株の配当金について確定申告が必要なのかどうか、不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。
配当金をもらっても確定申告は原則不要です。ただし、株式の取引に使用している口座や株式の種類によっては申告が必要になることがあります。また申告義務はなくても確定申告をしたほうが還付金が受け取れてお得になるケースもあるので、解説します。
Q.配当金の確定申告が必要になるのはどんなとき?
「給与所得者等で特定口座(源泉徴収なし)の利益が20万円を超える場合」「非上場株式の配当金を受けとった場合」「大口株主の場合」は配当金について確定申告が必要です。
Q.申告義務はなくても確定申告をしたほうが良いのはどんなとき?
「株で譲渡損失がある」「課税所得が695万円以下(住民税の申告不要制度を利用しない場合)」「課税所得が900万円以下(住民税の申告不要制度を利用する場合)」のいずれかが当てはまれば確定申告した方がお得になります。またNISA口座の場合、株式数比例配分方式を設定していない人も確定申告した方が有利です。
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配当金の確定申告は原則不要
「特定口座(源泉徴収あり・なし)」「一般口座」のうち、どの口座を使用していても配当金を受け取るときには源泉徴収が行われます。
そのため、配当金が高額であっても基本的には確定申告で税金を精算する必要がありません。これを「申告不要制度」といいます。
ただし利益の状況によっては確定申告が必要、もしくは申告した方がお得になるケースがあります。
確定申告をしなくて良い |
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確定申告が必要 |
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確定申告をしたほうがお得 |
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特定口座(源泉徴収なし)や一般口座の場合、譲渡益にかかる源泉徴収は行われません。そのため譲渡益を得たときは、自ら損益計算を行った上で「確定申告が必要」です。
非上場株式の配当金や大口株主(持株比率が3%以上)として配当金を受け取った場合も総合課税となり「確定申告が必要」です。
「確定申告をしなくても良い」ケースであっても、「確定申告をしたほうがお得」なケースに当てはまることがあります。
申告が義務ではないのでしなくてもペナルティはありませんが、申告すれば税金の還付が受けられますよ。
配当金の確定申告をしなくても良い3つのケース
配当金の確定申告が不要なケースは以下の3つです。
- 特定口座(源泉徴収あり)で取引している
- 給与所得者等の特定口座(源泉徴収なし)または一般口座の取引で利益が20万円以下
- NISA口座で取引している
①特定口座(源泉徴収あり)で取引している
特定口座(源泉徴収あり)で取引を行っている場合、すでに税金が引かれているので原則として確定申告の必要はありません。株式の売買で発生した譲渡益がある場合も同様です。
税金の計算や源泉徴収による納税をすべて証券会社が行ってくれるので、特定口座(源泉徴収あり)での株取引は税金の手続きがシンプルです。
②給与所得者等の特定口座(源泉徴収なし)または一般口座の取引で利益が20万円以下
特定口座(源泉徴収なし)もしくは一般口座の場合、譲渡益に対しては源泉徴収されないので確定申告が必要ですが、配当金は源泉徴収の対象です。
給与所得者等で、株式の譲渡益、配当金などを含む本業以外の収入が20万円以下の場合は、確定申告は必要ありません。
なお20万円以下で配当金の確定申告が不要となるのは、あくまでも「所得税」の確定申告のみです。所得税の申告をしなくてよい場合であっても、住民税の確定申告は必要となる点に注意しましょう。住民税の申告を忘れると、正しい住民税や健康保険料が算出できなくなってしまいます。
③NISA口座で取引している
NISA(少額投資非課税制度)は、政府が国民に投資を推奨する制度として設けられています。NISA口座で保有している上場株式の配当金・譲渡益は非課税となります。つまり源泉徴収もなければ、確定申告の必要もありません。
ただしNISA口座で受け取る配当金等を非課税とするためには、配当金の受け取り方式を「株式数比例配分方式」に設定する必要があります。
配当金の確定申告が必要な3つのケース
以下の3つのケースに当てはまる場合は、配当金の確定申告が必要です。
- 給与所得者等の特定口座(源泉徴収なし)の取引で利益が20万円を超えている
- 非上場株式の配当金を受け取った
- 大口株主として配当金を受け取った
①給与所得者等の特定口座(源泉徴収なし)または一般口座の取引で利益が20万円超
給与所得者等で、特定口座(源泉徴収など)または一般口座の取引で譲渡益などが20万円超の場合は、確定申告が必要です。
特定口座(源泉徴収なし)・一般口座の場合、配当金は源泉徴収されますが譲渡益は源泉徴収されません。つまり譲渡益分についての所得税が精算されていないのです。
