給与所得者が確定申告を行うときには源泉徴収票が必須です。
確定申告では源泉徴収票に記載された金額を正確に転記する必要があります。
いざ確定申告をしようとしたときに、源泉徴収票が見当たらず焦ってしまう人は少なくありません。
確定申告の際に源泉徴収票を紛失してしまった場合の対処法などを解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
源泉徴収・源泉徴収票とは?
確定申告で源泉徴収票が必要な理由やなくしてしまった際の対処法を紹介する前に、源泉徴収や源泉徴収票そのものについての解説をします。
源泉徴収とは給与所得から決まった税額を引き落とすことで、俗に「天引き」とも言われます。
月収から源泉徴収が行われるため、手元に入る手取り収入は月収の75~80%程度の金額になるケースが多いです。
源泉徴収で引き落とされているのは所得税
源泉徴収票で引き落とされているのは所得税です。2037(令和19)年までは復興特別所得税も徴収されています。
年末調整で所得税の過不足を調整したあと、確定申告で控除等を確定させて最終的な納税額を決定するという流れになります。
年末調整後に勤務先から源泉徴収票が送付される
毎年11月のはじめ頃から年末調整のお知らせが届きます。
年末調整は源泉徴収された税額の年間合計額と年の税額を一致させるための手続きです。
年末調整を行わないと源泉徴収票を作成できないため、源泉徴収票が送付されるのは年明け後になるケースが多いです。
たとえば2024年に働いた分の年末調整は2024年12月に行われ、2024年分の源泉徴収票は2025年1月頃に送付されます。
確定申告書類の作成時は源泉徴収票が必要
確定申告を行うときには勤務先から送付されてきた源泉徴収票が必須です。
厳密に言うと、確定申告の書類を作成するときに源泉徴収票に記載された事柄を転記する必要があるので、手元に残しておく必要があります。
源泉徴収票には年間の給与所得から天引きされた金額が記載されている
確定申告の書類を作成するときに源泉徴収票が必要なのは、年間の給与から徴収された所得税の正確な額が記載されているためです。
月々の給与明細に記載されている天引きの額は、年末調整を行う前の税額です。
年末調整で適切な額に税額を調整したあとに発行される源泉徴収票に記載された所得税の額が分からないと、各種控除をもとにした還付等の計算も狂ってしまいます。
そのため、確定申告の書類を作成する際に源泉徴収票が必要不可欠となっています。
確定申告書類提出時は添付不要なので混同しないように注意する
年末調整時には特定の書類を添付する必要があるため、確定申告でも源泉徴収票を提出しなければならないと考えている人は少なくありません。
確かに2019年3月提出分までは確定申告書とともに源泉徴収票の元本を提出する必要がありました。
しかし2019年4月1日以降からは源泉徴収票を提出する必要はなくなっています。
誤って確定申告書とともに源泉徴収票を提出しないよう注意してください。
源泉徴収票をなくした・見当たらない場合の対処法
確定申告の書類を作成しようとしたものの、手元に源泉徴収票が見当たらないケースもあるでしょう。
源泉徴収票を紛失した・見当たらないときの対処法は4つあります。
時期によってはそもそも源泉徴収票が発行されていない可能性もあります。
源泉徴収票が発行されるのは年末調整後、つまり翌年1月以降です。
たとえば2024年に得た所得の源泉徴収票は2025年1月以降に発行されるので、源泉徴収票を探す前に年末調整を行ったかなどを冷静に思い出しましょう。
① PDFなどのデジタルデータで受領していないか確認する
環境保護など様々な観点から、ペーパーレス化を推進している企業は少なくありません。
源泉徴収票が見当たらないときはPDFなどのデジタルデータで受領していないか確認しましょう。
仕事用のメールボックスだけでなく、私用のメールボックスや迷惑メールボックスなどもチェックしてください。
2019年4月1日以降の確定申告では源泉徴収票の提出が不要になったため、それをきっかけに紙の源泉徴収票からPDFデータ等に変更している企業が少なくありません。
メールボックスを検索する際は「源泉徴収」「確定申告」などのキーワードを用いると効率的に探せます。
② 給与計算を担当している部署に問い合わせる
源泉徴収票が発行されているはずにもかかわらず、メールボックス等を確認しても発見できない場合は給与計算を担当している部署に問い合わせましょう。
