不動産売却の適切な方法や注意点は、売る理由や目的により異なります。不動産を売却したいと考えているなら、基礎知識をしっかりと理解しておきましょう。準備・査定方法・費用など、不動産売却を成功させるためのポイントを詳しく解説します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
不動産売却のおおまかな流れとかかる時間の目安
不動産売却をスムーズに進めるためには、全体のおおまかな流れを把握しておくことが重要です。
- 自分で相場を調べる
- 不動産会社に査定を依頼する
- 不動産会社と媒介契約を締結する
- 販売開始
- 買主と売買契約を締結する
- 決済・引き渡し
不動産会社に不動産を売却してもらう場合、まずは査定を依頼するのが一般的です。自分でも相場を調べておけば、妥当な査定価格を見極めやすくなります。複数の会社に査定を依頼し、納得できる価格を提示した不動産会社に売却を依頼しましょう。
不動産を売却してもらう会社が決まったら、その会社と媒介契約を締結し、販売がスタートします。選択できる媒介契約の種類は3つです。
販売活動は不動産会社に進めてもらえますが、購入希望者が見つかったら売主は内覧に対応しなければなりません。内覧は購入希望者に不動産の魅力を知ってもらう重要な機会です。
売却活動で買主が見つかったら、買主と売買契約を締結します。買主からの入金が行われ、売主が買主に不動産を引き渡せば、不動産の売却は完了です。査定依頼から売却完了まで、一般的には約3~6カ月かかるといわれています。
理由別!不動産を売却するポイント
不動産を売却する理由や目的により、特徴や注意点は異なります。どのようなことを意識すればよいのか、理由別に不動産を売却するポイントを見ていきましょう。
住み替え
住み替えのために自宅を売却する場合は、購入と売却の順序を考えることが大切です。3パターンある住み替えの種類と、それぞれのポイントを紹介します。
- 売り先行:じっくりと新居を探せるが、仮住まいが必要
- 買い先行:売却を急ぐ必要がない一方、2重ローンのリスクがある
- 売り買い同時進行:上記両方のリスクを回避できるが、売り急ぎに注意
売却を優先する売り先行では、今の自宅が売れてから新居を購入すればよいため、新居を探す時間に余裕が生まれます。ただし売却時にまだ新居が決まっていない場合は、仮住まいの用意が必要です。
先に新居を購入してから今の自宅を売却する買い先行では、新居に住みながら売却できるため、自宅を売り急ぐ必要がありません。一方で売却した自宅のローンが残る場合は、新居のローンと併せて2重ローンとなるリスクがあります。
売り先行と買い先行のデメリットを同時に解消できる方法が、売却と購入を同じタイミングで行う売り買い同時進行です。ただし売却がスムーズに進まないケースでは、売り急いでしまわないよう注意が必要です。
転勤
不動産売却の目的が転勤の場合、引越しまでの売却を目指すと、売り急いで売却価格が安くなるリスクがあります。売却期限を明確にし、スケジュールを組むことが大切です。
引越しまでの期間が短い場合は、転勤先で売却を継続する方法も検討しましょう。不動産は遠隔での売却も可能ですが、時間をかければよいというものでもないため、不動産会社と相談して売却方針を決める必要があります。
将来的に今の自宅に戻ってくる可能性があるなら、転勤中は賃貸物件として運用するのもおすすめです。自宅を手放さずに済む上、うまく運用できれば転勤中に賃貸収入で利益を得られる可能性もあります。
ただし自宅を賃貸物件にする場合は、住宅ローンを継続できません。賃貸用のローンに組み替えると、金利が高くなる点に注意が必要です。
離婚
夫婦が婚姻中に協力して築いた財産は、財産分与の対象になるため、婚姻中に購入した不動産も財産分与の対象です。
財産分与の対象となるものは、原則として離婚時に夫婦で半分ずつ分けます。不動産を売却してローンを完済できれば、残ったお金を半分ずつ分けるのが一般的です。
ただし事前に夫婦で協議を行う場合、分与割合は自由に決めることが可能です。また夫婦の給与に大きな差があるケースでは、分与割合が半分ずつにならない場合もあります。
今の自宅が財産分与の対象なら、夫婦でしっかりと協議を行い、分与割合を決定した上で売却を行うことが重要です。またローンの残債がある場合は、不動産を売却してローンを完済できるかどうか、不動産査定を行ってから判断しましょう。
