実際の形がないソフトウェアであっても、通常無形固定資産として減価償却を要します。またソフトウェアの用途によっても耐用年数が異なるため「何の用途の際に耐用年数が何年になるのか」を理解することは必須です。
誤った減価償却をすることによって会社に不利益が発生する場合も多々あるため、正しい知識を身に付け適切な費用計上を行えるようにしましょう。
この記事を監修した税理士
越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山
ソフトウェアの耐用年数
ソフトウェアの耐用年数は自社利用目的であれば「5年」、市場販売目的であれば「3年」です。
ソフトウェアの目的 | 耐用年数 |
自社利用 | 5年 |
市場販売 | 3年 |
ただしソフトウェアの耐用年数は「会計上」と「税務上」で一部違うため、法人税の計算で調整する必要があります。
自社利用目的の場合は5年
自社利用目的のソフトウェアの耐用年数は会計上、税務上ともに5年になります。
自社利用目的のソフトウェアとは、会社内で利用するソフトウェアのことです。例えば会計ソフトや給料計算ソフトの購入費用が挙げられます。ソフトの購入以外でも独自プログラムを自社で作成した費用や、外部の制作会社に依頼した費用なども自社利用目的ソフトウェアに該当します。
取得価額が20万円未満のソフトウェアは「一括償却資産」として処理することができ、これにより耐用年数3年で減価償却できます。自社利用目的のソフトウェアの耐用年数は5年なので、一括償却資産として取り扱うことで2年間早く減価償却が終了することになります。
市場販売目的の場合は3年
市場販売目的のソフトウェアの耐用年数は会計上、税務上ともに3年です。
市場販売目的のソフトウェアとは、一般的に販売されているソフトウェアの製品マスター制作費用のことです。ただし最初に作成された製品マスターの開発費用は、研究開発に該当することになります。製品としての基準を満たしている試作品の完成後から発生する費用が「市場販売目的のソフトウェア」として減価償却の対象になります。
対象になる費用は「製品マスターの改良に支出した費用」です。ただし「製品マスターの著しい改良に支出した費用」は研究開発費に該当します。判断が難しいところですので、税理士への相談を検討してみてもよいでしょう。ミツモアでは税理士に相談依頼の無料見積もりをすることができます。
受注生産販売目的の場合は減価償却の対象外
同様に販売目的であっても「受注生産販売目的」のソフトウェアは減価償却の対象外であるため注意が必要です。受注生産販売目的のソフトウェアとは、クライアントからの依頼によって特定の仕様通りに個別制作するオーダーメイドのソフトウェアを指します。
この受注生産販売目的のソフトウェアには耐用年数がなく、減価償却が行われません。建設業の請負業務に近い性質を持つことから「工事進行基準」もしくは「工事完成基準」のいずれかで会計処理を行います。
工事進行基準とは、ソフトウェアの開発の進捗具合に合わせて売上と原価を分割して計上する方法です。一方で工事完成基準とは、ソフトウェアが完成しクライアントに譲渡した段階で、まとめて売上と費用を計上する会計処理を指します。
IFRSにおけるソフトウェアの耐用年数
IFRSとは「国際財務報告基準」のことで、世界で共通した会計の規則です。日本においても2010年にIFRSでの連結財務諸表の作成が一部認められ、いずれは全ての会計処理においてIFRSが強制適用される予定となっています。
IFRSでソフトウェアを含む無形固定資産の耐用年数を考える際は「耐用年数を確定できるか否か」がポイントです。具体的には無形固定資産がキャッシュフローを発生させると期待される期間について、予測ができる限度がない場合、耐用年数が確定できないこととなっています。耐用年数が確定できない場合は減価償却ができません。その一方で耐用年数を確定できる場合は、耐用年数にわたって償却を行います。
IFRSでソフトウェアを考える場合の耐用年数の目安は「残存利用可能期間」です。改修や機能の追加によってキャッシュフローが発生すると期待できる期間が延長になる場合は、その点も考慮する必要があることに注意しましょう。
管理システムや中古ソフトウェアの耐用年数【特殊なケース】
ソフトウェアを含む多くの固定資産はそれぞれ耐用年数が定められています。特に中古の固定資産やLAN設備のハードウェアは特別な取り扱いをする場合があるため注意が必要です。
個々の資産の耐用年数を暗記する必要はありませんが、特殊なケースの取り扱いを覚えることで事務量の削減に繋がるでしょう。
管理システムの耐用年数
一概に管理システムの耐用年数と言っても個々のソフトウェアや設備によって異なるため、個別的に対応する必要があります。
一例を挙げると「ドア自動管理システム」や「入退室管理システム」の耐用年数は共に6年となっています。これは「減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表」における「事務機器及び通信機器」内の「インターホーン及び放送用設備」に該当するためです。
中古ソフトウェアの耐用年数
中古ソフトウェアの耐用年数は、適正に見積もった残存使用期間となります。
しかしソフトウェアの機能面や消耗具合を考慮すると、正確な残存使用期間を見積もることは非常に困難です。また資産の残存使用期間を適切に見積もれないできない場合、通常は「簡便法」を用いますが、ソフトウェアを含む無形固定資産の場合は簡便法の適用も不可能となっています。
