旗竿地は竿のついた旗のような形をした土地を指します。都会の住宅地に多い土地の分け方で、形が整っていない「不整形地」のひとつです。
旗竿地は特徴的な形と立地条件から、人気がなく売れないと思う人も少なくありません。確かに売却が難しい旗竿地もありますが、魅力的な旗竿地であれば問題なく売却できます。
旗竿地が売れないとされる7つの理由と売却するコツを解説します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
都会の住宅地に多い「旗竿地」とは?
旗竿地は「はたざおち」と読みます。都会の住宅地に多い土地の形で、周辺の土地より安い価格で取引されていることが多いです。
旗竿地は旗に竿がついたような形をしているのが最大の特徴です。
都会の住宅地に多い理由は、売りやすくするために土地を分筆したためです。東京23区など地価が高いエリアでは、高額な広い土地を誰か1人に売るよりもいくつかに分けた方が価格が下がり購入できる人の母数が増えます。
旗竿地とは不整形地の1つ
旗竿地は不整形地のひとつです。真四角や長方形など整った形の土地の上に建てると土地を最大限活用して建物を建てられます。
真四角など整った形の土地を整形地といい、旗竿地は竿部分が出ていて整った形をしていないため不整形地と呼ばれます。
竿部分の用途が限定されやすい
旗竿地の旗部分は通路としてのみ利用できるケースが多いので、使用用途が限られてしまいます。
竿部分の幅は奥まで2m以上確保しないといけないので、自転車を停めたり鉢植えを置いたりすることが難しいです。
仮に竿部分を有効活用できる程度の広さがある旗竿地の場合は、そもそも整形地と購入費用が変わらないことが多いです。
旗竿地は売れないとされる7つの理由
旗竿地はデメリットが多く売れないという意見が目立ちます。売れない理由としては以下の7つの項目が挙がることが多いです。
再建築不可のリスクがある
都市計画区域内で建物を建てる場合は接道義務を果たす必要があります。接道義務とは、幅4m以上の道路には間口2m以上の敷地を接するよう定めたものであり、これを満たさない建築物は条件を満たさない限り再建築が不可能になります。
接道義務は建築基準法で定められています。建築基準法は1950(昭和25)年に制定され、その時に接道義務も生じました。
1950年以前に建てられた家の中には接道義務の条件を満たしていない物件もあり、再建築不可のリスクがあることから旗竿地は売れないと判断する人もいます。
再建築の可不可を調べるには、自治体に確認するか不動産業者に調査依頼をしましょう。おすすめは不動産業者に調査を依頼することです。現地に足を運ぶ必要がないうえ、難しい専門用語等も分かりやすく解説してもらえます。
解体・建築の際に工賃がかさみやすい
旗竿地は道の奥に建築に使える敷地があるという都合上、公道から距離があります。また旗竿地の竿部分の横幅が、公道と接している部分は2m以上であるものの奥に進むにつれ狭くなっていることも少なくありません。
道幅によっては重機を入れられず、解体や建築作業が手作業になることがあります。現代の建築工事は重機を使うことが前提で計画が立てられているので、人力の工程が増えれば増えるほど人件費がかさみ、結果的に工賃が高くなる傾向があります。
家が密集していて気を使うことが多い
旗竿地は住宅が密集しているため、他の住宅街と比べると気を使う場面が多い傾向があります。
音やにおい、振動などは目に見えないうえに、自分では迷惑をかけていることに気づきづらいので特に注意が必要です。
また1軒1軒の間隔が狭いので、トラブル防止のためにフェンスや柵を設置しようとしても敷地内に設置できないことがあります。
日当たりや風通しの確保が難しいことがある
旗竿地では住宅が密集しているので、周囲の家の高さによっては日当たりや風通しが悪く、不便な思いをすることもあります。
これから家を買ったり建てたりするのなら、日差しの向きや強さを良くチェックしておく必要があります。
また土地そのものの特徴も考慮しなくてはなりません。たとえ日当たりがよく風通しが良かったとしても、もともとは沼地や湿地、田んぼだったような場所は地盤が緩いこともあるので、水のトラブルに注意が必要です。
