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個人事業主がはじめて従業員を雇う際の手続きとは?社会保険や給料に関して解説

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最終更新日: 2024年06月28日

従業員を雇用する場合は給料の支払いだけでなく、それ以外にも多くの手続きが発生します。

従業員への労働条件の通知に始まり、各種保険の加入や源泉徴収の準備、年末調整など、やるべき作業はさまざま。

また、家族を従業員として雇うケースでは、一般従業員を雇う場合と手続きが異なります。

本記事では、従業員を雇用するにあたって必要な手続きや書類、そして日々の労務管理について解説していきます。

この記事の監修税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

公認会計士・税理士・1級FP技能士、 1987年 香川県生まれ 2008年 公認会計士試験合格 2010年 京都大学経済学部経営学科卒業 大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

従業員の定義とは?

「従業員」とは、企業や個人事業主と雇用契約を結んだ労働者を指します。

正社員はもちろん、アルバイトや契約社員など、雇用契約を結んでいれば「従業員」に分類されます。一方、業務委託契約などは従業員には含みません。

従業員との雇用契約では、基本的に決められた所定の時間内でお仕事をして貰う契約を結びます。

そのため、早く仕事が終わった場合は、更に多くの業務をお願いできる点や、一定時間拘束できる点がメリットです。

しかし、仕事に時間がかかってしまうと、時間内に仕事が完了できず、残業して貰う場合は、残業代を支払う必要があるといった、デメリットも存在します。

業務委託契約などの場合は、雇用契約を結んだ従業員と違い「どれだけ時間がかかったか」や「何時に仕事をしたか」は基本的に不問で、期日までに仕事を完了し、提出・共有してくれれば問題ありません。

個人事業主が従業員を雇用すると何が変わる?

個人事業主が従業員を雇用した場合、一人で働いていた際には必要なかった以下のような業務が新たに発生します。

  • 予算の見直し
  • 源泉徴収額の算出
  • 所得税の納付
  • 年末調整
  • 交通費などの経費管理

それぞれ詳しく見ていきましょう。

予算の見直し【期間ごと】

従業員を雇った場合、期間ごとに予算の見直しを行なう必要があります。

もちろん、従業員を雇っていない場合でも多くの個人事業主の方が、毎期の予算について計画するでしょう。

しかし、従業員の雇用に伴った、人件費や、社会保険、源泉徴収など、新たな固定支出が増えることで、更に綿密な予算計画が必要になります。

予算が曖昧なまま、行き当たりばったりの資金繰りを続けてしまうと、利益が出せないどころか「源泉徴収額が払えない」「給与が払えない」といった事態にも陥りかねません。

予算は事業の数値目標管理にもなる値です。

従業員を雇う以上、短期・中期・長期と按分した綿密な予算計画を立てることが必要です。

源泉徴収額の算出【毎月】

従業員を雇った個人事業主は源泉徴収義務者となるため、各従業員の給与を計算する際に源泉徴収する所得税額も算出しなければなりません。

従業員に提出してもらった「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」から扶養状況を把握し、源泉徴収税額表から源泉徴収額を算出します。

「源泉徴収税額表」は国税庁ホームページから確認してください。

このように算出された源泉徴収額を差し引いて、従業員に給与を支払います。

国に納付すべき所得税を個人事業主が一時的に預かることになるので、源泉徴収簿を作成し、その金額を管理する必要があります。

「源泉徴収簿」に関する詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。

所得税の納付【毎月】

個人事業主が源泉徴収した所得税は、原則として毎月納付しなければなりません。

納付期限は給与を支給した翌月の10日までです。税務署から送られてくる納付書に金額等を記載すると、銀行などの金融機関で納付できます。

従業員9人以下であれば「源泉所得税の納期の特例」が受けられる

従業員の数が9人以下の場合には、半年分をまとめて納付できる「源泉所得税の納期の特例」が使えます。

この制度を活用すれば、毎月発生する源泉徴収税額を翌月10日までに納付するのではなく、1年のうち2回に分けて納税が可能です。

【納付時期】

  • 1~6月分の所得税:7月10日までに納付する
  • 7~12月分の所得税:翌年1月20日までに納付する

この特例の適用を受けるためには、税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出しなければなりません。

