従業員数が数千名規模に達すると、勤怠管理は単なる「時間集計」から「経営基盤の維持」という複雑な課題へと変貌します。
製造現場の3交代制、営業部門の裁量労働、本社のフレックスタイムが混在し、拠点ごとに異なる古いシステムやExcelでの管理が限界に達しているケースは少なくありません。さらに、既存のERP(基幹システム)とのデータ連携や、上場企業としての内部統制といった要件もふまえると、安価な中小企業向けシステムでは対応が困難です。
この記事では大企業特有の要件をクリアしたおすすめの勤怠管理システムをご紹介。選び方の基準と自社のDX戦略にあわせたタイプ分類に沿って、導入プロジェクトを成功に導くための具体的な道筋を解説します。
大企業向け勤怠管理システムの選定:2つのタイプと5つの必須要件

大企業向けの勤怠管理システム選定で失敗しないためには、まず自社が目指す方向性を定め、その上で必須となる要件を満たす製品を見極める必要があります。本章では、その結論となる「2つのタイプ」と「5つの選定基準」の全体像を提示します。
まずは「特化型」か「汎用型」か、自社のタイプを見極める
大企業向けのシステム選定における最初の分岐点は、「自社の複雑な業務プロセスを維持するか、これを機に標準化するか」という経営判断です。
- タイプA:カスタマイズ前提の大企業特化型の勤怠管理システム
- 目的: 自社特有の複雑な就業規則や業務プロセスを最優先し、システムを自社の業務に完璧に合わせ込みます。単なる勤怠管理に留まらず、人事・給与システムとのシームレスな統合や、複数システムの刷新(BPR)を目的とします。
- タイプB:標準機能が豊富な汎用型の勤怠管理システム
- 目的: 業界のベストプラクティス(標準機能)に自社の業務プロセスを合わせる(標準化する)ことで、コストパフォーマンス高くDXを推進します。法規制への対応と勤怠集計の効率化を主目的とします。
失敗しないための「5つの選定基準」早見表
自社のタイプを見定めたら、次に以下の5つの必須要件をどれだけ満たせるかで、候補製品を絞り込みます。詳細は後続の章で詳しく解説します。
| 選定基準 | 特に確認すべきポイント(大企業向け) |
| 1. システム連携 | 既存のERP(SAP, COMPANY等)や給与計算ソフトとシームレスに連携(API連携、自動連携)できるか? |
| 2. カスタマイズ性 | 自社の複雑な就業規則(変形労働、3交代制等)を、標準機能の設定で対応できるか、追加開発(カスタマイズ)が必要か? |
| 3. 多様な勤務形態 | フレックス、裁量労働、リモートワーク、勤務間インターバルなど、多様化する働き方に標準対応しているか? |
| 4. セキュリティ・内部統制 | J-SOX法に対応可能な、厳格な権限管理、改ざん防止機能、詳細な監査ログ(操作証跡)を備えているか? |
| 5. 導入・運用サポート | 数千名規模の導入プロジェクト経験が豊富か? 専任のコンサルタントによる伴走型サポート(BPR支援含む)があるか? |
大企業向け主要システムはこう分類できる
本記事で紹介する主要な大企業向け勤怠管理システムは、この2つのタイプに基づき、以下のように分類できます。
- タイプA:大企業特化型(カスタマイズ・BPR重視)
- COMPANY
- キンタイミライ
- リシテア/就業管理クラウドサービス
- TimePro-VG
- TeamSpirit 勤怠
- タイプB:汎用型(標準化・コストパフォーマンス重視)
- KING OF TIME
- ジンジャー勤怠
- マネーフォワード クラウド勤怠
- Touch On Time
- freee人事労務 勤怠管理
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なぜ中小企業向けではダメなのか?大企業特有の勤怠管理「4つの壁」
「安価なシステムで十分ではないか」という意見は、大企業のシステム選定において必ず直面する疑問です。しかし、従業員が数千名規模になると、中小企業とは比較にならない「4つの壁」が存在し、これらが安価なシステムの導入を阻みます。