隣家の窓から室内が見えてしまうことがある
旗竿地に建てられた住宅は家同士の距離が近いため、カーテンを開けているとお隣さんの家の中が見えてしまうこともあります。
お隣さんと向き合う位置にある窓ガラスはすりガラスにしたり、遮像カーテンをかけたりするなどの工夫が必要です。
同じ面積の整形地と比べると評価が低くなる傾向がある
旗竿地は同じ面積の整形地と比べると評価が低くなりやすいです。それには有効宅地面積が関係しています。
整形地の全体の面積と有効宅地面積はイコールと言って問題ありませんが、旗竿地では「旗」の部分にのみ建物を建てられるので、旗竿地全体の面積よりも有効宅地面積は狭くなります。
たとえば建ぺい率が80%の地域に100㎡の土地があった場合、整形地であれば80㎡の建物を建てられます。しかし旗竿地の場合は竿部分は建物を建てられないので、その分をマイナスしなければなりません。
旗竿地の竿部分を仮に20㎡としたら、旗部分の面積は80㎡になります。建ぺい率は80%なので、建てられるのは64㎡の建物です。
住宅ローンを借りようと思っても金融機関からの評価が低くなりやすく、融資を受けづらい土地もある点は注意が必要です。
私道の権利を確認する必要がある
旗竿地の竿部分は私道の扱いになります。私道部分の所有権が隣地住人と共有名義になるケースと、単独で所有しているケースがあります。単独所有しているケースでは、竿部分を通行するときに通行料を請求されることもあるので注意が必要です。
購入時はもちろんのこと、売却時にトラブルが起きないよう竿部分の権利を確認しなくてはなりません。
旗竿地を売るときのコツ
旗竿地をスムーズに売るときに知っておきたい4つのコツを紹介します。
隣地の所有者に声をかける
旗竿地の売却を検討したら、まず隣地の所有者に土地が必要でないか打診しましょう。隣地の土地と合わせて整形地に近い形になるのであれば承諾してくれる可能性が高まります。
元々隣地の住人と付き合いがあり、お互いに不動産取引の知識があるのなら仲介業者を挟まずに個人売買も可能です。とはいえ不動産取引は複雑な工程もあるので、トラブル防止の観点からも不動産会社に仲介してもらうことをおすすめします。
もし個人売買に興味があるのなら関連記事をご覧ください。不動産の個人売買の流れや注意点について解説しています。
建物はそのままで売る
旗竿地に建っている住宅を安易に解体することには2つのデメリットがあります。
1つ目は接道義務を満たしていない住宅の場合、新しく家を建てられなくなってしまうことです。
2つ目は住宅を解体することで固定資産税の優遇が受けられなくなる点です。更地になると固定資産税が約3~4倍になるので、節税を考えているのであれば解体のタイミングが大切です。
セットバックの要不要を明示する
家の前の道路の幅が4m未満の場合は、土地と道路の境界線を後退させる「セットバック」が必要です。
セットバックが必要な土地は広く見えますが、実際に建物を建てられる面積は狭くなってしまうので人気が高い土地とは言えません。
セットバックの要不要を明示しておくことで、購入希望者に対して複数の選択肢を提示できます。
不動産会社に買い取ってもらう
どうしても売却ができなかった場合は不動産会社に買い取ってもらうことも検討しましょう。仲介による売却相場よりも安く買い取られることが多い点がデメリットですが、確実に現金化できるというメリットがあります。
少しでも高く売りたいけれど期限内に売れないのは困る、という人は買取保証付き仲介にできないか不動産会社に尋ねてみましょう。買取保証付き仲介であれば、一定の期間内に売却できなければ不動産会社に買い取ってもらえるので、売却スケジュールが狂いにくいです。
売りやすい旗竿地の特徴
一般的に旗竿地は売りづらいと考えられているものの、いくつかの条件に当てはまっていれば旗竿地であっても問題なく売買ができます。
購入を検討している人にとってアピールになるポイントを紹介します。
竿部分の間口が広い
竿部分の間口を広くとっている土地であれば、旗竿地はデメリットのひとつと言える「竿部分を有効活用できない」という点を解消できます。