自動的に納期の特例が適用されるわけではないので、忘れずに申請しましょう

年末調整【年末に1回】

年末調整では1年分の所得税を精算し、払いすぎている所得税を還付したり、足りなかった分を追加徴収したりします。

1年の最後(12月分)の給与を支給する前に、従業員から提出を受けた「給与所得者の配偶者控除等申告書」と「保険料控除申告書」をもとに作業を進めていきます。

年末調整のスケジュール

11月上旬 【各従業員に用意してもらうもの】

  • (中途入社の場合)前職の源泉徴収票
  • 生命保険料控除証明書
  • 地震保険料控除証明書
  • 国民健康保険、国民年金保険料の金額
  • 小規模企業共済、心身障害者扶養共済制度の掛金額
  • 住宅借入金等特別控除の明細書
11月下旬 【個人事業主が用意するもの】

  • 給与所得者の扶養控除等申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 配偶者特別控除申告書
  • 給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書
12月下旬 年末調整の計算
~翌年1月10日 税務署へ納税
~翌年1月31日 源泉徴収票を各従業員に配布

交通費などの経費管理【毎月】

自分だけでなく、雇った従業員の経費についても、毎月管理・精算することが必要になります。

事業にかかった支出を把握し、適切に経費が利用されているか管理することで、自分や従業員の適正な経費利用が可能になり、不正な経費利用を防げます。

自分一人であれば、随時判断すれば済みますが、従業員判断で経費を利用するようなケースや、従業員が経費を立て替えるようなケースがある場合は、特に欠かせません。

また、毎月の経費管理は、事業の状況を正確に把握し、資金需要を予測するための重要な工程です。

個人事業主が従業員を雇用する際の手続きをわかりやすく解説

労働条件通知書 兼 雇用契約書 イメージ
従業員に労働条件を通知することから始めよう!

個人事業主が従業員を雇用するにあたって必要な手続きは以下の通りです。

  1. 従業員へ労働条件の通知
  2. 税務署で給与支払事務所の開設手続き
  3. 労働基準監督署で労災保険の手続き
  4. ハローワークで雇用保険の手続き
  5. 健康保険・厚生年金保険の手続き【従業員4人以下は任意加入】
  6. 源泉徴収の準備
  7. 労務管理書類の作成・保管

従業員を雇用すると、その従業員に対して給料を支払わなければならず、またその従業員を社会保険に加入させる必要があります。

多くの手続きがありますが、いずれも欠かせないものばかりです。忘れずに手続きを行うようにしましょう。

労働条件の通知

事業主は、雇用した従業員に対して労働条件を通知する必要があります。

個人事業主でも法人の場合でも、この義務が発生する点に違いはありません。

【通知すべき労働条件一覧】

  • 雇用形態
  • 契約期間
  • 労働時間
  • 業務内容
  • 休日休暇
  • 給与
  • 給与の支払い方法や期日
  • 勤務地
  • 退職金
  • 労働条件を通知する際には、労働条件通知書を作成します。

労働条件を通知する際には、労働条件通知書を作成します。

また、個人事業主として従業員を雇用する場合には、従業員数にかかわらず「就業規則」を定めると、従業員にその内容を周知してトラブルを回避できるでしょう。

税務署で給与支払いの手続き

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
出典:国税庁「[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」

初めて従業員を雇う際には、税務署に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出しなければなりません。