壁1:複雑すぎる就業規則(変形労働・フレックス・多拠点)
大企業、特に製造業や小売業では、勤務形態が極端に複雑化します。工場の3交代制や変形労働時間制、営業部門の裁量労働制、本社のフレックスタイム制、さらにはリモートワークや時短勤務者が混在します。
これら全ての就業規則を正確に管理し、労働基準法に準拠した残業計算を自動化する必要があります。例えば、アサヒビール株式会社では全社で3,000を超える多様な勤務ルールが存在(※)し、これらに対応するには中小企業向けの標準機能では全く歯が立ちません。
壁2:既存システム(ERP・給与計算)とのシームレスな連携
勤怠データは、集計して終わりではありません。そのデータは給与計算システム、人事データベース、そしてERP(基幹システム)へと連携され、経営分析の基礎データとなります。
大企業が利用するSAP、COMPANY、Oracle、または奉行シリーズといった既存システムと、勤怠データをCSVで手動インポートしていては、「月末の膨大な締め作業」は解決しません。必要なのは、APIなどを介したシームレスなデータ連携、あるいは「COMPANY」のように勤怠・人事・給与が統合されたシステムです。
壁3:厳格な内部統制とコンプライアンス要件
従業員3,000名規模の企業は、多くが上場企業またはその連結子会社として、内部統制報告制度(J-SOX法)の適用対象となります。これは、単に「労働時間を客観的に記録する」(労働基準法)だけでは不十分で、「そのデータが生成・承認されるプロセスが統制されていること」を監査法人に証明する必要があることを意味します。
具体的には、「誰が・いつ・どのデータを変更したか」を追跡する詳細な監査ログ、役職に応じた厳格な権限管理、そして多段階の承認フローがシステム上で担保されていなければなりません。この監査耐性こそが、大企業向けシステムに必須の要件です。
壁4:グループ会社・海外拠点のガバナンス
大企業は多くの子会社や関連企業を抱えています。それぞれが古いオンプレミスシステム、Excel、タイムカードなど独自の勤怠管理システムを使用している状態では、グループ全体の正確な労働状況をリアルタイムで把握することは不可能です。
株式会社LIXILグループが5社合併後に直面したように(※)、乱立する勤怠サブシステムを統一することは、ガバナンス強化と運用・保守コスト削減の観点から急務です。グループ全体の勤怠データを一元管理し、信頼性の高いデータを基に経営判断を行う体制構築が求められます。
大企業の勤怠管理システム選びにおける5つの必須要件

前述の「4つの壁」を乗り越えるため、大企業向け勤怠管理システムの選定では、機能の多さや価格だけでなく、以下の5つの要件を必須基準として確認すべきです。
1. システム連携:ERPや給与計算ソフトとどう連携できるか?
最重要確認ポイントは、既存のERPや給与計算ソフトとの連携方法です。連携が手動のCSVアップロードでは、業務効率化は実現しません。
情シス部門を巻き込み、APIによるリアルタイムな自動連携が可能か、あるいは「COMPANY」のように人事・給与データまで一元管理できる統合システムを目指すのかを明確にする必要があります。「汎用型」のシステムを選定する場合も、API連携の可否と、その開発・保守にどれだけのリソースが必要かを確認することが不可欠です。
2. カスタマイズ性と拡張性:独自の就業規則にどこまで対応可能か?
「カスタマイズ可能」という言葉だけで判断してはいけません。「標準機能のパラメータ設定」で対応できる範囲と、「追加開発(個別カスタマイズ)」が必要な範囲の切り分けが重要です。
例えば、「リシテア」は4,000以上のパラメータ設定で多様なニーズに対応し、「キンタイミライ」は製造業特有の「更衣時間」の管理など、複雑なルールに個別開発で対応します。自社の最も複雑な就業規則を提示し、それが「設定」で対応可能か「開発」が必要かを見極めることが、コストと導入期間の試算に直結します。
3. 対応可能な勤務形態:複雑なシフトや多様な働き方を網羅しているか?
