青色申告は所得税の確定申告方法の1つです。複式簿記での記帳や決算書などの提出を求める代わりに、納税者は税制上の優遇を享受できます。青色申告を検討している人は、青色申告承認申請書を提出しましょう。白色申告との違いやメリット、申告の手順を解説します。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
青色申告とは?
確定申告の方法には青色申告と白色申告の2種類があります。青色申告は日々の取引を所定の帳簿に記録し、帳簿に基づき所得金額や税額を正しく計算する方法です。より正確な記帳を求められるため、青色申告特別控除をはじめとする税制上の優遇が受けられます。
所得税法では所得を10種類に区分しています。青色申告が可能なのは「不動産所得」「事業所得」「山林所得」のみで、会社員の給与所得や株式によって得た配当所得などは、青色申告の対象に含まれません。
帳簿の記帳方法は複式簿記または簡易簿記を選択でき、選択した形式によって青色申告特別控除の控除額が異なります。
白色申告との違い
不動産所得・事業所得・山林所得がある人は、青色申告または白色申告のいずれかで確定申告を行います。青色申告を行う場合、事前に申請書を提出して承認を受けなければならず、承認を受けていない人は自動的に白色申告となります。
青色申告と白色申告はどのような点が異なるのでしょうか?両者の違いを以下の表にまとめました。
比較項目 | 青色申告 | 白色申告 |
---|---|---|
事前の申請 | 青色申告承認申請書の提出が必要 | 不要 |
記帳義務 | あり(複式簿記または簡易簿記) | あり(単式簿記や簡易な方法でも良い) |
確定申告で必要な書類 | 確定申告書
青色申告決算書(損益計算書・貸借対照表) |
確定申告書
収支内訳書 |
青色申告特別控除 | あり | なし |
その他の優遇 | あり(赤字の繰り越し・青色事業専従者給与の特例・少額減価償却資産の特例など) | なし |
青色申告を行うメリット
白色申告は帳簿作成が簡単なものの、税制上の優遇は享受できません。一方で青色申告は帳簿作成に手間がかかりますが、節税効果が高いのがメリットです。青色申告で得られる具体的なメリットを見ていきましょう。
最大65万円の特別控除を受けられる
青色申告の最大の恩恵ともいえるのが、青色申告特別控除です。不動産所得または事業所得を得ている青色申告者は、所得金額から最大65万円を控除できます(山林所得は10万円の控除)。
控除額は10万円・55万円・65万円の3種類で、帳簿の種類や申告の方法によっていずれかが適用されます。55万円・65万円の控除を受けるには、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)での記帳が求められますが、簡易簿記でも10万円の控除が可能です。
つまり複式簿記での記帳ができない人でも、青色申告での確定申告を選択するだけで、10万円の控除が受けられます。
赤字を繰り越せる
青色申告者は赤字の繰り越しが可能です。損益通算で清算できない赤字(純損失の金額)が生じた場合は、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越せます。
例えば1年目の確定申告で、50万円の赤字が生じたと仮定しましょう。2年目の確定申告で50万円の利益が生じた場合、50万円の利益から繰越損失の50万円を差し引けます。課税所得は0円となるため、所得税はかかりません。
前年度も青色申告をしていた場合は、赤字の繰り越しをしない代わりに、50万円の損失額を前年に繰り戻し、前年分の所得税の還付を受けられます。
家族の給与を経費にできる
申告者と生計を一にする配偶者および親族への給与は、経費計上できないのが原則です。しかし青色申告者は「青色事業専従者給与の特例」によって、支払った給与の全額を経費計上できるのがメリットです。
特例を受けるためには、事業に従事する配偶者・親族が、以下のような「青色事業専従者」の要件を満たす必要があります。
- 青色申告者と生計を一にしている
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上である
- その年を通じて6カ月以上、その青色申告者の営む事業に専ら従事している
白色申告者は事業専従者が事業主の配偶者なら86万円、配偶者以外なら1人につき50万円の「事業専従者控除」が受けられます。
30万円未満の減価償却費を一気に経費にできる
減価償却資産を取得した場合、耐用年数に応じて分割して経費計上するのが通例ですが、青色申告者は当該減価償却資産の合計額300万円を限度とし、30万円未満の減価償却資産を一括計上できます。
早いタイミングで経費に算入すれば、その期の課税所得を抑えられるのがメリットです。税金の支払いを先延ばしできる分、手元に資金を残しやすくなります。
