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申告分離課税とは?選択すると所得税が節税できるケースも

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最終更新日: 2024年06月28日

「株の配当は申告分離課税にしたほうがいいらしいよ」

そんな言葉を聞いたことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、上場株式等の配当所得は「総合課税」か「申告分離課税」かを選ぶことができ、後者の申告分離課税の方が税率が低くなる例があります。

記事ではそもそも「申告分離課税」とはなにか、株の配当の税務申告時に申告分離課税を利用して所得税を節税するテクニックなどをご紹介します。

申告分離課税って何?総合課税との違いを理解しよう

申告分離課税とは?

「申告分離課税」は所得税の課税制度の1つですが、聞きなれない方も多いのでは。

「申告分離課税」とはどのようなものなのか。制度の概要を理解するために、まずは所得税の課税制度の種類とそれぞれの課税制度での所得税計算の基礎を知っておきましょう。

所得税の課税方法は総合課税と分離課税に分けられる

所得税の課税方法は、「総合課税」と「分離課税」の2種類に分けられます。それぞれについて、確認しておきましょう。

所得税の「総合課税」とは

総合課税はさまざまな所得を合算した総所得金額に課税する方法であり、原則的に所得税は総合課税で計算します。

総合課税される所得の種類は、以下の通りです。

  • 不動産家賃収入
  • 事業所得
  • 給与所得
  • 株式・建物・土地を除く譲渡所得
  • 一時所得
  • 雑所得

所得税の「分離課税」とは

分離課税は所得全体に課税する総合課税と対照的に、ほかの所得とは合算しないで別々に課税する方法です。

分離課税される所得の種類は以下の通りです。

  • 利子所得・配当所得のうち源泉分離課税しない所得
  • 退職所得
  • 山林所得
  • 株式・建物・土地などの譲渡所得

上記に加えて、一定の先物取引による雑所得などについては、申告分離課税の対象です。配当所得のうち源泉分離課税しないものは、総合課税と分離課税のどちらで計算するかを選択することができます。

総合課税と分離課税があるのはなぜ?

日本の所得税の税率は、「累進課税制度」をとっているので、所得が高ければ高いほど税率が高くなります。

所得税の課税方法の原則は総合課税なので、さまざまな所得を合算して所得税を計算します。給与所得がそれほど多くなくても、一時的に副収入が多くなってしまった場合、高い税率の所得税が課されてしまうのです。

たとえば、長期間持っていた土地や建物を売却した場合、その値上がり益はその年だけで発生したものではなく長期間をかけて値上がりしたものなので、ほかの所得と合算して同じように総合課税で課税すると不公平が生じます。

そこで分離課税で別の方法で所得税を計算するのです。他の分離課税で課税される所得についても、総合課税で課税することが不公平であることなど政策的な理由から、他の所得とは別に分離課税で課税されています。

分離課税のうち、申告分離課税する所得の種類は

分離課税は、不公平をなくすなどの政策的な理由から、他の所得とは別に課税する方法です。分離課税の方法は、「申告分離課税」と「源泉分離課税」に分けられます。

「申告分離課税」と「源泉分離課税」とは

「申告分離課税」とは、分離課税の所得を確定申告によって納税する課税方式です。一方の「源泉分離課税制度」とは、先に所得税を控除してから支払われるもので、支払側が収入を受取る人のかわりに所得税を納付します。

つまり、所得税が源泉徴収され天引きされるもので、既に所得税は収入から差し引かれているために、その収入についてかかる所得税については、確定申告で納付する必要はありません。

源泉分離課税のものは、利子所得や配当所得などがあります。

申告分離課税する所得

  • 退職所得
  • 山林所得
  • 株式・建物・土地などの譲渡所得
  • 一定の先物取引による雑所得

ただし、譲渡所得の中でも「特定口座で源泉徴収あり」を選んだ場合などは、別の取扱いをする場合もあります。

分離課税に申告分離課税と源泉分離課税があるのはなぜ?

源泉分離課税の中で代表的なものが、預金の利子です。預金の利子も収入なので、所得税が課されます。

しかし、預金の利子についての所得税を気にする人は、ほとんどいませんよね。それは、預金の利子を受け取るときに既に所得税が差し引かれているからです。

もし、この預金の利子を総合課税や申告分離課税の方法で課税するとなると、収入に比べて手間がかかり税務署の事務処理量も多くなります。確実に税金を徴収し手間も少なくするために、源泉分離課税制度で先に所得税を源泉徴収しているのです。

上場株式等の配当等の場合、源泉分離課税の税率は、所得税15%、住民税5%です。さらに、平成49年(2037年)12月31日までは復興所得税が所得税の2.1%課され所得税が0.315%増えるので、現在は合わせて20.315%の税率になっています。

上場株式等以外の配当等の場合は、所得税と復興特別所得税を合わせて20.42%(住民税はありません)源泉徴収されます。

株式の配当の申告で申告分離課税を選ぶメリットは?

