ライターやデザイナー、プログラマーなどに多い「業務委託」の働き方では、原則的に確定申告が必要です。
ただし同じ業務委託者であっても、個人事業主・フリーランスで働くか、給与所得者が副業として働いているかによってやるべきことが異なります。
業務委託の確定申告について、やり方やよくある疑問を解消します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
業務委託は原則確定申告が必要!2パターンのどちらに該当するかチェック
業務委託として働く場合は原則的に確定申告を行うことになります。
ただし、フリーランスや個人事業主として業務を受注するのか、副業として業務を受注するかによっていくらから確定申告をしなければならないかが変わります。
働きかた | 確定申告義務が発生する所得額 |
---|---|
フリーランスや個人事業主 | 48万円 |
副業(ほかに給与所得がある) | 20万円 |
① フリーランスや個人事業主として働き年間所得が48万円を超える
フリーランスや個人事業主として働く場合は年間所得が48万円を超えたら所得税の確定申告を行う義務が発生します。
所得税を課すときは所得の中からさらに課税できる額である「課税所得」を求める必要があります。
所得税は以下の順番で求められます。
報酬額 – 経費 = 所得額
② 所得から課税所得額を求める
所得額 – 控除額 = 課税所得額
③ 課税所得額から所得税を求める
課税所得額 × 税率 – 控除額 = 所得税
たとえば、業務委託の報酬が1,000万円あり、経費が800万円かかっている場合の所得税は以下の通りです。
1,000万円 – 800万円 = 200万円
② 課税所得額を求める
200万円 – 48万円(基礎控除の額) = 152万円
③ 所得税の額を求める
152万円 × 5% – 0円(控除額) = 7万6,000円
48万円という金額は基礎控除の金額です。もし業務委託の報酬から必要経費を差し引いた額(所得)が48万円以下であれば全額が基礎控除の対象となり所得税が課税されません。
また課税所得の税率や控除額は、課税所得の額によって異なります。日本では累進課税制度が採用されているため、課税所得額が多ければ多いほど、税率も高くなります。
② 副業として働き副業収入(雑所得)が20万円を超える
サラリーマンやパート、アルバイトなどの働き方は企業から給与をもらうため、給与所得者といいます。
給与所得者が業務委託で副業を行う場合、副業の報酬は給与所得ではなく「雑所得」になります。
雑所得は20万円を超えた場合に所得税の確定申告の義務が発生します。
注意点は報酬の額(収入)が20万円を超えた場合ではなく、経費を引いた所得が20万円を超えた場合に確定申告を行う必要がある点です。
そのためどれだけ多くの収入を得たとしても、経費がかさんでしまい所得が20万円以下になったのであれば確定申告は不要です。
確定申告によって業務委託の副業が会社にバレることがある
確定申告を行うことで、業務委託で副業をしていることが会社にバレる可能性があります。
副業が会社にバレてしまう理由はいくつか考えられますが、最もバレやすいのは天引きされる住民税の額の変化です。
一般的な会社員(給与所得者)の場合、住民税は毎月の給与から天引きされ納付されます。これを特別徴収と言います。
特別徴収を行うことで従業員は税務署に個別で申告することなく納税ができるのがメリットです。
しかし副業を行って収入が増えてしまうと、勤務先の会社で給与の経理処理を行った際に住民税の額が大きく変化することがあります。
すると「この従業員は副業をしている」と見なされる可能性があります。
勤務先に副業がバレないようにするためには住民税の支払方法を普通徴収にするという方法が考えられます。
なお配偶者名義で副業をすると脱税となり大きなペナルティが発生するので、絶対にやらないでください。
主婦・主夫の業務委託者でも確定申告は必要?
