事業拡大にあたって従業員が増えると、給与や税金をはじめとした経理業務も煩雑になりますよね。そこで役立つのが源泉徴収簿です。源泉徴収簿に各従業員の給与や控除額を記録しておけば、源泉徴収票の発行や年末調整の手間を大幅に削減できることでしょう。
本記事では、源泉徴収簿の概要や各項目の書き方を実際のフォーマットを参照しながら具体的に解説していきます。源泉徴収簿を有効活用して、手間のかかる経理業務をスムーズに行いましょう。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
源泉徴収簿とは
源泉徴収簿は年末調整の時や退職時に、従業員一人一人に交付する「給与所得の源泉徴収票」を作成する基となる帳簿です。源泉徴収簿に毎月の給与や徴収税額を記入すると、年末調整をスムーズに実施できます。
源泉徴収簿は会計関係者が従業員ごとに作成します。また源泉徴収簿に作成義務はなく、税務署に提出する必要はありません。
源泉徴収簿に決められたフォーマットはありませんが、源泉徴収票を作成するための資料になるので、様々な情報が網羅されている国税庁のフォーマットに沿うのが無難です。
源泉徴収票や賃金台帳との違い
源泉徴収簿と源泉徴収票・賃金台帳の違いは以下の通りです。
源泉徴収簿 | 源泉徴収票 | 賃金台帳 | |
内容 | 源泉徴収票の発行や年末調整を正確に行うためにつける帳簿 | 支払った給与や源泉徴収の金額を証明する書類 | 給与の計算に必要な従業員のデータを記録する帳簿 |
義務 | 法的な義務はない | 所得税法で義務付けられている | 労働基準法で義務付けられている |
提出先 | 提出する必要はない | 従業員、税務署 | 提出する必要はない |
作成時期 | 毎月 | 年末調整時、従業員が退職する際 | 賃金支払いの際 |
源泉徴収簿は源泉徴収票の作成に必要な帳簿です。また賃金台帳は給与の計算のために作成するのに対し、源泉徴収簿は年末調整のために作成します。
毎月の源泉徴収簿の書き方
源泉徴収簿は毎月記入を行いましょう。毎月記入することで、従業員の突然の退職や年末調整で必要な手続きをスムーズに行えます。
個人情報を記入する
源泉徴収簿の表側の上の方にある「所属」「職名」「住所」「氏名」「整理番号」を記入します。
整理番号は確定申告をすると税務署から番号を割り振られますが、源泉徴収票を税務署に提出する人以外は記入する必要はありません。
個人情報の左側に「甲欄」「乙欄」とあり、甲欄は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人、乙欄は提出がない人に適用されます。甲欄と乙欄によって毎月の源泉徴収税額が違うので注意しましょう。
給与の情報を記入
源泉徴収簿は表面、裏面で記入する事項が分かれています。裏面の記載内容は支給金額の内訳です。
裏面を先に記入すると、月日や総支給金額を表面に転記するだけで済みます。記入ミスを減らせるので裏面からの記入がおすすめです。
裏面を記入したら、次の手順で表面を記入しましょう。
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1.支給月日、総支給額、社会保険料の控除額、控除後の給料を記載する
支給月日や総支給額は裏面に記入した内容を転記してください。
社会保険料等の控除額には健康保険や厚生年金、雇用保険などによる合計控除額を記載します。賃金台帳などを参考に記載しましょう。
社会保険料等控除後の給与等の金額には総支給額から社会保険料等の控除額を引いた値を記入します。
2.扶養親族の数を記載する
扶養親族等がいる場合には、ここに人数を記載します。扶養控除等(異動)申告書を参考に記載しましょう。
3.算出税額を記載する
「社会保険料等控除後の給与等の金額」と「扶養親族等の数」を参照して各従業員の源泉徴収税額を計算し、算出された税額をここに記載します。
賞与の情報も支払い月に記入
源泉徴収簿には毎月の給料だけでなく、賞与についても記入します。記入する項目に関しては基本的に先ほどの給与と同じです。
賞与は給料と違う日に支給されることが多いので、忘れないように支払った月に記入するようにしましょう。
年末調整時の源泉徴収簿の書き方
年末調整の際には、毎月記載した内容から税金の計算を行います。扶養親族や各種控除の情報など、年末調整に直接関わる内容も多いので漏れなく記載しましょう。
1年の給与等の合計を計算
上図の矢印に沿って毎月記載してきた金額の合計を所定の欄に転記します。各項目の詳細は以下の通りです。
①年間の総支給金額の合計 ③年間の給与にかかる算出税額の合計 ④年間の賞与金額の合計 ⑥年間の賞与にかかる算出税額の合計 ⑫給料と賞与の社会保険等の控除額の合計(②と⑤を合算) |
扶養親族の情報
扶養親族に関する情報は源泉徴収簿内、上図の枠内に記載します。従業員から提出されている扶養控除等(異動)申告書を参考にして記入しましょう。
「申告の有無」「源泉控除対象配偶者」の欄は、それぞれ扶養控除等(異動)申告書が提出されている場合、源泉控除対象配偶者がいる場合には「有」を〇で囲みます。