竿部分は駐車に利用できると利便性が向上します。
たとえばホンダN-BOXの全幅は1.475mなので間口は2.5~3mほどあれば余裕をもって乗り降りできるでしょう。
トヨタノアは全幅1.73mなので、ワンボックスカーであれば間口は3m以上あれば余裕を持って駐車できると考えられます。
仮に車の駐車に利用しなくても、バイクや自転車を停められる広さがあれば評価ポイントになります。
竿部分の奥行が短い
竿部分の奥行きが短い、つまり住宅までの距離が短いほど行き来がしやすく、旗竿地のデメリットを感じづらいです。同じ旗竿地の中で比べたら明確なアピールポイントになります。
ただし竿部分の奥行きが短い場合は自家用車を保有している人へのアピールポイントにはなりづらい点にご注意ください。
日当たりや風通しの良い物件が建っている
旗竿地の住宅は日当たりや風通しが悪いというイメージを抱いている人が多いです。確かに周囲を住宅で囲まれている関係上、どうしても採光や通風に難が出てしまいます。
リビングが2階にある、天窓があるなど、採光や通風について考慮した住宅であればたとえ旗竿地に建っていても住宅を探している人にアピールできるでしょう。
旗竿地の評価額の求め方
旗竿地の評価額を求めるときは、整形地としての評価額を出してから利用できない部分の評価額をマイナスします。この利用できない部分のことを「かげ地」と言います。
具体的には以下の3つの方法で評価額を算出します。
この計算方法で分かるのは相続税の評価額です。具体的に売却を考えているのであれば、不動産査定を受けることをおすすめします。
① 路線価を調べる
国税庁の「財産評価基準書」ページを開き、路線価を調べましょう。相続によって手に入れた旗竿地の価値を調べるのであれば、相続があった年の路線価を選択する必要があります。
調べたい土地の情報が記載されている地図を開き、接している道路の路線価を確認しましょう。路線価図では1㎡あたりの価格を1,000円単位で表示されています。
たとえば「300C」と記載されているのであれば、その土地の価値は300×1,000円= 300,000円/㎡です。
アルファベットは借地権割合を示します。借地権の価格はどの程度か調べるときにアルファベットが示す割合を掛けます。
記号 | 借地権割合 |
---|---|
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
② 想定整形地の評価額からかげ地の評価額を引く
路線価を確認したら想定整形地を求めましょう。想定整形地の求め方は簡単で、単純に奥行と横幅をかけるだけで求められます。
たとえば奥行25m、横幅15mの土地の面積は、25m × 15m = 375㎡です。この面積に路線価をかけると評価額を算出できます。
想定整形地の評価額を求められたら、かげ地の分の評価額を引きます。かげ地の評価額の求め方は、想定整形地の求め方と同様です。
③ 補正をかけて評価額を算出する
想定整形地の評価額からかげ地の評価額を引いたら、不整形地であるために下がる評価額を反映する補正をかけましょう。補正のかけ方は2種類あります。税の申告をするときは最も評価額が小さくなる計算方法で算出すると節税に繋がります。
不整形地補正率 × 間口狭小補正率
奥行長大補正率 × 間口狭小補正率
不整形地補正率、間口狭小補正率、奥行長大補正率は国税庁のホームページに記載されています。補正率の最小値は0.6なので、もし0.6未満になったとしても補正率は0.6で計算します。
旗竿地を売るなら事前準備が重要
旗竿地はその特殊な形状や立地条件から評価額が低くなりがちです。しかし整形地と比較すると土地の価格が安価である点や、奥まった場所に住宅を建てられるので道を行き来する人や車の騒音が聞こえづらいなどの理由から、一定以上の人気があります。
「旗竿地だから安値でしか売れない」と思うのではなく、アピールポイントを探して少しでも安く売れるようにしましょう。
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