自社の最も複雑な部門を基準に、対応可否を判断すべきです。
フレックス、裁量労働、リモートワークといった基本的な制度に加え、働き方改革関連法で定められた「勤務間インターバル制度」への対応や、36協定の残業上限(月45時間、年360時間など)に抵触しそうな従業員への自動アラート機能は、コンプライアンス遵守のために必須の機能と言えます。
4. セキュリティと内部統制:J-SOX法や監査に対応できるか?
これは「壁3」で解説した内部統制の要件です。単に「セキュリティが高い」ではなく、J-SOX法に基づく監査に対応できるレベルが求められます。
具体的には、「誰が・いつ・どのデータを閲覧・変更・承認したか」をすべて記録・保存する改ざん不可能な監査ログ機能、役職や所属拠点ごとにアクセス・操作権限を詳細に設定できる機能、そしてIPアドレス制限や二要素認証といった基本的なセキュリティ対策が網羅されているかを確認してください。
5. 導入・運用サポート体制:専任担当者による手厚い支援はあるか?
数千名規模のシステム導入は、単なるツール導入ではなく、業務プロセス改革(BPR)を伴う一大プロジェクトです。チャットやメールのみのサポートでは対応できません。自社と同様の規模・業種への導入実績が豊富か、そして導入プロセスを主導する専任のコンサルタントがアサインされるかが極めて重要です。
「キンタイミライ」の導入事例では、「『無理です』と言わず解決方法を一緒に考えてくれる(※1)」「『システム用語』ではなく『業務用語』で話してくれる(※2)」といった、伴走型のサポート体制が高く評価されています。
大企業特化型の勤怠管理システム5選
ここからは、5つの必須要件を踏まえ、具体的な製品を紹介します。まずは、自社の複雑な業務プロセスを最優先し、システムを業務に合わせ込む「タイプA:大企業特化型」のシステムです。
これらは単なる勤怠管理ツールではなく、人事・給与システムとの統合や業務刷新(BPR)を目的とする企業に適しています。
COMPANY(株式会社Works Human Intelligence)
「COMPANY」は、勤怠管理だけのシステムではなく、人事給与、タレントマネジメントまでをワンストップで管理する統合人事システムです。最大の強みは、日本の大企業特有の複雑な人事制度やグループ会社管理に対し、追加開発(カスタマイズ)を行わずに対応できる標準機能の圧倒的な豊富さです。
勤怠データをシームレスに人事・給与データと連携させ、「これ一つで人事部門の業務が完結する」世界観を構築可能。導入により作業工数が1/3に削減された実績もあり、既存のERPからのリプレイス、あるいは併用を検討する企業に最適です。
キンタイミライ(株式会社ネオレックス)
「キンタイミライ」は、「どのような複雑なルールにも対応する」ことを掲げる、まさしく大企業特化型のカスタマイズシステムです。製造業特有の「更衣時間の管理」や「勤務間インターバル管理」といった、標準機能では対応不可能な独自の就業規則に対し、個別開発で徹底的に対応します。
その導入プロセスは、専任のIT担当者が「システム用語」ではなく「業務用語」で対話し、課題解決を一緒に考えるコンサルティングスタイルが高く評価されています。導入プロジェクトの失敗を恐れる担当者にとって、最も安心感のある選択肢のひとつです。
TimePro-VG(アマノ株式会社)
タイムレコーダーの老舗であるアマノ株式会社が提供する「TimePro-VG」は、その信頼性と実績が強みです。特に、「工場でのICカードや生体認証による物理打刻」と、「本社でのPCログオンによるシステム打刻」といった、ハイブリッドな打刻環境の統合に優れています。
また、クラウド型だけでなくオンプレミス型も選択可能であり、セキュリティ要件が極めて厳しい、あるいは既存のインフラ環境を維持したい情シス部門のニーズにも応えられる柔軟性を持っています。
