多くの企業において、勤怠管理と工数管理は別々のシステム、あるいはExcelと紙というアナログな手法で運用され続けてきました。しかし、月末に発生するデータの突き合わせ作業や、実態とかけ離れた原価計算に限界を感じているプロジェクトマネージャーやバックオフィス責任者は少なくありません。
勤怠管理と工数管理を一元化する真の価値は、単なる入力の手間削減にとどまりません。それは、プロジェクトごとの収支をリアルタイムに可視化し、赤字プロジェクトの早期発見や適切なリソース配分を実現すること、すなわち「攻めの経営管理」への転換にあります。
本記事では、2025年の最新市場動向と法改正情報を踏まえ、工数管理機能を備えた勤怠管理システムを13製品厳選しました。
【結論】工数管理対応の勤怠管理システムは「3つのタイプ」から選ぶ
勤怠と工数を一元管理できるシステムは多岐にわたりますが、自社に最適なツールを選ぶための基準は非常にシンプルです。まずは「管理の厳密さ」と「導入の手軽さ」を軸に、以下の3つのタイプから方向性を定めてください。
タイプ1:オールインワン型(ERP型)
勤怠管理、工数管理に加え、経費精算や電子稟議までを単一のプラットフォームで統合管理するタイプです。データが完全に連動しているため、プロジェクトごとの損益計算書(PL)を作成できるレベルの厳密な原価管理が可能です。システム開発会社やコンサルティングファームなど、プロジェクト別の収支管理が経営の生命線となる企業に不可欠な選択肢です。
タイプ2:勤怠メイン+オプション型
標準的な勤怠管理システムに、簡易的な工数入力機能がオプションとして付加されたタイプです。導入コストを抑えつつ、日々の出退勤打刻の流れで「どの業務に何時間使ったか」をざっくりと把握したい企業に適しています。スモールスタートが可能で、初めて工数管理に取り組む組織でも現場の抵抗感なく定着させることができます。
タイプ3:外部連携型(API連携)
勤怠管理システム自体には工数管理機能を持たせず、JiraやBacklog、あるいは専用のプロジェクト管理ツールとAPIでデータを連携させるタイプです。開発現場が使い慣れたツールを変更することなく、裏側で勤怠データと工数データを突き合わせることができます。エンジニアやクリエイターの生産性を維持しながら、管理精度を高めたい場合に有効です。
なぜ今、「勤怠」と「工数」の一元管理が必要なのか?
勤怠と工数を統合管理するシステムへの移行が進む背景には、現場の疲弊解消という課題だけでなく、法規制への対応と経営の透明化という避けられない要請があります。一元管理がもたらすメリットは、主に以下の3点です。
メリット1:現場の「二重入力」負担をゼロにする
従来の運用では、従業員は出退勤時刻をタイムカードや勤怠システムに入力し、さらに別途Excelや日報ツールで作業内容を報告する必要がありました。一元化されたシステムでは、出退勤の打刻と同時に、その日の業務内訳をタイムライン形式やドラッグ&ドロップで直感的に入力できます。無駄な重複作業を排除することで、従業員は本来のコア業務に集中できる時間を確保できます。
メリット2:乖離のない「正確な原価データ」の取得
経営層が最も懸念するのは、申告された勤務時間と作業工数の合計が一致しない「データのズレ」です。システム上で両者が統合されていれば、例えば「8時間勤務」に対して「工数合計も必ず8時間」になるよう入力制御をかけることが可能です。これにより、労務費の配賦基準となるデータ精度が劇的に向上し、どんぶり勘定からの脱却が実現します。
メリット3:プロジェクト収支のリアルタイム可視化
2024年4月から建設・物流・医療業にも時間外労働の上限規制が適用され、中小企業の割増賃金率も引き上げられました。人件費の高騰はプロジェクトの利益率を直接圧迫します。勤怠と工数が連動していれば、月末の締めを待たずに、プロジェクトごとの人件費発生状況をリアルタイムでモニタリングできます。予算超過の予兆を早期に検知し、赤字が確定する前に対策を打つことが可能になります。
失敗しないための比較・選定ポイント
システム選定で失敗しないためには、機能の有無だけでなく、運用時のデータの質と現場の使い勝手を精査する必要があります。特に重要な比較軸は以下の3点です。機能の有無だけでなく、運用時のデータの質と現場の使い勝手を精査する必要があります。
1. 「データの整合性」はどこまで必要か?