従業員を雇った日から1か月以内に、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。

給与を支払う事業主は、従業員の税金を徴収して税務署に納付する義務があるためです。

なお、個人事業を新規開業する際に提出する開業届には、給与支払事務所等を開設するかどうかを記載する項目があります。

開業届に記載している場合には、給与支払事務所等の開設届出書を作成・提出する必要はありません。

労働基準監督署で労災保険の手続き

個人事業主が従業員を一人でも雇った場合には労災保険に加入しなければなりません。正社員だけでなくアルバイトを雇用する場合でも同様です。

  • 保険関係成立届;雇用した日から10日以内に提出
  • 概算保険料申告書:雇用した翌日から50日以内に提出

「概算保険料申告書」はその年度の労災保険料見込額を計算する書類ですが、申告書の提出と同時に概算保険料も納付しなければなりません。

申告書の提出および保険量の納付は、所轄の労働基準監督署や各都道府県の所轄労働局で手続きできますが、銀行や信用金庫、郵便局などでも可能です。

④ハローワークで雇用保険の手続き

次の条件に該当する従業員を雇用する場合は、雇用保険の加入手続きが必要です。該当しない場合は加入できません

【雇用保険加入の条件】

  • 1週間の労働時間が20時間以上である
  • 雇用期間が1か月以上である

雇用保険は一般的に失業保険と呼ばれる制度であり、労働者が失業してしまった場合に再雇用までの一定期間、お金が支給される制度です。

【雇用保険加入に必要な書類】

  • 雇用保険適用事業所設置届:雇用した日の翌日から10日以内に提出
  • 雇用保険被保険者資格取得届:雇用した日の翌月10日までに提出

※農林業や建設業は労働保険の二元適用事業となるため、雇用保険等の手続きが異なる

雇用保険加入の条件に当てはまる従業員が1人でもいる場合は、加入の手続きを進めましょう。

⑤健康保険・厚生年金保険の手続き【従業員4人以下は任意加入】

従業員が常時5人以上になった場合は、健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所となるため手続きが必要です。

書類 提出先
  • 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
所轄の年金事務所
  • 健康保険被扶養者(異動)届
社会保険事務所

提出期限:いずれも従業員が5人以上になった日から5日以内

一部の業種では従業員が5人以上いても任意加入となる場合があるので、詳しくは厚生労働省の資料をご覧ください。

⑥源泉徴収の準備

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
出典:国税庁「[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」

毎月の源泉徴収のために、従業員に「給与所得者の扶養控除申告書」を記載・提出してもらいます。

従業員に対して毎月給料を支払う際に、所得税を計算して源泉徴収しなければなりません。

源泉徴収税額を計算するには扶養家族の情報が必要不可欠なため、この書類に記入してもらう必要があるのです。

従業員から預かった「給与所得者の扶養控除申告書」は、事業主が保管しなければなりません。

なお、給与所得者の扶養控除申告書は、毎年従業員に記載してもらう必要があります。

後日税務署に提示を求められるケースもあるため、紛失しないよう毎年保管しておいてください。

⑦労務管理書類の作成・保管

個人事業主が従業員の労働時間や賃金を管理するために行なわなければならないのが、労務管理書類の作成・保管です。

【労務管理書類】

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿(タイムカード)