対象となる減価償却資産は、器具・備品・機械・装置などの有形減価償却資産と、ソフトウェア・特許権・商標権などの無形減価償却資産です。取得金額が30万円未満であれば、新品・中古を問いません。
貸倒引当金を計上できる
「貸倒引当金」とは売上債権の回収不能に備え、損失金額を見積って経費計上するお金です。年末時点で回収されていない売掛金などに対し、一定の方法で算出した損失金額(見込額)を今年の経費として計上します。
事業所得がある青色申告者は、一括評価による貸倒引当金の計上が可能です。年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下の金額を貸倒引当金の勘定科目に繰り入れた場合、その金額が経費として認められます(金融業は3.3%)。
支出を伴わずに経費として計上できるため、その年は一定の節税効果が見込めます。ただし翌年には「貸倒引当金戻入」として、収入に計上される点に留意しましょう。
青色申告を利用すべき人は?
確定申告の方法は自由に選択できます。それぞれにメリットとデメリットがあるため、青色申告と白色申告のどちらにすべきか、悩む人は多いはずです。青色申告を利用した方がよいのは、どのような人なのでしょうか?
節税効果を高めたい個人事業主
青色申告は節税効果が高く、場合によっては所得税を納めずに済む可能性があります。事業収入がある人やこれから事業を大きくしていきたい人は、青色申告を使わない手はないでしょう。
所得税にはさまざまな所得控除があり、青色申告の特別控除を使わなくても、所得税が0円になる人もいます。
「ほとんど儲けがないから白色申告で十分」と考える人もいますが、所得が少ない人や赤字の人ほど、青色申告の恩恵を活用すべきだといえます。青色申告では赤字を3年にわたって繰り越せるため、翌年以降に黒字が出れば、相殺によって所得税を抑えられます。
手間をかけてでも節税したい事業主
65万円の青色申告特別控除を受けるためには、正規の簿記の原則に従い、複式簿記で帳簿を付ける必要があります。会計の知識がない人にとって複式簿記は難しく、途中で挫折してしまうケースも珍しくありません。
「節税効果も大事だが、何より簡単なのがいい」という人は白色申告でも構いませんが、「多少手間がかかっても節税したい」という人は青色申告を選択しましょう。
金融機関の融資審査では、決算書の内容が重視されます。白色申告で帳簿を記録している場合、内容の正確性が担保されず、審査の評価が下がる恐れがあります。将来的に融資を検討している人は、面倒でも青色申告を選ぶのが賢明です。
近年は簿記の知識がなくても、簡単に青色申告ができる会計ソフトが存在します。手間がかかるという理由だけで青色申告を諦めているならば、会計ソフトを導入しましょう。
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青色申告をするための準備
青色申告をする最初のステップは、青色申告承認申請書の作成と提出です。白色申告とは異なり、青色申告をするには事前の申請が必要です。期日までに申請しない場合、その年の確定申告は白色申告で行います。
最初に「青色申告承認申請書」を提出
青色申告を希望する人は、青色申告承認申請書を提出しなければなりません。提出期限は「青色申告書による申告をしようとする年の3月15日」で、提出先は「納税地を管轄する税務署」です。
フォーマットは国税庁のWebサイトからダウンロードするか、税務署の窓口で入手しましょう。記載する内容は以下の通りです。
- 事業所の名称と所在地
- 所得の種類
- 過去に青色申告承認の取消または取りやめがあったかどうか
- 本年1月16日以後新たに業務を開始した場合、その開始した年月日
- 相続による事業承継の有無
- 簿記方式
- 備え付けの帳簿名
開業届について
個人事業主として事業を始める際は、税務署に開業届を提出しましょう。正式名称を「個人事業の開業・廃業等届書」といい、事業の開始を税務署に知らせるための書類です。
所得税法第229条には事業を始めてから1カ月以内に開業届を出さなければならないと、明記されています。期限を過ぎてもペナルティはありませんが、事業を始めたらできるだけ早めに提出しましょう。
これから開業をする人で、事業開始時から青色申告を希望する人は、開業届と青色申告承認申請書を同時に提出すると手間が省けます。
マイナンバーカードについて
e-Taxでの電子申告を検討している人は、マイナンバーカードを作成しておくと手続きがスムーズに進みます。
e-Taxとは申請などの各種手続きを、インターネット上で行えるシステムです。e-Taxを利用するには電子証明書の取得が必要ですが、マイナンバーカードには、電子申告で使える電子証明書が内蔵されています。
マイナンバーカードを持っている人は、スマホやICカードリーダーでマイナンバーカードを読み取り、e-Taxに簡単にログインできます。マイナンバーカードがない人でもe-Taxは使えますが、税務署で本人確認を行わなければならず、時間と手間がかかります。
青色申告に必要な書類・保存すべき書類は?
