転勤や子供の進学、介護などの理由からマイホームからの住み替えを検討する人は少なくありません。
住み替えをするにあたって不安なのは、どのように住み替えるか、自己資金なしでも住み替えられるかという点ではありませんか。
現在住んでいるマイホームや各種ローンを活用すれば、自己資金がなくても住み替えは可能です。
自己資金がない状態で住み替える3つの方法とスムーズに住み替えるコツ、必要な準備を解説します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
自己資金なしで住み替える方法は4つ
家の住み替えで自己資金が用意できなくても、以下に紹介する4つの方法で住み替えが可能です。
4つの方法は誰でも好きなように利用できるわけではありません。
それぞれのローンについて、利用方法や特徴、注意点を解説します。
新規で住宅ローンを借りる
今住んでいる住居を売却したお金を含めて住宅ローンを完済できる見込みがあるのなら、新居の住宅ローンを組んで住み替えができます。
新規で住宅ローンを組むときには、以下の表にあるどちらかの組み方をします。
ローンの組み方 | 特徴 |
---|---|
フルローン |
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オーバーローン |
|
フルローンもオーバーローンも借入金額が高額になることがほとんどです。返済計画に無理がないかなどをきちんと確認して、月々の返済額や返済ペースを考えましょう。
新旧ローンを合算する住み替えローン
住宅の状態や借入金額によっては、現在住んでいるマイホームの売却代金だけでは住宅ローンを完済できないことがあります。家を売っても住宅ローンを完済できないときは2つの選択肢があります。
新居の住宅ローンを申し込む金融機関が、旧居の住宅ローンを借り入れている金融機関と同一であれば新旧住宅ローンを一本化する住み替えローンを利用できます。
旧居の住宅ローンを全国に支店を持つ金融機関からではなく、地方銀行や信用金庫から借り入れている場合、新居の場所によっては営業エリア外で住み替えローンを利用できないことがあるので注意してください。
住み替えローンのメリット
- 自分の予定にあわせて住み替えできる
- 仮住まいが不要
- 住宅ローンを一本化できるので返済計画が立てやすい
住み替えローンのデメリット
- 月々の返済額が大きくなりやすい
- 旧居の売却と新居の購入を同時に進める必要がある
- 借入時の審査が厳しい
旧居ローンとは別に新しく組むダブルローン
旧居の住宅ローンとは別に、新居の住宅ローンを新規で借り入れることも可能です。これはダブルローンといい、1人の契約者が2つのローンを返済している状態を指します。
住み替えローンとの違いは売却よりも前に新居を購入する点です。一時的に2つの住居を持ち、ローンの返済を行っていくので返済負担が大きいです。
一方で自分にとって最適なタイミングで住み替えできるので、仮住まいが不要なうえ新居に妥協をしなくても良いというメリットがあります。
ダブルローンは一定以上の収入がある場合のみ可能な手段です。誰にでもできる住み替え方法ではありませんが、このような手法があることを知っていて損はないでしょう。
ダブルローンのメリット
- 新居に妥協をしなくても良い
- 仮住まいが不要
ダブルローンのデメリット
- 借入時の審査が厳しい
- 返済の負担が大きい
- 住宅ローン控除はどちらか一方の家にのみ適用される
注文住宅を建てるならつなぎ融資
注文住宅を建築すると建物の購入費用のほかに、土地の購入費や着工費などの支払いが発生します。つなぎ融資は注文住宅建築時の、土地の購入費や着工費を負担するために利用できます。
つなぎ融資を使って新居を購入してから、現在住んでいる住宅を売れば仮住まいを利用せずに住み替え可能です。
デメリットは以下の通りです。
- 住宅ローンより金利が高い
- 金融機関によっては取り扱っていない
- 注文住宅の新築時のみ利用できる
自己資金なしで住み替えるときの流れ
自己資金があってもなくても、住み替えの流れそのものは大きく変わりません。しかし自己資金なしで住み替えるときは資金計画を綿密に立てる必要があります。自己資金ありで住み替えるときよりも計画性が必要です。
自己資金なしで家を住み替えるときの流れや注意点を確認しましょう。
1.住宅ローンの残債を確認する
マイホームにまだ住宅ローンが残っているのであれば、引っ越す前に住宅ローンを完済する必要があります。住宅ローンの残債を確認し、資金計画を立てましょう。
