事業を経営している立場だと、税務署のチェックが入る税務調査に対して不安を覚えますよね。しかし税務調査は事前対策や当日の立ち回り方、なにより常日頃の記録や対応を行っていればまったく怖くありません。当記事では「そもそも税務調査とはなにか?」という基本を始め、対象者の選び方や当日の流れ、普段からの心構えを解説します。ぜひ最後までご覧いただき、税務調査対策を万全にしてくださいね。
この記事を監修した税理士
進藤崇 - 東京都中野区新井
税務調査とは? 目的や時期、何年おきに行われる?
「調査官が来るなんて、そのまま逮捕になるんじゃ…」と不安かもしれませんが、よほど悪質な行為が認められない限り、いきなり逮捕はありえません。まずは税務調査の基礎知識として、調査を行う目的や実施時期・周期についてご紹介します。
税務調査とは
税務調査とは、簡単に言えば「納税者が正しい納税を行っているかを確認する作業」です。納税者(法人・個人事業主等)が間違った金額で確定申告していたり、故意に所得を隠して税金を逃れたりしていないかを、税法に沿ってチェックします。もし誤り・虚偽が発覚したときは修正ののち再度申告、追加の税金(追徴課税)を納めます。
税務調査の実施・監督者は、国税庁管轄下の税務署や国税局調査査察部です。多くの場合は税務署による「任意調査」となり、事前に会社や顧問税理士に通知されます。しかし、脱税の疑いが大きい場合は国税局調査査察部による事前通知なしの「強制調査」、いわゆるドラマや小説で有名なマルサによる捜索が行われるのです。
もし税務調査を受けることになると、精神的・時間的な負担になるのは避けられません。かかる労力を最低限にするためにも、正しい知識と周到な準備が必要になります。
税務調査の目的
税務調査の目的は、主に以下の2つです。
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日本の確定申告は納税者からの申告方式であるため、「意図しない計算間違い」「故意の仮装・隠匿など」が発生する可能性があります。こうした「間違いや不正を行った人」と「真面目に納税している人」が不公平にならないよう、申告された法人税・消費税が事実に基づいているかを見るのです。
つまり普段から真面目かつ正確に申告していれば、税務調査に恐れを抱く必要はありません。
税務調査が多く行われる時期は?
結論から言うと、税務調査がもっとも行われる時期は9~11月です。なぜなら税務署の人事異動による調査チームの再編が7月にあり、その後に本格的な調査が始まるためです。7~8月は調査先の選定、準備調査、小規模企業・個人事業主への税務調査が中心となり、9月に入ると税務調査実行のピークを迎えます。
もちろん9~11月だけでなく、税務調査は1年を通じて行われます。実施頻度の大体の目安を以下の表でまとめました。
12月 | 企業と税務署ともに忙しい年末はピークより頻度が落ちる。 |
1~3月 | 法人の年末調整・確定申告の時期で税務署・税理士ともに忙しくなるため、ほぼ行われない。 |
4~6月 | 3月度会計決算等で税務署も忙しくなり、会社側も受け入れる余裕がないため確率は低い。 |
ただし実施時期に関する公的な決まりはないため、あくまで参考程度に留めておいてください。もし税務調査の時期についてさらに知りたい場合は、下記の記事をぜひご覧ください。
税務調査は定期的にやってくる?
「何年に1回来るのか」「定期的に行うのか」等の税務調査の頻度については、時期と同じく決まっていません。「3年に1回は行われる」とも言われますが、実際は何十年も調査されないことも。事実、「税務行政の現状と課題|国税庁」では、実調率(税務調査に来る割合)は法人が30年・個人が100年に一度と記載があります。
ただし調査されやすい法人・個人事業主は存在しており、定期的なマーク・チェックが行われています。たとえば以下のケースに当てはまると、毎年行われる可能性もあるでしょう。
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つまり法人や個人事業主の規模や業種、過去の申告状況でも税務調査の頻度は変化します。税務調査の頻度に関してさらに知りたい場合は、下記の記事をぜひご覧ください。
税務調査には種類がある?