金銭的理由
不動産を売却し早急に現金が欲しい場合は、仲介ではなく買取がおすすめです。まずは仲介と買取の違いを確認しておきましょう。
- 仲介:不動産会社と媒介契約を結び、不動産会社に買主を探してもらう
- 買取:不動産会社自体が買主になり、不動産会社と売買契約を結んで買取してもらう
買取では仲介のような販売活動が行われないため、早ければ1週間程度で現金化できるケースもあります。
ただし、仲介なら市場価格で販売できる可能性はありますが、買取の場合は市場価格の7割程度でしか売れません。すぐに現金化できる反面、売却価格が仲介よりも安くなってしまうことは留意しておきましょう。
売却価格と自己資金でローンを完済できない場合、基本的には不動産を売却できません。売却のスピードと価格のどちらを優先するか、慎重に検討する必要があるでしょう。
相続
相続した不動産を売るためには、相続登記による名義変更が必須です。自宅の売却なら名義変更の必要はありませんが、相続不動産の売却時には名義の整理から始めなければなりません。
相続後の不動産が共有名義となっている場合は、名義人全員の同意を得ることも必要です。自分の持分だけを売却することも可能ですが、非常に売りにくい上、他の名義人との間でトラブルが起きるケースもあります。
不動産の名義変更時には登録免許税がかかることも覚えておきましょう。相続による名義変更の登録免許税の計算式は『固定資産税評価額×0.4%』です。固定資産税評価額は固定資産税納税通知書に記載されています。
不動産売却に向けた準備・必要書類
不動産を売却するために必要な準備や書類について解説します。売却を成功させるためには、あらかじめきちんとした準備をしておくことが大切です。
不動産売却の事前準備
不動産の売却を不動産会社に依頼したら、不動産会社と一緒に販売戦略を立てます。できるだけ高く売るためには、適切な戦略を立てなければなりません。
いつまでにいくらで売却したいのかを明確にし、目的に沿った戦略を立てることが重要です。住宅ローンの残債がある場合や、新居の購入資金を必要としている場合は、希望売却価格の最低ラインも決めておきましょう。
不動産会社の査定価格のみを参考にするのではなく、自分で相場を調べておくことも大切です。ある程度の相場を把握しておけば、査定価格の比較や売り出し価格の決定に役立ちます。
また売却活動中に実施される内覧のために、不動産の清掃も済ませておきましょう。室内をきれいにしておくことで、購入希望者に好印象を与えられます。
不動産売却の必要書類
不動産の売却時に必要な書類は主に次の通りです。
- 本人確認書類(運転免許証・パスポート・マイナンバーカード)
- 住民票(提出を求められた場合のみ)
- 印鑑登録証明書と実印
- 登記済権利証または登記識別情報
- 確定測量図または境界確認書
また以下に挙げる書類があれば、手続きをよりスムーズに進められます。
- 固定資産税・都市計画税納税通知書
- 住宅ローン残高証明書
- 間取り図
- マンション管理規約
- 建築確認済証
- リフォームの履歴が分かる書類
- 新耐震基準に適合していることを証明できる書類
- 購入時のパンフレット・売買契約書・重要事項説明書
書類によっては不動産会社で用意してもらえるものもありますが、できるだけ自分で事前にそろえておくのがおすすめです。入手するまでに時間がかかる書類もあるため、計画を立てて書類を準備しましょう。
不動産売却にかかる費用・税金
不動産の売却時には、さまざまな費用や税金が発生します。どのような費用がかかるのかを事前にチェックし、金額の目安をしっかりと把握しておくことが重要です。
不動産売却で必要な費用
不動産売却にかかる主な費用や金額の目安は以下の通りです。
- 仲介手数料:(売却価格×3%+6万円)+消費税
- 登記費用:約1万~5万円(司法書士に依頼する場合)
- ハウスクリーニング費用:約3~10万円
- 建物解体費用:約100~300万円
- 測量費用:約50~80万円
仲介ではなく買取で不動産を売却する場合は、不動産会社の仲介業務が発生しないため、仲介手数料もかかりません。
登記費用とは不動産の所有権を公示するために必要な費用です。登記を司法書士に依頼する場合は、通常の登記費用とは別に司法書士に支払う報酬が発生します。