上記の3つは必ず作成しなければなりません。

これらは「法定3帳簿」と呼ばれ、労働基準法で整備が求められているので、作成後も3年間は保管しておかなければなりません。

なお、これらの複雑な業務を全て理解した上で頭に入れ、何ら間違いなく遂行するのは非常に手間と時間を要します。

本業に集中するため、特に複雑な税務などの業務は税理士に依頼するのがおすすめです。

なお、税理士を実際に選ぶ際には、全国の税理士が登録しているマッチングサイト「ミツモア」を使って、同時に複数税理士を比較検討するのがおすすめです。

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個人事業主が従業員を雇う際のポイント

個人事業主が従業員を雇う際のポイントは以下の6点です。・労働契約を確認する

  • 給与支払いを徹底する
  • 法令を遵守する
  • オンボーディングを実施する
  • コミュニケーションを確立する
  • 職場環境の整備を怠らない

従業員を雇うことで、新たな戦力が増え、事業を更に推し進められます。

しかし同時に、問題が起きる可能性も高くなるため、本章で紹介するポイントを抑えておかなければ、諸刃の剣になってしまいかねません。

従業員を雇う際には、顧問社労士や顧問税理士などに相談することも検討しましょう。

労働契約を確認する

従業員を雇う上で労働契約をしっかり確認しておく事は欠かせません。

労働契約とは、労働基準法や労働契約法に基づいて労使間で交わす契約を指します。

労働におけるルール設定をしっかりしておくことで、労働者と雇用主の双方を守り、問題を未然に防げます。

個人事業主と雇用者の労働契約は、口約束など簡単なものになってしまいがちですが、雇用契約書や労働条件通知書などを取り交わすことが重要です。

労働契約においては、例えば以下の項目を取り決める必要があります。

  • 労働契約期間
  • 就業場所
  • 就業時間
  • 業務内容
  • 時間外労働について
  • 休憩時間
  • 休日
  • 賃金
  • 退職
  • 昇給

など

給与支払いを徹底する

給与の支払いについては、徹底することが必要です。

雇用者にとって生活基盤となる給与の支払いは、決して軽視してはいけません。

労働基準法第24条には以下5点の「賃金支払い5原則」が定められています。

簡単な説明と一緒に見ていきましょう。

  1. 通貨払いの原則:賃金は最も安全な手段である法定通貨で支払う必要がある
  2. 直接払いの原則:賃金は従業員本人に対して直接支払わなければならない
  3. 全額払いの原則:賃金は全額まとめて支払わなければならない
  4. 毎月1回以上払いの原則:賃金は毎月1回以上の頻度で支払わなければならない
  5. 一定期日払いの原則:賃金は毎月決められた期日に支払わなければならない

参考:労働基準法|e-GOV法令検索

上記原則を厳守するのはもちろんですが、給与計算ミスや、支払いの遅れがないよう、徹底して管理することが必要です。

法令を遵守する

法令の遵守も心がけたいポイントです。

労働基準法に基づく、休日、賃金支払い、割増賃金、有休休暇、労働安全衛生法、労働契約法などトラブルや民事上の個別労働紛争に発展しやすい項目については、特にしっかり把握した上で、遵守するように心がけましょう。

また、労働基準法106条には、

「就業規則、36協定等は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示、備え付け、書面の交付などの方法により労働者に周知する必要がある。」

定められており、被雇用者が知らないことをいいことに、雇用者がルールを明示しないことも禁じられています。

特に時間外手当の不払いや有給休暇をめぐる問題、いじめ、パワハラなどは、起きてしまいがちな問題です。

関係法令をしっかり把握した上で、遵守することでトラブルや紛争を避けましょう。

オンボーディングを実施する

オンボーディングを実施することも、今後人を雇用する上で重要になるポイントです。

「オンボーディング」とは、新入社員が、組織内でいち早く活躍するためのサポートプログラムを指します。

転職者の増加や人手不足を背景に、近年広く浸透してきており、実施することで早期戦力化や、早期離脱の防止、生産性の向上などが期待できます。

また、副次的に早期離脱が防止できることによって、採用にかかる人件費などのコスト削減などもメリットでしょう。

具体的には

  • 研修
  • 入社前のインターン
  • 1on1ミーティング
  • 懇親会/歓迎会
  • 入社前見学
  • 質問窓口の設置
  • OJT

等の施策を実施することにより、参画前とのギャップを解消し、早期の戦力化を目指します。

コミュニケーションを確立する

従業員とのコミュニケーションを確立することを目指しましょう。

コミュニケーションをしっかり取ることで、情報共有が円滑にでき、生産性の向上や、信頼関係の構築も期待できます。

今後も従業員を増やす気がある場合は特に、はじめての従業員が参画するこのタイミングで、適切な仕組みやツールの導入、円滑なコミュニケーションの仕組み化、組織内文化の構築に取り組みましょう。