青色申告は提出する書類や帳簿の付け方によって、控除額が異なります。最大65万円の控除を狙う場合は、複式簿記で帳簿を記帳した上で、電子申告または優良な電子帳簿保存を行うのがルールです。青色申告に必要な書類と、保存すべき書類をチェックしましょう。
帳簿関係
青色申告者には帳簿や領収書などの書類を保存する義務があります。帳簿書類には保存期間があり、税務職員に提示を求められた場合は速やかに提示しなければなりません。保存が必要な書類と保存期間は以下の通りです。
保存が必要な書類 | 書類の一例 | 保存期間 |
---|---|---|
帳簿 | 仕訳帳・総勘定元帳・現金出納帳・売掛帳など(青色申告承認申請書に記載したもの) | 7年 |
決算関係書類 | 損益計算書・貸借対照表・棚卸表など | 7年 |
現金預金取引などに関する書類 | 領収証・小切手控え・預金通帳・借用証など | 7年(前々年分の事業所得・不動産所得の金額が300万円以下の場合は5年) |
取引に関して作成・受領した書類 | 請求書・見積書・契約書など | 5年 |
55万円控除の場合
青色申告者は控除額にかかわらず、「青色申告決算書(一般用)」「確定申告書」「添付書類台紙」の3種類を提出します。55万円の控除を受ける場合は、以下の要件を満たす必要があります。
- 複式簿記による帳簿付けをしている
- 複式簿記に基づいた貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し、控除適用を受ける金額を記載している
- 確定申告期限(翌年3月15日)までに当該申告書を提出している
帳簿には「主要簿」と必要に応じて作成する「補助簿」があります。主要簿は仕訳帳と総勘定元帳の2種類で、これらを基に青色申告決算書を作成する流れです。
青色申告決算書は4ページ構成で、「損益計算書(1ページ目)」「損益計算書の内訳(2・3ページ目)」「貸借対照表(4ページ目)」から構成されています。10万円の控除の場合、貸借対照表の記載は必要ありません。
65万円控除の場合
65万円の控除を受けるには、55万円の要件に加え、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- e-Taxによる申告
- 優良な電子帳簿の保存
電子帳簿保存とは帳簿を電子データのまま保存できる制度です。確定申告期限までに一定の事項を記載した届出書を提出し、かつ優良な電子帳簿の要件を満たして電子データによる備え付け・保存を行った場合、65万円の控除が受けられます。
優良な電子帳簿とは電子帳簿を保存するための要件に加え、以下の3つの要件を満たしたものを指します。
- 訂正の履歴が残る
- 帳簿間で相互互換性がある
- 日付・金額・相手方の検索機能がある
多くの人にとっては、e-Taxによる申告(電子申告)の方がハードルが低いかもしれません。
青色申告で確定申告をする際の手順
白色申告は収支の簡単な記載のみで済みますが、青色申告の場合は、帳簿を基にした青色決算書を作成する必要があります。65万円の控除を受けるのであれば、e-Taxの事前登録も済ませておかなければなりません。確定申告の流れとポイントを解説します。
コツコツと帳簿を付ける
確定申告は当期の記帳を全て完了させた後に行います。確定申告前にまとめて帳簿を付けようとすると時間がかかるため、日々の帳簿付けを怠らないようにしましょう。
55万円・65万円の控除を受ける場合は、複式簿記による記帳が必要です。複式簿記とは借方と貸方を使ってお金の出入りを記録する方法で、取引による資産の増減を把握しやすいのが特徴です。