住宅ローンの残高を確認するには、契約時に受け取った返済予定表や毎年送付される残高証明書などをチェックしましょう。ウェブサイトから確認できる金融機関もあります。
たとえばフラット35ではウェブサイト「住・My Note」上で借入金の残高を確認できます。
住宅ローンの残っている家を売却する際は、金融機関への連絡が必須なので問い合わせと相談を同時に行うとスムーズに進められるでしょう。
ウェブサイト・アプリ上で住宅ローン残債を確認できる金融機関の例
住宅ローンが残っている家からの引越しについては、関連記事もご確認ください。
2.住み替えに必要な経費を計算する
家を住み替えるときは、住宅の購入や引越しにかかる費用のほかにも税金などが発生します。どのような費用や税金がかかるのかを把握していないと、思わぬところで大きな出費が発生するかもしれません。
家の住み替えで発生する費用について、家の売却時と購入時にわけて解説します。
家の売買で必要な経費については関連記事でも詳しく説明しています。
家を売るときに必要な経費
家を売るときにかかる費用について、内容と金額の目安を表にまとめました。
家の売却時に発生する費用総額の目安は、売却額の4~6%ほどです。査定額にパーセンテージをかけるだけでもおおよその目安金額が確認できるので、査定が出たら試してみると良いでしょう。
費用 | 金額の目安 |
---|---|
仲介手数料 | 売却額 × 3% +60,000円 + 消費税 |
印紙税 | 1,000~60,000円(売却額によって異なる) |
抵当権抹にかかる登録免許税 | 不動産1件につき1,000円 |
抵当権抹消登記を司法書士に依頼したときの依頼料 | 10,000~16,000円 |
住宅ローンの一括返済手数料 | 元本の0.50~2.00%(金融機関によって異なる) |
譲渡所得税 | 長期譲渡所得:15%(所得税)5%(住民税) 短期譲渡所得:30%(所得税) |
ハウスクリーニング費用 | 65,000円~(4LDK・5DK~) |
引越し費用 | 40,000円(2~4月、50km未満の引越しの場合) |
金融機関によっては住宅ローンを一括返済するときの手数料が発生しないことがあります。ただし振込時の振込手数料は発生することが多いので、各種手数料も含めて出費がどの程度になるか確認しましょう。
家を買うときに必要な経費
家を購入する時には以下の経費が掛かります。
費用 | 金額の目安 |
---|---|
新居の購入費用 | 物件によって異なる |
仲介手数料 | 売却額 × 3% +60,000円 + 消費税 |
登記にかかる登録免許税 | 不動産の価格 × 0.2%(1,000分の20) |
不動産登記を司法書士に依頼したときの依頼料 | 10,000~16,000円 |
不動産取得税 | 取得した不動産の価格 × 4% |
固定資産税 | 標準税率1.4% |
印紙税 | 1,000~60,000円(売却額によって異なる) |
引越し費用 | 40,000円(2~4月、50km未満の引越しの場合) |
3.住み替えのスケジュールを立てる
住み替えにかかる費用の内訳やおおよその額を把握したら、住み替えのスケジュールを立てましょう。いつまでに新生活を始めていたいかを起点とし、逆算していくと現実的な計画を立てやすいです。
スケジュールを立てるときはある程度余裕を持たせることが大切です。一般的に住宅は売り出しから3~6ヶ月ほどで売却できます。そのため引き渡しまでを終えていたい時期の6ヶ月前に売り出せるようにするのがベストです。
4.媒介契約を結ぶ不動産業者を探す
住み替えスケジュールを立てるのと同時進行で、不動産会社探しをします。
まずは3~5社を目安に、物件の情報のみで査定額を出す簡易査定(机上査定)を受けます。査定額の根拠や説明の丁寧さ、対応の良さなどを加味して、2~3社に絞り込みます。
絞り込んだ数社に訪問査定を依頼し、実情に近い査定額を確認しましょう。
簡易査定を受けるときは1回で複数社に査定依頼を出せる一括査定サービスを利用すると効率的に情報を集められます。家の売却はテンポよく進めないと時間が足りなくなることが多いので、時間が節約できるサービスを活用することが大切です。
5.旧居の売却活動を行う
不動産会社と媒介契約を結んだら、売却活動を開始します。媒介契約は3種類あり、どの媒介契約が適しているかは物件によって異なります。
媒介契約の名称 | 契約できる会社の数 | おすすめの物件 |
---|---|---|
専属専任媒介契約 | 1社のみ | 築古など条件が良くなく売りづらい物件 |
