会社からの給与所得のみの場合、基本的に確定申告を行う必要がありません。しかし、特定の条件に該当する場合は申告が必要となったり、申告することで税金の還付を得られたりするケースもあります。
本記事では、会社員が確定申告を行うべき状況や、確定申告によって節税できる条件について詳しく解説します。確定申告の手順や注意点など、申告時のポイントをわかりやすくまとめたので、ぜひ参考にしてください。
そもそも確定申告とは?
確定申告とは、1年間の所得と税額を計算して、納めるべき税金の額を確定させるための手続きです。1月1日から12月31日までの1年間の所得について、翌年の2月16日から3月15日までの期間に申告を行います。
会社員の場合、通常は勤務先が年末調整を行うため、自ら確定申告をする必要はありません。年末調整とは、毎月の給与から源泉徴収された所得税の過不足を精算する手続きです。
しかし、一定の条件に該当する場合は申告が必要だったり、自主的に申告することで税金の還付を受けられたりする可能性があります。
会社員でも確定申告が必要なケース
原則として、会社員は自分自身で確定申告を行う必要はありません。しかし、以下のようなケースでは確定申告が必要です。
給与の年間収入が2,000万円を超える場合
給与の年間収入が2,000万円を超える高額所得者は年末調整の対象とならないため、確定申告の必要があります。配偶者控除や社会保険料控除といった所得控除が差し引かれないため、自ら申告しなければならないのです。
年間収入が2,000万円を超える場合、配偶者特別控除の対象外となります。一方、寄附金控除や生命保険料控除などは適用できるため、使える控除は上手く活用しましょう。
副業などの所得が20万円を超える場合
会社員が副業やフリーランスの仕事をしている場合など、本業以外での収入が20万円を超えると確定申告が必要になります。申告しない場合は「脱税」とみなされてしまうこともあり、追徴課税や無申告加算税、延滞税などを支払わなければならない可能性もあります。
最悪の場合、刑事罰の対象となってしまうこともあるため、必ず漏れのないように申告しましょう。
2箇所以上から給与を受け取っている場合
複数の会社から給与を受け取っている方で、本業以外の所得が20万円を超える場合は確定申告が必要となります。
ただし、以下のいずれの条件も満たしている場合は不要です。
- 給与所得の収入から雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除以外の控除を引いた金額が150万円
- 給与所得および退職所得以外の所得金額が20万円以下
満期保険金・解約返戻金を一定額以上受け取った場合
生命保険や損害保険の満期保険金や解約返戻金を受け取った場合、「一時所得」と見なされて課税対象となります。
一時所得の金額は「受け取った保険金の総額から既に払い込んだ保険料または掛金の額を差し引き、一時所得の特別控除額50万円を差し引いた金額(※)」です。
※対象となる満期保険金以外の一時所得がない場合
源泉徴収されない給与支払いがある場合
海外の会社から給与を受け取るなど、源泉徴収されない給与がある場合、金額にかかわらず確定申告が必要です。このような場合、給与所得者であっても自ら所得税を計算して、確定申告により納税しなければなりません。
災害減免法が適用される場合
災害減免法による所得税の軽減や免除の適用を受ける場合も、確定申告が必要となります。
災害減免法とは、災害によって被害を受けた納税者に対して、税の減免や納付期限の延長などの措置が適用されるというものです。確定申告書の作成時には、適用を受ける旨を明記するとともに、被害状況や損害金額なども記載します。
会社員でも確定申告でメリットを得られるケース
確定申告が義務付けられていない場合でも、自主的に申告することでメリットを得られるケースがあります。会社員でも確定申告でメリットを得られるケースは以下の通りです。
住宅ローン控除の適用となる場合
住宅ローンを組んで住宅を購入した場合、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けられます。住宅ローン控除とは、ローンとして支払った金額を元に算出した控除額を、所得税(納める予定の税金)から差し引けるというものです。課税対象となる所得金額ではなく税金から直接控除されるので、大きな節税効果があるのが特徴です。
住宅ローン控除を受けるためには、原則として確定申告が必要となります。
医療費が年間10万円超の場合
1年間に支払った医療費が10万円を超える場合(または所得の5%を超える場合)、医療費控除を受けられます。医療費控除を受けるためには確定申告が必要です。
控除額は、実際に支払った医療費から10万円(または所得の5%のいずれか低い方)を引いた金額になります。
寄附をした場合(ふるさと納税など)
ふるさと納税などの寄附を行った場合、寄附金控除を受けることができます。ふるさと納税の場合、確定申告を行うことで、寄附金額のうち2,000円を超える部分について所得税の控除を受けられます。
ただし、ふるさと納税については、確定申告不要の「ワンストップ特例制度」を利用することもできます。ふるさと納税のために確定申告をしようとしている場合、ワンストップ特例制度も検討してみるとよいでしょう。
株式・FX取引で損失が出た場合
株式やFX取引で損失が発生した場合、確定申告を行うことで損失を翌年以降3年間にわたって繰り越すことができます。将来の利益と相殺できるようになるため、翌年以降の税負担を軽減できる可能性があります。
配当金を受け取った場合
配当金を受け取った場合、確定申告は原則不要ですが、以下のようなケースでは確定申告をすることでお得になるケースがあります。
- 株で譲渡損失が発生した
- 課税所得が695万円以下(住民税の申告不要制度の利用なし)
- 課税所得が900万円以下(住民税の申告不要制度の利用あり)
- NISA口座で株式比例販売方式を設定していない
- 無職である(年金生活者・主婦を含む)
バリアフリー・省エネの改修工事を実施した場合
自宅のバリアフリー改修や省エネ改修工事を行った場合、確定申告を通じて税額控除を受けられることがあります。改修工事にかかった費用の一部を所得税から控除することができ、住環境の改善と同時に税負担の軽減も図れます。