職場環境の整備を怠らない

職場環境の整備を怠らないことが、従業員を雇う際のポイントです。

従業員が働きやすい職場環境に向けて整備していくことで、生産性の向上や、早期離脱の防止などが期待できます。

人数が少ない組織の場合は特に、従業員一人の成長ややる気がそのまま組織の成長や利益に直結します。

従業員が働きやすく、事業に集中できる職場環境を整えることも、雇用主の義務であると心がけましょう。

個人事業主が家族の従業員を雇う際の手続きと注意点

家族経営 飲食店

個人事業主の中には、家族の手助けを受けながら事業を行っている人も少なくないでしょう。

しかし、実質的に家族は従業員にはあたらないと考えるため、一般従業員と手続きが異なります。

青色申告の場合は家族への給与を経費計上できますが、白色申告の場合は経費になりません。その代わりに「専業専従者控除」と呼ばれる控除が受けられます。

【青色申告】「青色事業専従者給与に関する届出」を提出

青色事業専従者に関する届出書
出典:国税庁「[手続名]青色事業専従者給与に関する変更届出手続」

青色申告を行っている場合は、家族に支払う給料を必要経費として認めてもらうために「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出します。

給与の額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までに提出してください。

また、1月16日以降に新たに開業したり家族に給料を支払う場合は、その日から2か月以内に提出しなければなりません。

なお、初めて給料を支払う事業主は、その給料が家族に対するものであっても「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。

【白色申告】事業専従者控除を受ける

白色申告を行っている個人事業主は家族への給料を経費にできませんが、事業専従者控除と呼ばれる定額控除が適用できます。

事業専従者控除の金額は、以下のいずれか低い金額とされます。

  • 事業専従者が配偶者の場合は86万円、配偶者でなければ50万円
  • 事業専従者控除の適用前の事業所得の金額を「専従者の数+1」で割った金額

家族が事業専従者に該当するかどうかにより控除額が大きく変わります。

【事業専従者控除を受けるための条件】

  • 白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族である
  • 12月31日現在での年齢が15歳以上である
  • 1年間のうち6か月を超える期間、白色申告事業者の営む事業に専ら従事している

以上の3つの要件を満たさなければ、事業専従者控除の対象にはなりません。

例えば親族が学生や会社員の場合は、専ら従事しているとはいえないため、事業専従者控除は適用できないのです。

家族従業員は雇用保険に加入できないので注意

家族従事者は従業員とは異なり、解雇されるおそれが少なく、事業主と極めて近い関係にあるため労災保険や雇用保険に加入できません。

ただし、家族従事者の多くも実質的には一般の労働者と同じように働いており、保護する必要があると認められる場合もあります。

そこで一定の条件下で、家族従事者であっても労災保険に加入できるケースがあります。

【家族従事者でも労災保険に加入できるケース】

  • 同居親族以外に一般の従業員がいる
  • 就労実態や労働時間などが他の従業員と同様であり、賃金もそれに準じて支払われている事業主の指揮命令に従っている

これらの条件に該当すれば、労災保険への特別加入が認められます。

個人事業主が従業員を雇うメリット

個人事業主が従業員を雇うことの主なメリットは、以下の2点です。

  • 事務作業を任せて本業に集中できる
  • 業務量が増え事業拡大につながる

メリットとデメリットを把握しておくことで、正しい経営判断ができるはずです。

ぜひ本章を読んで、従業員を実際に雇うか否かの判断に活かしてください。

事務作業を任せて本業に集中できる

従業員を雇うことで、事務作業を任せ、本業に集中できる点がメリットです。

一人で事業を進める場合、売上に直結する本業だけに取り組める場合は非常に稀で、経理処理や、メールの返信、電話対応、請求書作成、各種申請業務など、各種事務作業が付随するケースがほとんどでしょう。