一般的に、配偶者控除や扶養控除の対象、つまり主婦や主夫は収入が少ないケースが多いので確定申告をする必要はありません。。
ただし業務委託の報酬によって年間所得が48万円を超えた場合は所得税の申告義務が発生するため、確定申告を行う義務が発生します。
簡単に説明をすると以下のようになります。
妻のAさんの年間所得が48万円を超えると、夫が配偶者控除を受けられなくなり納税額が高くなります。
ただし、配偶者控除の対象から外れても年間所得が133万円以下であれば「配偶者特別控除」を適用できる可能性があります。
配偶者特別控除が適用される条件
配偶者特別控除による控除額は、配偶者(主婦・主夫)の合計所得金額と控除を受ける納税者本人の合計所得金額によって変化します。
配偶者の合計所得金額が133万円を超えた場合や、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えた場合は配偶者特別控除を受けられないのでご注意ください。
たとえば納税者(夫)の給与所得が800万円で、配偶者(妻)の所得額が50万円だった場合、控除額は38万円です。
納税者(夫)の所得額から38万円を引いて、課税所得額は762万円になります。
ほかに控除を受けなければ、納税者(夫)が納めるべき所得税の額は「762万円 × 23% – 63万6,000円 = 111万6,600円」です。
業務委託の確定申告方法は2種類ある
業務委託の確定申告方法は、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。ただし、自由にどちらかを選べるわけではありません。
青色申告を行うにはあらかじめ「青色申告承認申請書」を税務署に提出して、青色申告を行う許可を得る必要があります。
節税効果が高いのは「青色申告」
「青色申告承認申請書」を提出した個人事業主やフリーランスであれば、節税効果が高い青色申告ができます。
青色申告をするためにはいくつか条件があります。
条件 | |
---|---|
対象となる所得 | 事業所得、不動産所得、山林所得 |
メリット | 最大65万円の控除を受けられるなど節税効果が高い |
注意点 | 青色申告をしようとするその年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出する |
青色申告を行う最も大きなメリットは、最大で65万円が控除される青色申告特別控除を受けられることです。
特別控除だけでも高い節税効果が見込めますが、赤字であれば損益通算により赤字の繰り越し・繰り戻しが可能になります。
申告書類を作成する難易度が高く、手順もやや複雑ではありますがかかった手間以上の節税ができることが多いです。
青色申告についてもっと知りたい方は関連記事をチェックしてください。
申告の手間が少ないのは「白色申告」
副業で業務委託をしている場合や、「青色申告承認申請書」を提出していない個人事業主やフリーランスは白色申告で確定申告をします。
白色申告は申告時の手間が少ない点が魅力的ですが、青色申告特別控除にあたる制度は存在しないため節税効果が低いです。
副業として業務委託をしている場合の確定申告方法について、さらに詳しく知りたい方は関連記事もご覧ください。
業務委託の確定申告で用意するもの
業務委託の人が確定申告を行なう際、下記の書類が必要です。
- マイナンバーカードや運転免許証、パスポートなどの本人確認書類
- 所得税及び復興特別所得税の確定申告書
- 所得金額がわかるもの
- 生命保険控除証明書や医療費控除の証明書など各種控除証明書
- 銀行口座がわかるもの(還付がある場合のみ)
- 経費にかかわる領収書、請求書 など
青色申告と白色申告、どちらの申告方式を利用するかによって提出書類が異なります。
青色申告で必要な書類
青色申告は上記で紹介した書類とあわせて、下記の書類の提出が求められます。
- 青色申告決算書(国税庁HPからダウンロード可能)
- 貸借対照表(控除額が65万円または55万円のとき)
- 損益計算書
- 第四表(損失申告用、赤字で青色申告する場合)
- 第三表(譲渡所得があるとき)
なお、税務署に提出した後も確定申告書の控えは1年間、帳簿は7年間、決算や取引にかかわる書類は7年間保管が義務付けられているので気をつけましょう。
白色申告で必要な書類
白色申告は確定申告書や本人確認書類などとあわせて、収入金額や必要経費をまとめた「収支内訳書」を提出する必要があります。
提出した後も青色申告と同様、確定申告書の控えや帳簿は一定期間保管が義務付けられているので廃棄しないようにしてください。
領収書や請求書など経費を証明する書類
所得とは、収入金額から経費を差し引いた残額です。