税務調査にはいくつか種類があり、事前通知の有無や実施目的に違いがあります。ここでは税務調査にはどんなものがあるのかを順番に解説していきます。
①強制調査
強制調査とは「マルサ」とも呼ばれ、裁判所の捜査令状を基に行われる税務調査です。「非常に悪質な脱税をしている可能性がある」と判断したときに実施し、事前通知なしで証拠物件や書類の押収を行います。さらに、脱税額が1億円以上になる・悪質な隠蔽などが認められると検察庁に告発、検察官の捜査に切り替わります。
強制捜査は国税通則法第132条に則り、強制的な差し押さえや記録命令、捜索が行われ、不正が発覚すれば刑事事件として起訴。有罪となれば懲役または罰金刑、さらに重加算税等の追徴課税が発生します。
◆悪質な法人への税務調査の件数について
国税庁の「平成29年事務年度、法人税等の調査事績の概要(平成30年12月)」に記載されている、悪質な不正計算が想定される法人に対する調査のデータを表にまとめました。
項目 | 平成28年 | 平成29年 |
実地調査件数 | 97,000件 | 98,000件 |
非違があった件数 | 72,000件 | 73,000件 |
うち不正計算があった件数 | 20,000件 | 21,000件 |
申告漏れ所得金額 | 8,267億円 | 9,996億円 |
不正所得金額 | 2,543億円 | 2,891億円 |
調査による追徴税額 | 1,732億円 | 1,948億円 |
調査1件当たりの申告漏れ所得金額 | 853万4,000円 | 1,023万5,000円 |
不正1件当たりの不正所得金額 | 1,286万4,000円 | 1,406万6,000円 |
調査1件あたりの追徴税額 | 178万8,000円 | 199万5,000円 |
参考:平成29年事務年度、法人税等の調査事績の概要(平成30年12月) |
平成29年は実地調査9万8,000件に対し、非違・不正があったのが7万3,000件。つまり税務署に悪質と判断された法人への調査は、7割強の割合で申告漏れ・所得隠しが発覚しています。
②任意調査は大きく分けて2種類 準備調査と実地調査
一般的な税務調査に当たるのは「任意調査」です。資本金1億円未満の法人・個人事業主は税務署の調査部門、1億円以上で国税局の担当部門が実施します。受けるかどうかは任意ですが、正当な理由なく拒否する・質問に答えないは認められず、事実上断れません。
任意調査には、準備調査と実地調査の2種類が存在します。調査側が内々で実施するのが準備調査、実際に調査官がこちらに出向いて目視するのが実地調査です。それぞれの詳細を以下でご説明します。
◆準備調査
準備調査とは、税務署が保管している納税者の開業届や確定申告、立地条件を確認し、事前に納税者の状況を把握するための調査です。あらかじめ「数値が怪しい」「不正がありそう」と目星をつけ、問題点を洗い出します。この準備調査で「追徴課税が発生しやすい」と判断された納税者が、優先的に実地調査対象となるのです。
準備調査は申告書や過去の申告状況(過去5年間)のチェック以外に、「外観調査」と「内偵調査」も行うケースもあります。
- 外観調査の例:飲食店の場合は事前に外から客の出入りを確認・代表者の自宅の外観を見回る
- 内偵調査の例:会計時レジを打っているか等の現金の流れを確認・代表者の個人申告状況もチェック
◆実地調査
実地調査とは、実際に税務署・国税局の職員が法人・個人事業主の会社に訪問する調査です。私たちに直接関係する税務調査に当たります。帳簿・書類の調査や関係者へのヒアリング、現場や金庫の確認など、調査官の判断でさまざまな資料・場所にチェックが入ります。
なお、実地調査の種類も1つではありません。通常行われる一般調査、抜き打ちで行われる現況調査、さらに詳細なチェックを実施するその他の調査(反面調査・特別調査)があります。
一般調査
一般調査とは、納税者が申告した所得額や経費が適正であるか、税法の規定通りに処理されているか等を確認する実地調査の1つです。帳簿の確認を主に行い、調査官の必要に応じて工場や倉庫のチェックも行います。
一般調査を実施する際は、納税者もしくは顧問税理士に1週間~10日前に電話・文書で事前通知されるのが基本です。希望の日程と擦り合わせながら調査に臨みましょう。この一般調査が調査全体の8割を占める、私たちにとって1番身近な税務調査と言えます。
現況調査
