売上改善に向けて企業が取るべきアプローチはさまざま。そんな中、顧客単価を上げることで全体の売上向上を図る「アップセル」の手法が注目されています。
アップセルとはどのような手法なのか、実践する際のポイントや具体的な事例も交えながら、わかりやすく解説します。
アップセルとは顧客単価を向上させる営業手法のこと
アップセルとは、顧客単価を向上させる営業手法のことです。商品やサービスの購入を検討している顧客や、購入経験があるユーザーに対して、より高額な上位モデルを提案して乗り換えてもらうアプローチを指します。
アップセルを実施すれば、顧客数を増やすことなく総売上額を増やすことが可能です。そのため効率のよい売上増加施策として、ECサイトやサブスクリプション型のビジネスモデルなどを中心に活用されています。
顧客数を増やさなくても総売上額を増やせる
アップセルは顧客数を増やすことなく総売上額を増やせる手法です。ハイスペックな関連製品や、より高額な料金プランの提案などを通じて顧客単価の向上を目指します。
【アップセルの具体例】
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顧客単価向上の手法には「クロスセル」もある
顧客単価向上の手法にはアップセルのほかに「クロスセル」も存在します。クロスセルでは商品を購入しようとしている顧客に、関連商品のあわせ買いをすすめて顧客単価のアップを図ります。
【クロスセルの具体例】
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アップセルとクロスセルの違い
アップセルとクロスセルは「おすすめする製品が検討していた製品と関連しているかどうか」が異なります。
アップセルは「検討していた製品と同一ラインナップの上位モデル移行」を促すのに対し、クロスセルでは「検討していた製品とは別ラインナップの製品購入」をすすめます。
アップセルとクロスセルの両施策をあわせて検討できれば、顧客単価向上のさらなるアプローチがみえてくるでしょう。
アップセルで期待できるメリット
アップセルは売上アップだけではなく、コスト削減や顧客満足度の向上など、さまざまなメリットが見込めます。
企業全体の売上を効率的にアップできる
アップセルは企業全体の売上を効率的にアップできる効果が見込めます。
新規顧客を獲得するには広告やキャンペーン、営業活動など、さまざまな施策を行わなければなりません。さらに自社製品やサービスに興味・関心がなかった顧客が購入にいたるとは限らないのです。
しかしアップセルであれば、アプローチするのは自社にすでに興味・関心を抱いた顧客です。そのため新規顧客よりも、購入につながる可能性は高いといえるでしょう。
つまり、購入確度の高い既存顧客に対して顧客単価向上のアプローチをすすめていければ、売上アップの可能性も飛躍的に向上するのです。
新規顧客獲得のコストを下げられる
少子高齢化や人口減少の影響により、新たな顧客を獲得するためのコストは増加しています。マーケティングの世界で、新規顧客を1人獲得するには、既存顧客1人を維持する5倍のコストがかかる「1:5の法則」が重視されているのもそのためでしょう。
しかし逆をいえば、既存の顧客にかかるコストは新規開拓の1/5ですむということです。既存顧客にアップセルを行えば、コストを抑えながら売り上げがアップするので、価格の差よりもメリットは大きくなると考えられます。
アップセルでは顧客が購入しようとしている商品に対してグレードアップを提案します。そのため、顧客に受け入れられやすく、成果につながる可能性も高いのです。
顧客の満足度アップが期待できる
アップセルを実施すれば、顧客満足度アップの効果も期待できます。蓄積された顧客データの分析を通じて、真に求めているニーズに沿った提案が可能になるためです。
アップセルを行う必須条件として「顧客との間に信頼関係ができていること」があります。顧客自身が、商品や提供する側に信頼や親しみを持っているからこそ、アップセルの提案に耳を傾けてくれるのです。
そのため初めて購入する客や、購入回数の少ない客にはアップセルをしない方がよいとされています。信頼関係が十分にできていないと「高いものを売りつけられた」と取られかねません。
的確なアップセルで顧客に商品やサービスを気に入ってもらえれば、満足度も高まるでしょう。もしうまくいかなくても、顧客のニーズを捉えた内容であれば、自社への評価がアップすることも期待できます。
アップセルを実践する際の6つのポイント
アップセルは段階を踏んで行うことが大切です。成果を急いで顧客に無理なアップセルをしたり、見当違いな提案をしたりすると、これまで積み上げてきた信頼関係が台無しになりかねません。
成功の確率を高めるためにも、入念な準備のもとで進めていきましょう。
顧客データの分析からはじめる
