会社は従業員の通勤にかかる費用を通勤手当として支払う場合があります。
この通勤手当は交通費とは違うののでしょうか?
自動的にお給料と一緒に受け取っている交通費についてですが、リモートワークが増える中、見直しを図る企業が出てきているようです。
通勤手当と交通費の違い、非課税の限度額についてなど、解説していきます。
通勤費とは?
通勤費とは、従業員の自宅から会社までの通勤にかかる費用の全部または一部を会社が負担して支給する手当のことを言います。
会社はこの通勤費を支給する義務があるのか、また、支給することをどのように定めておくのかについて見ていきます。
通勤手当の支給義務について
労働基準法などの法律には「会社は従業員に通勤手当を支給しなければならない。」と支給を義務付けるような規定はありません。
通勤手当を設けるかどうか、設ける場合の支給額、支給方法なども含めて会社ごとに自由に決めて良いことになっています。
よって、通勤手当の支給については会社によって対応が異なります。
一般的に、通勤手当を支給している会社は数多くあります。それは、求職者にとって応募する会社の処遇として、通勤手当の有無が判断基準となるからです。
通勤手当が出ないということは給料がその分減ってしまうということです。
会社側も社員のモチベーションや定着率を下げないために、福利厚生の一環として支給する会社が多数となっています。
通勤費は就業規則、雇用契約などに明記する
通勤費を支給するかしないかを決めるのは会社の自由です。しかし、通勤費を支給すると決めた場合には、支給基準、支給対象者、支給限度額や支給方法など、支給に関するルールを決めて、就業規則などに明記しておかなければなりません。
また、従業員を雇用する際には忘れずに前述した支給に関するルールを説明する必要があります。
通勤費は定期券などの現物支給について
通勤費の主な支給方法としては、現金支給と定期券などでの現物支給の2つの方法があります。
この支給方法についても就業規則などに明記しておいた方が従業員にもわかりやすくなります。
通常は、現金の前払いで、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月分の定期台相当額を現金で支給されます。定期券の現物支給をする場合には労働組合との労働協約を締結する必要がありますので注意しましょう。
通勤費の非課税枠について
役員や従業員に給与以外で支給する通勤費は、一定の金額までは非課税になっています。
とは言っても、通勤には、鉄道、バス、自家用車、自転車など様々な通勤手段があります。
ここでは、通勤費の非課税の枠組みについてみていきます。
通勤費が非課税となる限度額は?
通勤費は決められた一定の限度額までは非課税になっています。
電車やバスだけを利用して通勤している場合は1ヶ月当たり15万円まで、電車やバスのほかに自家用車や自転車等も利用して通勤している場合はそれらを合わせて1ヶ月当たり15万円までが非課税限度額になります。
ただし、3ヶ月定期または6ヶ月定期を支給する場合は、前払いすると非課税限度額を超えてしまう場合があります。しかし、このような場合には1ヶ月当たりの金額に換算して15万円を超えなければ非課税とすることができます。
マイカーなどで通勤している人の非課税限度額の一覧が国税庁ホームページに出ていますので参考までに掲載しておきます。
マイカーなどで通勤している人の非課税となる1か月当たりの限度額の表
片道の通勤距離 | 1か月当たりの限度額 |
2キロメートル未満 | (全額課税) |
2キロメートル以上10キロメートル未満 | 4,200円 |
10キロメートル以上15キロメートル未満 | 7,100円 |
15キロメートル以上25キロメートル未満 | 12,900円 |
25キロメートル以上35キロメートル未満 | 18,700円 |
35キロメートル以上45キロメートル未満 | 24,400円 |
45キロメートル以上55キロメートル未満 | 28,000円 |
55キロメートル以上 | 31,600円 |
[引用:国税庁 No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当]
No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁 (nta.go.jp)
通勤費の非課税対象に含まれないもの
通勤費の非課税限度額については先述しましたが、非課税額の対象に含まれない金額もあります。
例えば、新幹線通勤をしている役員・従業員の通勤手当に関しては、運賃や特急料金は非課税対象ですが、グリーン車料金は対象外となり課税対象になりますので注意が必要です。
雇用保険、社会保険の標準報酬月額に含まれる
通勤費は雇用保険料、社会保険料の対象になるのか説明します。
雇用保険料については、通勤費は非課税対象分も含めて全額が計算対象額になります。
社会保険料についても、保険料の基となる標準報酬月額を決める際に報酬額の中に通勤費を含めて計算しますので対象に含まれます。
車、自転車の通勤費について
電車やバスの利用が困難な場合には、自家用車や自転車を利用して通勤することになります。
しかし、自家用車や自転車での通勤を許可する際には、通勤費の支給金額や支給基準をどのように規定すればよいのかわからない会社が多いかと思います。
ここでは、車や自転車で通勤する場合の考え方や通勤費の計算方法について説明します。
車、自転車の通勤費の考え方の基本
車や自転車の通勤には電車やバスのような運賃と言う考え方がありません。よって、会社ごとに個別にルールを決める必要があります。
車の場合には、自宅から勤務地までの実距離に応じて通勤手当を支給することが一般的です。「距離単価(1kmにつき〇円)として実際の通勤距離に応じて支給する」などのルールを決めます。
自転車通勤の場合には、一律定額で支給したり、通勤距離に応じて支給したり、また、雨の日は電車通勤になることを想定して定期代相当額の一部(または全額)で支給したりとすることが考えられます。
車、自転車の通勤費の計算方法
車、自転車の通勤費について、従業員が自家用車で通勤することになった場合を想定して計算してみましょう。
例えば、自家用車で通勤する場合の通勤費を1kmにつき10円と規定したとします。
※「ガソリン単価÷自家用車の平均燃費」で、計算します。「ガソリン単価140円で平均燃費が14km/L」とすると140円÷14km/L=10円となります。
従業員の自宅から会社までの往復距離が20kmで、1ヶ月に20日出勤したとすると、通勤手当の計算式は、
ガソリン単価÷自家用車の平均燃費×通勤にかかる往復距離×出勤日数
となり、140円÷14km/L×20km×20日=4,000円が通勤費として支給されることになります。
自転車の場合、2km未満であれば全額課税になりますが、2km以上になると、例えば、2km以上10km未満ですと、1ヶ月の非課税限度額が4,200円になりますので、駐輪場代を含めて4,200円までは非課税になります。
駐輪場、駐車場代はどうする?
