管理職は集計作業に忙殺され、本来注力すべき部下の育成やケアに時間を割けていないのが実情です。
2025年の最新調査によれば、DXに取り組んでいる病院の中でも、実際に効果を実感できているのは3割以下に留まります。これは、現場のITリテラシーや運用フローを無視したシステム導入が原因であることが少なくありません。
本記事では、医療現場特有の「クリニカルラダー」や複雑な勤務形態に対応し、現場の負担を確実に減らすための人事評価システムを厳選しました。「医療特化型」の安心感か、「汎用クラウド型」の拡張性か。貴院の規模と課題に最適な解決策を提示します。
病院・医療機関におすすめの人事評価システム比較表
病院がシステム選定で失敗しないための最短ルートは、自院の課題に対し「医療業界に特化した専用システム」を選ぶか、他業界のベストプラクティスも取り入れた「高機能な汎用システム」を選ぶかを最初に決めることです。
以下の比較表は、医療現場で必須となる「ラダー評価への対応」や「スマホでの操作性」などの重要項目に基づいて作成しました。
| 製品名 | 分類 | クリティカルラダー対応 | 推奨規模 | 料金(初期/月額) | 無料トライアル |
|---|---|---|---|---|---|
| DoctorHR | 医療特化 | ◯ (スキル管理機能) | 小〜中 | 個別見積 (コンサル込) | 相談可 |
| 人事評価ナビゲーター | 医療特化 | △ (要確認) | 小〜中 | 初期¥11万〜 / 月¥5,500〜 | あり |
| HRBrain | 汎用・高機能 | ◯ (スキル管理機能) | 中〜大 | 個別見積 | あり |
| SmartHR | 汎用・高機能 | △ (カスタム可能) | 全規模 | 初期¥0 / 月額個別 | あり (15日) |
| カオナビ | 汎用・高機能 | ◎ (Medical Cloud) | 全規模 | 個別見積 (医療特別価格) | あり |
| CYDAS | 汎用・高機能 | ◯ (スキルマップ) | 中〜大 | 個別見積 | デモあり |
| sai*reco | 汎用・高機能 | △ (カスタム可能) | 小〜中 | 初期設定費 / 月¥250〜 | あり (14日) |
病院が人事評価システムを選ぶ3つの絶対基準
一般的な企業と異なり、病院の人事評価には人命に関わる専門性と、24時間365日稼働するシフト制という特殊事情があります。失敗しない選定のために、以下の3点を必ず確認してください。
「クリニカルラダー」など職種別の評価制度に対応できるか
医師の業績評価、看護師のクリニカルラダー(実践能力習熟段階)、コメディカルの技術評価、そして事務職の行動評価。これら全く異なる評価シートを、一つのシステム内で共存・運用できるかが最大のポイントです。
特に看護部においては、日本看護協会版クリニカルラダー(JNAラダー)などの指標に基づき、個々のスキルレベルを可視化する必要があります。システムを選定する際は、複雑なラダー表を柔軟に設定できるか、あるいは「カオナビ」のように医療機関向けのプリセット(Medical Cloud)が用意されているかを確認します。
ITリテラシーに不安がある職員でも直感的に使えるか
システム導入が失敗する最大の要因は、現場スタッフが「使い方が分からない」と拒絶反応を示すことです。特にPCを一人一台持たない看護師や介護スタッフ、あるいはIT機器に不慣れなベテラン職員にとって、操作の難易度は死活問題です。
個人のスマートフォンや共用のタブレットから、アプリ感覚で直感的に入力できるUI(ユーザーインターフェース)を備えていることが必須条件です。「マニュアルを読まなくても操作できるか」を基準に、必ず無料トライアルやデモ画面で現場のキーマンに確認してもらってください。
チーム医療への貢献度を測る「360度評価」が可能か
現代の医療はチームで行われます。個人の専門スキルが高いだけでは不十分であり、多職種連携におけるコミュニケーション能力や協調性が問われます。
上司から部下への一方的な評価だけでなく、同僚や他職種からのフィードバックを集める「360度評価」機能の実装は重要です。多面的な評価データは、納得感のある処遇決定だけでなく、医療安全やサービス向上に寄与する行動変容を促します。
医療特化型 病院・クリニックにおすすめの人事評価システム2選