アップセルを行うには、顧客のデータ分析が不可欠です。顧客ニーズに沿った施策を実施するためにも、まずは顧客データの分析から進めていきましょう。
【見るべき顧客データの例】
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そして集めた情報を基に、顧客のニーズを探り出します。ニーズを探り出すためには次のような観点からデータ分析を行うとよいでしょう。
【データ分析の際にみるべきポイントの例】
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アップセルの対象は、顧客ロイヤリティ(顧客が商品やブランド、自社に対して持っている信頼や愛着)がなるべく高い顧客がよいでしょう。アップセルは顧客と売る側の間に信頼関係がなくては成立しない販売方法だからです。
顧客目線を忘れない
アップセルはデータだけでなく、顧客の反応にも合わせて行うことが大切です。対面で販売するなら、顧客の言動や表情からニーズを推測しましょう。ショッピングサイトであれば、すすめた商品のページ閲覧履歴をチェックします。
ニーズを外したアップセルは、成果につながりにくいばかりか、顧客が購入をやめてしまったり、顧客からの信頼を失ったりすることになりかねません。顧客が喜んでくれるような提案を心がけましょう。
顧客目線で考えれば、うまくいかなかったとしても「自分のことを考えてすすめてくれた」と好印象を持つはずです。
アップセルのための商品やサービスを整える
分析結果を基に、顧客に受け入れられそうなアップセルのための商品やサービスを用意します。顧客の想定より上位の商品やサービスを購入してもらうには、見合うだけのメリットがある商品をそろえる必要があるでしょう。
まとめ買いによる割引や送料無料など、アップセルに付帯する特典やサービスも整えておきます。
アップセルすることを念頭に置いて「どうすれば顧客がすすめた商品を購入してくれるか」「契約やオプションのグレードアップをしてくれるか」を考えましょう。
特典や割引率アップなど「お得感」を提供する
より高価なものをすすめるのであれば、顧客が「お得感」を感じられる工夫が必要です。アップセルと組み合わせてよく使われる方法として、以下のような特典を付けることがあります。
【アップセルと組み合わせる施策の例】
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複数の特典を付けたり、特典に「今だけ」「3日間限り」などの期限を設けたりするのもアップセルを成功させる手法として有効です。
費用対効果を提示する
買い替えを検討している顧客には、なぜ買い替えようとしているのか理由を探ってからアップセルします。顧客の悩みや困っていることを解決するような商品を提案すれば、成功する確率だけでなく、満足度も高まるからです。
エアコンを購入しようとしている顧客の「エアコンが古くて電気代が気になる。新しく購入するなら節約もできるものがいい」というニーズを把握したとしましょう。アップセルするなら、省エネ効果の高い最新型をすすめればよいのです。
価格やグレードの高いものをすすめるアップセルには、予算以上のものを購入するだけの価値を顧客に提示することが必要になります。
適切なタイミングで行う
アップセルは適切なタイミングで行いましょう。最も成功しやすいのは、顧客が商品の購入を検討しているときです。顧客には「購入する」という意思があるので、より高価なものや性能の高いものでも、メリットとあわせて紹介すると成果につながりやすくなります。
サービスやオプションの契約なら、更新のタイミングでアップセルするのがおすすめです。顧客がサービスを活用しているのであれば「もっと使いやすくしたい」というニーズを持っているかもしれません。上位のプランを提案すれば、成功する確率が高まるでしょう。
注意点は、商品の購入を決めていない段階でアップセルの提案をしないことです。顧客が「高いものを売りつけられた」と不快に感じる恐れがあります。
アップセルに成功した企業の施策事例
アップセルに成功して売上を伸ばした企業の施策を紹介します。自社の施策を考える際に、ぜひ参考にしてみてください。
Amazon:関連商品のおすすめ表示
本や生活用品の巨大ECとして、いまや日常生活に欠かせない存在となったAmazon。商品を調べたり購入したりする際に、表示している商品の関連商品をおすすめ表示することでアップセルを実現しています。
「よく一緒に購入されている商品」の形で紹介することで、ユーザーは「自分と同じようなほかのユーザーはこの商品も検討しているのか…」「それなら買ってみるのもありかな…?」など、上位モデルを検討するきっかけが生まれます。
さらに紹介される商品はそのままカートに追加できるので、購入の手間もかかりません。ユーザーが商品を安心して検討できる配慮と仕組みづくりが、アップセルを成功に導いているといえるでしょう。