こういった事務作業の一つ一つは細々としていますが、トータルでかかる時間や、分断される集中力を考慮すると、歓迎すべきものではありません。

従業員を雇用した上で、これらの事務作業を任せた場合、本業だけに注力できるようになります。

限られた時間の中で、売上に直結する本業の業務だけに集中できるため、大幅な事業効率の改善が見込まれるでしょう。

業務量が増え事業拡大につながる

雇用した従業員に任せられる業務が増えることで、処理できる業務量が増加し、事業の拡大につながります。

単純に業務に携わる人員が増加することで、必然的に処理できる業務量が増え、事業の拡大が期待できるでしょう。

もっとも最初は、余程即戦力でもない限り、自分でやった方が早いというような状況が想定されます。

しかし、根気強く育てることで、こなせる業務量は増加し、従業員に対する指導のノウハウも蓄積していくはずです。

個人事業主が従業員を雇うデメリット

個人事業主が従業員を雇う主なデメリットは以下の2点です。

  • 保険料の負担が義務となる
  • 採用・雇用の手続きの手間がかかる

従業員を雇うことで、人件費が増加する以外にもデメリットが存在します。

あらかじめデメリットについても把握しておくことで、実際に雇用した後の悪いギャップが起きづらくなりますよ。

保険料の負担が義務となる

従業員を雇用すると、雇用保険・労災保険の負担義務が発生します。

加えて、5人以上を常用雇用する場合は、健康保険・厚生年金保険への加入義務が発生します。

これらの保険は、それぞれ保険料の支払いが必要になるため、支払う給与や雇用形態次第では、毎月の大きな負担になり得ます。

従業員の雇用前に想定される保険料の負担額も込みで計算した上で検討するようにしましょう。

採用・雇用の手続の手間がかかる

個人事業主の方が、従業員を雇う場合、採用や雇用の手続きに手間がかかります。

そもそも良い人材に巡り会い、雇用するためには多くのコストと手間が必要です。

人材の流動化や少子高齢化などの影響もあり、今や多くの企業が人手不足に陥っています。

優秀な人材を雇用するためには、何らかの形で彼・彼女らの目に留まる必要があり、雇用側も見極めるための経験や綿密な面接などが必要でしょう。

また、いざ雇用する段階では、先述の通り労働契約の締結や、法令についての調査、オンボーディング・職場環境の整備など、様々な手続きや手間が発生します。

特に、給与の支払いに付随するお金周りの業務に関しては非常に複雑であり、本業に集中するための雇用が、むしろ手間を増やしてしまうというようなジレンマに陥りかねないため、その道のプロである「税理士」への依頼がおすすめです。

この際、各種条件や価格など、わかりやすい条件以外に相性やレスポンスの早さ、節税・事業に関する知識量など、一見するとわかりづらいポイントも、検討する必要があるため、複数の税理士から見積もりをとり、比較検討することが重要です。

顧問税理士の見積もりを依頼する

個人事業主で従業員を雇ったほうがいい・雇わないほうがいいケース

本章では、従業員を雇ったほうが良い個人事業主と雇わないほうがよい個人事業主について、それぞれ特徴を解説していきます。

ただし、本章の各項目はあくまでひとつの目安でしかなく、各項目にあてはまるからといって必ずしも「従業員を絶対に雇わない方が良い」または「従業員を必ず雇った方が良い」と言うわけではない点に注意してください。

従業員を雇ったほうがいい人

従業員を雇ったほうがいい個人事業主の特徴は以下の通りです。

  • 本業に集中することで、売上の増加が見込める人
  • 事業の“仕組み”が出来上がっており、業務量を増やすことで事業の拡大が見込める人

雇った従業員に事務職を任せるなどして、本業に集中できる環境をつくることで、売上の増加が見込める方は、従業員を雇うメリットが大きいため、雇用を検討するべきです。

また、事業の仕組みが既に完成しており「後は従業員を雇って業務量を増加するだけ」というような事業フェーズの方の場合も、やはり雇用によって享受できるメリットがデメリットを凌駕しているため、雇用を積極的に検討すべきであるといえます。

