傷病手当金とは「怪我や病気などの理由で会社を長期間休む場合に支給される手当」です。傷病手当金は給与と異なる入金ですが、原則として確定申告は必要ありません。
しかし、状況によっては確定申告を行なう方がよいケースもあります。また傷病手当金に関するトラブルを防止するには、税金や社会保険との関係など正しい認識が必要です。
本記事では傷病手当金について、確定申告での扱い方や制度の仕組みを中心に解説します。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
傷病手当金の確定申告は不要
給与以外で得たお金が一定額を超えると、確定申告が必要になると認識されている方も多いのではないでしょうか。しかし傷病手当金は非課税なので、確定申告が不要です。また医療費控除から差し引く必要もありません。
傷病手当金は非課税
傷病手当金は、いくら受給しても収入に入らず非課税所得となります。そのため所得税がかからず、確定申告の必要はありません。
所得を得たら原則として確定申告による所得税の計算・納付が必要ですが、所得税が発生しない非課税所得では確定申告が必要ありません。傷病手当金は非課税所得に該当するため、確定申告などの手続きが不要なのです。
医療費控除から差し引く必要もない
医療費控除の申告に傷病手当金は関係ありません。
1年間に支払った医療費が高額になった場合に、控除を受けることができる医療費控除。通院や入院をすることになってしまった場合には利用したい制度ですよね。
この医療費控除の申告は通常、保険金を差し引く必要があるります。しかし全ての保険金が対象というわけではなく、傷病手当金などの手当は医療費から差し引く必要はありません。
医療費控除の確定申告について詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
確定申告を行なったほうがよい場合
「在職中に傷病手当金を受け取っている」もしくは「傷病手当金を受給中に退職した」場合、確定申告や年末調整を行なうことで還付金を得られる可能性があります。
在職中に傷病手当金を受け取っている場合
そもそも年末調整とは、確定した1年分の所得税と徴収済みの所得税を精算する手続きです。毎月の給与からは源泉所得税が徴収されていますが、所得税が確定するのは1年分の給与額が決まった後のため、すでに徴収された所得税とはズレがある場合がほとんどです。そこで年末に所得税の精算をし、徴収しすぎた分は還付金として12月分または翌年1月分の給与と一緒に支給します。
休職中であっても、会社に従業員として在籍していれば年末調整を受けられます。したがって在職中に傷病手当金を受け取っている場合、ほかに所得がなければ確定申告は不要です。
傷病手当金を受給中に退職した場合
傷病手当金を受給中に勤めていた会社を退職した場合、その後の状況によって確定申告の必要性が変わります。2つのパターンに分けて解説します。
年内に再就職した場合
傷病手当金を受給中に退職し年内に別の会社に再就職した場合、再就職先に年末調整を実施してもらうことで所得税の還付を受けられます。
なお再就職先で正確な年末調整を行なうには、前職での給与額・源泉徴収税額を証明する書類として源泉徴収票が必要です。こちらの書類を失くしてしまうと年末調整ができないため注意しましょう。
再就職していない場合
傷病手当金の受給中に退職し年内に再就職していない場合には、自身で確定申告をしなければ還付金を受け取れません。年末調整による所得税の精算ができないため、自身での確定申告が必要です。
傷病手当金は非課税所得のため、確定申告で考慮する必要はありません。しかし給与所得者は確定申告が必要ないケースが多く、確定申告に馴染みのない方も多いのではないでしょうか。そのため手続きに時間がかかってしまう可能性があります。
年内に再就職をしていない方は余裕を持って確定申告を進めると安心です。
傷病手当金と住民税・社会保険の関係
傷病手当金は住民税の課税対象にはなりませんが、社会保険料を免除することはできません。
傷病手当金は所得税の確定申告が必要ない、いわゆる非課税所得です。傷病手当金の金額は所得税に影響を与えません。
しかし所得税だけでなく、住民税も所得によって金額が変わる税金です。傷病手当金の受給により、住民税の金額が上がると不安に思う方もいるでしょう。
また非課税所得である傷病手当金の受給中、社会保険料の支払いがどうなるのかも疑問を覚えやすいポイントなのではないでしょか。
住民税の課税対象にもならない
非課税所得である傷病手当金は、住民税の課税対象にもなりません。傷病手当金による所得は、住民税の計算では使用されないのです。
傷病手当金の受給に対する住民税は発生しないので、税額が大きくなりすぎてしまう心配は不要です。
住民税の支払いは発生する場合があるので注意
傷病手当金による所得は住民税の計算対象とはなりません。しかしすでに発生している給与所得の額によっては、住民税の支払いが発生する場合があるので注意が必要です。
住民税は前年の所得をもとに計算されます。もし休職の前に一定以上の給与所得が発生していれば、翌年に住民税の支払いが発生する可能性が十分に考えられます。