専任媒介契約 | 1社のみ | 比較的どの物件も向いている |
一般媒介契約 | 複数社と可能 | 駅近マンションなど条件が良い物件 |
売却活動の主体は不動産会社ですが、売主がやらなくてはいけないこともいくつかあります。たとえば内覧の準備は遠方に住んでいるなどの事情がなければ売主が主体的に行うべきことです。
内覧では売主と買主が直接やり取りをできるチャンスなので、室内をきれいに清掃しておきましょう。買主には礼儀正しく丁寧に接し、質問にはきちんと答えられるよう聞かれるであろうことをまとめておくことをおすすめします。
媒介契約を含む、不動産売却の基礎知識についてさらに詳しく知りたいのであれば関連記事もご覧ください。
6.新居を購入する
自己資金なしでの住み替えを考えている場合、旧居の売却活動をしながら新居を探す「売り買い同時進行」で住み替えを進めます。新居の価格が予算内に収まるように注意しましょう。
新居購入用のローンを組むときの負担を少なくするには、旧居のローンを完済できる以上の金額で売ることが大切です。完済後に手元に残る金額が大きいほど、新居購入時に流用しやすくなります。
7.旧居・新居の引き渡しをする
売り買い同時進行で住み替えを進めるときは、旧居と新居の引き渡しを同日にする必要があります。物件の売買では代金の一部を引き渡し時に決済して物件の権利を移動させます。
旧居と新居の引き渡しを同日に行えず、たとえば旧居を先に引き渡してしまうと新居の引き渡し日まで家がない状態になり、不便な状態になってしまいます。実際に売り買い同時進行で進めているときにそのような引き渡しスケジュールになることは非常に稀ですが、引き渡しを同日に完了できるよう自分でもチェックしておくことが大切です。
自己資金なしで住み替えるときの注意点
自己資金なしで家を住み替えるときには3つの注意点があります。
いずれも金銭面に関して大きな影響があることがらなので、見落としのないようにしましょう。
ローンを借りる場合は審査が厳しくなる
住宅ローンを借り入れるときは、金融機関からきちんと完済できるかを審査されます。審査の基準は公表されておらず、金融機関によって異なるものの、重要なのは長期間に渡って安定して返済ができるかという点です。
住宅ローンの審査では以下のポイントを見ていると推測されています。
- 年収
- 雇用形態
- 勤続年数
- 完済時の年齢
- 奨学金やカードローンなどその他の借入額と返済状況
- 返済比率
上記の項目はあくまで推測であることに注意してください。
自己資金なしで住宅ローンを新規借り入れする場合は、収入や完済時の年齢、返済比率を特に厳しくチェックされる可能性が高いです。
借入総額や返済額が大きくなるため負担が重くなる
自己資金なしでの住み替えで住宅ローンを申し込む場合、頭金なしのフルローンになることが多いです。借入金額が大きければ大きいほど、月々の返済負担も大きくなるので無理のない返済計画を立てましょう。
返済計画を立てるときは「返済比率」を考慮しましょう。
返済比率とは1年間にどれほどの額を借り入れの返済に充てるかの比率のことです。
上記の式で返済比率を求められます。無理なく返済できる理想的な返済比率は手取り年収の20%が目安です。
たとえば手取り年収が500万円の人の理想的な年間返済額は100万円です。
返済比率を考えるときは、マイカーローンなどほかの借入も全て含めた返済総額で計算してください。奨学金やカードローンなどは見落としがちなので、該当する人は計算から漏れていないか確認してから計算しましょう。
金利が高くなる可能性がある
自己資金なしで住宅ローンを組む場合、借入額が高額になり月々の返済額も大きくなる傾向があります。
金融機関は債務者からの返済が滞ったり、破産状態に陥るリスクを考慮して、金利を高く設定することがあります。
金利が高いと返済総額も増えてしまいます。しかし無理をして短期間で返済しようとしても資金繰りが上手くいかなくなる可能性が高くなります。
返済期間は長めに取り、可能であれば繰上返済をしていくことで返済総額を節約可能です。
自己資金なしで住み替えるなら今の家を高く売るのが大切
自己資金なしでマイホームを住み替えるのであれば、住み替えの流れを把握するだけでなく資金繰りの計画についても綿密な計画を立てる必要があります。
どのような方法で住み替えるかによって資金繰り計画の詳細は変わりますが、どのような住み替え方法を利用するとしても現在住んでいるマイホームを高く売ることが大切です。
今の家をなるべく高く売るためには、複数の不動産会社から不動産査定を受け、販売力のある不動産会社と媒介契約を結びましょう。