従業員を雇わないほうがいい人

従業員を雇うタイミングではない個人事業主の特徴は以下の通りです。

  • 採用や雇用の手間をかけたくない人/割に合わないと感じる人
  • 従業員を雇用しても、事業の拡大や売上の増加が見込めない人
  • 最小限に支出を抑えたい人

これまで解説してきた通り、従業員を雇うことは一時的に多くの手続きや手間がかかります。

そのため、現在採用や雇用に関して手間と時間をかける余裕のない方や、必要な労力に対して享受できるメリットが割に合わないと感じる方は、従業員を雇うタイミングとはいえません。

また、現段階では従業員を雇用しても、有効な活用方法がなく、事業の拡大や売上の増加に直結しないと感じる方、支出を最小限におさえたい方に関しても、少なくとも現段階では従業員を雇わないほうが良いでしょう。

個人事業主が従業員を雇って業務効率化・売上アップした事例

ミツモアにプロとして登録している個人事業主も、従業員を雇い業務を効率化させた事例があります。

たとえば引越しや不用品回収の業者は、業務量が多い依頼にはスポットで依頼できるアルバイトを雇う例が少なくないです。税理士も個人事業主ですが、確定申告などの繁忙期はアルバイトを雇う場合があります。

いずれも忙しいタイミングや時期に足りない人手を従業員で賄うことで、普段以上の業務をこなし、売上アップにつなげているようです。

個人事業主が従業員を雇用したら法人化すべき?

結論として、個人事業主が従業員を雇用したからと言って、必ずしも法人化すべきであるとはいえません。

法人化の適切なタイミングとして、年間利益が500〜600万円を超えたタイミングに検討するのが一般的です。

しかし、従業員を雇用するメリット・デメリットはそれぞれ様々あり、一概に年間売上金額や、所得額で検討できるものではありません。

もちろん「従業員の雇用」と「法人化」のベストタイミングが一致しているケースもありますが、基本的には「従業員を雇用するか否か」と「法人化するか否か」は、別軸で考えた方が良いでしょう。

個人事業主の従業員に退職金は支給される?

大手企業では従業員に退職金を払うのが基本ですが、個人事業主の場合は退職金の支払いが義務付けられていません。

実際に小規模の飲食店などでは従業員・アルバイトの入れ替わりの多さを理由に退職金を設定していない個人事業主がほとんどであり、規模が小さい個人事業主では退職金の用意は難しいのが実情でしょう。

退職金を支払いたい場合にまず検討したいのは、国の退職金制度である「中小企業退職金共済制度制度」の活用です。

月5,000円(短期労働者の場合は2,000円)からの掛け金で退職金制度をつくることができ、従業員の会社に対する満足度を向上させられるでしょう。

なお、従業員に支払う給料と同様に、退職金も経費として申請できます。

個人事業主の従業員雇用に関する悩みは税理士に相談!

個人事業主が従業員を雇用する際には各種手続きや毎月の事務処理等、やることがたくさんあります。個人事業主にとっては大きな負担となるのが事実です。

煩雑な事務処理に時間をとられず、事業に注力するために税理士に依頼してみるのはいかがでしょうか。

税理士と聞くと確定申告や年末調整などの税務処理だけを行うイメージがあると思いますが、労働保険や社会保険の業務についても精通しているのでアドバイスをもらうことが可能です。

また、税理士に依頼する場合は顧問料などの料金が発生することをデメリットとして考えがちです。

しかし、顧問料・業務委託料を支払うことで、事業に注力する労力と時間を確保することができるとも考えられます。

事業に思う存分集中するためにも、税理士に相談してみるとよいでしょう。
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監修税理士からのコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

従業員を雇用するには様々な手続きが必要であるとともに、様々なリスクもあります。事前に社会保険労務士などに相談しましょう。 また、年末調整等の手続きはとても面倒なので、税理士に依頼されることをおすすめします。