現況調査とは、帳簿の確認だけでなくレシートの発行状況・レジ金額の管理状況などの現金管理に関するチェックを行う実地調査の1つです。特性上、主に飲食店等の現金商売する事業者を対象に行われます。一般調査と異なり、調査官から事前通知がありません。当日に予告なく始まることから、抜き打ち調査とも呼ばれます。
強制調査とは違っていきなり捜査とはならず、税理士と契約していれば到着を待ってから調査が始まります。ただし「抜き打ちでないと改ざんや証拠隠滅の恐れがある」と疑いを持って行われるので、日程の変更等の融通は利かないと考えておきましょう。
その他の調査
その他の税務調査として、反面調査と特別調査があります。
◆反面調査
反面調査とは、調査対象の納税者ではなく「調査対象が取引している販売店・仕入先や利用金融機関」に実施される実地調査です。調査官が「ここの情報だけでは足りない」「本当のことを言っているかわからない」と判断したとき、裏付けを取るために行います。確認するのは、あくまで納税者と取引先で行われたやり取りに関する部分のみです。
しかし取引先へのヒアリングや資料提出の催促、退職した社員への調査がされるため、どうしても迷惑をかけてしまいます。非協力的態度や申告書・帳簿の不備が反面調査実施の要因となるため、誠実かつ抜けのない管理や対応を心がけましょう。ただ反面調査は、一般の人が対象になることはほとんどありません。
◆特別調査
特別調査とは、準備調査の時点で脱税・不正の可能性が高いと判断し、「通常の一般調査だと不十分だ」との判断で行われる実地調査です。あくまで任意調査ではあるものの、「特別調査部門」の担当者2~10人によって、一般調査の倍以上の時間をかけて捜査します。当然、事前通知もありません。
税務調査の対象はどうやって決まる?
税務調査の調査先は、国税庁や税務署がある程度の基準に沿って選定しています。この選定基準を事前に確認し、税務調査の標的になりにくい経営を行いましょう。ここでは「税務調査の対象はどうやって決まるのか」を解説します。
税務調査の対象を決定する流れ
税務調査対象を決定は、主に以下の順番に沿って行われています。
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厳密に言うと、税務調査先の決定方法は公表されていません。しかし国税庁は、国税総合管理システム(通称KSKシステム)を選定に利用すると国税庁公式サイトにて発表しています。KSKシステムとは、多忙化する国税庁の業務の効率・簡素化することを目的に構築されたITシステムです。
1つの目安として、「KSKシステムで約10件、調査官がそこから2、3件に絞り込む」と覚えておくとよいでしょう。
KSK(国税総合管理)システムでは何を基準に判断する?
KSKシステム(国税総合管理)システムが税務調査先を選定するとき、主に以下の要素を分析・考慮して決定していると言われています。
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言い換えると上記の選定基準に当てはまらなければ、それ自体が税務調査対策になります。KSKシステムに選定されない健全な経営・事業展開を行うことで、うまく税務調査を避けられるでしょう。
◆法人税の不正発見割合・不正所得額が高い業種
税務調査のターゲットにされやすいとされる、「法人税の不正発見割合や不正所得額が高い業種」を国税庁が発表しています。それぞれの10業種は以下の通りです。
不正発見割合が高い10業種 | 不正1件当たりの不正所得金額が大きな10業種 |
バー・クラブ 66.4% |
その他の飲食料品小売 5,561万8,000円 |
外国料理 48.1% |
パチンコ 4,929万円 |
大衆酒場・小料理 41.8% |
水運 3,805万6,000円 |
その他の飲食 36.2% |
建売、土地売買 3,486万3,000円 |
土木工事 30.0% |
その他の繊維製品製造 3,042万3,000円 |
その他の道路貨物運送 29.3% |
自動車・同附属品製造 2,873万1,000円 |
パチンコ 29.2% |
電子機器製造 2,759万2,000円 |
職別土木建築工事 27.9% |
医薬品 2,720万6,000円 |
自動車修理 27.8% |
その他の飲食料品卸売 2,556万6,000円 |
一般土木建築工事 27.2% |
野菜・果物卸売 2,395万1,000円 |
参考:平成29年事務年度、法人税等の調査事績の概要(平成30年12月) |
また国税庁公式サイトの「調査取組状況等」では、その他不動産や構築金属製品製造も不正が多い業種として挙げられています。
税務調査官は何を基準に判断する?