そのため実務上は中古ソフトウェアであっても新品と同様に、法定耐用年数を用いることがほとんどです。
ハードウェアの耐用年数
各種ソフトウェアを起動するのに必要となる、LAN設備のハードウェアについては「設備全体を1つの資産とみなして減価償却を行う方法」と「設備を構成する個々の資産をそれぞれ減価償却する方法」を任意で選択することが可能です。
設備全体を1つの資産とみなす場合の耐用年数は「6年」で、個々の資産をそれぞれ減価償却する際は、個別的に対応する必要があります。
※LAN周りを構成するハードウェアにおける個々の資産の耐用年数の一例
パソコン | 4年 |
ハブ/ルーター/LANボード | 10年 |
プリンター | 5年 |
ハードウェアを構成する資産それぞれを減価償却する場合多くの手間がかかるため、特段の事情がない限りは設備全体を1つの資産として減価償却をした方が良いでしょう。
ソフトウェアは無形固定資産として減価償却できる
ソフトウェアは会計上は「無形固定資産」に該当し、その中でも「市場販売目的」「自社利用目的」の2つに分類されます。どちらの区分でも減価償却できますが、区分によって減価償却の耐用年数・償却方法が異なるので資産計上が少し複雑です。
無形固定資産だが減価償却できる
通常、減価償却とは期間の経過によって劣化するという考え方です。しかしコンピューターにインストールしたソフトウェアは、アンインストールやコンピューターの破損以外で消滅したり、劣化したりすることはありません。この「劣化しない」ということがソフトウェアを減価償却する理由です。
ソフトウェアは劣化することはありませんが、インストールしてから時間が経過すれば他に新しいソフトウェアが開発されます。そのため定期的なバージョンアップや新しいソフトウェアを購入する必要があります。これはソフトウェアの「価値の減少」を意味するのです。
利益目的のソフトウェアが大前提
減価償却の対象となるソフトウェアは「将来の利益目的」、または「将来の経費を削減する目的」のものです。具体的には「自社利用目的」「市場販売目的」の2つです。
よくソフトウェアと間違われるものに「会社のホームページの制作費用」があります。会社概要や商品・サービス情報などを載せた一般的な会社のホームページは「広告宣伝費」として経費処理することができます。ただしECサイトのように商品検索機能やオンラインショッピング機能などがあるホームページの場合、その機能の開発費はソフトウェアに該当するので注意が必要です。
取得価額が10万円以上20万円未満の場合は「一括償却資産」で処理
取得価額が10万円以上20万円未満のソフトウェアは「一括償却資産」として扱われ、耐用年数を3年で計算します。ただし償却期間中にソフトウェアを処分してしまった場合、その時点でまだ残っている資産価値を除却損として計上できないので注意が必要です。
取得価額が10万円未満のソフトウェアは「少額減価償却資産」で処理
取得価額が10万円未満のソフトウェアは「少額減価償却資産」に当たり、経理上は「消耗品費」の勘定科目で経費計上します。
例えば会社で使用する会計ソフトや給料計算ソフトは、近頃は手頃な値段で購入できる場合も多くありますよね。こうしたソフトはパソコンで使用するプログラムなので「ソフトウェア」に該当しますが、1パッケージあたり10万円未満の場合は全て「消耗品費」として経費にすることができます。無形固定資産に計上して減価償却をする必要はありません。
中小事業者は30万円未満であれば少額減価償却資産として損金算入できる
青色申告書を提出する中小企業者等が30万円未満のソフトウェアを取得した場合は「少額減価償却資産の特例」が適用され、全てその年の経費にすることができます。
ただし該当するソフトウェアを平成18年4月1日以降に取得したこと、常時使用する従業員数が1,000人以下であること、少額減価償却資産の合計は年間300万円までなどが条件です。詳細は以下の国税庁の説明を参照してください。
ソフトウェアの償却方法
ソフトウェアを計上するにあたりネックになってくるのが償却方法ですよね。必要な取得価額の算定方法や減価償却方法についてポイントを紹介します。
ソフトウェア取得価額の算定方法
ソフトウェアの取得費の算定方法は「ソフトウェアを購入した場合」と「ソフトウェアを制作した場合」で異なります。
1.ソフトウェアを購入した場合
ソフトウェアを購入した場合は、購入したソフトウェアの金額に「購入に要した費用」と「事業に使用するために要した費用」を加算した金額がソフトウェアの取得価額になります。取得価額に加算しなければならない費用の具体例は、引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税など、ソフトウェアを使用するまでにかかる費用です。
2.ソフトウェアを制作した場合
ソフトウェアを制作した場合は、制作に要した原材料や労務費、経費に「事業に使用するために要した費用」を加算した金額がソフトウェアの取得価額になります。
ソフトウェアの減価償却方法は定額法が原則
ソフトウェアは通常「定額法」によって減価償却を行います。定額法なので毎期同じ金額が減価償却費に計上されることになります。
