不動産の個人売買は可能です。しかし不動産に関する知識がない状態で行うのは難しいでしょう。手間がかかる上、トラブルが発生する可能性もあります。個人売買のメリット・デメリットや流れを確認した上で、成功させるためのポイントを紹介します。
不動産の個人間売買は法律的には可能だが難しい
不動産の売買は、業者を挟まずとも個人でも可能です。事業として他者が所有する不動産の売買を行うには、宅地宅建取引業の免許が必要ですが、自分が所有する不動産の売買をするだけであれば免許は不要です。
しかし売買に必要な手続きなどを全て自分で行わなければなりません。買主探しや書類の作成・各種手続きなどを全て自力で行うのは手間がかかります。スムーズに売却できなかったり、トラブルが発生したりと、思うようにうまく物事が進まない可能性もあるでしょう。
不動産の個人間売買は、法律的には可能ではあるものの、ハードルが高いといえます。
不動産の個人売買のメリット
不動産を個人売買するのは難しいとはいえ、仲介手数料がかからなかったり、契約内容を自由に設定できたりといったメリットがあります。それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
- 仲介手数料が不要
- 契約内容を自由に設定可能
仲介手数料が不要
個人売買では仲介手数料がかかりません。不動産会社へ仲介を依頼すると、以下の料率で算出される金額を上限に、仲介手数料がかかるのが基本です。
価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
売買価格のうち200万円以下 | 5.5% |
売買価格のうち200万円超400万円以下 | 4.4% |
売買価格のうち400万円超 | 3.3% |
例えば、2,000万円の不動産の売却を依頼した場合には、以下のように算出できるため、72万6,000円の仲介手数料がかかると分かります。
- 2,000万円のうち200万円以下:200万円×5.5%=11万円
- 2,000万円のうち200万円を超え400万円以下:200万円×4.4%=8万8,000円
- 2,000万円のうち400万円を超える:1,600万円×3.3%=52万8,000円
合計金額:72万6,000円
個人売買なら高額な仲介手数料を節約できる点はメリットといえます。
契約内容を自由に設定可能
契約の締結や内容は、法令で定められている場合を除き、原則自由に決められると民法では規定されています。不動産の個人売買でも同様で、売主と買主が合意すれば、自由な契約内容を設定できます。
不動産会社を通さずに契約することで、既存の商習慣にもとらわれません。さまざまなケースに応じて必要な内容を自由に盛り込める点はメリットです。
不動産の個人売買のデメリット
- 知識不足・段取り不足で不備が発生しやすい
- サポートがなくトラブルが深刻化する可能性がある
- 書類作成や契約など手間が多い
- 金融機関のローンが通りにくい
仲介手数料や契約内容の自由度の面ではメリットのある個人売買ですが、手続きや書類作成などに関してはデメリットもあります。代表的なデメリットについて解説します。
知識不足・段取り不足で不備が発生しやすい
不動産にまつわる法律についての知識が不足していると、不備が発生する可能性があります。例えば、契約書に必要な項目が含まれていない場合、トラブルに発展するといったケースが考えられます。
また、手続きの流れを把握していなければ、段取りが悪くスムーズに手続きが進まないでしょう。契約の締結に進むはずが、必要書類がそろっておらず、契約できないといったことも起こるかもしれません。
サポートがなくトラブルが深刻化する可能性がある
専門知識を持つプロのサポートを受けない個人売買では、トラブルが起きたときに解決方法が分からず、深刻化する可能性があります。気が付くと自分の手に負えない事態に陥るといったケースも考えられます。
また、契約書の内容が、こちら側に不利益を被る内容になっていることに気付かず締結するリスクや、詐欺に遭う可能性も否定できません。
不動産会社を通じて売買するときは、業者は必ず重要事項説明を行わなければならないと法律で定められています。個人では適切な重要事項説明をするのは難しいため、トラブルを避けるためにも、専門知識を持った人に仲介してもらう方が賢明といえます。