自社が求める管理レベルを明確にする必要があります。会計システムに連携して厳密なプロジェクト別損益を出したい場合は、出退勤時間と工数入力時間が1分単位で完全に一致する「完全整合型」が必須です。一方、まずは業務改善のために大まかなリソース配分を知りたいだけであれば、入力時間に多少のズレを許容する「目安入力型」の方が、現場の運用負荷は軽くなります。
2. 入力インターフェース(UI)の直感性
多機能なシステムであっても、入力画面が複雑であれば現場は入力を拒絶します。カレンダーツール(OutlookやGoogleカレンダー)の予定をそのまま工数として取り込める機能や、スマホアプリから移動時間に数タップで入力できるUIを備えているかは極めて重要です。トライアル時には、管理者ではなく「最もITリテラシーが高くない従業員」に操作を確認させてください。
3. レポート・分析機能の充実度
蓄積したデータをどのように活用できるかを確認します。単にCSVデータが出力できるだけでなく、システム内のダッシュボードで「予実対比(予算と実績の比較)」や「部門別稼働状況」がグラフ化される機能があれば、集計の手間なく会議資料として活用できます。特に2025年の育児・介護休業法改正などで企業の透明性が求められる中、データを即座に可視化できる能力はコンプライアンス対応の観点からも重要です。
【タイプ別】工数管理もできる勤怠管理システムおすすめ13選
ここからは、市場で評価の高い13製品を、前述した「3つのタイプ」に分類して解説します。自社の課題感にマッチするカテゴリから検討を進めてください。
【厳密な原価管理なら】オールインワン・高機能型
プロジェクトごとの収支を精緻に管理し、経営判断に直結させたい企業向けの製品群です。
TeamSpirit(チームスピリット)
Salesforce基盤上で動作し、勤怠管理、工数管理、経費精算、電子稟議を完全に統合した働き方改革プラットフォームです。システム開発やコンサルティングなど、プロジェクト原価管理が経営の核心となる業種でデファクトスタンダードの地位を確立しています。カレンダーの予定をドラッグ&ドロップするだけで工数登録が完了する直感的な操作性と、高度なレポート機能による予実管理の自動化が強みです。内部統制に対応した厳格なログ管理も可能なため、上場企業やIPO準備企業にも適しています。
奉行Edge 勤怠管理クラウド
基幹業務システム「勘定奉行」シリーズとのシームレスな連携により、勤怠データの収集から給与計算、原価管理までを自動化できるシステムです。バックオフィス全体の業務プロセスを標準化し、経理・総務部門の負担を大幅に削減します。法令対応のスピードと確実性に定評があり、IT導入補助金の対象ツールとしても多くの実績があります。信頼性の高いセキュリティとサポート体制を重視する中堅企業にとって、極めて堅実な選択肢となります。
COMPANY(カンパニー)
大手企業特有の複雑な人事制度や組織構造に、「ノーカスタマイズ」で対応できる統合人事システムです。数千名規模の従業員を抱える企業グループにおいても、多様な雇用形態や就業規則を一元管理できます。工数管理機能は人事評価データとも連動させることが可能で、単なる原価計算だけでなく、タレントマネジメントや生産性分析の基盤として活用できます。永続的な機能強化が無償で提供されるため、長期間の運用においてシステム陳腐化のリスクを回避できます。
e-works
大規模組織での運用を前提に設計され、企業ごとの独自の就業ルールや複雑な原価配賦ロジックに対して柔軟に対応できるカスタマイズ性の高さが特徴です。パラメータ設定による細かな挙動調整が可能で、パッケージ製品では対応しきれない特殊な業務要件を持つ企業に選ばれています。Webブラウザベースでありながら高速な処理を実現し、全社員が一斉にアクセスする始業・終業時の負荷にも耐えうる堅牢なインフラを備えています。
【コスパ重視・スモールスタート】勤怠メイン+オプション型
導入コストを抑えつつ、まずは工数管理の第一歩を踏み出したい企業向けの製品群です。
ジョブカン勤怠管理
必要な機能だけを組み合わせて契約できるモジュール形式を採用しており、圧倒的なコストパフォーマンスと柔軟性を誇ります。2025年1月には工数管理プランが大幅にリニューアルされ、プロジェクトだけでなくタスク単位での詳細な分析や、権限設定の細分化が可能になりました。導入ハードルが非常に低く、月単位でのプラン変更も可能なため、まずは工数管理を試験的に導入してみたい企業や、従業員数の変動が激しい成長企業に最適です。
KING OF TIME(キングオブタイム)
市場シェアNo.1の実績を持つクラウド勤怠管理システムです。ワンプライスで全機能を利用でき、「補助項目」機能を活用することで、プロジェクトごとの時間をシンプルに記録できます。特筆すべきは他社サービスとの連携力で、SmartHRやfreeeなどの外部システムや、Slack、LINE WORKSなどのチャットツールともAPIでスムーズに連携します。既存の業務フローを崩さずに、工数管理の要素を組み込みたい企業に適しています。