マイホームの売却で損が発生した場合
住宅ローン残高の残っているマイホームを売却して損失が発生した場合、確定申告を行うことでその損失を他の所得と相殺できる可能性があります。また、損益通算をしても損失が残る場合、翌年以降に最大3年間繰り越すことが可能です。
ただし、売主と買主が親子関係や夫婦にあたる場合は利用できないため注意しましょう。
指定の市販薬を年間1万2,000円以上購入した場合
セルフメディケーション税制により、処方箋無しで購入できる一般用医薬品を年間1万2,000円以上購入した場合、確定申告を通じて医療費控除を受けられます。
ただし、控除額の上限は8万8,000円と定められているため、年間の合計購入額が100,000円を超えた部分については控除対象とはならないため注意しましょう。
災害や盗難の被害があった場合
災害や盗難によって財産に損害を受けた場合、確定申告を行うことで雑損控除を受けられる可能性があります。控除額は被害額から保険金などで補填された金額を差し引いた、実質的な損失額に基づいて計算されます。
年末調整で控除の申告し忘れがある場合
年末調整で生命保険料控除や地震保険料控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金控除などを各種控除を申告し忘れた場合、確定申告で追加申告することができます。適切な控除を受けて税負担を軽減できる可能性があります。
退職して年末調整を受けていない場合
年の途中で退職して年末調整を受けていない場合も、確定申告を行うことで適切な税額に精算できます。特に退職後に再就職していない場合や、年間を通じての所得が少ない場合、確定申告によって税金の還付を受けられる可能性が高いです。
退職所得申告書を提出していない場合
退職金を一時金で受け取った方のうち、退職所得申告書を出していなかった方は、確定申告をすると還付を受けられる可能性が高いです。退職所得申告書を提出していない場合、退職金のうち20.42%が一律で税金として源泉徴収されます。
会社員の確定申告のやり方
ここからは、会社員が確定申告を行う際の基本的な手順について解説します。会社員の確定申告のやり方は以下のとおりです。
1. 青色申告or白色申告を選択する
確定申告には青色申告と白色申告があり、それぞれ対象者が決まっています。自分がどちらの対象となるのか、次のフローチャートを使って確認してみてください。
2. 作成方法を選択する
次に、作成方法を選択します。確定申告書の作成では以下のような方法があります。
- 手書きで作成する
- 国税庁のホームページにある確定申告書作成コーナーで作成する
- 市販の確定申告ソフトで作成する
- 税理士に依頼する
手書きで作成することも可能ですが大変なため、確定申告ソフトや確定申告書作成コーナーでの作成がおすすめです。また、忙しくて作成する暇がない方ややり方に不安がある場合、税理士に依頼して代わりに作成してもらうこともできます。
3. 必要書類を準備する
作成方法を決めたら、確定申告に必要な書類を準備しましょう。主な必要書類には、以下のようなものがあります。
- 源泉徴収票
- 各種控除証明書(生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書など)
- 医療費の領収書(医療費控除を受ける場合)
- 寄附金受領証明書(寄附金控除を受ける場合)
- 住宅ローン控除に関する書類(適用初年度の場合)
4. 確定申告書を作成する
選択した方法で、実際に確定申告書を作成していきます。具体的な作成方法や記入例については、以下の記事も参考にしてみてください。
5. 税務署に提出する
作成した確定申告書を税務署に提出します。提出方法は以下の3つです。
- e-Taxを使ってパソコンやスマホから提出する
- 税務署の窓口に書類を持参して提出する
- 税務署に書類を郵送して提出する
e-Taxを利用する場合、オンラインで簡単に提出できます。それ以外の場合、郵送または税務署の窓口に直接持参して提出する必要があります。2024年分の申告期限は2025年2月17日から3月17日までとなっているため、早めに準備するようにしましょう。なお、郵送の場合は3月17日までの消印が有効です。
会社員が確定申告で注意すべきポイント
確定申告を行う際に、会社員が特に注意すべきポイントをいくつか紹介します。
必要書類に漏れがないようにする
スムーズに確定申告を行うために、必要書類をすべて揃えることが重要です。特に各種控除を受ける場合は、それぞれの控除に必要な証明書や領収書を忘れずに準備しましょう。書類に不備があると、申告の受理が遅れたり、控除が認められない可能性があります。
2024年分の申告期限は2025年2月17日から3月17日まで
2024年度分の確定申告の提出は、2025年2月17日(月)から3月17日(月)までの期間となっています。この期間に必ず申告が完了するようにしましょう。
例年、翌年の2月15日から3月15日までが確定申告の期間です。2025年のように3月15日が土日祝日の場合は、週明けの平日に期限が設定されることになっています。
確定申告の期限を過ぎると、延滞税や加算税が課される可能性があります。還付申告の場合は期限後5年以内であれば申告できますが、できるだけ早めに申告しましょう。
複式簿記でなければ65万円控除が受けられない
青色申告の65万円控除は、複式簿記で記帳を行っている場合にのみ適用されます。会社員でも、副業などで事業所得がある場合は青色申告を選択することができます。
ただし特別控除を受けるには、日々の取引を複式簿記で記録し、貸借対照表と損益計算書を作成する必要があります。
なお、白色申告(単式簿記)の控除額は10万円となります。
確定申告に悩んだら税理士に相談しよう
会社員の確定申告について解説しました。会社員で副業をしている場合や2箇所以上からの給与を受け取っている場合、確定申告が必要となります。
しかし、確定申告は複雑な手続きであり、特に初めて行う場合や複数の所得がある場合は戸惑うことも多いでしょう。そのような場合は、税理士に相談することをおすすめします。
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