そのため源泉徴収されていない部分の所得も含めて、翌年の確定申告期間に申告手続きを行わなければなりません。
②非上場株式の配当金を受け取った
非上場株式の配当金を受け取った場合も源泉徴収は行われます。しかし原則として総合課税による確定申告が必要です。総合課税制度では、所得に応じて税率が変動する「累進課税」となる点に注意しましょう。
例外として非上場株式の配当金であっても、少額配当の場合は所得税の確定申告は不要です。少額配当とは、1回の配当金が「10万円×(配当計算期間の月数÷12か月)」以下の配当を指します。ただし少額配当の場合でも、住民税の確定申告は必要となる点に注意しましょう。
③大口株主として配当金を受け取った
大口株主として配当金を受け取った場合も同様です。源泉徴収は行われますが、原則として総合課税による確定申告を行わなければなりません。大口株主とは、発行株式総数のうち3%以上保有している人を指します。
大口株主であっても、少額配当の場合は所得税の確定申告は不要です。この場合も同様に、住民税の確定申告は忘れないようにしてください。
配当金を確定申告したほうがお得な3つのケース
義務がなくても確定申告をしたほうが手取りが増えるケースがあります。
上場株式の配当金から源泉徴収されるときの税率は一律で20.315%ですが、ほかの所得の状況によっては、本来納めなければならない税金より多く引かれていることがあるのです。
申告の手間はかかりますが、払い過ぎた税金の還付を受けたい方は確定申告を行うことをおすすめします。
状況 | 納税方法 |
株で譲渡損失が発生した | 申告分離課税 |
課税所得が695万円以下(住民税の申告不要制度の利用なし) | 総合課税 |
課税所得が900万円以下(住民税の申告不要制度の利用あり) | 総合課税 |
NISA口座で株式比例販売方式を設定していない | 申告分離課税/総合課税 |
確定申告をするときは、「総合課税」もしくは「申告分離課税」を選択できます。
「総合課税制度」を選択すると、配当以外の他の所得と合算して所得税を計算できます。配当控除を受ける場合は、総合課税によって確定申告しなければいけません。
「申告分離課税制度」とは、給与所得や事業所得、不動産所得などの他の所得と合算せずに、区別して税金計算をする制度を指します。株の売却損と配当を相殺する場合には、申告分離課税による確定申告が必要です。
①上場株で譲渡損失が発生した
年間トータルで株の取引に譲渡損失がある場合は、確定申告によって所得税の還付を受けられる可能性があります。このとき申告分離課税を選択すると「損益通算」が適用されるのでお得です。損益通算によって、配当金と譲渡損失との相殺によって配当金にかかる税金が戻ってきます。
また損益通算してもなお損失が出る場合でも、申告分離課税のもとでは向こう3年間その損失を繰り越すことが可能です。繰越された損失は翌年以降の株式譲渡益と相殺されるため、翌年以降の税金を抑えられます。
大口株主として配当金を得た場合や、非上場株式の配当金を受け取った場合は、申告分離課税は選択できないので注意してください。
②課税所得が695万円以下(住民税の申告不要制度を利用しない場合)
所得税の税率は5%~45%の累進税率で計算され、所得が高くなればなるほど税率は上がっていきます。
しかし課税所得金額(配当所得含む)が695万円以下の場合、配当金を総合課税で確定申告するとお得です。「配当控除」が適用され、配当金の10%または5%の税金が減額されます。配当控除とは、配当金の二重課税を防ぐ制度です。配当金は分配時にはすでに法人税が差し引かれていますが、さらに所得税が課されます。
「源泉徴収税率(20.315%)≧実質的な税率(総合課税にした場合の税率)」であれば、総合課税で確定申告したほうがお得になるといえます。
以下は総合所得で確定申告した場合に配当金にかかる税率の表です。課税所得額ごとに、確定申告するのが有利か不利かを示しています。
課税所得金額 | 所得税率
(控除後) |
住民税率
(控除後) |
復興特別所得税 | 実質的な税率 | 有利or不利 |
195万円以下 | 0% | 7.2% | 0% | 7.2% | 有利 |
195万円超〜330万円以下 | 0% | 7.2% | 0% | 7.2% | 有利 |
330万円超〜695万円以下 | 10% | 7.2% | 0.21% | 17.41% | 有利 |
695万円超~ 900万円以下 |
13% | 7.2% | 0.27% | 20.47% | 不利 |
900万円超〜1,000万円以下 | 23% | 7.2% | 0.48% | 30.68% | 不利 |
1,000万円超〜1,800万円以下 | 28% | 8.6% | 0.59% | 37.19% | 不利 |
1,800万円超〜4,000万円以下 | 35% | 8.6% | 0.74% | 44.34% | 不利 |
4,000万円超 | 40% | 8.6% | 0.84% | 49.44% | 不利 |