リシテア/就業管理クラウドサービス(株式会社日立ソリューションズ)
日立グループが自ら利用・改善を重ねてきた実績を持つ「リシテア」は、大企業に必要な機能を「標準機能」として極めて豊富に搭載しています。アサヒビール株式会社や株式会社LIXILグループといった、大規模・複雑な課題を持つ企業での導入実績が、その対応力を証明しています。
「カスタマイズ=高コスト」という懸念に対し、リシテアは「4,000以上のパラメータ設定」というアプローチで、追加開発なしに多様な就業規則に対応できる範囲の広さが最大の武器です。
TeamSpirit 勤怠(株式会社チームスピリット)
「TeamSpirit 勤怠」は、Salesforceプラットフォーム上で稼働する点が最大の特徴であり、高いセキュリティと拡張性を担保します。フレックスタイム制や変形労働制など多様な勤務形態に対応し、36協定や有給休暇のアラート機能も充実しています。
このシステムの独自の強みは、勤怠管理と「工数管理」をシームレスに連携できる点です。製造業において、「プロジェクト別」や「製造ライン別」の正確な原価計算(工数把握)が求められる場合、勤怠打刻と同時に工数入力が可能なこのシステムは、経営管理の高度化に直結する強力なソリューションとなります。
標準機能が豊富な汎用型の勤怠管理システム5選
次に、システムの標準機能に自社の業務プロセスを合わせることで、コストを抑えつつDXを推進したい企業向けの「タイプB:汎用型」勤怠管理システムを紹介します。これらの製品も大企業での導入実績があり、高いコストパフォーマンスが魅力です。
KING OF TIME(株式会社ヒューマンテクノロジーズ)
「KING OF TIME」は利用者数420万人以上(※)の実績を持つ、汎用型勤怠管理システムの代表格です。1人あたり月額300円という低コストながら、変形労働時間制やフレックスタイム制にも対応可能です。
強みは、生体認証、ICカード、PCログオンなど20種類以上の多様な打刻方法であり、「工場」と「本社」が混在する環境にも柔軟に対応できます。製造業での導入実績もあり、給与計算ソフトなど外部サービスとのAPI連携も可能です。機能の網羅性とコストパフォーマンスのバランスが非常に優れたシステムです。
※※富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2025年版」勤怠管理ソフトSaaS/PaaS市場 利用ID数 2024年度実績 ベンダーシェア
ジンジャー勤怠(jinjer株式会社)
「ジンジャー勤怠」は、シリーズ累計1万8,000社以上の導入実績を持ちます。月額400円/人から利用可能で、直感的な操作性と多様な打刻方法を備えています。このシステムの強みは、「ジンジャー」シリーズとして提供される人事労務、給与計算、経費精算などの他システムとシームレスに連携できる点です。
「システム連携」に対し、バックオフィス業務全体を同一シリーズで標準化するアプローチを提供します。301〜1000名規模の製造業での導入実績も確認されています。
マネーフォワード クラウド勤怠(株式会社マネーフォワード)
「マネーフォワード クラウド勤怠」はバックオフィス系サービスとの連携が強みの勤怠管理システムです。特に「マネーフォワード クラウド給与」や会計ソフトとのシームレスなデータ連携は、給与計算や経理部門の業務を大幅に効率化します。
フレックスタイム制や裁量労働制など柔軟な働き方にも対応しています。大企業(1001名以上)向けのプランも提供されており、導入実績もありますが、料金は別途見積もりが必要です。中堅から準大手企業で、会計システムと勤怠を一体で管理したい場合に有力な選択肢となります。
Touch On Time(株式会社デジジャパン)