担当部署は所属する会社によって異なるため、一般的な問い合わせ先部署を紹介します。
- 人事部
- 経理部
- 総務部
企業によっては問い合わせ先についてオンラインマニュアルを整備していることもあるので、マニュアルがないかをまずチェックしましょう。
マニュアル等がなく、問い合わせ先に心当たりがない場合は上司や先輩などに尋ねてみましょう。
上司や先輩に尋ねても解決しない場合は総務部に問い合わせることをおすすめします。
総務部は会社全体に関わる業務を行っているため、適切な部署・部門に取り次いでくれる可能性が高いためです。
③ フリーランスは源泉徴収票が発行されないケースが多い
フリーランスとして働いている場合はそもそも源泉徴収が行われず、したがって源泉徴収票が発行されません。
フリーランスをはじめとした自営業者は自分で所得税を計算し、申告・納税を行う必要があります。
ただし報酬の種類によっては源泉徴収が行われます。その場合は取引先から送付された支払調書や源泉徴収票をもとに、確定申告を行います。
万が一源泉徴収票を紛失してしまったら、速やかに取引先に連絡をしましょう。
源泉徴収票の再発行には時間がかかることが多いため、確定申告の期日直前に依頼しても間に合わなくなる可能性があります。
フリーランスでも源泉徴収の対象となる報酬は様々です。
国税庁サイトに源泉徴収の対象となる報酬の範囲が明確に記載されているので、ご自分の仕事が該当していないか確認しましょう。
④ 発行を断られたら税務署へ源泉徴収票不交付の届出書を提出する
原則として、企業は源泉徴収票の発行を依頼されたときにそれを拒むことはできません。
源泉徴収票の発行を拒否した場合は所得税法に違反し、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
勤務先から源泉徴収の発行を断られた場合は、確定申告書類を提出する先の税務署へ「源泉徴収票不交付の届出書」を提出しましょう。
源泉徴収票不交付の届出書には事業主の所在地や氏名(名称)、従業員数などを記載する項目もあるので、なるべく詳細に記載できるようにしましょう。
ただし源泉徴収票の再発行を断られた場合は対象外です。再発行を断られた場合は税務署に給与明細等ほかの書類で代替できないか相談しましょう。
会社の倒産などで源泉徴収票の発行に応じてもらえない場合はどうする?
会社が倒産したなどの理由で源泉徴収票が発行されないこともあります。
そのような場合の対処法をご紹介します。
会社が倒産している場合は破産管財人へ連絡を取る
会社が倒産したのであれば破産管財人に連絡をし、源泉徴収票を発行してほしい旨を伝えましょう。
破産管財人とは、破産手続きを開始したのと同時に選任される、破産者の財産の調査・管理・処分を行う人のことです。
ただし責任者が夜逃げ状態で失踪した場合は破産管財人が存在しない可能性もあります。この場合は源泉徴収票が発行される見込みは0に近いです。
税務署に直接相談をする
源泉徴収票が発行されないからと確定申告を諦めないでください。
破産などやむをえない理由で源泉徴収票が発行されない場合は、税務署に相談することで事情を斟酌され、特例的に給与明細等ほかの書類を源泉徴収票の代わりとして認められる可能性があります。
ただしあくまで特例的な措置に留まるので、「きっと代わりにしてもらえるだろう」と決めつけて行動しないいようご注意ください。
給与明細が源泉徴収票の代わりにならない理由
月々の給与明細には、所得税や介護保険料などの天引きされた額が記載されています。
12か月分の明細があれば源泉徴収票になるのではと考える方もいらっしゃいますが、給与明細は源泉徴収票の代わりにはなりません。
その理由を解説します。
給与から天引きされた正確な総額が確認できない
確かに給与明細には月々に天引きされた額が記載されていますが、天引きする額を決定しているのはあくまでその月の収入額です。
そのため年末調整があり、払いすぎているのであれば還付を、反対に納税額が少なければ追加で徴税されます。
年末調整は12月の給与が確定した後に行われる手続きなので、給与明細に記載された源泉徴収額を合計しても正確な源泉徴収額になるわけではありません。
確定申告を行うときは、給与から源泉徴収された正確な額を知る必要があるので、給与明細は源泉徴収票の代わりにはできません。
確定申告の申告期間はいつ?