書類作成や契約など手間が多い
契約に必要な書類は全て自力で作成しなければなりません。無料で使えるひな形も公開されてはいるものの、そのままの状態では使えない可能性もあります。
加えて、契約時に説明ができるよう、内容を把握しておく必要があります。特に重要事項については、あとからトラブルに発展しないよう、必要な内容を漏れなく説明できるよう、入念な準備が欠かせません。
金融機関のローンが通りにくい
不動産の個人売買では、金融機関のローンが通りにくい可能性もあります。専門知識を持たない人同士で行う個人売買では、提出書類の不備やトラブルにつながるケースも考えられます。
よほどでない限り、現金一括で購入するケースは少ないでしょう。買主が金融機関でローンを組めず、必要な資金を用意できなければ、いくらその他の準備が整っていても、売買ができなくなってしまいます。
不動産の個人売買の必要書類と費用
不動産の個人売買を行うには、複数の書類を準備しなければなりません。また、不動産登記を変更するための費用も必要です。具体的には、どのような書類と費用が必要なのかを解説します。
必要書類
個人売買で不動産を売却するときに準備する書類は、不動産の詳細を確認する書類と売買契約に必要な書類に分けられます。不動産の詳細を確認する書類は、主に以下の通りです。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産税評価額証明書
- 公図
- 物件概要が分かる書類(購入時の売買契約書・パンフレット・間取り図など)
売買契約に必要な書類は、主に以下の通りです。
- 不動産売買契約書
- 権利証もしくは登記識別情報
- 不動産物件内容表示書類(重要事項説明書にあたる書類)
- 建築確認通知書
- 固定資産税納付書
- 本人確認書類(顔写真付き身分証明書)
- 領収書
- 実印・印鑑証明書
費用
必ずかかる費用は登録免許税と印紙税です。登録免許税は抵当権抹消登記と変更登記にかかります。抵当権抹消登記は不動産1軒につき1,000円で、変更登記の税率は以下のとおりです。
土地の売買:2% ※2026年3月31日までは1.5%
建物の売買:2% ※2024年3月31日までは0.3%
契約書に貼付する収入印紙にかかる印紙税は、契約金額によって異なります。
契約金額 | 印紙税 |
---|---|
10万円以上50万円以下 | 400円 |
50万円超100万円以下 | 1,000円 |
100万円超500万円以下 | 2,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円以上1億円以下 | 6万円 |
1億円超5億円以下 | 10万円 |
5億円超10億円以下 | 20万円 |
10億円超50億円以下 | 40万円 |
50億円超 | 60万円 |
記載金額が10万円を超え、2024年3月31日までに作成した契約書であれば、軽減税率が適用されます。
不動産の個人売買の流れ
スムーズな不動産の個人売買を行うには、流れを把握しておきましょう。売却を検討しはじめてから、物件を引き渡すまでの流れを解説します。
- 不動産の売却相場や権利状況を確認する
- 当事者間で売買の条件を取り決める
- 必要書類をそろえる
- 不動産売買契約を結ぶ
- 物件を引き渡す
不動産の売却相場や権利状況を確認する
不動産の個人売買を検討しはじめたら、まずは売却相場をチェックしましょう。相場を知るには、近隣の似た物件がどのくらいの価格で売りに出ているのかを調べることや、査定を依頼する方法があります。
売却する物件の所有権を持っていなければ売却できないため、権利状況も確認しておかなければなりません。
例えば、亡くなった親の不動産を売却するとき、相続はしたけれど所有者移転登記を行っていないという場合もあるでしょう。このままでは実質所有権を持っておらず、個人売買ができません。
当事者間で売買の条件を取り決める
売主と買主で、金額・手付金・契約の日程・引き渡しの日時など、売買の条件を決めます。お互いの希望を出し合い、納得して合意できるポイントを探しましょう。
不動産の売買では、値下げ交渉になるケースが珍しくありません。値下げを考慮した価格を提示しておくことや、あらかじめ『これ以上の値下げはできない』という下限を決めておくことが重要です。