Spotify:無料版への適度な機能制限
Spotifyは7,000万曲以上の音楽をスマホやパソコンで聴ける、サブスクリプションサービスを提供しています。
そんなSpotifyが取っているアップセルの方法は「無料版への機能制限を適度にかける」といったもの。無料版でもすべての音楽を聴けますが、再生中の曲を1時間に6回以上スキップすると、時間が経過するまではスキップができません。そしてその際に、スキップ回数無制限の有料プランへの移行を促すメッセージが画面に表示されるのです。
Spotifyはこうして、より多くのユーザーを無料版から月額制の有料プランへ移行させることに成功し、いまや音楽配信サービスの市場シェアNo.1を獲得しています。
「好きな音楽を好きなだけ自由に聴きたい」といったユーザー心理を巧みに駆使したアップセル手法だといえますね。
Dropbox:データ容量の使用状況にあわせたメール配信
Dropboxは写真や書類などさまざまなファイルをオンライン上で保管・管理できる、オンラインストレージサービスを提供しています。Dropboxはデータ容量の使用状況にあわせたメール配信を実施して、アップセルを実現してきました。
Dropboxは無料で使える「フリーミアムプラン」を提供していますが、使用できる容量は2GBまでに設定されています。そのため、大容量を必要とする動画ファイルや多数の書類を管理するケースなどでは、容量の上限がすぐに到達してしまうのです。
そしてこの容量が少なくなってきたタイミングで、有料プランへの移行を促すメールを送信します。「2GBでは足りないけれど、2,000GBもあるなら自由に使えるな…」「月1,200円なら無理なく払えそう」といったユーザー心理を突いた、アップセル施策だといえるでしょう。
ヤクルト球団:ファンクラブ入会特典の拡充
プロ野球チームのヤクルトスワローズを運営する株式会社ヤクルト球団。これまで、ファンクラブの入会特典を巧みに活用したアップセルを進めてきました。
ファンクラブには年間2,600円のライト会員から、年間13,300円プラチナ会員まで合計5つの会員プランを設けています。いずれもチケットを割引価格で購入できる特典は共通ですが、入会記念品の特典数や種類は上位グレードにいけばいくほど増えていきます。
また顧客調査によって入会記念特典はユニフォームの人気が高いことが判明。ユニフォームに好きな選手の背番号や名前を入れるオプションを追加するなど、顧客ロイヤリティを高める施策を継続的に続けてきました。
「好きな選手を全力で応援したい」「チームを盛り上げていきたい」といったファン心理をつかんだアップセル施策で、上位グレードの会員数も増加。受付が終了するほどの人気を見せ、球団の収益を支える大切な柱となっています。
アップセルのために導入したいツール
アップセルを実践するにあたって欠かせないのが顧客データの分析です。顧客ニーズに沿った施策を実施するためにも、導入しておきたいツールを紹介します。
CRMツール
顧客管理のために導入したいのがCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ツールです。
アップセルに必要な顧客情報や購入履歴、顧客からの問い合わせの内容、どのように対処したかなどの記録を一元化できます。自社内で情報を共有できるだけでなく、顧客のニーズや購入傾向などの分析に活用できるのがメリットです。
CRMツールを活用すれば、顧客情報や顧客との関係性から、何をどのようにアプローチするのかなどの戦略を立てやすくなります。アップセルのタイミングを計るのにも適したツールです。
SFAツール
SFA(Sales Force Automation:営業支援ツール)は顧客管理を始め、最初のアプローチから顧客が購入するまでの営業活動を記録しておけるツールです。
活動記録だけでなく、営業を「見える化」して、顧客が購入するまでの流れを標準化するのに役立ちます。アップセルなどの販売方法を、マニュアル化して誰でも取り組めるようにすることで、効率的な売り上げアップが期待できるでしょう。
「このようにしたら顧客に購入してもらえた」といった、成果につながるパターンを記録しておけば、自社内で共有もできます。
顧客の心をつかむアップセルで売上の向上を
適切なアップセルは売り上げだけでなく、顧客満足度や信頼関係の向上といった「お金以上の価値」につながります。顧客が満足してくれれば、継続的な売り上げが見込めるでしょう。
逆に売り上げ第一で、顧客を置いてきぼりにしたアップセルは、単なる押し売りになりかねません。顧客の情報や記録を分析して「どうすればうまくいくか」という戦略は重要ですが、顧客目線の提案を忘れないようにするのが大切です。
顧客に寄り添ったアップセル施策を実施して、売上アップを実現していきましょう。
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