KSKシステムで税務調査先の候補を絞り込んだ後、税務調査官は主に以下の基準で最終的なターゲットを決定すると言われています。
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KSKシステムと同じく税務調査官の選定基準を考慮した経営を行えば、税務調査をうまく躱せます。怪しまれない正しい申告を心がけてください。
事前通知と事前通知後の準備
税務調査における事前通知とは、調査対象になる納税者と税務代理人の双方に対し、納税者の事業所で質問検査等を行う旨を税務署・国税局からあらかじめ伝えることです。事前通知の内容は国税通則法第74条の9、通則法令30条の4条に基づき以下11項目が設定されています。
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参考:e-Gov|国税通則法 |
まとめると、「いつ」「どこで」「どれくらい」「なぜ」「何を」等の情報をあらかじめ伝えるのが事前通知です。ただし特別調査や現況調査は事前通知がなされないため、ある日突然行われるパターンにも警戒が必要です。ここでは税務調査について、事前通知があるとき・ないときの双方について解説します。
ほとんどの税務調査は事前通知がある
全体の約8割を占める一般調査が普通であることから、ほとんどの税務調査では会社・顧問税理士に電話や文書で事前通知されます。しかし、飲食店等の現金中心の商売をしているところで証拠隠滅を図る疑いのある場合、事前通知なしでの実行もありえるでしょう。
規定はないですが、一般的に7~10日前に通知があると言われています。もし事前通知を受けた場合はすぐに了承するのではなく、一度日程の検討や税理士への相談を行いましょう。税理士の立会要請や質問対策などを整え、問題なく対応できる準備・期間を確保してから臨むことをおすすめします。
◆事前通知が来ない場合
納税者に対して脱税の疑い、それに伴う仮装・隠匿の証拠隠滅の恐れがある場合、事前通知が来ない場合もあります。「重加算税の対象になりそう」「故意の所得隠し・申告漏れがありえる」と判断されたり、不特定の業者・個人との現金決済取引を行っていたりする場合は、事前通知なしでの税務調査が考えられます。
もし事前通知なく税務調査が入った場合でも、焦らず以下の対応を取りましょう。
- 税務調査を行う理由を聞く
- 顧問税理士に連絡する
- 日程の延期は調査官に具体的かつ丁重にお願いする
調査場所の確保と調査応対者を選定しよう
税務調査の事前通知を受けた後は、まず調査場所の確保と調査応対者を選定しましょう。
◆調査場所
調査官の作業効率を考え、帳簿や領収書が十分に広げられるだけのスペースを確保してください。調査効率が落ちる場所を選んでしまうと時間がかかり、結果的にこちらの労力や負担も増します。調査場所は本店や営業所、確保できないは会計事務所になることが多いため、事前に下見等を行いましょう。
◆調査応対者
社長と経理、立会の税理士で応対するのが望ましいです。このとき、社長は経営について、経理は経理状況について、税理士は複雑な税項目についてなど、質問ごとに答える役割を決めることをおすすめします。
必要書類の準備をしよう
税務調査で必要になる書類は、あらかじめ過不足なく準備しておきましょう。書類は何年分にも及ぶ膨大な量が予想されるので、事前に種類や内容の自己チェックを行ってください。調査対象期間は大体過去5年間なので、最低でも直近3年間分の用意が必要です。
以上を過去3~5年分 |
その他の準備も万全に
チェックが円滑に進むように、書類以外のその他の準備も万全にしておきましょう。たとえば机・書類や資産を保管している場所の整理、邪魔になりそうな不用品の撤去、提出書類に貼られている付箋やメモ書きなどの処分等です。電子メールやエクセルデータの閲覧もあるため、その辺りも注意して見てください。
また、製造ラインの流れや遠隔地取引に関する内容、イレギュラーな取引などに対する質問の返答も整理しておきましょう。しっかりと回答できなければ、疑いの目を向けられるかもしれません。もちろん現金残と現金出納帳の残高を合わす等、帳簿・出納帳の数値の確認も抜けなく行ってください。
税務調査当日の流れとその後
事前通知を受け、当日の準備を整えたらいよいよ税務調査(実地調査)本番です。実地調査は1~3日かかるのが一般的で、資料や取引内容、帳簿の数値等のチェックが行われます。ここからは実地調査の大体の流れを、時系列に沿ってご紹介します。