上の表に従うと「課税所得金額が695万円超〜900万円以下」の場合は確定申告をすると不利だということになります。しかし所得金額がこのゾーンに当てはまる場合でも、住民税の申告不要制度を利用すると住民税率が下がり、確定申告をした方が有利になるのです(③で詳しく解説)。
③課税所得が900万円以下(住民税の申告不要制度を利用する場合)
配当金にかかる住民税を総合課税で確定申告した場合、住民税率は控除後で7.2%あるいは8.6%かかります。源泉徴収にした場合の住民税率は5%なので、確定申告した方が住民税が高くなってしまうのです。
しかし住民税の申告不要制度を使えば、所得税を総合課税で申告しつつ、住民税だけを源泉徴収の税率(5%)で計算することができます。課税所得が900万円以下なら、住民税の申告不要制度を使ったうえで確定申告をするのがお得です。
以下は住民税の申告不要制度を利用して総合課税で確定申告した場合の税率を示した表です。課税所得額ごとに、確定申告するのが有利か不利かを示しています。
「源泉徴収税率(20.315%)≧実質的な税率(総合課税にした場合の税率)」であれば、総合課税で確定申告したほうがお得になるといえます。
課税所得金額 | 所得税率
(控除後) |
住民税率 | 復興特別所得税 | 実質的な税率 | 有利or不利 |
195万円以下 | 0% | 5% | 0% | 5% | 有利 |
195万円超〜330万円以下 | 0% | 5% | 0% | 5% | 有利 |
330万円超〜695万円以下 | 10% | 5% | 0.21% | 15.21% | 有利 |
695万円超~ 900万円以下 |
13% | 5% | 0.27% | 18.27% | 有利 |
900万円超〜1,000万円以下 | 23% | 5% | 0.48% | 28.48% | 不利 |
1,000万円超〜1,800万円以下 | 28% | 5% | 0.59% | 33.59% | 不利 |
1,800万円超〜4,000万円以下 | 35% | 5% | 0.74% | 40.74% | 不利 |
4,000万円超 | 40% | 5% | 0.84% | 45.84% | 不利 |
例えば課税所得が900万円(配当所得含む)の場合、確定申告しなければ20.315%の税金が源泉徴収されたままです。しかし総合課税で確定申告をすると、所得税率23%に10%の税額控除が適用されます。さらに住民税の申告不要制度を利用することで、住民税は源泉徴収の税率(5%)で済むのです。結果として実質的な税率は復興特別所得税0.27%を合わせて18.27%となります。
なお令和4年度税制改正により、住民税のみ申告不要制度を選べるのは、2023年の確定申告(2022年分)までとなっているので注意しましょう。
④NISA口座で株式数比例販売方式を設定していない
NISA口座で株式比例販売方式を設定していない場合、確定申告が必要です。
NISA口座で買い付けた上場株式の配当金の受取方法は、以下の3つから選択できます。
配当金領収証方式 | 課税される | ゆうちょ銀行等及び郵便局に配当金領収証を持ち込み受け取る |
登録配当金受領口座方式 | 課税される | 指定の銀行口座で受け取る |
株式数比例販売方式 | 非課税 | 証券口座で配当金を受け取る |
このうち「配当金領収証方式」「登録配当金受領口座方式」を選択している場合、20.315%の税率で源泉徴収されます。源泉徴収された分は、総合課税によって確定申告をすると、配当控除が適用されてお得になります。また申告分離課税によって確定申告すると、上場株式の譲渡損失との損益通算や繰越控除の適用が可能です。
配当金・譲渡損失の確定申告書の書き方
総合課税・申告分離課税のいずれの書類も、国税庁のホームページからダウンロードできます。
取引口座が証券会社1社のみであれば、その証券会社から送られてくる「特定口座年間取引報告書」を添付すると「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」の作成が不要になります。また配当金が支払われるときに送られてくる「配当金計算書」のデータも活用します。
以下でそれぞれの確定申告書の書き方について解説します。
総合課税の申告書の書き方
総合課税による確定申告書の作成方法は以下の通りです。
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申告分離課税の申告書の書き方
分離課税による確定申告書の書き方は以下の通りです。
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監修税理士からのコメント
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配当金の確定申告に関するお悩みは税理士に相談
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この記事の監修税理士
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