医療現場の商習慣や独特な評価制度を熟知しており、導入のハードルが低いのが特化型システムです。「制度設計から相談したい」「スモールスタートしたい」という病院に適しています。
DoctorHR
「DoctorHR」は、その名の通り医療機関に特化して開発されたシステムです。最大の特徴は、ドクター監修のもと設計されており、現場の医師や職員が本当に必要とする機能に絞り込まれている点です。
評価機能には、職務や年次に応じた「スキル管理」機能が備わっており、看護師のラダー制度とも高い親和性を持ちます。また、料金には制度構築のコンサルティング費用が含まれているケースが多く、評価制度が未整備な状態からでも、専門家の支援を受けながら運用を開始できます。外部コンサルタントを別途雇うよりもコストを抑えつつ、医療現場に即した制度を構築できる点が強みです。
人事評価Navigator
医療・介護経営のコンサルティングで実績のある日本経営グループのノウハウが詰まったシステムです。「病院経営」の視点から設計されており、単なる評価ツールではなく、組織力を高めるための基盤として機能します。
特筆すべきは、初期費用11万円〜、月額5,500円〜という導入しやすい価格設定です。多くのシステムが個別見積もりとなる中で、明確かつ安価な料金体系は、コストを抑えてシステム化を試みたい中小規模の病院やクリニックにとって大きなメリットです。無料トライアルも提供されており、リスクを最小限に抑えて導入を検討できます。
実績豊富 医療現場の複雑な評価に対応できる汎用システム5選
他業界で磨かれた高い機能性と使いやすさを持ち、医療機関での導入実績も増えている汎用型システムです。「データの戦略活用」「他システム連携」を重視する中〜大規模病院に適しています。
HRBrain
大手企業からベンチャーまで幅広く導入されているクラウド型システムです。医療業界でも、職員数1,000名を超える社会医療法人三栄会 塚崎病院などの大規模病院で導入され、紙運用からの脱却とフィードバック文化の醸成に成功しています。
最大の強みは、ITリテラシーを問わず誰でも直感的に使える優れた操作性です。塚崎病院の事例では、1,000名以上の職員がわずか1回の説明で操作を習得できたと報告されています。評価プロセスを効率化するだけでなく、蓄積したデータを活用して適材適所の配置や離職予兆の検知を行うなど、戦略的なタレントマネジメントへの拡張性も備えています。
SmartHR
労務管理クラウド市場でシェアNo.1を誇るプラットフォームです。入社手続きや年末調整などの労務業務をペーパーレス化し、そこで集まった正確な従業員データベースを基盤に人事評価を行うことができます。
特筆すべきは、KING OF TIMEなどの勤怠管理システムとのAPI連携が充実している点です。2024年4月から施行された「医師の働き方改革」により、医療機関には医師の労働時間の客観的な把握と面談指導が義務付けられました。SmartHRは、労務・勤怠・評価データを一元管理することで、事務部門の負担を劇的に削減しながら、コンプライアンス遵守を強力に支援します。初期費用0円から始められる導入のしやすさも魅力です。
カオナビ

社員の個性や才能を「顔写真」と紐づけて管理する人材マネジメントシステムです。医療機関向けの専用プラン「カオナビ Medical Cloud」を提供しており、クリニカルラダーや医療職特有のスキル管理に標準対応しています。
ドラッグ&ドロップで操作できる直感的な画面により、組織図のシミュレーションや配置転換の検討が容易に行えます。多くの職員を抱える病院において、「誰がどこにいて、どんなスキルを持っているか」が一目でわかることは、緊急時の体制構築や委員会メンバーの選定において大きなアドバンテージとなります。既存のExcel評価シートの再現を無料で代行するサービスもあり、移行コストへの配慮も手厚いです。
CYDAS

「働きがい」をデータで可視化し、組織のエンゲージメント向上に特化したシステムです。目標管理(MBO)やコンピテンシー評価に加え、上司と部下の対話を支援する1on1機能が充実しています。
医療現場では、過酷な業務環境によるバーンアウト(燃え尽き症候群)や離職が課題となりがちです。CYDASは、評価のためだけのツールではなく、日々の対話やフィードバックを通じて職員のモチベーション状態を把握し、離職防止やケアの質向上に繋げるためのマネジメントツールとして機能します。人材育成を重視する病院に適しています。
sai*reco