税務調査当日の流れ
税務調査の実地調査は丸1日仕事です。事前に税理士の同席をお願いしておきましょう。前提として、質問に対する虚偽の返答や書類改ざん、非協力的態度は絶対に避けてください。重加算税や刑罰の対象になります。
◆調査官の来社
朝の10時くらいに税務署もしくは国税局の調査員が訪問します。このとき身分証明書を必ず確認しましょう。万が一調査員を装った不審者を通してしまえば、会社の企業秘密や個人情報を抜き取られてしまいます。
◆午前の調査
午前中から本格的な調査はせず、簡単な雑談や事業説明で始まるのが基本です。しかしベテラン調査官ほど、何気ない会話や説明の中から申告内容との矛盾点を探しています。業務内容や取引先、金融機関、従業員について等の話題が振られたときは注意してください。
とくに交友関係や経歴はポロッと本音を話しがちなので、そこから捜査の手が伸びる可能性も高いです。なんてことない会話に見えて、調査官は自身の評価アップや不正を暴くため常に目を光らせています。
◆昼休憩
調査官への昼食の準備は必要ありません。調査官は「国家公務員倫理規定」の関係で、こちらからの飲食提供を受けないためです。
(利害関係者と共に飲食をする場合の届出)
第八条 職員は、自己の飲食に要する費用について利害関係者の負担によらないで利害関係者と共に飲食をする場合において、自己の飲食に要する費用が一万円を超えるときは、次に掲げる場合を除き、あらかじめ、倫理監督官が定める事項を倫理監督官に届け出なければならない。ただし、やむを得ない事情によりあらかじめ届け出ることができなかったときは、事後において速やかに当該事項を届け出なければならない。
「きちんともてなさなきゃ…」「接待でもして気をよくしよう」等は考慮しなくて大丈夫です。
◆午後の調査
午後からは本格的な調査がスタートします。帳簿確認や質問等が進むので、淀みなく提出・受け答えができるようにしておきましょう。主に以下の深堀りが多い傾向が見られます。計上数値・申告所得との整合性が取れるよう、正確な応対を行ってください。
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1日目の調査の終わり近くには、2日目の調査に必要な資料や1日目で気になった問題点についての打ち合わせがあります。2日目以降の調査内容にも影響するため、解釈の違いや意見の相違をここで解消しておくと後がスムーズです。遅くとも午後5時くらいには調査は切り上げられます。
◆2日目以降の対応について
2日目以降は1日目の調査結果に基づいて進みます。1日目の調査の続きはもちろんのこと、源泉所得税関係や経費関係の数値のチェックなどが行われ、内容次第では場所の変更や現場・倉庫での調査になる可能性もあります。事業規模や調査範囲によっては1日で終了、逆に3日以上かかることも考えられるでしょう。
税務調査だけでは不十分と判断された場合は、取引先や金融機関への反面調査に発展する場合もあります。
税務調査終了後の流れ
当然ながら終了直後に「結果が出たので税金を納めてください」とはなりません。結果の通知は必ず後日に行われます。
税務調査での実地調査が終わると、調査官は収集した事実やデータを持ち帰って報告書を作成し、最終確認作業を行います。この確認作業後に問題ないと判断されれば、その時点で税務調査は無事終了です。確認期間は事業規模等で変わり、短い場合は1週間、大企業だと数ヶ月要することもありえます。
申告内容が適正であったときは、書面でその旨を伝えられます。その後に手続き等はありません。申告内容に問題点が見つかったときは、税務署から問題点の説明や指摘を受け、修正点についての擦り合せを行います。修正点が確定すれば納税者はその部分を修正、該当する追徴課税分だけ税金を納めなければなりません。
◆修正と更正の違いついて
税務調査後に修正すべき点が見つかった場合、申告書の修正、もしくは更正を行います。修正は納税者が自分から間違いを直すことを指し、更正は税務署・国税局長が間違いを正すよう処分することを表します。一見更正だとペナルティが重そうですが、追徴税額や罰則に違いはありません。
大きな違いとして、修正は不服申立てができない点が挙げられます。更正の場合は税務署長への再調査請求や国税不服審判所長に対して審議の要求が可能ですが、修正だと行えません。ただ税務署としては更正処分にすると余計な手続きが増えるため、間違いがあっても修正申告を促すのが基本のようです。
税務調査の罰則 無申告や過少申告が発覚したらどうなる?