収入金額は支払調書からわかる一方で、経費は領収書や請求書など具体的な金額を記載した書類が必要です。
業務にかかわる経費は納税額に影響するので、領収書や請求書はしっかり管理しましょう。
支払調書は収入を証明する書類
「支払調書」は1年間の支払総額と源泉徴収額が記載された書類で、業務を依頼した企業または個人事業主が作成します。ただし、確定申告の際、フリーランスや個人事業主、副業をやっている会社員は、支払調書を税務署に提出する必要はありません。なぜなら、依頼した企業または個人事業主はすでに税務署に提出しており、源泉徴収額を把握しているからです。
正確に収支を把握したうえで確定申告したい人は、業務にかかわった企業または個人事業主から支払調書をもらってください。ただし、発注元は発注先に支払調書を渡す義務は本来無いので、業務委託契約を結ぶときは契約内容を確認するようにしましょう。
業務委託ではじめて確定申告を行うときの注意点
業務委託で働いている人がはじめて確定申告を行うときに知っておきたい注意点が2つあります。
効率よく申告作業を行って本業や委託業務に力を入れましょう。
申告方法はオンラインとオフラインで合計3つ
確定申告書の提出方法は、オンラインとオフラインで合計3つあります。
- e-Taxを利用した電子申告
- 郵送による提出
- 税務署の窓口へ直接提出
おすすめの提出方法はe-Taxを使った電子申告です。
パソコンだけでなくスマートフォンからも確定申告書類を作成でき、そのまま提出できるため「確定申告に多くの時間を割けない」という人に特におすすめです。
確定申告書の受付期間よりも前から書類作成ができる
確定申告書の受付期間は毎年2月15日~3月15日ですが、書類の作成はそれよりも前から可能です。
毎年1月上旬に「確定申告書等作成コーナー」が公開されるので、はやめに書類を作成して期限内に提出できるようにしましょう。
業務委託でe-Taxを利用して確定申告を行う手順
業務委託で働く人がe-Taxを使って確定申告を行うときの手順は以下の通りです。
あらかじめ用意するものなどもあるので、確定申告の時期よりも前から準備を始めることをおすすめします。
e-Taxを利用した確定申告で用意するもの
e-Taxを使って確定申告をするときは以下のものを用意してください。
【申告の色に関わらず用意するもの】
- マイナンバーカード
- 利用者証明用電子証明書(数字4桁)
- 署名用電子証明書(英数字6~16文字)
- マイナンバーカード読取対応スマホ
- マイナポータルアプリ
- 所得金額が分かる書類
- 経費に関わる領収書・請求書
- 銀行口座情報
【青色申告の際に用意するもの】
- 確定申告書
- 青色申告決算書
- 損益計算書の内訳
- 賃借対照表
【白色申告の際に用意するもの】
- 確定申告書
- 収支内訳書
このうち書類は「確定申告書等作成コーナー」で作成可能なので、税務署にもらいに行く必要はありません。
① 利用者識別番号を取得する
e-Taxを利用するには利用者登録をして「利用者識別番号」を取得する必要があります。
以下の手順で利用者識別番号を取得しましょう。
- マイナポータルアプリにログインする
- マイページ下部「確定申告」をタップする
- 「e-Taxで確定申告をはじめる」をタップする
画面の指示に従いマイナポータルとe-Taxを連携すれば同時に「利用者識別番号」を取得できます。
② 電子証明書の取得
e-Taxをはじめ、マイナンバーカードを使って各種証明をするためには電子証明書の取得が必要です。
とはいえ難しい操作はなく、自分で設定した暗証番号・パスワードを入力し、マイナンバーカードをスマホに読み取らせるだけで完成します。
③ 「確定申告書等作成コーナー」で申告書類を作成する
「e-Taxで確定申告をはじめる」をタップすると、確定申告書等作成コーナーに遷移します。
画面の案内に従うだけで申告書類を作成できます。
④ 申告・申請データに電子署名を行い送信する
確定申告書類を作成し終えたら、内容に不備や誤りがないかを確認しましょう。
問題がなければ電子証明を行い、送信します。
⑤ 送信結果を確認する
e-Taxで申告した場合、e-Tax内のメールボックスに不備の情報などが届きます。
こまめにメールボックスを確認し、不備などの連絡が来ていないか見落とさないようにしてください。
⑥ 納税をする
e-Taxでは電子納税ができます。口座振替やインターネットバンキングでの納税のほか、クレジットカードやコンビニ納付でも納税できます。
業務委託の確定申告は源泉徴収の有無で手続きが異なるので要注意
業務委託での確定申告が初めての場合、手続きは源泉徴収の有無で異なります。源泉徴収票がある場合、源泉徴収額を正確に申告する必要があります。