扶養親族の数などに変更が生じた場合には、修正はせずに加筆を行いましょう。
各種控除の情報を記入
上図の枠内、源泉徴収簿の⑨~⑳に各種控除の情報を記入します。記載する控除は以下の7つです。
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⑨給与所得控除後の給与等の金額
以下の表を参考に「給与ー給与所得控除額」で求まる金額を記載します。
細かい計算が面倒な場合は、税務署から送付される「年末調整のしかた」の「給与所得控除後の給与等の金額表」を参考に記載しましょう。
⑬申告による社会保険料の控除分
給料から差し引かれていない国民年金保険料や、国民健康保険料などの社会保険料の金額を記載します。提出されている保険料控除申告書を参考に記載しましょう。該当しない場合には空欄のままで問題ありません。
⑭申告による小規模企業共済等掛金の控除分
給料から差し引かれていないiDeCoなどの小規模企業共済等の掛金の額を記載します。掛金があるかは保険料控除申告書で確認可能です。該当しない場合は空欄にしておきます。
⑮生命保険料、⑯地震保険料の控除額
保険料控除申告書を参考に生命保険料、地震保険料の金額を記載しましょう。該当しない場合は空欄のままにしておきます。
⑰配偶者(特別)控除額
配偶者(特別)控除の金額を記載します。該当しない場合は空欄のままで構いません。
⑲基礎控除額
以下の表を参考に、基礎控除額の金額を記載します。
納税する金額を確定
最後に上図枠内の項目を記載して納税金額を確定します。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額(㉓)
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)に該当する場合には、ここに控除額を記載します。従業員から提出される「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」を参考に記入しましょう。
超過額の精算(㉗㉘㉚㉛)
納税すべき額を超過して納税していた場合の精算方法を記入します。各精算方法の欄に金額を記入しましょう。
不足額の精算(㉜㉝)
納税額が本来納税すべき額に満たない場合に、各精算方法の欄に金額を記入します。
源泉徴収簿で押さえておきたいポイント
源泉徴収簿を正しく作成・利用するにあたって押さえておきたいポイントを3つ紹介します。
事前に書類を入手しておく
源泉徴収簿の作成前に必要な書類を入手しておくことでよりスムーズに必要な情報を記載できます。また源泉徴収額と実際に納税すべき税金の差額が少なくなります。そのため年末調整で還付する金額が少なくなり、年末調整でかかる手間を削減可能です。
具体的には以下の3つの書類を事前に入手しておくとスムーズに記入できます。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与所得者の扶養控除をはじめとした所得控除を申請する書類です。正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態とは関係なく、従業員全員の書類が必要になります。
給与所得者の保険料控除申告書
給与所得者が年末調整で生命保険などの保険料控除を申請する書類です。控除の対象となる各種保険に入っていない人は提出する必要はありません。
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
給与所得者が年末調整の際に住宅ローン控除を申請する書類です。控除の対象となる人のみが提出します。
7年間は保存する
源泉徴収簿は給与所得者の扶養控除等申告書などと共に、7年間保存します。源泉徴収簿は税務署に提出することはありませんが、調査が入った時などには必要になるのでしっかりと保存しておきましょう。
また社会保険の調査時にも必要なことがあります。
エクセルの源泉徴収簿も利用可能
源泉徴収簿の作成は義務ではないためエクセルでも作成できます。合計額などを自動で計算したい場合はエクセルの使用がおすすめです。
下記サイトでは、エクセルで利用できる経理関連のフォーマットを無料でダウンロードできます。自身の求めるエクセルファイルが見つかるかもしれないので、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
困ったら税理士に相談を
源泉徴収簿の作成には悩むことがあるでしょう。源泉徴収簿に間違いがあると税金の計算を誤り、従業員に迷惑をかけることになります。還付が増える場合はまだ良いですが、間違った結果、徴収になると不信感になります。源泉徴収簿の作成で困ったことがある場合は、専門の税理士に相談をしましょう。
監修税理士からのコメント
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
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この記事の監修税理士
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