もし税務調査で違反が発覚すると、附帯税(付帯税)と呼ばれる重い追徴課税が課せられます。さらに状況によっては、懲役刑や罰金刑が処される可能性も。以下より、税務調査で違反がわかったときに発生するペナルティについて解説します。しっかりと理解し、同じことが起きないように注意してください。
1年以下の懲役の可能性も!
もし税務調査での違反が悪質と判断されれば、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(国税通則法第128条)」の刑事罰を受けます。以下の態度・行動は避けてください。
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◆脱税と判断されれば懲役10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑
万が一税務調査によって1億円を超える等の悪質な脱税行為が発覚した場合は、国税通則法に則り「懲役10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑」に処されます。さらに次に説明する重加算税も発生するため、実質2つの重い罰を負うことになるのです。
受ける可能性がある罰則一覧
税務調査で誤りが指摘された場合、附帯税(付帯税)と呼ばれる追徴課税を支払う必要があります。発生する追徴課税・税率は主に以下の4つです。
過少申告加算税:10% |
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無申告加算税:15% |
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重加算税:35~40% |
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延滞税:特例基準割合+1%もしくは7.3% |
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過少申告加算税
過少申告加算税とは「確定申告した所得額が少なく、納めた税金が通常より少額だった場合」に課せられる附帯税です。
たとえば納めた税金が300万円で実際は340万円だった場合、増えた金額の10%で4万円が過少申告加算税になります。実額が360万円だと50万円までが10%、残り10万円が15%の適用です。ただし、税務署の指摘前に気づいて修正したときは発生しません。
無申告加算税
無申告加算税とは「本来の提出期限から遅れて申告する」「税務署に指摘されるまで申告しない」等、確定申告を期限までに行わなかったときに課せられる附帯税です。
たとえば発生した税額が30万円だった場合、30万円の15%で4.5万円が無申告加算税となります。この数値が60万円だったときは50万円までが15%、残り10万円が20%です。ただし、税務調査の指摘前に気づいたときは5%で済みます。
重加算税
重加算税はわざと所得を隠す、嘘の報告をするなど意図的な仮装・隠蔽・虚偽が認められた場合に、「過少申告加算税」「無申告加算税」に置き換わって課せられる附帯税です。
35~50%という高額の追徴課税になるだけではなく、一度課せられるとその後税務署から常にマークされます。つまり税務調査のターゲットにされやすくなるため、非常に重いペナルティだと言えます。
延滞税
延滞税とは、本来の提出期限から遅れて申告したときに、遅れた日数分だけ課せられる利息のような附帯税です。遅れれば遅れるほど税額が増えることに加え、延滞税は上記3つの加算税とは別に支払う必要があります。
日常から税務調査に備えよう!