記帳をする際は金銭のやり取りの有無に関係なく、「商品の引き渡しやサービスの提供があった時点」で行いましょう。取引が発生した時点で収入・経費を把握する考え方は、「発生主義」と呼ばれます。
青色申告決算書を作成する
続いて帳簿に基づいて青色申告決算書を作成します。一般用様式の書類は損益計算書・損益計算書の内訳・貸借対照表より構成されています。
損益計算書は1年間の所得がどれだけあったのかを示す書類です。月別の売上や勘定科目の詳細は、損益計算書の内訳に記載します。
貸借対照表は決算時点における経営状態を表したもので、「資産の部」「負債・資本の部」「事業主借・元入金」の3つの部分があります。
会計知識のない素人では作成が難しいですが、会計ソフトを使って仕訳作業を行えば、貸借対照表のデータは自動的に作成されます。
確定申告書を作成する
申告書用紙は税務署や確定申告会場、市区町村の担当窓口などで入手できます。かつては確定申告書Aと確定申告書Bの2種類がありましたが、2022年より書式が1本化されました。
申告書は以下の5つの部分に分かれており、順番に記載していくと所得税額が算出されます。
- 収入金額など
- 所得金額など
- 所得から差し引かれる金額(所得控除)
- 税金の計算
- その他
確定申告書の作成方法には、「申告書用紙を使う方法」と「e-Taxを使う方法」があります。e-Taxを利用すれば、入力するだけで青色申告決算書や確定申告書が作成できます。
青色申告の提出時期・方法について
確定申告には期限があります。青色申告は白色申告よりも手間がかかるため、余裕を持って準備を進めることが肝要です。青色申告の提出期限や提出方法をチェックしましょう。
提出時期は原則申告をする年の3月15日まで
確定申告書の提出期間は、2月16日~3月15日が原則です。3月15日を過ぎて提出した場合、55万円・65万円の青色申告特別控除は受けられません。
期限後申告として「無申告加算税」が課せられるほか、納付の日までの「延滞税」も併せて納付しなければならないため、期限内に必ず申告を済ませるようにしましょう。
「青色申告を試みたが間に合いそうにない」という人は、「青色申告取りやめ届出書」を提出した上で、白色申告で申請するのも1つの手です。
提出方法は大きく分けて3種類
提出方法は「税務署の窓口で提出」「郵送で提出」「e-Taxで提出」の3パターンです。
窓口で対応してもらえる時間は平日の午前8時30分~午後5時で、土日・祝日・年末年始は休みです。閉庁時は税務署に設置されている時間外収受箱に、書類を投函しても構いません。
郵送の場合には消印日が提出日です。3月15日の時点で税務署に書類が届いていなくても、消印が3月15日以前であれば、期限内に提出されたと見なされます。申告書の控えが欲しい場合は、返信用封筒と所要額の切手を同封しましょう。
e-Taxで提出する場合、自宅のPCまたは確定申告書など作成コーナーで書類を作成します。作成したデータをインターネット上で送信するだけなので、手間がかかりません。
節税効果の高い青色申告にチャレンジ!
青色申告の書類作成は税理士に依頼すると安心です電子申告を選択すれば、最大65万円の青色申告特別控除が適用となり、大きな節税効果が得られます。
白色申告をしている個人事業主の中には、帳簿付けや貸借対照表が難しいといった理由で青色申告を諦めている人も少なくありません。自分で行うのが困難な場合は、税理士に確定申告の代行を依頼する手もあります。
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