またすでに発生している住民税も支払いが必要です。ただし通常は会社が給与から天引きして代わりに納付する特別徴収が行なわれますが、傷病手当金の受給中は給与が発生していないため住民税の特別徴収ができません。
会社に立て替えてもらう、自身で納税する普通徴収に切り替えるなど何らかの対処が必要です。休職中の住民税支払い方法については、事前に会社と相談すると安心です。
社会保険は免除されない
住民税は課税対象ではありませんが、社会保険料は免除されません。そのため傷病手当金を受け取っている休職中であっても、社会保険料の支払いが必要です。
社会保険料の支払い方についてもトラブルがないよう、事前に会社と相談しましょう。
傷病手当金とは
そもそも傷病手当金とは、社会保険の給付金の1つです。万が一の場合に働けなくなっても生活できるようにするための制度なので、どのような場合に受給可能なのかを理解しておくと、いざという時に安心です。
では、傷病手当金とはどのようなものか、支給を受ける条件や期間まで詳しく見ていきましょう。
傷病手当金とは
対象となるのは、社会保険の被保険者である会社員などです。業務外の怪我や病気などで療養中となり、仕事ができない状態の時に支給される給付金を「傷病手当金」と言います。傷病手当金は、協会けんぽや健康保険組合から支給されます。
近年では、うつ病などの精神疾患で仕事ができなくなった場合にも受給可能です。もしもの時、請求できるように支給条件を確認していきましょう。
傷病手当金の支給条件
傷病手当の支給を受けるためには、以下の4つの条件全てに当てはまらなければなりません。
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労働不能の判断基準は、医師の意見や業務内容などを考慮して協会けんぽや健康保険組合といった健康保険の保険者が判断します。
なお、通勤途中や業務上のケガや病気は、労働災害保険(労災)の給付金の支給対象となるので注意が必要です。
傷病手当金の支給金額
傷病手当金の1日あたりの支給額は、賞与を含まない1日あたりの給与額(標準報酬日額の2/3)です。計算式は、以下のようになります。
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※傷病手当金の支給を開始した日以前の、継続した12ヶ月分が必要
では、以下のようなケースを想定して実際に計算してみましょう。
〈例〉
支給開始日前6ヶ月:月給40万円
上記以前の6ヶ月:月給35万円
療養期間:1年(有給利用なし)
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上記の場合、傷病手当金の総支払額は、3,016,546円となります。なお、支給条件の1つである「仕事に就けない3日以上連続する期間(待機期間)」は、傷病手当金の支給期間からは除外されるため、注意が必要しましょう。
傷病手当金の支給期間
上記でも注意点として少し説明しましたが、傷病手当金の支給は、3日間の待機期間後に支払われます。つまり、療養期間が短く、休んでから3日目に会社へ出勤した場合には、支給対象から外れます。
3日間の待機期間後である、4日目から傷病手当金の支給が開始となり、「最長1年6ヶ月」の期間支給を受けることが可能です。
資格喪失後の継続給付について
退職後は社会保険の資格喪失となります。傷病手当金は社会保険制度のひとつであるため、退職して資格を失った後は支給を受けられないと考えるかもしれません。しかし条件を満たしていれば、社会保険の資格喪失後も傷病手当金の継続給付が可能です。
資格喪失後の継続給付は、以下2点に該当する場合に受けられます。
- 退職日まで継続して1年以上の期間、社会保険の被保険者であった
- 資格喪失時に傷病手当金の支給を受けている、もしくは傷病手当金の支給を受ける条件を満たしている
なお傷病手当金の受給条件を満たさなくなった(働ける状態になった)場合、その時点で傷病手当金の支給が停止されます。一度停止されてしまうと、その後働くことが困難な状態になっても支給は再開されないためご注意ください。
傷病手当金を受け取れないケース
会社を休職している間も、状況によっては傷病手当金の支給対象外となってしまいます。対象外となる場合は以下の通りです。
- 副業などで収入があった場合
- 労災保険の休業補償給付を受けている場合
傷病手当金の対象外にもかかわらず支給を受けてしまうと、事実が発覚した後に返還を要求されるため注意しましょう。トラブルを避けるためにも、傷病手当金の受給対象外となる条件について押さえる必要があります。
副業などで収入があった場合
副業などで収入があった場合、傷病手当金の対象外となります。
傷病手当金は病気や怪我などの理由により働けず、給与を得られない人や家族の生活を保障するための制度です。そのため働ける人は傷病手当金を受け取れません。
本業である会社を休職している場合でも、副業など別の場所から収入があった場合、働ける能力があるとみなされます。収入があった場合たとえ休職中でも傷病手当金を受け取れなくなります。
傷病手当金を受け取りながらの副業はバレる?