上記に挙げた費用以外に、引越し費用や各種書類を発行するための費用も必要です。不動産の売却価格がローンの残債に足りない場合は、ローン返済費もかかります。
不動産売却で発生する税金
不動産の売却時にかかる代表的な税金は以下の通りです。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
印紙税は売買契約書にかかる税金です。契約書に印紙を添付して納税します。印紙税額は契約書に記載された契約金額により異なります。
登録免許税は不動産の名義変更時に発生する税金です。所有権移転登記の場合、売買によるものなら固定資産税評価額の2%、相続によるものなら固定資産税評価額の0.4%かかります。
不動産売却で得た利益に対してかかる税金が譲渡所得税です。『課税譲渡所得金額×税率』の計算式で税額を算出します。譲渡所得税の税率は不動産の所有期間で異なる点を覚えておきましょう。
不動産の売却時に消費税がかかる場合もありますが、土地の売却では、消費税は非課税とされています。
不動産売却の相場・査定方法
不動産査定の方法には、AI査定・簡易査定・訪問査定の3つがあります。状況に応じた査定方法を選ぶためには、それぞれのメリット・デメリットを理解しておくことが大切です。
AI査定
AI査定とは、AIが過去の売却事例を参考に行う査定方法です。Web上の入力フォームに物件情報を入力するだけで、すぐに査定価格が分かります。
査定価格を短時間で把握できることが、AI査定の大きなメリットです。不動産がいくらで売れるのかを、おおまかに知りたい場合にAI査定が役立ちます。個人情報の入力も必要最低限に抑えられる上、不動産会社とのやりとりも発生しません。
一方でAI査定は、過去の売却事例と照らし合わせるだけの簡易的な査定であるため、簡易査定や訪問査定と比べると精度が下がります。売りたい不動産と似た売却事例が少ない場合は、査定の精度がさらに低くなるといえます。
簡易査定
不動産会社の担当者に物件情報を伝え、査定価格を計算してもらう方法が簡易査定(机上査定)です。担当者と電話やメールでやりとりするだけで、不動産の査定価格を把握できます。
簡易査定のメリットはAI査定より精度が高いことです。AIではなく人が査定を行うほか、過去の売却事例以外に最新情報も参考にするため、より納得感のある査定価格を把握できるでしょう。
ただし、簡易査定はあくまでも担当者が机上で査定を行うことから、訪問査定よりは精度が低くなってしまう傾向にあります。また担当者とのやりとりも発生するため、不動産会社とコミュニケーションを取らずに査定価格を知りたい人には不向きといえます。
訪問査定
訪問査定は担当者が実際に不動産を訪れて調査を行う査定方法です。物件の周辺環境や立地条件なども参考にするため、机上で査定を行う簡易査定に比べ、より精度の高い査定価格を把握できます。
担当者と実際に顔を合わせてコミュニケーションを取れることも、訪問査定のメリットです。査定時の担当者との会話を通じ、安心して売却を任せられる相手かどうかを判断できます。
査定価格が出るまでに時間がかかることが、訪問査定のデメリットです。すぐに査定価格を知りたい場合、訪問査定は不向きといえます。
不動産会社との媒介契約の種類
不動産会社との媒介契約には3つの種類があり、それぞれ特徴が異なります。媒介契約の種類は売主が自由に選べるため、各契約の内容や向いている人の傾向を理解しておきましょう。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約とは、1社の不動産会社のみに仲介を依頼する契約形態です。2社目の会社と契約を交わした場合、1社目の会社から違約金を請求されます。
専属専任媒介契約のメリットは、不動産会社からの報告頻度が高いことです。1週間に1度以上の頻度で売主に販売状況を報告することが義務付けられています。加えて、販売活動を積極的に進めてもらいやすい点もメリットです。
一方で専属専任媒介契約では販売を1社のみに任せるため、不動産会社の力量に結果が大きく左右されます。また売主自身が買主を見つけても、不動産会社を通して販売しなければなりません。他社との競争がないことから、販売活動がおろそかになるケースもあります。
専任媒介契約
専任媒介契約は専属専任媒介契約と同様に、不動産会社1社のみに販売を任せる契約形態です。複数の会社との媒介契約は締結できません。ただし売主自身が買主を見つけた場合は、不動産会社を通さずに買主と売買契約を結べます。