人事情報を一元管理し、定型業務の自動化を得意とするシステムです。月額1名あたり250円程度からという低コストで利用でき、コストパフォーマンスに優れています。
最大の特徴は、現在使用しているExcelの評価シートを、そのままのデザインとロジックでシステム上に再現できる柔軟性です。現場が慣れ親しんだフォーマットを変えずにデジタル化できるため、導入時の混乱や教育コストを最小限に抑えることができます。まずは紙・Excel管理の非効率さを解消し、スモールスタートでDXを進めたい病院に最適です。
なぜ今、病院に「データ駆動型」の人事評価が必要なのか
病院経営における最大のリスクは、人材の流出です。2024年の調査では、正規雇用看護職員の離職率は11.3%に達しています。システム導入は単なる事務作業の効率化ではなく、この経営課題を解決するための投資です。
「静かなる退職」を防ぐための公平性の担保
評価基準が曖昧で、上司の主観や年功序列に依存した評価は、若手・中堅職員のモチベーションを静かに、しかし確実に蝕みます。「頑張っても報われない」という諦めは、必要最低限の仕事しかしない「静かなる退職」や、突然の離職へと繋がります。
評価プロセスを透明化し、データに基づいた納得感のあるフィードバックを行うことは、職員と組織の信頼関係(エンゲージメント)を再構築する唯一の手段です。
慢性的な人材不足に対する「採用」から「定着・育成」へのシフト
少子高齢化により、新規採用の難易度は年々高まっています。今いる人材を大切に育て、長く定着してもらう方が、ROI(投資対効果)は圧倒的に高くなります。
人事評価システムに蓄積されたスキルデータや過去の評価履歴は、職員一人ひとりに合わせたキャリアプランの策定を可能にします。「この病院なら成長できる」という実感こそが、最強の定着支援策となります。
2024年4月施行「医師の働き方改革」への対応義務
2024年4月の法改正により、医療機関には医師の時間外労働の上限規制と、長時間労働者への健康確保措置(面談指導など)が義務付けられました。これに違反することは、法的なリスクだけでなく、病院の社会的信用に関わります。
最新の人事評価システムや労務管理クラウドは、勤怠データと連携し、労働時間を客観的に把握する機能を備えています。また、義務化された面談の記録をシステム上に残すことで、コンプライアンスを遵守しつつ、医師の過重労働を防ぐ体制を構築できます。
導入失敗を防ぐ!病院でのシステム運用の注意点
高機能なシステムを導入しても、運用に乗らなければ意味がありません。病院ならではの落とし穴を避けるためのポイントを解説します。
制度設計なしでのシステム導入は失敗する
システムはあくまでツールであり、評価制度そのものではありません。「何を評価し、どう処遇に反映させるか」という病院の理念や方針が定まっていなければ、どんな高価なシステムも機能しません。
特にラダー評価などをシステム化する場合、現在の紙のシートをそのまま移行するのではなく、この機に評価項目が今の医療現場の実態に合っているかを見直すことが重要です。制度設計に不安がある場合は、コンサルティング機能を持つベンダーを選ぶのも一つの戦略です。
現場への説明と定着支援(オンボーディング)
新しいシステムの導入は、現場にとって一時的な負担増となります。特に現場のキーマンである看護師長や事務部門のリーダーに対し、導入の目的(業務がどう楽になるのか、公平性がどう高まるのか)を事前に丁寧に説明し、協力を得ることが不可欠です。
また、特定の病棟や部署でパイロット運用を行い、成功事例を作ってから全院に展開するなど、現場の混乱を避ける段階的な導入計画を立てることを推奨します。
まとめ:自院の課題に合わせたシステム選びで、医療の質と組織力を向上させる

病院の人事評価システム選びにおいて、「万能な正解」はありません。重要なのは、貴院が現在抱えている課題の優先順位です。
- 制度設計から支援してほしい、スモールスタートしたい場合: 「DoctorHR」や「人事評価ナビゲーター」などの医療特化型。
- 大規模運用の効率化、他システム連携、タレントマネジメントを目指す場合: 「HRBrain」や「SmartHR」「カオナビ」などの汎用・高機能型。
アナログな評価管理からの脱却は、事務長や看護部長の業務負担を減らすだけでなく、職員が誇りを持って働ける環境作りに直結します。まずは各製品の資料を取り寄せ、無料トライアルで「現場が使いこなせるか」を確認することから始めてください。