項目 | 源泉徴収あり | 源泉徴収なし |
---|---|---|
必要書類 | 源泉徴収票 | 請求書、領収書など |
納税方法 | 追加納税の必要がある場合は申告と同時に支払い | 所得に応じて税額を計算し、納税 |
もし、業務委託での確定申告が初めての場合、源泉徴収の有無で手続きに違いが出る点に注意が必要です。源泉徴収がある場合、源泉徴収票を元に既に支払われた税金を確認し、不足分を納税します。一方、源泉徴収がない場合は、収入全体から経費を差し引いて税額を計算し、納税します。
源泉徴収ありの確定申告を行う際の注意点
源泉徴収を受けている場合、勤務先から源泉徴収票を受けとりましょう。
源泉徴収票には天引きされた所得税の正確な額が記載されています。自分で改めて所得税の計算をしてミスをすると、本来受け取るべき還付金を受け取れなかったり、税を多く納めたりする可能性があります。
確定申告で必要な源泉徴収票をなくしてしまった場合の対処法について、関連記事で詳しく解説しています。源泉徴収票が見当たらないときにはぜひご確認ください。
源泉徴収なしの確定申告を行う際の注意点
源泉徴収がされていない場合は源泉徴収票も発行されないので、自分で所得税の計算をしなければなりません。
計算方法を調べながら手作業で計算してもよいですが、「確定申告書等作成コーナー」を活用し、自動計算をしてもらって誤りがないようにすることを推奨します。
確定申告書等作成コーナーを利用するのであれば、e-Taxを利用して電子申告を行っても良いでしょう。
マイナンバーカードと紐づければさらに便利にe-Taxを利用できるので、マイナンバーカードを持っているのであれば利用の検討をおすすめします。
業務委託で確定申告をしない5つのリスク
業務委託で確定申告をしない場合、5つのリスク・不利益を被る可能性があります。
① 取引先からの信用を失う
所得が著しく少ない場合を除いて、業務委託では確定申告の義務があります。
委託元もそのことは理解しているので、業務委託をしている相手が確定申告をしていないことを知ったら「仕事上のルールを守れるだろうか」などの不安が生まれます。
すると取引先からの信用・信頼を失ってしまい委託契約を打ち切られるなど大きな不利益を被る可能性が高いです。
② 延滞税や加算税を課されかえって納税額が増える
「納税額が高すぎる」という理由で確定申告をしない人もいます。源泉徴収が行われないフリーランスや個人事業主であればなおさら「一度にこの額を納めるのか」と思うこともあるでしょう。
しかしながら、確定申告をせず、納税もしなかった場合は脱税になります。延滞税や加算税を課されてしまい、かえって納税額が増えます。
うっかり無申告になってしまったのであればまだしも、意図的に確定申告をしなかった場合は刑事罰を科せられる可能性もあるのでご注意ください。
③ 信用情報に悪影響を及ぼす
税金を滞納した場合、滞納した情報が信用情報に記載されます。
信用情報に税の滞納の情報が記載されると、お金を借りたり、ローンを組んだりするときの審査が厳しくなることもあります。
悪質な場合はそもそも審査を断られることもあるので、確定申告を行って適切な額の納税を行いましょう。
④ 資金・財産の差し押さえにより日常生活が困難になる
税金を払えない状態が続くと、資産・財産が差し押さえられます。
差し押さえられた物品は競売にかけられ、発生した売り上げは納税に充当され、完納を目指します。
完納するまで資産等が差し押さえられ続けるので、日常生活が困難になることが予想されます。
未納分は5年分をさかのぼって請求できるので、想定よりもずっと多い額を納税する可能性があります。無申告状態はとてもリスキーな状態です。
⑤ 刑事罰が科せられる可能性がある
悪意を持って確定申告を行わなかった場合は、脱税として逮捕され罰金や懲役などの刑事罰を科せられます。
刑事罰は履歴書の賞罰欄にも記載しなければならない「前科」です。社会的信用が落ち、業務委託としても働き続けることが難しくなるでしょう。
業務委託で確定申告のやり方が分からないときは税理士を頼ろう
業務委託で働いている場合、原則として確定申告が必要です。
業務委託は青色申告ができる個人事業主・フリーランスとして働くか、白色申告をする副業として働くかによって、確定申告の義務が発生するタイミングや用意する書類なども異なります。
もし確定申告について分からないことがあるのなら、税務のプロである税理士に相談して確定申告を代行してもらうこともできます。
「税理士に依頼したら高そう」と思う人も多いですが、確定申告の代行をリーズナブルな価格で請け負ってくれる税理士事務所も多いです。
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