専任媒介契約で義務付けられている報告頻度は2週間に1度以上です。専属専任媒介契約ほどではありませんが、売主が販売状況を把握しやすい点がメリットです。
不動産の売却を急いでいる場合は、専属専任媒介契約または専任媒介契約が向いているでしょう。専属専任媒介契約と専任媒介契約のいずれも、契約の有効期限は最大で3カ月とされています。
一般媒介契約
一般媒介契約とは、複数の不動産会社に売却を依頼できる契約形態です。幅広く買主を探せるため、多くの購入希望者が集まりやすくなります。
一般媒介契約では売主が独自に買主を見つけた場合も、不動産会社を介さずに売買契約を結ぶことが可能です。契約の有効期限もありません。
また専属専任媒介契約や専任媒介契約では、REINSへの登録が義務付けられていますが、一般媒介契約ではREINSへの登録が不要です。不動産の売却を近隣に知られることなく、売却活動を進められます。
ただし、一般媒介契約では販売状況の報告義務がないため、不動産会社の活動状況が分かりにくいでしょう。競合が多くなると積極的に販売活動を進めてくれないケースもあります。
時間をかけて売却価格を上げたい場合や、不動産を売却することを近隣に知られたくない場合は、一般媒介契約を選ぶのがおすすめです。
不動産売却でトラブルを避けるポイント
不動産売却を安易に進めてしまうと、トラブルが発生する恐れがあります。スムーズな売却を進めるためにも、トラブルを避けるポイントを見ていきましょう。
不動産知識を身に付ける
不動産会社とやりとりする際は、専門的な用語や知識が必要です。不動産を売却する際は全て不動産会社に任せるのではなく、自分でも不動産売買に関する知識を身に付けましょう。
専門的な用語・知識や、不動産売却の流れを理解しておけば、不動産会社とのやりとりもスムーズに行えます。
不動産知識を身に付けて売却活動にも関わることで、不動産会社に全てを任せるケースよりも、売却価格が上がる可能性もあります。不動産売買に関する勉強は書籍やネットを活用しましょう。
売却する不動産を客観的に見る
自宅を売却する場合は、どうしても欠陥を隠してしまいがちです。しかし不動産の欠陥が後から判明すると、買主から損害賠償を請求されたり、契約を解除されたりする恐れがあります。
売却する不動産はあくまでも客観的に見ることが重要です。雨漏り・ひび割れ・シロアリ被害などを把握しているなら、査定時にきちんと申告しておきましょう。
訪問査定の際に欠陥が見つからなかったからといって、黙っておくのもNGです。査定では見つからなくても前から気になっている部分があれば、正直に申告しなければなりません。
良い不動産会社を見極める
不動産売却を成功させるためには、信頼できる不動産会社を選ぶことが大切です。複数の不動産会社から話を聞き、良い不動産会社を見極めましょう。
最初から1社に絞って売却を進めようとすると、その会社が優良な業者なのかどうかを判断できません。査定の段階で複数社を比較し、信頼できる会社を選ぶ必要があります。
まずはAI査定や簡易査定で査定価格を集め、自分でも相場を調べた上で納得感のある査定価格を提示した会社に絞りましょう。
信頼できる不動産会社の選び方
不動産会社を比較する際は、売却実績や得意分野をチェックすることが重要です。自分が売却したい不動産と同じタイプの売却実績が豊富なら、よりスムーズな売却を期待できます。
査定価格を見るときには根拠も聞きましょう。不動産会社によっては契約を取りたいがために、あえて高めの査定価格を提示するケースもあります。査定価格が高いからといって、安易に飛びつかないことが大切です。
地方や立地が良くない場所の不動産を売る場合は、地元の不動産会社への依頼も選択肢に入れましょう。地元のことをよく理解している業者の方が、買主を早く見つけられる可能性があります。
不動産売却の基本を理解して高く売ろう
不動産を売却する際は、理由別のポイントを押さえておくことが重要です。売却の理由や目的により意識すべきことが異なります。
不動産売却の査定方法や媒介契約の種類も、しっかりと理解しておきましょう。査定方法や媒介契約の適切な選択は、早期の売却や価格アップにつながります。
売却の流れや準備・費用なども把握し、信頼できる会社に依頼して不動産売却を成功に導きましょう。