事業を行なう中で「個人事業主は雇用保険に加入しなければならないのか」「事業主自身も加入できるのか」疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
個人事業主が一定の要件を満たす従業員を雇用する場合、「雇用保険」に加入する必要があります。
また、個人事業主本人と家族従業員は雇用保険に加入することはできないですが、代わりの制度もあります。
本記事では雇用保険の加入条件や加入手続き、支払うべき保険料について詳しく解説します。
雇用保険は従業員にとって非常に重要な制度であり、退職時の手当にも大きく関わるので正しく理解しておくことが大切です。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
個人事業主は雇用保険加入が原則必須【加入しなくてよいケースも】
雇用保険については原則として加入が義務づけられていますが、必ず加入しなければならない訳ではありません。
雇用する従業員が一定の条件を満たしている場合に加入する必要があります。
まずは、雇用する従業員が加入条件を満たしているのかを確認していきましょう。
雇用保険の加入条件
次の条件を満たす従業員を雇っている場合、雇用保険の加入対象となります。
【雇用保険の加入条件】
正社員・アルバイト・パート |
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日雇い従業員 |
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季節労働者 |
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上の加入条件は、従業員が学生ではないことが前提です。しかし学生でも、次の条件を満たしている従業員であれば雇用保険に加入する必要があります。
【学生でも雇用保険の加入対象になるケース】
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2017年から高齢者も雇用保険加入の対象に
2017年から65歳以上の従業員も雇用保険の加入対象になりました。65歳になった後も雇用を継続する従業員の場合、そのまま加入を続けられます。
また、新たに65歳以上の従業員を雇った場合でも、雇用保険の加入条件を満たせば雇用保険に新規加入できます。
雇用保険は加入が原則義務付けられているため、加入条件を満たす従業員を雇用している個人事業主は加入の手続きを進めていきましょう。
雇用保険に加入しなくてもよいケース【適用除外者】
雇用保険は原則加入が必要ですが、保険適用の対象外である「適用除外者」も存在します。
【雇用保険適用除外者の条件】
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適用除外者に該当する場合は雇用保険に加入できないので、間違えて加入手続きしないよう注意してください。
未加入の罰則
本来加入しなければならない従業員がいるにもかかわらず、加入していない場合は「6ヶ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科せられます。
また、未加入であることが発覚した場合は上記の罰則に加えて、未納付となっている雇用保険料も徴収されるため注意が必要です。
【雇用保険未加入が発覚するタイミング】
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上記のような罰則を発生させないためにも、雇用保険の加入条件を前もって確認しましょう。
【事業者本人】個人で雇用保険に加入できない!代わりに受けられる手当
雇用保険に関しては事業者本人がかけることはできません。しかし、場合によっては雇用保険の代わりとなる「再就職手当」を受け取ることもできます。
ここでは個人事業主が雇用保険の代わりに受けることができる手当について解説していきます。
受給資格があれば再就職手当がもらえる
再就職手当とは、失業手当を受給している人が再就職した場合や、個人事業主として事業を開始した場合などに受けられる手当です。
【再就職手当の受給資格】
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ただし、個人事業主として開業した際には再就職手当をもらうことができますが、個人事業廃業後に再就職した際には再就職手当にはなりません。
再就職手当の金額については、廃業後に支給残日数によって変動します。支給残日数が少ないほど再就職手当の金額は減少します。
受給の際は「開業届」のコピーが必要で、それをハローワークに提出することで以前に事業をやっていたことを証明することが必要です。
詳しくはハローワークの再就職手当の案内を参考にしてください。
不正受給には注意!大きなペナルティあり
再就職手当や失業手当を不正受給した場合には、不正受給した額の3倍がペナルティとして科せられます。
【不正受給とみなされるケース】
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再就職手当はあくまでも、職を失ってから次の就職先を見つけるための手当です。
「就職する気はないけど手当は受けておこう」という危険な判断はしないよう注意しましょう。