車で通勤するが会社に駐車場がないため、近隣の駐車場を利用する場合の駐車場代ですが、この駐車場代を会社が負担するかどうかは会社が自由に決めて問題ありません。
ただし、駐車場代を負担する場合は全額課税になりますのでご注意ください。
自転車の駐輪場代の場合も支給するしないの判断は会社ごとに決められます。
交通費と通勤手当の違い
交通費と通勤手当は同じような意味合いで使われることがありますが、どこが違うのでしょうか?
ここでは、交通費と通勤手当の違いについて見ていきます。
交通費とは?
交通費は、従業員が出張や営業など業務を遂行するために、飛行機や電車、バス、タクシーなどの交通機関を利用した際に発生する移動費用のことです。
通常は、従業員が立て替えて支払っておき、後から会社に請求して精算してもらいます。精算は現金であったり、給与支給時に一緒に振り込まれたりと会社によって支払方法は異なります。
役員の通勤手当は「旅費交通費」で仕訳する
通勤手当は、従業員だけに支給できる手当ではなく、役員に対しても他の従業員と同水準で支給することがきます。
役員の通勤にかかる交通費は最も経済的かつ合理的な経路により算出し「旅費交通費」で仕訳することにより、定期同額給与とみなされます。
この仕訳処理により、役員報酬とは別に通勤手当を支給でき、なおかつ損金に参入することが可能になります。
リモートワーク時の交通費と通勤手当
昨年、新型コロナウィルス感染予防のために政府からもリモートワークの推奨がありました。
通勤手当に関して、リモートワークを想定していなかった会社の中には「リモートワークになっても通勤定期代を支給しなくてはならない」規定になっていて慌てて対応を検討した会社もあるようです。
これまで、通勤定期代で従業員に支給していた会社は、1ヶ月の出社日数分の往復運賃額を翌月給与の支給時に合わせて振り込むところが多くなっているようです。
就業規則で「通勤定期代を支給」としていた会社は、規程を改訂しないと通勤定期代の支給は止められません。改訂した施行日時点での通勤定期代の扱いなど、決めなければいけないことも多くあります。
今後も、通勤とリモート勤務の併用が日常となった場合に、前述のように実費支給するのか、あるいは、通勤手当とリモート手当を併せた新しい手当を創設するのか、などを他社の事例なども参考に決めていかなければいけません。
通勤費の不正受給
通勤費は通常、従業員の自宅から会社までの「最も合理的かつ経済的であると会社が認める経路及び方法」で通勤した場合にかかる費用を会社が支給します。
しかし、例えば「引っ越した際に通勤経路変更の申請をし忘れた」「規定外の経路で通勤していた」などが発生した場合、不正受給とみなされてしまう可能性があります。
ここでは、通勤費の不正受給の際の罰則について見ていきましょう。
通勤費の不正受給の罰則の考え方
例えば、引っ越しなどによる通勤経路の申請忘れであれば、故意ではないと認められた場合、過払い分があればその額の返還だけで済む場合もあります。
しかし、故意に合理性のない経路の通勤費を不正利得していたなどの場合には、会社によっては、不正利得の金額の返還にプラスして懲戒解雇に処することを就業規則に規定しているところもあるので注意が必要です。
通勤手当についての就業規則は社労士に相談しよう!
従業員に通勤手当を支給するか支給しないかは会社で自由に決めることができます。
採用や福利厚生の観点から見て通勤手当を支給することは会社のベネフィットとなります。
通勤手当を支給することを決めた場合、就業規則に支給基準や支給対象者、支給方法など支給に関するルールを記載する必要があり、大変多くの時間や労力がかかります。
このような就業規則作成の手続きは、専門家である社会保険労務士に依頼することができます。スムーズに手続きを進めるためにも専門家に任せることも検討されてみてはいかがでしょうか。