傷病手当金を受け取りながらの副業は、バレる可能性が高いです。
バレてしまう主な理由が住民税の金額です。住民税は前年の所得額によって確定し、翌年の6月から支払いを行ないます。会社に勤めている人の場合、住民税は給与から天引きされ会社が代わりに納税する(特別聴取)のが原則です。
そのため会社の担当者が住民税の額を確認しますが、その際に税額が不自然に大きいと傷病手当金以外に所得があると勘付かれてしまうのです。
なお給与所得以外の所得にかかる住民税は、確定申告時に必要箇所を記入すれば個人で納税する普通徴収とすることもできます。そのため副業による収入を給与以外の方法で受け取り、雑所得などにしようと考える方もいるかもしれません。
しかし傷病手当金を受けながらの副業は不正であり、大問題につながる恐れもあります。傷病手当金を受け取りながらの副業は避けておきましょう。
労災保険の休業補償給付を受けている場合
労災保険の休業補償給付を受けている場合も、傷病手当金を受け取れない可能性が高いです。
傷病手当金は休職中の生活を保障するための制度です。そのため休業補償給付の支給を受けている場合、生活の保障が十分とみなされ傷病手当金の対象外となります。
ただし休業補償給付の金額が傷病手当金で受け取れる金額よりも小さい場合は、差額分の傷病手当金が支給されます。
傷病手当金を受け取った場合の扶養は?
仕事ができない状態になった場合に、傷病手当金がなければ自分の生活や家族を守ることができません。
とても便利な制度ですが、傷病手当金を受給していても配偶者控除や扶養控除を受けることはできるのでしょうか?また社会保険の扶養から外れてしまわないかどうかも気になるところですよね。
配偶者控除や扶養控除について
納税負担を軽くするために利用できる「控除」。「配偶者控除」「扶養控除」どちらの場合も、納税者と生計を一にしているということが第一条件です。
傷病手当金は税務上の収入とはみなされないため、退職をした場合に受給していても、税務上の収入の額が大きく下がることになります。
税務上の収入が減るので配偶者控除や扶養控除の対象となる可能性が高いですが、それぞれその年の合計所得金額で対象が定められているため注意が必要です。
以下の条件に当てはまる場合、それぞれの控除対象となることが可能です。
区分 | 年間合計所得 | 給与収入 |
配偶者控除 | 13〜38万以下(※) | 103万円以下 |
扶養控除 | 38万円以下 |
※納税者の合計所得金額により、条件が異なる。
配偶者控除と扶養控除の、詳しい区分や条件については以下の記事で説明しています。
社会保険の扶養について
傷病手当金を受給することで、仕事ができなくなっても安心ですが、療養が長い場合などは、個人で社会保険に入っているのは大変です。
社会保険の扶養の条件は以下の通りです。
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注意しなければならないのは、税制上では傷病手当金は収入として扱わない一方、社会保険制度では傷病手当金を収入として扱うことです。
傷病手当金をもらっても、確定申告をする必要はない
業務外での急なケガや病気に、給付金を受給できる傷病手当金は、きちんと条件を把握しておくことが大切です。基本的に傷病手当金をもらっても確定申告の必要はありませんが、受給中に退職する場合には、申告すると還付金が返ってくる可能性があります。
療養代にお金もかかるので税金関係で損をしないように、傷病手当金について正しく理解しておきましょう。
監修税理士からのコメント
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