ダブルワークや家族を雇っている個人事業主の雇用保険について
個人事業主の中には、自分の事業以外に他社の従業員として働く「ダブルワーク」をする方も多いでしょう。その場合は、勤務先の会社で雇用保険に加入することも可能です。
また、家族を従業員として雇う場合、家族は雇用保険に加入できず被保険者となります。
個人事業主がダブルワークをする場合、家族を従業員として雇用する場合は保険加入の条件が異なるので正しく対処できるようにしましょう。
【ダブルワークをする個人事業主】副業先で雇用保険の加入が可能
個人事業主は原則として雇用保険に加入することができませんが、一定の要件を満たす場合に限り、副業先で雇用保険に加入することができます。
副業先で雇用保険に加入するには「週20時間以上の勤務」の条件を満たしていなければなりません。
週20時間以上を副業に使うと、本業である個人事業主としての仕事とのバランスが必要になります。
副業に専念するあまり本業に支障が出てしまう事態を避けるためにも、労働時間を調整することが重要です。
また、雇用保険の加入は1つの会社でのみ可能です。
複数の会社でダブルワークをおこなっているからといって、それぞれの会社で雇用保険に加入できない点に注意しましょう。
【家族従業員】雇用保険加入はできないが被保険者になれる
原則的に個人事業主と同居している家族は雇用保険に加入できませんが、下記の条件を満たしている場合は被保険者として認められます。
【被保険者になる条件】
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要するに、家族であっても他の従業員と同様の条件で働き、特別な扱いを受けていない場合は「労働者」として認められるということです。
手続きの際は、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)に「同居の親族雇用実態証明書」を提出して判断してもらいましょう。
雇用保険加入の手続き【必要書類と提出先】
個人事業主は雇用する従業員が雇用保険の加入要件を満たしてる場合、迅速に必要書類を作成し、期限までにハローワークおよび労働基準監督署に提出する必要があります。
提出書類の提出漏れや、手続きに不備がないように注意しましょう。
必要書類の準備
従業員を雇い入れて雇用保険を申請する際には、まず以下の書類を用意することから始めます。
書類名 | 入手方法 |
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労働基準監督署に書類を提出
労働保険関係成立書:従業員を雇用してから10日以内に提出
労働保険概算保険料申告書:雇用した日から50日以内に提出 |
労働保険関係成立書は事業の概要や従業員数など基本情報を記入する書類で、初めて従業員を雇った際に提出するものです。
また、労働保険概算保険料申告書には労働保険料を記入し、保険料も同時に納付します。
労働保険料の納付方法は特殊で、1年分の保険料を概算で前払いしてから、1年たって確定した保険料との差額を納めます。
2人目以降の従業員を雇う場合は「労働保険概算保険料申告書」のみで大丈夫です。
ハローワークに書類を提出
適用事業所設置届:従業員を雇用してから10日以内に提出
被保険者資格取得届:従業員を雇用した月の翌月10日までに提出 |
適用事業所設置届は、雇用保険加入対象の従業員を初めて雇い入れた場合に提出するものです。
また、被保険者資格届出は保険加入者1人につき1枚ずつ提出が必要で、次の添付書類も必要になります。
【被保険者資格取得届の添付書類】
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2人目以降は「雇用保険資格取得届」の手続きのみを行ないます。
雇用保険料はいくら?「労働時間」と「保険料率」で決まる
雇用保険料の計算は従業員への給料に雇用保険料率を乗じて行ないます。
保険料率については年度ごとに変動するため、毎年必ず確認するようにしましょう。
雇用保険料率は事業の種類ごとに定められており、令和4年度の雇用保険料率は次のとおりです。
【令和4年4月1日〜令和4年9月30日の雇用保険料率】
労働者負担 | 事業主負担 | 雇用保険料率
(労働者負担+事業主負担) |
|
一般事業 | 3/1,000(0.3%) | 6.5/1,000(0.65%) | 9.5/1,000(0.95%) |
農林水産業
清酒製造業 |
4/1,000(0.4%) | 7.5/1,000(0.75%) | 11.5/1,000(1.15%) |
建設業 | 4/1,000(0.4%) | 8.5/1,000(0.85%) | 12.5/1,000(1.25%) |
【令和4年10月1日〜令和5年3月31日の雇用保険料率】
労働者負担 | 事業主負担 | 雇用保険料率
(労働者負担+事業主負担) |
|
一般事業 | 5/1,000 (0.5%) | 8.5/1,000(0.85%) | 13.5/1,000(1.35%) |
農林水産業
清酒製造業 |
6/1,000(0.6%) | 9.5/1,000(0.95%) | 15.5/1,000(1.55%) |
建設業 | 6/1,000(0.6%) | 10.5/1,000(1.05%) | 16.5/1,000(1.65%) |