「Touch On Time」は、利用者数420万人以上(※)の実績を誇るシステムです。1人あたり月額300円で、フレックスタイム制や変形労働時間制にも対応します。特に生体認証やICカードに対応した自社開発のタイムレコーダー(物理端末)の提供に強みがあります。
「工場」や「支社」など、PCがない現場での確実な打刻運用を重視する場合に適しています。継続率99.7%という数値は、そのサポート体制の信頼性を示しています。
※2025年10月時点
freee人事労務 勤怠管理(フリー株式会社)
freee人事労務 勤怠管理は、勤怠管理機能に特化し、使いやすさを追求したシステムです。最大の特徴は、大企業特有の複雑な労働制度にも対応できる柔軟な設定機能です。
1ヶ月から3ヶ月単位のフレックスタイム制、週・月・年単位の変形労働時間制、裁量労働制など、多様な勤務形態に対応します。本社と工場のように異なる労働制度が混在する場合でも、同一アカウント内で複数の制度を設定して一元管理が可能です。
PCやスマートフォンからの打刻に加え、ICカードやLINE、Slackといったチャットツール経由の打刻も行えます。各種申請や承認もWeb上で完結し、集計データはfreee人事労務や他の給与計算ソフトと連携できるため、転記作業の削減に貢献します。また、36協定に基づく時間外労働のアラート機能なども備え、コンプライアンス遵守を支援します。
「カスタマイズ」で何ができる?大企業特有の対応事例
大企業向けのシステムを選定する場合、具体的にどのような「カスタマイズ」や「高度な設定」が可能になるのでしょうか。ここでは、大企業特有の課題に対応する3つの代表的な事例を紹介します。
事例1:就業規則関連(複雑なシフト、勤務間インターバル管理)
月間変形労働時間制や、日をまたぐ夜勤の管理はもちろん、大企業特有のさらに複雑なルールに対応します。例えば、製造現場での「始業前後の更衣時間を勤務時間に含める」といった特殊な設定や、36協定遵守のための「残業予測アラート」、コンプライアンス要件である「勤務間インターバル制度」の自動チェックなどが挙げられます。これらは、標準機能では対応が難しい、企業独自のルールをシステム化する事例です。
事例2:システム連携関連(ERPへの人事データ自動連携)
これは「壁2」で触れたERP連携の具体例です。勤怠データを単に給与計算ソフトに連携するだけでなく、ERP(基幹システム)や工数管理システムとAPIで自動連携させます。
これにより、人事部門での給与計算プロセスが自動化されるだけでなく、勤怠データが「プロジェクト別」や「製造ライン別」の原価計算にも活用され、経営分析の精度向上に寄与します。大同特殊鋼株式会社の事例では、COMPANYの導入で人事・給与・勤怠をシームレスに連携させ、作業工数を1/3に削減しています(※)。
事例3:内部統制関連(承認フローの多重化、ログ管理)
J-SOX法対応のためのカスタマイズです。中小企業向けシステムでは「申請者→承認者」の1段階が基本ですが、大企業では「申請者 → 現場リーダー → 部門長 → 人事部確認」といった、役職や拠点に応じた多段階の承認フローが必須です。
また、監査法人の求めに応じて、「いつ、誰が、どの打刻データを修正し、誰が承認したか」という操作ログ(監査証跡)を、改ざん不可能な状態で長期間保存し、いつでも出力できる機能も、内部統制上不可欠なカスタマイズです。
導入成功の鍵は「業務標準化」と「個別最適化」の見極め
ここまで特化型と汎用型の2タイプに分けて勤怠管理システムを紹介しましたが、大企業にとってどちらが絶対的に優れているというわけではありません。導入成功の鍵は、「カスタマイズ=悪」と決めつけることでも、「既存の業務を全て維持」することでもなく、両者のバランスを見極める戦略的な視点にあります。
「カスタマイズ=悪」ではない。コストをかけて守るべき「自社の強み」とは?