もし突然税務調査の対象になったとしても、普段から経理状況・帳簿関係の記入や取引内容を把握していれば、いざというときに慌てる必要はなくなります。常に売上計上や経費関係は整理しておきましょう。ここからは日常で備えるべき税務調査対策をご紹介します。
売上計上業務
売上計上業務のチェックは必ず実施されますので、普段から数値や取引状況を正確に記録することが大切です。一度未計上が発覚すると、事業全体に対して疑いの目が向けられます。売上計上に漏れがないよう、以下の項目に気をつけましょう。
売上管理 | 請求書の内容を売上関係書類(作業日報や納品書)と照合しているか |
入金の仕訳処理 | 売上入金・売掛金の回収・前受金の正確な数値と仕訳処理をチェックしているか |
決算期末の売上計上 | (例)15日期末の場合、16日~31日に発生した端数分の売上計上は入っているか |
その他気をつけるべき部分 | 現金受領はその日のうちに現金出納帳に記録、値引きや返品分の経理処理漏れはないか など |
仕入、外注費関係
仕入れや外注関係は経費に関わってくるため、こちらも要チェック項目です。異常な数値や急激に増えた金額を計上すると、高確率で怪しまれます。正当性を主張するためにも、漏れのない経費計上を心がけてください。
仕入・外注関係の管理 | 仕入れや外注費の証票の確実な保存ができているか(紛失した時は迅速に再発行依頼) |
支払先関係 | 支払先の請求書訂正等は支払先の方で必ず再発行してもらうこと(経理担当の手書き訂正は改ざんが疑われる) |
支払い関係 | 現金支払いの領収書・買掛金の管理・仕入れや外注の計上済分で引き渡しおよび役務の適用が未完了の有無を確認しているか |
その他気をつけるべき点 | 仕入値引等の経理処理漏れはないか など |
棚卸計上関係
棚卸し関係の計上漏れや経理処理漏れは、以下の項目に注意しましょう。とくに自社ではなく他社に預けている在庫は、計上漏れとしてよく挙げられます。
毎日の管理 | 在庫管理や保管場所の把握、社外・仕入先に預けている在庫に漏れはないかを日常的にチェックしているか |
不良品在庫 | 不良品等で廃棄した在庫について廃棄記録を作成しているか |
決算期末 | 納品書や発送伝票から、積送品の有無を把握しているか |
一般管理関係費
一般経費関係は細かい上に種類も多いので、チェック漏れが発生しやすい計上科目です。とくに調査官との解釈の違いが発生すると、いわれのない疑いがかけられるかもしれません。
個人的な支出と誤解されそうなもの | 商品券の購入等、個人的な支出と捉えられそうな経費は、備考欄に詳細を書く・論理的に説明できるようにしておくなど対策はできているか |
カード支払い | カードの明細書と支払い時に交付された領収書の二重計上になっていないか |
事務所関係 | 自宅の一部を会社事務所にしている場合、光熱費等の共通費用は問題なく按分計算しているか |
旅費関係 | 旅費規定作成や旅費精算は適切に完了しているか |
アルバイト・パート関係 | 源泉徴収や給与計算・タイムカードや出勤簿などの勤怠状況は記録しているか |
その他気をつけるべき点 | 備品や修繕費の計上関係、一般管理費の証票等に問題はないか |
その他の注意事項
その他日常的に気をつけるべき点は、書類関係の改ざんや資産の隠匿など税法に反する行為を行わないことです。たとえ経理業務でミスしたとしても、必ず証票類ではなくミスした作業を修正してください。
また、売上や経費管理の一環として、現金残高と現金出納帳の整合性、現金入出金の際の経理処理、仮払金の精算処理などについても普段から確認しておきましょう。
税理士の力を借りて的確な準備を!
日常的に税務調査の対策を立てようにも、複雑な税法の理解やベテランの税務調査官への対応は非常に高難易度です。さらに事業規模が大きいと、普段の経理管理や書類の確認も大変になるでしょう。そこでミツモアでは、税務調査の準備は税理士の力を借りることをおすすめしています。
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顧問税理士でなくても立会い依頼や相談は受け付けているため、税務調査対策は税の専門家に頼みましょう。ミツモアではさまざまな状況に対応できる、一流の税理士に依頼できます。ぜひご活用ください。
監修税理士からのコメント
進藤崇 - 東京都中野区新井
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この記事を監修した税理士
進藤崇 - 東京都中野区新井