例えば、令和4年4月時点で従業員給与の総支給額が18万円だとすると、1ヵ月あたりの雇用保険料は以下のように算出できます。
従業員負担分:18万円×3/1,000(0.3%)=540円
事業者負担分:18万円×6.5/1,000(0.65%)=1,170円 1ヵ月の雇用保険料:540円+1,170円=1,710円 |
この場合、従業員の給与から540円を天引きし、事業主負担分の1,170円は未払い費用として会計処理を行ないます。
事業者負担の保険料率と、失業等給付・育児失業給付の保険料率、雇用保険二事業の保険料率は上記と異なるので、詳しくは以下の案内を参考にしてください。
【従業員が離職する場合】雇用保険の手続き
従業員が退職したら、まずはハローワークで「雇用保険の資格喪失手続き」をします。
この手続きをしないと従業員に離職票が交付できず、退職後の手当を受けることができません。
退職後のトラブルを避けるためにも、迅速に対応することが必要です。
ハローワークで「雇用保険の資格喪失手続き」を行なう
従業員が退職したら、退職日の翌日から10日以内にハローワークで資格喪失届けの手続きを行ないます。
【資格喪失届の手続きに必要な書類】
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上記書類に加え、退職前の賃金と退職事実が確認できる書類を添えて提出します。
【添付書類一覧】
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以上の書類を提出したら、後日ハローワークから交付される「離職票」を退職した従業員に送付することで手続きは完了です。
退職した従業員が失業手当を受ける際には離職票が必要で、離職票が届かなければ申請が遅れるので、その分失業手当の支給も遅れてしまいます。
退職後手当の受給でトラブルに発展しないよう、資格喪失手続きと離職票の送付はできるだけ迅速に行なうことが大切です。
失業保険給付時は「退職理由」に注意
「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」には、それぞれ退職理由(喪失理由)を記載する欄があります。
【退職理由】
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退職理由を記載する際は、上の2つの理由から退職時の状況にあったどちらかを選択しなければなりません。
仮に、事業主がイメージの低下を恐れて、本当は事業主の都合退職なのに「自己都合」とすると次のような事態につながることがあります。
- 退職した従業員が受け取れる手当の支給日数が減る
- 虚偽の申告がばれてしまい、刑事罰を受けることになる
そのため、退職理由はごまかさず正直に申告しましょう。
雇用保険とその他の社会保険制度
社会保険制度には雇用保険以外にもいくつかの保険制度があります。
それぞれの制度の違いや特徴を正しく理解することで、加入時や保障を受ける際に役立つこと、そして、どの制度も個人事業主や従業員にとって大切な制度であるため、内容を正しく確認しておきましょう。
雇用保険は雇用の継続が困難な場合に給付を行なう制度
雇用保険とは労災保険と合わせて「労働保険」の一部であり、雇用保険法にもとづいた失業・雇用継続などに関する社会保険制度です。
加入している労働者は失業して所得を得られなくなった場合に「失業保険」を受給できるなど、生活の安定や再就職先を探す間の経済的負担軽減が目的です。
また、技能の習得など再就職活動を支援する各種給付を通じて、なるべく早く新しい仕事に就けるようサポートするのも目的の1つです。
雇用保険は労働者の権利を守るための政府が管掌する「強制保険制度」。
労働者を雇用する企業や団体はもちろん、個人事業主においても一人以上雇用していれば、事業主や従業員の意思に関わらず加入の届け出が義務付けられています。
また、雇用保険では事業主への支援も行なっており、労働者の雇用が困難な状況では助成金や給付金が支給されるなど、個人事業主にとってもメリットのある制度です。
個人事業主が加入できる社会保険
個人事業主が加入できる社会保険制度は、以下の5つです。
- 健康保険
- 年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
制度名 | 特 徴 |
健康保険 |
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年金保険 |
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介護保険 |
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雇用保険 |
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労災保険 |
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社会保険の各種制度を把握することで、個人事業主が「どの保険に加入するべきか」正しく対応できるようにしましょう。
監修税理士のコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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