ただし「市場販売目的のソフトウェア」で収益との対応性が明確な場合は、取得価額に該当するソフトウェアの当期実績販売数量を乗じて総販売見込み数量を除することで減価償却費を算定することが認められています。
各年度の減価償却費 = ソフトウェアの未償却残高 × 各年度の実績販売数/各年度の期首の販売見込数量 |
ソフトウェアの利用目的 | 減価償却方法 |
市場販売目的のソフトウェア | 定額法、又は販売見込数量の準じた方法 |
自社利用目的のソフトウェア | 定額法 |
【注意】見込販売数量に基づく減価償却方法を採用した場合は税務調整が発生
「市場販売目的のソフトウェア」の減価償却方法に見込販売数量に基づく減価償却方法を採用した場合は、税務調整が発生します。なぜなら見込販売数量に基づく減価償却方法は会計上の規定であり、税務上は認められていないからです。
税務上は耐用年数3年の定額法による減価償却を行う必要があるで、会計上の見込販売数量に基づく減価償却方法で計算した減価償却費と、税務上の耐用年数3年の定額法で計算した減価償却費の差額を法人税の計算時に調整する必要があります。
定率法は不可
ソフトウェアの減価償却方法に、定率法を用いることはできません。ソフトウェアの減価償却方法については「会計上」「税務上」ともに明確に決められているため、定率法や会社独自の減価償却方法は認められていません。
ソフトウェアを事業に使用した日から減価償却費を計算する
ソフトウェアの減価償却開始日は他の固定資産と同じく「事業の用に供した日」となっています。
税金対策で決算期末にソフトウェアを購入したが事業には使用していない場合は減価償却を行うことができません。決算期末にソフトウェアを購入した場合や、自社制作した場合は「インストール日時」や「そのソフトウェアを使ってアウトプットした資料」を保管するようにしましょう。
ソフトウェアの償却率
固定資産の減価償却費を計算するには「償却率」を用います。ソフトウェアを減価償却する際は原則「定額法」を用いるため、定額法の償却率である「1÷耐用年数」を活用して減価償却費を計算しましょう。
耐用年数 | 定額法償却率(1÷耐用年数) | |
市場販売用のソフトウェア | 3年 | 0.334 |
研究開発用のソフトウェア | 3年 | 0.334 |
自社利用目的ソフトウェア | 5年 | 0.200 |
また1年の減価償却費は「取得価格×定額法の償却率」で求めることが可能です。例えば取得価額100万円のソフトウェアを自社利用目的で購入した場合、1年分の減価償却費は「100万円×0.200」で20万円となります。
ソフトウェアの仕訳の具体例
耐用年数から償却率を求めソフトウェアの減価償却費を算出したら、帳簿へ仕訳を行います。定額法の減価償却費は、基本的に毎年同じになりますが、最終年だけは金額が異なる場合があり、残存価格の全額を減価償却費として計上します。
なお有形固定資産の場合は1円の備忘価格を帳簿に残す必要がありますが、ソフトウェアを含む無形固定資産には不要である点に留意しましょう。
自社利用目的のソフトウェアの仕訳例
例えば「150万円のソフトウェアを自社利用目的で購入した場合(耐用年数3年)」における、1年の減価償却費は「30万円(150万円×0.200)」です。仕訳はこのようになります。
借方 | 貸方 | 概要 | ||
減価償却費 | 300,000 | ソフトウェア | 300,000 | ソフトウェアの減価償却 |
市場販売目的のソフトウェアの仕訳例
「240万円のソフトウェアを市場販売目的で購入した場合(耐用年数5年)」における1年の減価償却費は「801,600円(240万円×0.334)」となります。仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | 概要 | ||
減価償却費 | 801,600 | ソフトウェア | 801,600 | ソフトウェアの減価償却 |
なおこの場合、3年目の減価償却費は796,800円となります。
【まとめ】ソフトウェアの耐用年数を確認し、正確に計上しよう!
ソフトウェアを減価償却する際は正しい耐用年数と取得価額を確認しなくてはなりません。目的や金額によって計上の仕方が少しずつ異なるため、注意が必要です。
手続きに誤りがあると税務署からの指摘が入ったり、付帯税を支払う必要が生じたりしてしまいます。正しい知識を身に付け適切な手続きを行いましょう。
監修税理士からのコメント
越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山
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ソフトウェアの減価償却は、他の固定資産に比べて複雑で専門性が高いです。「自社で使用するソフトウェアを購入した場合」などは、購入価額に付随費用を加算してソフトウェアに計上すればよいのですが、「自社制作のソフトウェア」や「市場販売目的のソフトウェア」はどこまでが取得費になるのか、どこまでが研究開発費になるのか判断が難しいです。
ソフトウェアを自社で制作する場合は、税金のプロである税理士に相談するのが一番です。ミツモアで税理士に見積もりを依頼しましょう。
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この記事の監修税理士
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