大企業特化型の勤怠管理システムを選定することは、既存の業務プロセスをそのままシステムに移行させることを意味します。
もし、製造現場の特殊なシフト体制などの複雑な業務プロセスが、自社の競争優位性や生産性の源泉となっているならば、それはコストをかけてでも「個別最適化」し、維持すべき「自社の強み」です。アサヒビール株式会社が3,000の勤務ルールを維持した(※)ように、自社の強みをシステム導入によって削いでしまっては本末転倒です。
汎用型の勤怠管理システムで「業務を標準化」するメリット
一方で、汎用型の勤怠管理システムを導入することは、自社の業務プロセスを「システムの標準機能=業界のベストプラクティス」に合わせて見直すことを意味します。例えば、全社共通の休暇申請フローや、月末の集計作業など、企業の強みとは直結しない間接業務は、むしろ積極的に「標準化」すべき対象です。
業務プロセス自体を見直すことで、大企業特化型の勤怠管理システムよりも大幅にコストを抑えながら、全社的な業務効率化、DX推進を実現できるメリットがあります。
大企業が勤怠管理システム導入で失敗しないための4ステップ
最後に、この複雑な選定プロジェクトを具体的に進めるための4つのステップを解説します。特に大企業では、関係各所の調整が成否を分けます。
ステップ1:現状の就業規則と業務フローの「棚卸し」
最初のステップは、現状の徹底的な可視化です。本社、工場、支社、グループ会社ごとに、現在どのような就業規則(変形労働、フレックス、3交代制など)で運用され、申請、承認、集計などのどのような業務フローが存在するのかを全て洗い出します。
Excel、紙、古いオンプレシステムなど、使用しているツールも全て棚卸ししてください。この「現状把握」が曖昧なままでは、要件定義は不可能です。
ステップ2:必須要件(RFP)の定義と優先順位付け
ステップ1で洗い出した業務のうち、「システムで必ず実現したいこと(Must)」と「できれば実現したいこと(Want)」に優先順位を付けます。これがRFP(提案依頼書)の核となります。
この際、本記事で提示した「5つの必須要件」(特にERP連携と内部統制)を必ず含めてください。そして、ステップ1の業務のうち、前章で解説した「標準化」できる業務と、「個別最適化」すべき業務を切り分けることが、「大企業特化型」と「汎用型」のどちらを選ぶかの判断基準となります。
ステップ3:情シス部門を巻き込んだ連携・セキュリティ要件の確認
大企業のプロジェクトで最大の障壁となり得るのが、他部門との調整です。特に、人事部門だけでシステム選定を進めてはいけません。必ず初期段階から情報システム部門を巻き込み、「SAPなど既存ERPとの連携方式」や、「セキュリティ要件」について、専門的な見地から要件を固めてもらう必要があります。彼らの協力を得られなければ、導入は実現しません。
ステップ4:スモールスタートと段階的な全社展開
従業員数千名規模の企業で、全社一斉に新システムを導入するのは極めて高リスクです。まずは、特定の部門や、特定の拠点でスモールスタートし、運用上の課題を洗い出します。そこで得られた知見を基に、段階的に対象を拡大していくアプローチが、混乱を最小限に抑え、プロジェクトを成功に導く現実的な進め方です。
まとめ

大企業向け勤怠管理システムの選定は中小企業向けとは異なり、複雑な就業規則、ERP連携、内部統制、グループ会社管理といった「4つの壁」への対応が必須となります。
成功の鍵は、まず自社が直面するこれらの課題を明確にし、「5つの選定基準」を定義することです。その上で、自社の競争力の源泉である業務プロセスは「タイプA:大企業特化型」で個別最適化し、全社共通の間接業務は「タイプB:汎用型」で標準化するなど、「標準化」と「個別最適化」のバランスを見極める戦略的な視点が求められます。
この記事で紹介した選定基準と製品タイプが、貴社の勤怠管理DXプロジェクトを成功させるための一助となれば幸いです。
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