確定申告の書類受付期間は明確に定められており、毎年ほぼ同じスケジュールになります。
期間を過ぎてしまうと書類を受け付けてもらえず、確定申告ができなくなるので注意しましょう。
毎年2月16日〜3月15日ころが申告期間
確定申告の申告期間は毎年2月16日~3月15日頃の1か月間です。
税務署は平日のみ開署しているので、2月16日が日曜日であれば翌日の2月17日(月)からの1か月間が確定申告の受付期間となります。
2024(令和6)年分確定申告は2025年2月17日(月)〜3月17日(月)
2024年(令和6)年中に得た所得に関する確定申告の受付期間は、2025年2月17日(月)~3月17日(月)です。
確定申告の必要書類はなに?
確定申告で必要な書類は以下の通りです。
- 確定申告書
- 本人確認書類
- 確定申告書に添付する書類
- 源泉徴収票
確定申告書は税務署の窓口でもらうほか、e-Taxを使ってオンラインで作成することが可能です。
確定申告書に添付する書類は、どのような控除を受けるかによって異なります。
代表的なものを以下にいくつか挙げます。
住宅借入金等特別控除を適用する場合
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
- 家屋の登記事項証明書
- 住宅の工事請負契約書の写しおよび土地の登記事項証明
医療費控除を適用する場合
- 医療費控除の明細書
- 医療費通知
寄附金控除を適用する場合
- 寄附をした自治体が発行する寄附の証明書・受領書
- 専用振込用紙の受領書
確定申告書類の提出方法は3種類
確定申告の書類は3つの方法のいずれかで提出できます。
それぞれの提出方法の特徴を知り、自分にとって最も手軽で利便性の高い方法で申告書類を提出しましょう。
① e-Tax(イータックス)を利用する
近年のDX化推進に伴い、ますます利便性が上がっているのがe-Taxシステムです。
オンラインで確定申告が完了するので、自分の都合の良い時間に申告ができます。
e-Taxを利用して確定申告をするのであれば、マイナポータルとe-Taxを紐づけることを強くおすすめします。
マイナポータルとの連携を行うことで、必要事項が自動で入力・計算されるため書類作成の手間が少なくなります。
連携作業そのものは画面の指示に従うだけで5~10分ほどで完了するため、空いた時間で簡単に紐づけ可能です。
e-Taxで確定申告をするときの流れや必要なものなど、詳しく知りたい方は関連記事もご覧ください。
② 税務署の窓口に直接提出
税務署の窓口が開いている時間帯に自由時間があるのであれば、申告書類を窓口に直接提出することが可能です。確実に書類を受領してもらえます。
以前は控えの書類を持っていけば収受印を押してもらえましたが、令和7年1月から、申告書等の控えに収受日付印の押なつを行わないこととなりました。
なお、令和7年1月以降、当分の間の対応として、窓口で交付する「リーフレット」(今般の見直しの内容と申告書等の提出事実等の確認方法をご案内するもの)に申告書等を収受した「日付」や「税務署名」を記載したものが希望者に渡されます。
税務署の窓口へ直接提出するのであれば時間に余裕のある日にしましょう。
③ 税務署に郵送する
e-Taxの使用に慣れていない、あるいはマイナポータルとの連携に抵抗感がある方は、申告書類を郵送することでも提出できます。
申告書類を封筒に入れ、管轄の税務署宛てに切手を貼りつけてポストへ投函するだけで提出できます。
通信日付印(消印)のついた日が提出日と見なされるため、期日が迫ってから投函する場合は消印がつくタイミングに注意が必要です。
管轄の税務署はどこか調べるときは国税庁サイトの「税務署の所在地などを知りたい方」をご活用ください。
郵便番号や住所から簡単に所轄の税務署を確認できます。
確定申告の書類を郵送提出する方法や注意点について、関連記事でも詳しく説明しています。あわせてチェックしてみてください。
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確定申告の申告期間は1か月あるとはいえ、期間が近づいてから慌てて申告の準備をはじめても間に合わない可能性があります。
申請になにか不備があり、手戻りが発生すると再度書類を作り直すなどの手間もかかります。
手戻りなく1回で確定申告を終えたいのであれば、税理士に相談をしましょう。
依頼料はかかるものの、書類作成を一任できるなどかかった費用以上のリターンがあることがほとんどです。
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