AKASHI(アカシ)
マニュアル不要で使える直感的なUI/UXを最大の強みとしており、システムに不慣れな従業員でも迷わず操作できます。プレミアムプランで利用できる工数管理機能は、入力されたデータを自動でグラフ化し、誰がどの業務に時間を割いているかを視覚的に把握できます。ドラッグ&ドロップによるシフト作成機能なども充実しており、管理部門の作業負担を最小限に抑えつつ、現場の運用定着をスピーディに実現します。
楽楽勤怠

「楽楽精算」などで知られるラクスが提供し、中堅・中小企業の現場定着を最優先に設計されたシステムです。導入初期の専任サポートや稼働後のフォローアップが手厚く、IT専任者がいない企業でも安心して運用を開始できます。工数入力画面は日々の入力負荷を軽減する工夫が凝らされており、プロジェクトごとの稼働時間集計や想定人件費の算出も容易です。シリーズ製品とのデータ連携により、バックオフィス業務全体を効率化できます。
follow(SaaS版)
NTTグループが提供する信頼性の高さと、リーズナブルな料金体系を両立したシステムです。工数管理オプションを追加することで、日々の勤務実績と紐づいた作業時間の記録が可能になります。シンプルな操作性を追求しており、スマートフォンやタブレットからの打刻・申請にも標準対応しています。過度な多機能さよりも、基本機能の使いやすさとセキュリティの堅牢さを重視する企業において、安定的かつ低コストな運用を実現します。
スマレジ・タイムカード
店舗ビジネスやシフト制の職場での運用に特化したシステムです。iPadなどのタブレット端末をタイムレコーダーとして利用でき、顔認証による不正打刻防止も可能です。プロジェクト管理機能を有効にすれば、シフト作成と連動してタスクごとの予算管理や実績確認が行えます。30名までは基本機能が無料で利用できるなど、小規模な店舗やスタートアップ企業がコストリスクなしで導入できる点も大きな魅力です。
【特定業種・用途特化】エンジニア・現場向け
開発現場や物流現場など、特定の業務環境における生産性向上に特化した製品群です。
CC-BizMate
「人事評価」や「生産性分析」を主眼に置いた、多角的な分析機能を持つシステムです。工数管理機能「Performance Finder」は、エンジニアの労働実態を細かく把握することに特化しており、プロジェクトごとの収支だけでなく、業務内容別の生産性推移まで可視化できます。入力忘れを防ぐアラート機能や、日報と工数を統合する仕組みにより、管理のための管理ではなく、現場の改善活動に直結するデータ収集を可能にします。
MITERAS勤怠(ミテラス)

PCのログ(起動・操作時間)と勤怠打刻データを自動で突合し、乖離がある場合にアラートを出すことで「見えない残業」を未然に防止します。工数管理においては、ホワイトな働き方を実現するためのコンプライアンス遵守機能とセットで運用できる点が強みです。物流施設や工場など、PCを使わない現場作業が含まれる環境でも、タブレットを活用した直感的な入力インターフェースにより、正確な労働時間の内訳を把握できます。
ちゃっかり勤太くん
現場主導で必要な機能を組み上げることができる、カスタマイズ性に優れたシステムです。変形労働時間制や複雑なシフトパターンが多い飲食、医療、建設などの現場において、パッケージ製品では対応できない細かな運用ルールをシステム化できます。工数管理においても、現場の実情に合わせた入力項目の設定が可能で、リアルタイムでの損益管理と作業報告を実現します。
システム導入を成功させるための「定着化」のコツ
高機能なシステムを導入しても、現場が正確なデータを入力してくれなければ意味がありません。定着の壁を乗り越えるための重要な視点を2つ紹介します。
コツ1:入力粒度を細かくしすぎない
導入当初から「15分単位」や「タスクレベル」での入力を求めると、現場の負担感が増大し、適当な入力(形骸化)を招きます。まずは「プロジェクト単位」や「大まかな業務カテゴリ」から入力を開始し、習慣化してから徐々に粒度を細かくしていく段階的な導入が成功の鍵です。
コツ2:入力するメリットを現場に還元する
工数管理が「監視のためのツール」と受け取られると、現場は反発します。収集したデータを基に、特定の人に偏った業務負荷を調整したり、無駄な会議を削減したりするなど、現場が「入力することで自分たちが楽になる」と実感できるアクションを示すことが不可欠です。
まとめ:自社の「原価管理レベル」に合わせてシステムを選ぼう

勤怠管理と工数管理の一元化は、バックオフィスの効率化だけでなく、企業の利益構造を可視化する強力な経営基盤となります。
システム選定の最終段階では、自社が求めるのが「厳密なPL作成レベルの管理」なのか、それとも「現場の負担を減らすための効率化」なのかを改めて定義してください。その上で、気になった2〜3社の無料トライアルを活用し、実際の管理者画面の操作性や、現場スタッフのスマホでの入力フィールを確認することをおすすめします。
まずは資料を取り寄せ、自社の運用にフィットするかどうかの検証から始めてみてはいかがでしょうか。