申告分離課税と総合課税の違いを考えよう
申告分離課税と総合課税の違いを考えよう(画像提供:Ground Picture/Shutterstock.com)

所得の種類によって、総合課税になるのか、分離課税(申告分離課税)になるのかは決まっています。

しかし、株式の配当金の収入についての所得税については、課税方法から選択することができるのです。

3つのうちから申告分離課税を選択するメリットとはいったい──くわしく説明します。

配当所得は総合課税と申告分離課税を選べる!

上場株式等の株式についての配当金の収入がある人は、一般的には配当金から所得税が源泉徴収されているので、確定申告は不要です。しかし、確定申告をすることで総合課税か申告分離課税を選択することも可能です。

ただし、配当金を受け取った人が大口株主等である場合や、非上場株式の配当金は原則として総合課税となります。

また、NISAとよばれる少額投資非課税制度の非課税口座で取引した株式の配当金などは非課税なので、源泉徴収で所得税が引かれず確定申告も不要です。

配当所得があり総合課税か申告分離課税を選択することもできる場合に、どちらを選べばよいのか、それぞれのメリットとデメリットを考えてみます。

配当所得を総合課税とするメリット・デメリット

総合課税では、他のさまざまな所得と配当所得とを合算して所得税を計算するので、全体の所得が高くなります。その結果、高い税率での課税が行われるでしょう。

全体の所得が高く所得税率が高くなってしまう人にとっては、総合課税を選択すると税率が高くなるというデメリットがあります。

配当所得を総合課税とすることで得られるメリットは、配当控除を受けられることです。配当控除は、配当所得に配当控除の割合をかけて計算し、その割合は、配当の種類やその年の課税総所得金額によって異なります。

たとえばその年の課税総所得金額が1,000万円以下の場合で剰余金の配当等に係る配当所得がある場合には、配当金に10%をかけた金額が配当控除の金額となります。

配当所得を申告分離課税にするとお得なケース

申告分離課税では、他の所得と配当所得とわけて、配当所得は配当所得のみで所得税を計算します。この場合の税率は、所得税と地方税をあわせて20.315%です。

所得が多く所得税率が高くなってしまう人は、申告分離課税を選択することで配当所得については20.315%の税率となるのでメリットがあります。

また、申告分離課税にするもう1つのメリットとして、申告分離課税に区分される所得と「損益通算」ができることがあります。損益通算とは、ある所得のマイナスを他の所得と合算できる制度です。

たとえば、申告分離課税に区分されるものに株式の譲渡所得がありますが、株の売買で譲渡損が出ている場合にその損失を配当所得から引くことができるのです。

配当収入がある人の中には株の売買を行っている人も多いので、その年に株の売買で譲渡損が出てしまっている場合には、申告分離課税とすると有利になる可能性が高くなります。

総合課税と申告分離課税のどちらがよい?

配当所得の総合課税と申告分離課税には、それぞれメリットとデメリットがあります。総合課税と申告分離課税のどちらを選ぶとよいのか、以下に記載しました。

総合課税を選ぶと良い人

配当所得の課税方法を選ぶときの所得税率は、課税所得金額で決められる所得税率に配当控除の割合を加味して考えます。課税される所得金額が695万円以下であれば、実質的にかかる税率は17.41%以下となるので、総合課税を選択すると所得税が安くなります。

配当金の所得税が源泉徴収されている場合には、確定申告をすることで還付を受けられる可能性が高いです。

申告分離課税を選ぶと良い人

課税される所得金額が695万円を超える人は、実質的にかかる税率が申告分離課税の税率である20.315%以上となってしまうので、配当所得を申告分離課税にすることにより配当所得については税率を低くすることが可能です。

また、株式の譲渡損が発生している場合などで配当所得がある場合には、損益通算をすることができるので、申告分離課税を選ぶと税金が安くなる可能性があります。

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FXと仮想通貨の利益を申告しよう

FXと仮想通貨の利益を申告しよう

株式投資以外にも、FXや仮想通貨へ投資をされている方もいらっしゃることでしょう。実はFXや仮想通貨の税金の計算は、株式投資と異なる点がいくつかあります。ここではFXと仮想通貨の税金の計算方法について、詳しく見ていくことにしましょう。

FXは申告分離課税

FXとは日本円を米ドルやユーロなどの通貨を交換・売買し、その差益で利益を得る取引です。

金利の低い通貨(日本円など)を売って、金利の高い通貨(南アフリカランドなど)を買って保有する場合、金利差を利益として受け取ることができます。

FXの魅力はレバレッジという仕組みにより、手持ちよりも多い資金での投資が可能です。レバレッジとは「てこ」を意味しており、少ない投資資金でも大きな利益を得ることができるのです。