また、契約日までの日にちが長過ぎる場合、買主の気が変わってしまう場合があるかもしれません。スムーズに売買を実施するには、スケジュール調整もポイントです。
必要書類をそろえる
契約の条件がまとまったら、必要な書類を取り寄せたり作成したりして契約に備えます。例えば、登記事項証明書や公図は法務局で、固定資産税評価額証明書は不動産のある市町村役場で取得可能です。
物件概要の分かる書類や、登記識別情報・建築確認通知書は自宅に保管してあるものを用意します。加えて、固定資産税の日割り計算を行い、売却後の期間分を買主が負担する場合には、固定資産税納付書も必要です。
不動産売買契約書は合意した条件を盛り込んだ内容で作成します。重要事項説明書の代わりとなる不動産物件内容表示書類も作成しましょう。基本的に決まった形式はありません。
不動産売買契約を結ぶ
あらかじめ取り決めている契約日に、不動産売買契約を締結しましょう。売主と買主が友人や親戚など知り合い同士の場合には、契約書を交わすことなく売買を実施するケースもあります。
契約を成立させるとき、契約書は必ずしも必要な要素ではありません。当事者同士で合意していれば、口約束でも不動産の個人売買は成立します。
ただし口約束では『契約内容を勘違いしていた』『契約内容を誤って理解していた』『そもそも契約したつもりはなかった』といったときに証明できません。あとからトラブルが発生するのを防ぐためにも、書類を作成して契約を結ぶことが重要です。
物件を引き渡す
契約書に記載している期日に合わせて物件を引き渡し、代金を受け取ります。その後、物件にトラブルがなければ、個人売買の一連の流れは完了です。
不動産の引き渡し後に『欠陥が見つかった』『トラブルが発生した』『説明した内容と違った』などの連絡が買主からあれば、必要に応じてアフターフォローを実施します。
ケースにはよるものの、契約不適合責任を問われる可能性もある点に注意しましょう。建物の雨漏りや、土地の境界があいまいであることなどは、事前の説明と契約書への記載を徹底する必要があります。
不動産の個人売買を成功させるポイント
不動産の個人売買を成功させるには、プロにサポートを依頼するのがポイントです。司法書士や不動産会社へ依頼するときには、複数の事務所や会社へ相談するとよいでしょう。対応や費用を比較した上で、依頼先を決められます。
- 司法書士に相談する
- 不動産会社へサポートを依頼する
司法書士に相談する
主に登記や供託手続きなど、法律上の手続きを依頼できるのが司法書士です。不動産の個人売買でも登記の手続きは欠かせませんが、慣れない人が行うと書類の不備や不足が起こる可能性があります。
司法書士への依頼は、買主が安心して取り引きできるようにするためでもあります。もしも売主が所有者になりすましている場合、買主にはそれを確認するのが難しいでしょう。司法書士へ依頼すれば、第三者による本人確認を受けられるため安心材料になります。
加えて、買主は金融機関のローンを利用しやすくなります。売主にとっては、手間のかかる登記手続きを全て任せられる点がメリットです。売買に伴う所有権移転登記を行う前に必要な住所変更登記や、抵当権抹消登記などの前提登記も代行してもらえます。
不動産会社へサポートを依頼する
不動産を個人売買するときには、全ての手続きを自力でしなければなりません。手続きが煩雑なのはもちろん、買主が見つからない可能性もあります。
不動産会社へ依頼すれば、独自のネットワークや広告などを駆使し、不動産を買いたい人へと効果的に宣伝できるため、個人売買よりも好条件で売却できる買主が見つかるかもしれません。
不備なくスムーズに不動産売却できる点もポイントです。不動産売買に関する知識を持つプロであるため、必要な内容を漏れなく網羅した契約書や、重要事項説明書を用いた契約を締結できます。
不動産の個人売買はプロに相談しよう
法律上は不動産の個人売買は可能です。しかし手続きが煩雑で、契約に必要な専門性が高い知識も多くあるため、何も知らないままに個人売買を行うのは難しいといえます。
スムーズかつ確実に契約を行うには、司法書士や不動産会社などのプロへ依頼するのがおすすめです。不備やトラブルも回避しつつ不動産売買契約を締結できます。
司法書士や不動産会社へ依頼するときには、複数の事務所や会社を比較した上で選ぶことが重要です。対応や売却する不動産への詳しさ、かかる費用などを比べると、適切な依頼先が見つかるでしょう。