また株式投資と異なり、24時間取引可能であるため、忙しい会社員の方でも仕事が終わった後に取引することもできます。

FXで利益が出た場合の課税方法は、一律に20.315%が課税される申告分離課税です。また株式投資は、証券会社が源泉徴収を行う特定口座がありますが、FXには特定口座のようなものは存在しませんそのため利益が出た場合、自分で確定申告を行う必要があります。

仮想通貨は総合課税

2017年末に大幅な上昇を記録し、注目を浴びた仮想通貨をご存知の方も多いことでしょう。

仮想通貨で利益が発生した場合、利益は雑所得となり、他の所得と合算される総合課税として課税されます。総合課税であるため、たとえば給与所得が400万円、仮想通貨の利益が100万円とすると、それぞれの所得が合算され500万円の所得として計算されるのです。

FXは申告分離課税で一律に20.315%の税率でしたが、仮想通貨の場合は総合課税で、所得に応じて税率も上がります。そのため最大税率は住民税の10%を含めると、55%になってしまいます。

参考:国税庁 所得税の税率

税法上のメリット・デメリット

それではFXと仮想通貨の税法上のメリット・デメリットをまとめていきましょう。

【FXの税法上のメリット】

・損失を3年間繰り越すことができる

・複数のFX会社で取引を行っている場合、各社の損益を相殺できる

FXで損失が発生しても、3年分損失を繰り越すことができるため、損失を利益と相殺することができます。また複数のFX会社で取引を行っている場合は、損益通算で各社の損益を合算することも可能です。

【FXの税法上のデメリット】

・徴収方法によっては副業とみなされる可能性がある

FXは税金の徴収方法によって、会社に副業と見なされる場合があります。原因は確定申告の際、確定申告書の「給与・公的年金等に係る所得以外の所得に係る住民税の徴収方法の選択」で「給与から差引き」を選択することで、会社に住民税に関する情報が送られてしまうことです。

その際「自分で納付」を選択することで、FXで得た利益に対する住民税の通知は会社に送られることはありません。

【仮想通貨の税法上のメリット】

・利益が小さければ、申告分離課税よりも税率が低くなる

仮想通貨は原則として総合課税が適用されることは上述させて頂きましたが、利益の金額によっては申告分離課税よりも低い税率となる可能性があります。仮想通貨の取引による所得は、雑所得として扱われ、税率は最低5%から最高45%まで課税されるのです。

一方申告分離課税は、所得税・住民税合わせて一律20.315%であるため、利益の金額によっては、税金を抑えることも可能になります。

【仮想通貨の税法上のデメリット】

・損失の繰り越し控除ができない

・損益通算ができない

株式投資やFXの場合は、売買によって生じた損失を3年間繰り越すことが可能ですが、仮想通貨は翌年以降に発生した利益から相殺することができません。また給与所得など他の所得を、仮想通貨の損失と相殺することも不可能です。

株・FX・仮想通貨とふるさと納税の関係性

会社員でも節税できる制度として人気のあるふるさと納税ですが、株・FX・仮想通貨で利益や損失が出た場合、どのような影響があるのか気になるところかと思います。

実は株・FX・仮想通貨で利益を得た場合、納める税金が増えたことでふるさと納税の控除上限額が増加するのですただし損失が出た場合は、控除上限額に変化はありません。

なおふるさと納税には、確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」がありますが、証券会社の口座の種類によっては、使える場合と使えない場合があります。ワンストップ特例制度が使える口座は、証券会社が源泉徴収を行う「源泉徴収ありの特定口座」です。

一方「源泉徴収なしの特定口座」の場合やFX、仮想通貨の取引は、下記の条件によりそれぞれ対応が異なります。

【利益が20万円以下】

給与所得者が給与所得以外に、年間所得20万円以下の所得がある場合は、原則として確定申告不要です。しかし住民税の申告は、年間所得20万円以下であっても必要になります。住民税の申告を行うと、ふるさと納税のワンストップ特例制度が利用できません。

【利益が20万円超】

給与所得者が源泉徴収なしの特定口座で年間20万円を超える所得がある場合、原則として確定申告が必要になります。つまりこの場合、ワンストップ特例制度は利用できません。

課税方法を検討し、確定申告に備えよう!

配当所得の課税方法には、総合課税、申告分離課税、源泉分離課税があり、課税方法を選択することができます。節税のために自分に有利な課税方法を選択したいものです。

配当所得をあわせた課税所得金額が695万円以下の場合には総合課税で確定申告を行うことにより、配当金から源泉徴収された所得税が還付される可能性が高くなります。

還付が可能かどうかは配当金の種類によっても異なりますので、具体的な計算については税金の専門家である税理士に相談するも一つの選択肢です。

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